インプレッション

2015ワークスチューニンググループ合同試乗会(その2、ニスモ/無限編)

 TRDとSTIを紹介した前半(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20150813_716093.html)に続き、後半となる今回はNISMOと無限をリポート。NISMOは、ニュルで量産車最速のタイムをマークした車両とほぼ同じ仕様の「GT-R」、無限は登場してまもない「S660」にアイテムをフル搭載したデモカーを持ち込んでいる。

 また、本来は走りを苦手とする箱形ミニバンを両社が手がけるとどうなるのか、その仕上がりにも注目だ。

NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)

「GT-R NISMO N アタックパッケージ装着車」

 独ニュルブルクリンク・北コースで2013年11月の発表時に量産車世界最速となる7分8秒679のタイムを出した、ほぼそのままの仕様で手に入るというだけでも胸躍るが、実際にターンパイクを走らせると“ニュルでタイムを出すためにはなにが必要か”ということを教えてくれる気がする。

「GT-R NISMO N アタックパッケージ装着車」
追加装着品として、ゴム製のフロントアドオンスポイラー、フリック付きとなるカーボンフロントフェンダーなどを専用装備
ボルトオンのドライカーボン製のカーボンフードガーニーは競技専用品で、公道使用は不可となるため今回の試乗会では取り外されていた
エンジンルームにはカーボン製の専用インタークーラーパイピングが備わり、特性を変更した専用ECM&TCMを採用する
オーリンズ製の車高調整式ショックアブソーバーを採用。フロントブレーキも摩耗材を変更した専用品
サイドスカートなど要所に“ニスモレッドアクセント”を使用
チタン合金製マフラー(税別180万円)を内蔵するインテグレーテッドタイプのカーボンリアバンパー
複雑な形状のドライカーボン製リアウイング。高さ調整は2段階、角度調整は12段階となる

 エンジンパワーはもちろん大切だが、それを確実に路面に伝えるトラクション性能が十分でないと、せっかくのパワーが無駄になってしまう。その点で、このクルマの足まわりは意外なほどしなやかだ。引き締まっていながらも、路面のアンジュレーションにタイヤを巧みに追従させるようよく動き、粘り腰のグリップを発揮する。速度を高めるほどダウンフォースが発生してタイヤが路面に吸い付いていくような感覚もあるし、前後に備えた機械式LSDも効いている。

 エンジンの速さは言うまでもなく、このクルマで走っていると、目の前の景色はまるですべてが早まわしのよう。そして限界はまだまだはるか上にある。GT-Rのようなクルマを造れる日産自動車はすごいと思うし、それをこのようにチューニングできるNISMOもすごいとあらためて思った次第である。

「エルグランド NISMO パフォーマンスパッケージ」

「NISMO パフォーマンスパッケージ」というのは、一連のNISMOの名前を与えられたコンプリートカーではなく、基本コンセプトを共通としながら、さまざまな事情によりNISMOのグレードがない車種に関して、あくまでパッケージオプション装着車という位置付けでNISMOが提供しているものだ。

 エルグランドはクルマ感度の高いユーザーが多い。そこでこのクルマでは、ドライバーが運転を楽しめる、よりスポーツ志向のセッティングを目指した。追求したのは圧倒的な動力性能と、スピードを感じさせない安定性の高さ。ECM(エンジンコントロールモジュール)のスポーツリセッティングにより、小さなアクセル開度でもスーッと軽やかに加速していき、奏でるV6サウンドも気分を高めてくれる。アクセルを踏み込んだときの瞬発力はかなりのものだ。

「エルグランド NISMO パフォーマンスパッケージ」
スポーツリセッティングされた専用ECMは、スポーツドライビング領域までは特化しないものの、アクセル操作に対するリニアリティとレスポンスを重視
アンダースポイラー一体型のフロントバンパーは、LEDデイタイムランニングライトを標準装備
GT500の技術を生かし、軽さと剛性を両立させる19インチ「LMX6」アルミホイール。カラーは「ニスモブラック×ダイヤモンドミラーカット」(写真)と「クロームカラーコート」の2種類
カーボンドアミラーカバーもレースで培った空力テクノロジーをフィードバックしたもので、空気抵抗を抑えるデザインとなっている
サイドスカートはニスモグレー色にカラーリング
スーパーブラックに塗装されたリアサイドスポイラーはボルトと両面テープを使って装着される
リアアンダースポイラーは中央にNISMOのエンブレムを設置し、ストライプテープによる“ニスモレッドアクセント”が入る

 SUPER GTのGT500に携わるエンジニアが監修したというエアロパーツは、快適にロングドライブできるよう、横風の影響によるふらつきを抑え、高速走行時の直進性向上を図っている。それと同時に、ワインディングの走行も楽しめるハンドリングを目指しており、今回のターンパイクでもそれを実感することができた。

 もともとミニバンらしからぬ走りが売りのエルグランドが、さらに走って楽しめるクルマに仕上がっていた。狙いどおり、車両重量が軽く車高の低い乗用車と比べても大きなハンデを感じさせないフットワークを実現している。

「ノート NISMO S ニスモパーツ装着車」

 ベース車の「ノート NISMO S」はけっこう売れているようで、街で走っている姿をよく見かける。実際に運転してもなかなか刺激的なドライビングが楽しめて、人気の秘訣がうかがいしれるのだが、そんなノート NISMO Sをベースにさらに各部に手を加えて、より本格的な走りを追求したのがこのクルマである。

「ノート NISMO S ニスモパーツ装着車」
車幅灯連動式のLEDハイパーデイライトを備える専用フロントバンパー。「NISMO S」のバッヂを備えるフロントグリルも専用品
通常のノートはリアブレーキがドラム式になるが、ノート NISMO Sは4輪ディスクブレーキを採用
通常は専用レッド塗装のドアミラーとなるが、試乗車はオプション品のカーボンドアミラーカバーを装着していた
ボディー同色部分と“ニスモレッドアクセント”を組み合わせて構成する専用サイドシルプロテクター

 乗ってみると、とにかく楽しい! 軽量フライホイールに交換していることも効いていて、エンジンレスポンスは最高だ。強化エンジンマウントやトルクロッドの恩恵で、ストッロルのON/OFFでパワートレーンが暴れることなく、よりダイレクト感のある走りを楽しめるし、クルマが軽くなったように感じる。チタンマフラーによる乾いたサウンドも心地よい。

 フットワークもLSDの効果でステアリングを切った方向にグイグイ曲がっていき、アンダーステア知らず。オーリンズの車高調は、ベース車よりもずっと乗り心地がよくて、調整幅が広いなかから好みのセッティングを選べる。ショートストロークの5速MTのシフトフィールも上々。これでMTが6速だったらもっとうれしいところだ。

 また、GT-R NISMO譲りの「NissanConnect Nismo用データトランスミッターキット」も試してみた。ドライビングを分析できるというのはこれまた楽しい。興味がある人はぜひ装着してみるとよいだろう。

下方向まで長く伸びるルーフスポイラーや、フォグランプ付きとなるリアバンパーなどを使って空力特性をトータルチューニング。φ100の専用エキゾーストシステムはCVTモデルにはないNISMO Sだけのアイテムとなる
試乗車には「NissanConnect Nismo用データトランスミッターキット」が装着されており、アクセルやブレーキの踏み込み量、ステアリング操舵角、左右Gやヨーレートなどのリアルタイム情報をスマートフォンなどの画面に表示。データロガー機能も備えている
NISMO Sは専用チューンの直列4気筒DOHC 1.6リッターエンジンと5速MTの組み合わせ。白いジュラコン製シフトノブはオプション品

無限(M-TEC)

「無限 S660」

 ボディー各所に空力付加物を配した、ちょっとレーシーで派手な外観がまず印象的。また、ロールトップに換えて装着するハードトップ(試作品)が装着されている。これらにより雰囲気がガラッと変わっている。

「無限 S660」

 走りもそのイメージに相応しくスポーティ度が向上しており、ノーマルもよくできているS660の延長線上で、よりシャープなハンドリングが楽しめるように味付けされている。ノーマルのS660はステアリングを切ってからワンテンポ遅れて反応するところ、切った瞬間に曲がるよう味付けしたと開発関係者が述べるとおりの印象だ。ステアリングギヤ比を速めたかのようにクイックで、それでいてリアのスタビリティは高い。全体としては穏やかな挙動のまま回頭性を引き上げた印象で、いわばミッドシップレイアウトのよい部分を際立たせて、より深く味わえるようにした感じである。

フロントバンパーの上から被せて装着するフロントアンダースポイラー、ツヤありブラック塗装のフロントスポーツグリルなどを使い、フロントマスクの印象を変更
ワイド感を強調するデザインを採用する「MD8」アルミホイールは、フロント側を純正の5Jから5 1/2Jにサイズアップ。タイヤを横方向に引っ張って接地面積を拡大し、ステアリング操作に対する応答性やグリップ力向上を図る
サイドスポイラーはリアエアロフェンダーとセットになっており、純正装着されているリアフェンダーを取り外して入れ替えるスタイル。サイドスポイラーはPPE製、リアエアロフェンダーはFRP製となる
2段階角度調整となるドライカーボン製可変式リアウイング。ウイングステーはアルミ製
真空成型のPPE製リアアンダースポイラーは、両サイドがリアフェンダーより外側まで張り出してワイド感をアピール
スポーツサイレンサーは、写真のカーボン製フィニッシャーのほか、美しくカラーリングされたチタン製、手ごろな価格となるステンレス製の3種類を用意する

 ターンパイクの高速コーナーもまったく不安を感じることなく攻められる。エキゾーストサウンドも、野太いというと大袈裟だが低音が効いていて、3気筒エンジンの安っぽさを払拭したスポーティな音質になっている。

 購入者のうちチューニングする人の割合がかなり高いであろうS660だが、ノーマルに物足りなさを感じる人、よりエキサイティングな走りを求める人に、参考になる部分の多いクルマである。

前後のフェンダーやエアロボンネットなど、ボディー各所にスリットを追加して冷却性能を向上させている
「無限 ステップワゴン スパーダ」

 無限の足まわりには、これまでも素晴らしい仕上がりにたびたび舌を巻いてきたが、今回もそんな印象を強くすることになった。しかもそれは、スポーツカーはもちろんだが、こういった量販モデルでより強く感じるケースが多い。

 今回もS660はもちろん、ステップワゴン スパーダの仕上がりに感銘を受けた。姿勢変化が小さく、乗り心地がよく、フラットライドで、これほど重心が高くてトレッドも広くないクルマとは思えない仕上がりだ。

「無限 ステップワゴン スパーダ」

 ベース車では例の「わくわくゲート」の採用で、本来は低下してしまう剛性を十分に確保した半面、オーバーハングがかなり重くなってしまった。その影響で、ワインディングを走るとアウト側に引っ張られる感じになって旋回性を阻害していると無限の開発関係者は分析。そこでこのクルマではその動きを消すように味付けした。実際にドライブしても、とてもスムーズなコーナリング姿勢と狙いどおりのライントレース性を実現していた。乗り心地もわるくない。

 ブレーキも、踏力の微妙な調節で制動力と前後荷重をドライバーの意思に忠実にコントロールできるように味付けされている。多くの乗員を乗せるミニバンであれば、乗員にとってより快適な移動空間とする意味でも、加減速の制御はよりスムーズであるべきだと思うところだが、このブレーキはまさしくそのように味付けされていた。

フロントバンパーの上から装着するフロントアンダースポイラーは、両サイドに高輝度LEDを使ったエアロイルミネーションをオプション追加できる
スパーダ専用となるクロームメッキ仕上げのフロントグリル。クロームメッキ仕上げとダーククロームメッキ仕上げの2種類を展開
スパーダシリーズはカラードサイドシルガーニッシュを標準装備しているが、これを取り外して入れ替える無限製サイドガーニッシュ
10本のスポークをリム近くでツインスポークに変化させ、実際以上のサイズ感を表現する「MDM」18インチアルミホイール。リムにはスピニング加工を施しており、薄さによる軽量化と高い剛性を両立させる

 4月に5代目モデルとなったベース車が、スパーダでもメッキの使用部位を減らして控えめなルックスとされたところ、これまでの無限の路線を踏襲したクロームメッキなどを多用するスタイルとなっている。“やっぱり派手なほうが好み”という人も少なくないであろうミニバンのユーザー層に受け入れられることと思う。ただし惜しいのは、この見栄えするクロームメッキ仕上げのフロントグリルが運転支援システム「Honda SENSING」非対応であること。難しいとは思うが、なんとか両立してくれるよう期待したい。

5代目ステップワゴンはリアゲートにバンパーを備え、いっしょに跳ね上げられることもあるため、リアアンダースポイラーは両サイドに控えめなサイズで設置される製品
チタン製のフィニッシャーにデボス加工で無限ロゴが入るスポーツサイレンサー。バンパーごとリアゲートが開く5代目ステップワゴンでの使用に合わせ、熱くなったフィニッシャーに人が触れて火傷をしないよう、上部をカバーするマフラーガーニッシュが付属する

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一