試乗記
「GR86アプライドD」は街乗りからワインディング、サーキットまで万人がスポーツ走行を楽しめる懐の広さが魅力
2025年5月26日 08:00
- RZ(6速AT)361万6000円
- RZ(6速MT)351万8000円
- SZ(6速AT)329万3000円
- SZ(6速MT)319万5000円
- RC(6速MT)293万6000円
毎年のように進化を続けているGR86。その最新版であるアプライドDを、街乗りからワインディング、そしてサーキットまで、あらゆるシーンでじっくりと乗ってみた。基本的なスタイルは変わらず中身をじわじわと磨き込んでいるGR86はどんな世界へと進化をしたのだろう?
走りの違いを見る前に、まずはエクステリアとインテリアに小変更が加わったところをチェックしてみる。エクステリアは一見するとまるで変わらないが、実はデイライトが加わった。最近では日中であっても光を放つことで周囲に存在を示すクルマが多くなってきたが、GR86もこれで現代の流れに準じたことになる。これにより視認性がよくなり安全性も高まっていることは言うまでもないだろう。
インテリアについてはウインカーレバーの動作が変更している。これまではウインカーを左右のどちらかに作動させた場合、レバー自体は先に中立位置に戻るようになっていた。だが、アプライドDでは倒れた状態を維持し、右左折が完了したのちに中立に戻るという往年の動作に戻った。どちらが好みかは人それぞれだろうが、個人的には作動させた方向が見た目と触感で分かる現在のスタイルのほうが好みだ。みなさんはいかがだろうか?
本題となる走りの違いは、まず足まわりにしなやかさが増したところがポイントだと、街乗りの時点から即座に感じるころができた。コツコツとしたあたりの強さがなくなり、動き出しがスムーズになったことが目新しい。
また、ワインディングシーンでもイン側のタイヤがしっかりと路面に追従する感覚が強く、きちんとロードホールディングする感覚に溢れている。かなりの粘り腰。少しオトナな感覚があり、これならオジサマたちも受け入れられそうなスマートさがあると感じた。
さらに、パワーステアリングのフィールにも壁のような抵抗が感じられず、スッと切り込んでいけるようになったところも好感触。ドライバーを選ばず誰にでもフィットしてくれそうな気がする。
アプライドDでもう1つ注目しておきたいのは、ATのマニュアルモードにおけるダウンシフトの許容回転が拡大されたことだ。従来よりも最大で1460回転も上昇しているというから期待できそうだ。
ワインディングでそれを試せば、これまではパドルのマイナスを引いたとしても「ピピッ、ピピッ!」とキャンセル音が鳴り響き、シフトダウンできないことが多かったが、それがかなり改善された。
ストレスなくダウンシフトをしてくれることで、リズミカルにコーナーを駆け抜けることが可能になった。別の機会にサーキットレベルでそれを行うと、さすがにキャンセルされることもあるのだが、従来よりは遥かにキャンセル音が出る回数が減っていることが印象的。結果として速さも手に入れていた。
対するMTモデルもビッグローブのサーキットイベント時に試してみた。走らせてみるとこれまでよりも明らかにリアの安定感が増している。ワインディングで感じたようにリアの粘りや強く、特にイン側の接地がなかなか離れないところが印象に残る。
結果として瞬時に向きを変えるような反応のよさはスポイルされたが、リアがスナップしてリバースステアに移行するようなことがなくなった。リアがスライドし始める時にはあくまでもジワリ。ブレーキングの踏力の抜き方次第でドリフトアングルをいかようにでもコントロールできる幅がある。
また、アクセルオンする際にもLSDがジワリと聞き始め、コントロールの幅がかなり広がった。テニスで言うところのデカラケのような感覚かもしれない。ビギナーに扱いやすく、そこそこ楽しめる、そんな感覚だろうか。市販車として万人に受けなければならず、そこに合わせ込んでいったのがアプライドDということなのかもしれない。
かつてGR86が登場したばかりのころは、カミソリのような切れ味があり、実はそこが魅力の1つでもあった。だが、対して乗り味は荒く、限界域もシャープであり、乗り手を選ぶところがあったのも事実。しっかり乗らなければ正解が出ないところに面白さがあった。結果が出せないなら走り込んで腕を磨けという体育会的スタンスもまた魅力だったのかもしれない。
だが、スポーツカーだって市販車であり、どの時代であっても年次改良を続けるごとに大人しくなっていくのは自然な流れだ。あらゆる路面を走り、あらゆる年齢層やドライビングスキルの人が乗ることを考えれば、そうせざるを得ない。
そう考えた場合、今回のアプライドDは正常進化と言えるのではないだろうか。ただ、ここまで安定感が出たのであれば次なる一手が欲しくなってくる。次に求めるはパワーアップか!? GR86がまだまだ継続するであろう進化の軌跡を楽しみにしていたい。