インプレッション
三菱自動車「eKワゴン」「eKカスタム」(一部改良)
Text by 河村康彦(2014/7/31 00:00)
JC08モード燃費が30.0km/Lに
一部改良という控えめな表現でリファインが行われたことを報じられた三菱自動車工業「eKワゴン」「eKカスタム」に乗ってきた。広報資料のサブタイトルとして謳われるのは「動力性能を向上させるとともに、クラストップの低燃費30.0km/Lを実現」というフレーズだ。
前出の30.0km/Lというデータを達成したのは、シリーズ中の自然吸気エンジン搭載モデル。ただし、その中にあっても108万円という低価格をアピールする、eKワゴンのベーシックグレード「E」は除外されている。
日産自動車との合弁会社であるNMKVのプロデュースによる作品として、日産バージョンである「デイズ」とともに現行型のeKワゴン/eKカスタムがローンチされたのは、2013年6月のこと。すなわち、発売開始からまだ1年強というタイミングゆえ、見た目上ではボディーやインテリア・カラーのわずかな設定変更が行われた程度と、大きな手が加えられなかったのは当然でもあるだろう。
一方、装備面では当初はデイズのみに用意された車両周辺を俯瞰視表示する機能付きのモニターが、一部グレードを除くeKカスタムに設定されたというニュースが目立つもの。「これまで軽自動車を持たなかった日産の場合、上級モデルからの“ダウンサイザー”が多いのに対し、軽自動車からの乗り換えが多く考えられる三菱車ではさほど需要は大きくないと判断していたものの、少なくない要望があったので新たに準備をした」というのが、このタイミングで新設となった理由であるという。
冒頭紹介のように“動力性能向上”というフレーズを用いるものの、実は今回はエンジン本体には手が加えられていない。一部改良で施されたのは、吸気のレイアウトやCVTの一部プログラムの変更。前者はエンジンへの外気取り込み口を、従来のエンジンルーム内から直接外気を吸い込める位置へと変更。高温時の空気密度低下による出力低下を防ごうというのがその狙いであるわけだ。
なかなかの快適性を提供してくれるフットワークに注目
そんな最新モデルをスタートさせると、20km/h程度まではなかなか力強く、「なるほどこれは加速性が明確に向上したかな」と、走り出しの一瞬はそう感じられた。だが、一方でそうしたゾーンを過ぎてしまうと、そこから先の車速の伸び感はいま1つ。そこで我慢がならずに右足に込める力を加えてしまうと、今度はCVTの変速比が大きく変化して、エンジン回転数が急激に高まる、という結果に陥ってしまう。こうなると「エンジン音は高まるのに車速が付いてこない」という感覚に繋がるもの。前述のように“蹴り出し”がよいだけに、この落差感が少々残念。いずれにしても、加速力が大きく向上したとまで絶賛をするには、ちょっと無理がありそうだ。
一方で、JC08モード燃費を“800mプラス”(従来は29.2km/L)とした最大の功労者は、新採用されたエネルギー回生システムであるに違いない。減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変えて、新たに設けたニッケル水素製2次バッテリーへと回収。その分、エンジンパワーを用いた発電機稼動の機会が減ることで、燃費が向上するというロジックだ。
短時間のテストドライブでは、その効果のほどを数字として確認することはできなかった。だが、前述のように発電機の稼動機会が減少する分、“動力性能向上”にも効果がある理屈だ。今までは、ブレーキの摩擦熱として捨てていたものを回収できるようになったのだから、特に頻繁な加減速を伴う街乗りシーンが多い方はメリットがより大きく期待できそうだ。
今回改めてeKワゴン/eKカスタムに乗って実感できたのは、期待した以上にしなやかで、タウンカーとしてはなかなかの快適性を提供してくれるそのフットワークだった。ちなみに、「サスペンションは同一のセッティング」と説明されたものの、eKカスタムの方が路面凹凸へのアタリ感がより優しいという印象。155/65 R14と同サイズのエコタイヤを用いつつ、eKカスタムがブリヂストン製、eKワゴンがダンロップ製と、銘柄の異なるアイテムを装着していたゆえの違いと判断をすべきだろうか。
協業による相乗効果をもっと発揮してほしい
ところで、日産デイズ・シリーズも含めNMKVの各作品を目にして気になる点がある。それはダイハツ工業、スズキ、そして本田技研工業という“3強メーカー”のモデルたちに比べ、「軽自動車商売のスピード感や手法に、まだ慣れていないのではないか!?」と思わせる部分が多々あることだ。
発売後わずか1年での今回の燃費向上策の採用も、「実は、発売当初にはライバルがこれほどの勢いで燃費改善するとは思わなかった」という開発陣のコメントを耳にした。現在でもターボ付きモデルにアイドリング・ストップメカは採用されないし、自動ブレーキの設定は今回もナシ。そもそも、軽自動車のスペシャリストがリリースする各ライバルたちを十分に吟味して開発されたモデルであるはずにもかかわらず、“後出しジャンケン”を仕掛けつつ黒星に甘んじる場面が見受けられるのは、とても残念だ。
基本的には、同様のマーケティングに基づいて同じ顧客層を狙った商品が、複数メーカーの手でリリースされているというのが昨今の軽自動車商売の現状。であれば、特に“新参者”であればあるほどに、他社の戦略の一歩先を行くスピード感や、横比較されても負けることのない装備群の設定は不可欠であるはずだ。
あるいは、そんな“狭い世界”での戦いからは一線を画し、新たな軽自動車の世界を開拓したいというのであれば、ライバルとは敢えて異なる立ち位置に身を置いた独創の商品を開発し、提供する必要があるのは言うまでもない。今のNMKVの作品に欠け、そしてこれから求められるのは、三菱自動車と日産の2社協業という他には例のない形態を、ライバルたちでは真似のできない相乗効果へと結びつける、そんな軽自動車づくりのあり方なのではないだろうか。