試乗記

日産新型「パトロール」試乗、日本での販売の可能性も出てきた8シーターSUVの実力やいかに?

日本市場での導入はまだ決まっていない新型パトロールに試乗した

メイドinジャパンの新型パトロール

 2024年末にサウジアラビアで試乗してきた日産「パトロール」と日本で再会した。場所はいま閉鎖されるのではと話題の神奈川県横須賀市にある追浜工場脇のグランドライブというテストコース。いよいよ日本上陸!?

 いやいや、このパトロール、実はエンジンは福島産で車体の組み上げは福岡。つまりは正真正銘のメイドinジャパンなのである。残念ながら現状では左ハンドル仕様しか存在せずなのだが、今後は豪州向けの右ハンドルを作る計画があることを明かしている。ならば日本仕様を作ることだって難しくはないはず。そもそもパトロールは日本名サファリだった1台であり、2007年までは売っていたのだから(これは5代目で新型は7代目)。だからこそ、わざわざ昨年からジワジワと僕らに試乗させているのだとにらんでいる。

 そんなわけで久々の対面となったパトロールは、改めて圧倒的な存在感であることに気付かされる。先代とは違う新規のラダーフレームを採用する新型パトロールのサイズは5350×2030×1945mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは3075mm。車重は2813kgにも到達する、3列シート8人乗りである。日本じゃ持て余すこと請け合いだが、考えてみれば近しいサイズのランクル、Gクラス、ディスカバリーなどがしょっちゅう行き交う東京にいると、パトロールはちょっと大きいくらいだしなんとかなるかという気にもなってくる。

今回試乗したのは2024年9月にアラブ首長国連邦アブダビで開催されたイベントで発表された、7代目となる新型「パトロール」。日産車体九州で生産されるパトロールは中東、アメリカを主要マーケットとするモデルとなり、その体躯は5350×2030×1945mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3075mm
新型「パトロール」のエクステリアデザインは、強靭性と耐久性を感じさせる「unbreakable(壊れることのない頑丈性)」を体現したもの。フロントのVモーショングリルの左右に配した印象的なC形ヘッドライトはアダプティブ ドライビング ビーム(ADB)技術を採用し、最適な視界を確保。撮影車は22インチの合金ホイールをセット
新型のV型6気筒3.5リッターターボエンジンは最高出力425PS、最大トルク700Nmを発生。従来のV8エンジンと比較して出力で7%、トルクは25%向上した。トランスミッションは9速AT

 それを後押ししているのがインパネに備えられた14.3インチ×2が生み出すカメラ性能のよさだった。フロント下側が合成画像によってまるでシースルーで確認できること、さらにはそれを1画面だけでなく2画面でも広く確認できるところにサイズ的恐怖感が薄れてきた。タイヤはどこを通るのか? 壁まではどれくらいの余裕があるのか? そしてブラインドの交差点では地点登録しておけば瞬時にモニターが立ち上がり、隠れた自転車などを即座に確認できるようになっている。これはかなりありがたい装備だ。

新型パトロールではフロントグリル内のものをはじめ、外側に計4つのカメラを設置。障害物などをリアルタイムで投影する「Invisible-to-Visible技術」を採用した
2つの14.3インチのディスプレイを配したインフォテインメントシステムは、Google ビルトインを搭載した日産コネクト2.0を採用。「ウルトラ ワイドビュー」により視野は170度にまで拡大でき、「インビジブル フードビュー」により車両の真下を透過して確認できる
実際、運転席からは車両の陰に隠れる自転車は見えないが、ウルトラ ワイドビューではしっかり確認できた
インビジブル フードビューを使えば駐車時などの幅寄せも容易

 また、日産ブランドとしては初となるKlipsch製のプレミアムオーディオや華やかな色合いのシートを採用したこと、乗降性を損なわないように車高を174mmまで下げられるエアサスが準備されていることもパトロールの魅力。さすがは中東の富裕層向けに仕立てられた1台なのだと納得できる。

豪華絢爛なインテリア。シフトはボタン式となり、大きなツインルーフや後席モニターといった装備も選択できる。また、新搭載した「バイオメトリック クーリング」は、内蔵された赤外線センサーが乗員の体温を検知し、快適な車内環境を保つように温度と風量の自動調整を実施するという

 ただ、今回テストコースで試乗するのはエアサス仕様ではなくコイルスプリングとeダンパーを備えたモデルで車高は高いまま。タイヤはエアサスの22インチに対し、コチラは20インチとなっている。シティバンパーを装備しているため、エアサスのように車高を上げてアプローチアングル、デパーチャーアングル、ランプブレークオーバーアングルを稼ぐなどといった芸当はできないが、日本のオンロードやちょっとしたオフロードを走るくらいならこれでも十分。それよりも価格を少しでも抑えて日本での販売を模索しようということか!? いずれにしても、全部盛りもいいけれど現実的な売れ線仕様となりそうなものもチェックしてみてね、ということなのだろう。

ロングドライブも疲れ知らず

大柄なボディをパワーユニットはけん引できるか?

 走らせてみると、フェアレディZに搭載されたVR30DDTTのストロークアップ版となるVR35DDTTを搭載したパワーユニットは、この巨体をストレスなくスッと動かし、高速域まで一気に加速させてくれることに感心する。さすがは最高出力425PS、最大トルク700Nmである。

 スポーツモードにしてeダンパーを引き締めれば旋回性能もなかなか。今回はエアボリュームが豊かな20インチということもあり、エアサス&22インチほどのキビキビとした振る舞いではなかったが、これでも十分に納得できる運動性能を身につけているように感じる。そしてロングホイールベースによってビシッと真っ直ぐ突き進む感覚も豊か。これならロングドライブをしても疲れ知らずだろう。

試乗車は20インチ仕様

 ただ、一方で低速域は特に後席における微振動が気になった。新たなラダーフレームのクセか、はたまた跳ね上げ式となった2列目シートの剛性がまだ足りないのか。日本の道に合わせるのであれば、そのあたりのマナーをもう少し盛ってほしいというのが現状のリクエストだ。

 ただ、他はもう存在感から走りまで納得できるところしかない。久々に目がハートになるちょっとワクワクできる1台だった。いろいろと厳しいのだろうけれど、なんとかパトロールの日本登場にこぎ着けてほしい。頑張れ日産!

日産の新たなフラグシップモデルとして、ぜひ日本市場にも導入してほしい
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛