試乗記

サウジアラビアの砂漠で新型「パトロール」初試乗 日産のシンボルとなれ!

新型「パトロール」にサウジアラビアで試乗

ありとあらゆるところを刷新

 日本ではあまりなじみがないと思われる日産「パトロール」は、実は2007年まで「サファリ」(5代目)として日本で販売されていた。6代目となるパトロールはSUPER GTの救護車両として使われており、レースファンならその存在をご存知の方々もいるだろう。今回はその最新モデルである7代目の中東向けを、サウジアラビアの砂漠で試乗することになった。

 新型パトロールはエンジンからラダーフレームまで、ありとあらゆるところが刷新されている。エンジンはフェアレディZに搭載されたVR30DDTTのストロークアップ版となるVR35DDTTを搭載。つまりは3.5リッターツインターボとなる。排気量アップ版とはいえエンジンはZ用から8割のパーツを新設。傾斜地でも潤滑性能を保つスカベンジポンプ付きオイルポンプも搭載される。

 結果として最高出力は425PS、最大トルクは700Nmを発揮。これは従来のV8に対して出力で7%アップ、トルクで25%アップ、燃費は24%の改善に繋がっている。その出力はZ用よりも強化された9速ATでタイヤへと伝えていく。ラダーフレームはサイドメンバーの段面積を20%拡大したほか、前席下に走るクロスメンバーをサイドメンバーに串刺しにして、その両端を溶接することでねじり剛性を40%も引き上げている。

新型「パトロール」が搭載する新型V型6気筒3.5リッターターボエンジン。従来のV8エンジンと比較して出力が7%、トルクが25%向上し、最高出力425PS、最大トルク700Nmを発生
エンジンの設計コンセプト
VR35DDTT、VK56VD、VR30DDTTの各仕様
VR35DDTTのエンジントルクカーブ
燃費について
VR35DDTTの技術的特徴
ロングストローク高速燃焼
現行V6エンジンとの燃料付着率の比較
低燃費率領域の拡大により燃費向上に貢献
潤滑システムの改善も行なわれ、スカベンジポンプ付きオイルポンプも搭載
潤滑システムの改善で最大傾斜角度が48.5度に
改善されたターボチャージャーは砂漠の熱要求に応えるために耐熱寿命が2.5倍長くなった
ターボエアフローノイズの軽減に向け、圧縮機の入り口に溝を追加
クランクシャフトウェブの形状最適化によりシャフト剛性が13%向上
トルクレスポンスの向上により、現行モデル比で初期加速時のレスポンスが0.25秒向上
現行モデルから燃費は14%改善
公道走行時の排気ガスについて

 ポイントとなるのは最上級グレードにおいてパトロールとして初めて採用されたというエアサスの存在だ。これにより最低地上高は244mmから294mmまで引き上げることが可能になり(乗降時には174mmまで下がる)、シティユースの乗り味を犠牲にすることなく、柱となるコンセプトである「king of desert」を絶対に外さないように仕立てられたというのだ。

 パトロールはそもそも先代モデルより四輪独立懸架となったが、新型もまたそのコンセプトを踏襲している。オンロードとオフロードの両立には、エアサスはなくてはならないものだったようだ。というのも、パトロールのホイールベースはなんと3075mm。ここまで長く、さらにフロントバンパーが下部に長いシティバンパーを装着しようとなると、アプローチアングル、デパーチャアングル、ランプブレークオーバーアングルが気になるが、車高を上げさえすればそれぞれ27.5度、27度、27度を達成できる。

 事実上のライバルとなるトヨタの「ランドクルーザー300」は、昔からホイールベース2850mmにこだわり続け、トップグレードでオンロード指向のZXではそれぞれ24度、26度、25度。なんとかしてこの数値を超したかったのが伝わってくる。ちなみに両車ともにオフロード重視のバンパーが準備されており、そちらはアプローチアングル32度となっている。

エクステリアコンセプトは「unbreakable(壊れることのない頑丈性)」。フロントのVモーショングリルの左右に配したC形のヘッドライトにアダプティブ ドライビング ビーム(ADB)技術を採用したほか、22インチの合金ホイールによって存在感を高めるとともに優れたオフロード性能に必要なロードクリアランスを実現

 一方のインテリアは中東の富裕層をターゲットとしているだけあって、かなり豪華な仕立てだ。インパネには14.3インチのモニターがツインで配置され、フロント下側がシースルーで2画面で見られるようになっているところがおもしろいし実用的。Googleオートサービスが標準装備となっており、ナビの使い勝手も良好だ。また、日産ブランドとしては初となるKlipsch製のプレミアムオーディオも装備している。シートは2+3+3の8人乗りで、3列目に座ったとしても窮屈に感じない仕上がりがある。これはミニバンの代わりに十分機能するかもしれない。ラダーフレームが改められたことで3列目へのアプローチに段差がなくなり使いやすくなっていた。

 ここまでの装備と使い勝手を得たことで、サイズはなかなか大柄だ。全長×全幅×全高は5350×2030×1945mmで、車重は2813kgである。だが、この重量は旧型に対して約30kgも軽くなっている。アッパーボディには700MPa級のハイテン材を旧型の6%から28%に引き上げ、V8を廃止し、ハイドロリンクボディモーションコントロールをエアサスにしたことが軽量化に繋がったようだ。

インテリアは快適さと最先端のテクノロジーが調和するよう設計され、2つの14.3インチのディスプレイを配したインフォテインメントシステムはGoogle ビルトインを搭載した日産コネクト2.0を採用。64色から選べるアンビエントライトシステムも備えた
ドライブモードは標準、砂地、岩場、轍、エコ、スポーツの6モードを設定
モニターにはフロント下側をシースルーで映し出すことも可能
新型パトロールのシートレイアウトは2+3+3の8人乗り

キビキビとした身のこなしと上質な乗り心地

旧型を試したのち、新型に試乗

 事前に旧型を試したのちに新型を走らせる。そこでまず感じたことは、全てが軽快で大きさを感じないことだった。オンロードにおける発進には余裕があり、重たいボディを即座に動かせる感覚がある。足まわりは程よく引き締められており、無駄な動きは一切感じない。これがラダーフレームでエアサスなの? 275/60R22サイズのブリヂストン ALENZA SPORT A/S(日本未導入)というM+Sのタイヤの応答もよく、キビキビとした身のこなしと上質な乗り心地が展開されていく。

 クローズドコースにおいて200km/hオーバーの世界も体験したが、ロングホイールベースのおかげか、フラつくこともなく直進安定性に優れていたところもまた特徴的だと思える。ここまでオンロードが快適とは思いもしなかった。

オンロードでは発進に余裕があり、重たいボディを即座に動かせる感覚があった

 一方でモーグルコースで荒れた路面を走りまわれば、車高を上げてモニターを使い、難なくクリアしてくれるから頼もしい。先が見えなくても、急な上り坂があったとしても躊躇する必要はない。走り出しから得られるトルクによってグイグイと駆け上がってくれるのだ。

急な上り坂もグイグイ駆け上がる

 試乗の最終ステージとなった砂漠では、20台ほどが連なっての走行となった。スピードを落とさずに60km/h以上で巡行していく。勢いをなくしたらスタックする危険があるそうだ。できるだけ前のクルマについて行ってと指示を受けるが、前のクルマが跳ね上げた砂煙が舞い上がり視界はかなり遮られている。結果としてアクセルを緩めてしまうのだが、そんな時にでも瞬時に大トルクが得られるため、速度復帰がしやすく、砂漠初心者であったとしてもスタックの危険性が少ないと感じた。どの速度域からも、どの回転域からもトルクがついてくる感覚が扱いやすい。

 そんなことを考えていた時、砂煙の中からちょっと大きめの木が見えた。瞬間的にダブルレーンチェンジ的な緊急回避を行なったのだが、そんな時もパトロールは軽快な身のこなしでサクッと回避。もしも鈍重なレスポンスだったら、こうはいかずクルマを木にヒットさせていたかもしれない。新型の運動性能の高さに助けられた瞬間だった。オンロードでもオフロードでも満足できる運動性能はたまらない。

砂漠での性能も体感

 ここまで魅力的なクルマであるにも関わらず日本では売られていない。そこがとにかく残念だ。実はエンジンは福島で、車体の組み上げは福岡だというパトロール。つまりはメイド・イン・ジャパンなのだ。ならば日本の道を走らなくてどうする!

 今は日産も厳しい時期ではあるが、売るクルマがないという声もあるのだからパトロールの導入をすべきだ。GT-Rが消えようとしている現在、次に日産を象徴する1台として頂点に立つには、やはりパトロールのような堂々とした存在がほしい。今後は豪州向けの右ハンドル仕様も生産されるようだから、さほど難しくはないだろう。日本でも再びパトロールに会える日を楽しみにしている。

新型パトロールの日本導入に期待したい
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。