試乗記
サウジアラビアの砂漠で新型「パトロール」初試乗 日産のシンボルとなれ!
2025年1月1日 11:00
ありとあらゆるところを刷新
日本ではあまりなじみがないと思われる日産「パトロール」は、実は2007年まで「サファリ」(5代目)として日本で販売されていた。6代目となるパトロールはSUPER GTの救護車両として使われており、レースファンならその存在をご存知の方々もいるだろう。今回はその最新モデルである7代目の中東向けを、サウジアラビアの砂漠で試乗することになった。
新型パトロールはエンジンからラダーフレームまで、ありとあらゆるところが刷新されている。エンジンはフェアレディZに搭載されたVR30DDTTのストロークアップ版となるVR35DDTTを搭載。つまりは3.5リッターツインターボとなる。排気量アップ版とはいえエンジンはZ用から8割のパーツを新設。傾斜地でも潤滑性能を保つスカベンジポンプ付きオイルポンプも搭載される。
結果として最高出力は425PS、最大トルクは700Nmを発揮。これは従来のV8に対して出力で7%アップ、トルクで25%アップ、燃費は24%の改善に繋がっている。その出力はZ用よりも強化された9速ATでタイヤへと伝えていく。ラダーフレームはサイドメンバーの段面積を20%拡大したほか、前席下に走るクロスメンバーをサイドメンバーに串刺しにして、その両端を溶接することでねじり剛性を40%も引き上げている。
ポイントとなるのは最上級グレードにおいてパトロールとして初めて採用されたというエアサスの存在だ。これにより最低地上高は244mmから294mmまで引き上げることが可能になり(乗降時には174mmまで下がる)、シティユースの乗り味を犠牲にすることなく、柱となるコンセプトである「king of desert」を絶対に外さないように仕立てられたというのだ。
パトロールはそもそも先代モデルより四輪独立懸架となったが、新型もまたそのコンセプトを踏襲している。オンロードとオフロードの両立には、エアサスはなくてはならないものだったようだ。というのも、パトロールのホイールベースはなんと3075mm。ここまで長く、さらにフロントバンパーが下部に長いシティバンパーを装着しようとなると、アプローチアングル、デパーチャアングル、ランプブレークオーバーアングルが気になるが、車高を上げさえすればそれぞれ27.5度、27度、27度を達成できる。
事実上のライバルとなるトヨタの「ランドクルーザー300」は、昔からホイールベース2850mmにこだわり続け、トップグレードでオンロード指向のZXではそれぞれ24度、26度、25度。なんとかしてこの数値を超したかったのが伝わってくる。ちなみに両車ともにオフロード重視のバンパーが準備されており、そちらはアプローチアングル32度となっている。
一方のインテリアは中東の富裕層をターゲットとしているだけあって、かなり豪華な仕立てだ。インパネには14.3インチのモニターがツインで配置され、フロント下側がシースルーで2画面で見られるようになっているところがおもしろいし実用的。Googleオートサービスが標準装備となっており、ナビの使い勝手も良好だ。また、日産ブランドとしては初となるKlipsch製のプレミアムオーディオも装備している。シートは2+3+3の8人乗りで、3列目に座ったとしても窮屈に感じない仕上がりがある。これはミニバンの代わりに十分機能するかもしれない。ラダーフレームが改められたことで3列目へのアプローチに段差がなくなり使いやすくなっていた。
ここまでの装備と使い勝手を得たことで、サイズはなかなか大柄だ。全長×全幅×全高は5350×2030×1945mmで、車重は2813kgである。だが、この重量は旧型に対して約30kgも軽くなっている。アッパーボディには700MPa級のハイテン材を旧型の6%から28%に引き上げ、V8を廃止し、ハイドロリンクボディモーションコントロールをエアサスにしたことが軽量化に繋がったようだ。
キビキビとした身のこなしと上質な乗り心地
事前に旧型を試したのちに新型を走らせる。そこでまず感じたことは、全てが軽快で大きさを感じないことだった。オンロードにおける発進には余裕があり、重たいボディを即座に動かせる感覚がある。足まわりは程よく引き締められており、無駄な動きは一切感じない。これがラダーフレームでエアサスなの? 275/60R22サイズのブリヂストン ALENZA SPORT A/S(日本未導入)というM+Sのタイヤの応答もよく、キビキビとした身のこなしと上質な乗り心地が展開されていく。
クローズドコースにおいて200km/hオーバーの世界も体験したが、ロングホイールベースのおかげか、フラつくこともなく直進安定性に優れていたところもまた特徴的だと思える。ここまでオンロードが快適とは思いもしなかった。
一方でモーグルコースで荒れた路面を走りまわれば、車高を上げてモニターを使い、難なくクリアしてくれるから頼もしい。先が見えなくても、急な上り坂があったとしても躊躇する必要はない。走り出しから得られるトルクによってグイグイと駆け上がってくれるのだ。
試乗の最終ステージとなった砂漠では、20台ほどが連なっての走行となった。スピードを落とさずに60km/h以上で巡行していく。勢いをなくしたらスタックする危険があるそうだ。できるだけ前のクルマについて行ってと指示を受けるが、前のクルマが跳ね上げた砂煙が舞い上がり視界はかなり遮られている。結果としてアクセルを緩めてしまうのだが、そんな時にでも瞬時に大トルクが得られるため、速度復帰がしやすく、砂漠初心者であったとしてもスタックの危険性が少ないと感じた。どの速度域からも、どの回転域からもトルクがついてくる感覚が扱いやすい。
そんなことを考えていた時、砂煙の中からちょっと大きめの木が見えた。瞬間的にダブルレーンチェンジ的な緊急回避を行なったのだが、そんな時もパトロールは軽快な身のこなしでサクッと回避。もしも鈍重なレスポンスだったら、こうはいかずクルマを木にヒットさせていたかもしれない。新型の運動性能の高さに助けられた瞬間だった。オンロードでもオフロードでも満足できる運動性能はたまらない。
ここまで魅力的なクルマであるにも関わらず日本では売られていない。そこがとにかく残念だ。実はエンジンは福島で、車体の組み上げは福岡だというパトロール。つまりはメイド・イン・ジャパンなのだ。ならば日本の道を走らなくてどうする!
今は日産も厳しい時期ではあるが、売るクルマがないという声もあるのだからパトロールの導入をすべきだ。GT-Rが消えようとしている現在、次に日産を象徴する1台として頂点に立つには、やはりパトロールのような堂々とした存在がほしい。今後は豪州向けの右ハンドル仕様も生産されるようだから、さほど難しくはないだろう。日本でも再びパトロールに会える日を楽しみにしている。