インプレッション
アウディ「A7/S7/RS 7 スポーツバック」
Text by 岡本幸一郎(2015/6/4 00:00)
A7シリーズがマイチェン
2014年には日本での販売台数が初めて3万台を超え、ドイツのプレミアムブランド御三家としての存在感が、ここ日本でもますます板についてきた感のあるアウディである。いずれもラインアップの拡大を図っているドイツのプレミアム勢において、それを象徴する車種の中の1台である、アウディが2011年に放った「A7 スポーツバック」「S7 スポーツバック」「RS 7 スポーツバック」(以下「スポーツバック」を省略)がマイナーチェンジを迎えた。
変更個所は内外装、インフォテイメント系、パワートレーン、シャシー、安全装備と多岐にわたる。エクステリアでは、より存在感を増したシングルフレームグリルや、新たに採用したマトリクス技術を駆使したヘッドライトと流れるウインカーは、クルマに乗り込んでしまうと自分では見えないとはいえ、外から見たときにはやはり印象的だ。また、今回は車両の用意が間に合わず乗ることはできなかったが、ついにA7にも2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載するエントリーモデルの「2.0TFSI クワトロ」が設定されたというのもニュースだ。
それにしてもA7系は魅力的だなと個人的にも思う。むろんそれはスタイリングのよさが大きな要因に違いないのだが、紛れもなくラグジュアリーカーであり、スポーティなクーペでもあり、ワゴン的にも使える実用車でもあるという、多くの要素を巧みに持ち合わせているところがこのクルマならでは。これほどのスタイリッシュさを持ちながらも荷室は相当に広く、後席の居住性も十分に確保されている。
そしてスポーツバックというキャラクターが、アウディのブランドイメージによく似合うように思える。また、この価格帯のクルマを購入する経済力はあるが、根強いセダン信望の枠に囚われず、かといって定番を大きく外すわけでもなく、といったところに上手くはまるクルマでもある。
プレミアム各社が、このセグメントの4ドアクーペをラインアップしている中で、登場時期からすると優位とはいえないこのクルマが、同カテゴリーにおいて2014年の日本での販売台数でトップに立ったというのもうなずける。それが今回さらに改良されて、ますます魅力的になったわけだ。
それぞれの価格とバリューの関係は?
まず、A7で試乗したのはV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャーを搭載する3.0TFSI クワトロ。
今回、エンジンの最高出力が23PSアップの333PSになった。それも効いてか、心なしか吹け上がりがスムーズになったように思える。もともとわるくなかったDCTの制御もさらに進化して、ATと比べてもそん色ないほど滑らかだ。この3.0TFSI クワトロの価格は924万円。同モデルを基準に考えると、冒頭でも述べた2.0TFSI クワトロは200万円あまりも安い716万円となる。そちらがどのような仕上がりなのかも気になるところ。車両が用意されてから改めてお伝えすることにしたい。
では、上級グレードで420万円高いS7や、そこからさらに428万円も高いRS 7は、果たしてどういうクルマなのか? それぞれプラス400万円以上を支払う価値はあるのか? そのあたりを考えつつ試乗してみた。
S7になると、エクステリアはもちろんカーボン柄のインテリアや、グレー色になるメーターも違うしシートもスポーティな形状になるなど、ガラッと雰囲気が変わる。こちらも30PSアップの450PSとなったV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンは、サウンドからしてA7とは異質で、フィーリングも別物だ。A7とはスーパーチャージャーとターボチャージャーの違いもあるが、排気量が十分あるので過給の安定しない低回転域でも2000rpmも回っていれば十分にトルクフルで、低音を効かせた野太いサウンドを聴かせる。いかにも高性能車に乗っている感覚をよりダイレクトに味わえる。
足まわりもより全体的に締まった感じになる。ステアリングはクイックな設定で、低速での操舵力は軽いが、60km/h程度の中速域になると据わり感が増して、直進性が高まる。鋭敏なステアリングレスポンスを見せながらも、鋭敏すぎて乗りにくいこともない。こうした巧みなセッティングを実現できたことにとても感心させられた。電子制御のスポーツディファレンシャルを備えたリアは極めて高いトラクションとスタビリティを誇り、まったく不安を感じさせない。
このように視覚的にも運転感覚においても、プラス420万円の価値は十分あるように思えた。
上級グレードになるほどディープな魅力が増す
RS 7になるとさらに凄味が増す。
エンジンはS7と同じV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボだが、より高度にチューニングされている。許容トルクの関係で、DCTではなくトルコンATが組み合わされているのも特徴で、7速ではなく8速となる。JC08モード燃費がS7よりもRS 7の方が若干上となるのは、そのせいもあってだろうか。
エンジンスペックで優位なことに加えて、トルコンによるトルク増幅効果もあってか、どこからでも猛然と加速する感覚はRS 7の方がだいぶ上だ。さらにRS 7は、加速もすごいが派手なサウンドによる演出もある。
しなやかながら締め上げられた足まわりは、よく動きながらもストロークの振幅が小さく抑えられており、姿勢変化はより小さい。ラグジュアリーにしてスパルタンでもあり、大きなドライビングプレジャーがある。それでも、はっちゃけすぎていないあたりに、アウディひいてはドイツのブランドらしい理性を感じさせる。内外装も大なり小なり差別化されている中で、たとえばリアシート後方のトノカバーのようになるボードですら裏皮のような素材で覆われているあたりも、RS 7ならではのこだわりを感じる。
S7に比べると、車両重量はS7とRS 7では同じながら、S7の方が軽快に感じるし、ステアリングの正確性もむしろS7の方が上と感じられ、全体として乗りやすい。そこはやはり「RS」と「S」では求められるものが異なるため、結果的にそうなったと理解しよう。
A7とS7、そしてRS 7。それぞれ価格差に見合うバリューがあるかどうかは人によって感じ方は違うだろうが、やはりA→S→RSになるほどディープな魅力を持っていることはアウディの常のようだ。
ご参考まで、これまでA7/S7/RS 7を合計して平均で年間800台あまりが販売されてきた中での比率は、概ね70:15:15だったという。S7とRS 7のようなモデルが同等に売れているのも珍しい傾向だというが、今後これがどのように変化していくのかも興味深いところだ。