試乗記

「GR86アプライドD」は街乗りからワインディング、サーキットまで万人がスポーツ走行を楽しめる懐の広さが魅力

RZ(6速AT)361万6000円
RZ(6速MT)351万8000円
SZ(6速AT)329万3000円
SZ(6速MT)319万5000円
RC(6速MT)293万6000円
GR86の最新版アプライドDを試乗する機会を得た

 毎年のように進化を続けているGR86。その最新版であるアプライドDを、街乗りからワインディング、そしてサーキットまで、あらゆるシーンでじっくりと乗ってみた。基本的なスタイルは変わらず中身をじわじわと磨き込んでいるGR86はどんな世界へと進化をしたのだろう?

 走りの違いを見る前に、まずはエクステリアとインテリアに小変更が加わったところをチェックしてみる。エクステリアは一見するとまるで変わらないが、実はデイライトが加わった。最近では日中であっても光を放つことで周囲に存在を示すクルマが多くなってきたが、GR86もこれで現代の流れに準じたことになる。これにより視認性がよくなり安全性も高まっていることは言うまでもないだろう。

ボディサイズ4265×1775×1310mm(全長×全幅×全高はアンテナを含む)、ホイールベースは2575mm。6速MTはRZが351万8000円、SZが319万5000円、RCが293万6000円
6速ATモデルはRZが361万6000円、SZが329万3000円
エクステリアではデイタイムランニングライトがRZに追加された

 インテリアについてはウインカーレバーの動作が変更している。これまではウインカーを左右のどちらかに作動させた場合、レバー自体は先に中立位置に戻るようになっていた。だが、アプライドDでは倒れた状態を維持し、右左折が完了したのちに中立に戻るという往年の動作に戻った。どちらが好みかは人それぞれだろうが、個人的には作動させた方向が見た目と触感で分かる現在のスタイルのほうが好みだ。みなさんはいかがだろうか?

GR86アプライドDのインテリア
室内の広さは1625×1480×1060mm(長さ×幅×高さ)
タイヤ空気圧警報システムがRZとSZに標準装備された
ウィンカーレバーは先に戻るタイプから、従来のステアリングを切り戻したときに戻るタイプとなった

 本題となる走りの違いは、まず足まわりにしなやかさが増したところがポイントだと、街乗りの時点から即座に感じるころができた。コツコツとしたあたりの強さがなくなり、動き出しがスムーズになったことが目新しい。

 また、ワインディングシーンでもイン側のタイヤがしっかりと路面に追従する感覚が強く、きちんとロードホールディングする感覚に溢れている。かなりの粘り腰。少しオトナな感覚があり、これならオジサマたちも受け入れられそうなスマートさがあると感じた。

搭載する水平対向4気筒2.4リッターエンジン「FA24型」は、最高出力173kW(235PS)/7000rpm、最大トルク250Nm/3700rpm

 さらに、パワーステアリングのフィールにも壁のような抵抗が感じられず、スッと切り込んでいけるようになったところも好感触。ドライバーを選ばず誰にでもフィットしてくれそうな気がする。

 アプライドDでもう1つ注目しておきたいのは、ATのマニュアルモードにおけるダウンシフトの許容回転が拡大されたことだ。従来よりも最大で1460回転も上昇しているというから期待できそうだ。

足まわりにしなやかさが増し、動き出しがスムーズになった
いろいろなモータースポーツで使われることを想定してEPS(Electric Power Steering:電子制御パワーステアリング)の特性を改良。俊敏なレスポンスと操舵安定性を両立させ、限界域におけるステアリングフィールを向上させている

 ワインディングでそれを試せば、これまではパドルのマイナスを引いたとしても「ピピッ、ピピッ!」とキャンセル音が鳴り響き、シフトダウンできないことが多かったが、それがかなり改善された。

 ストレスなくダウンシフトをしてくれることで、リズミカルにコーナーを駆け抜けることが可能になった。別の機会にサーキットレベルでそれを行うと、さすがにキャンセルされることもあるのだが、従来よりは遥かにキャンセル音が出る回数が減っていることが印象的。結果として速さも手に入れていた。

リズミカルにコーナーを駆け抜けられる

 対するMTモデルもビッグローブのサーキットイベント時に試してみた。走らせてみるとこれまでよりも明らかにリアの安定感が増している。ワインディングで感じたようにリアの粘りや強く、特にイン側の接地がなかなか離れないところが印象に残る。

 結果として瞬時に向きを変えるような反応のよさはスポイルされたが、リアがスナップしてリバースステアに移行するようなことがなくなった。リアがスライドし始める時にはあくまでもジワリ。ブレーキングの踏力の抜き方次第でドリフトアングルをいかようにでもコントロールできる幅がある。

サーキットでもそのレベル高い走りを堪能
従来モデルよりも明らかにリアの安定感が増している

 また、アクセルオンする際にもLSDがジワリと聞き始め、コントロールの幅がかなり広がった。テニスで言うところのデカラケのような感覚かもしれない。ビギナーに扱いやすく、そこそこ楽しめる、そんな感覚だろうか。市販車として万人に受けなければならず、そこに合わせ込んでいったのがアプライドDということなのかもしれない。

 かつてGR86が登場したばかりのころは、カミソリのような切れ味があり、実はそこが魅力の1つでもあった。だが、対して乗り味は荒く、限界域もシャープであり、乗り手を選ぶところがあったのも事実。しっかり乗らなければ正解が出ないところに面白さがあった。結果が出せないなら走り込んで腕を磨けという体育会的スタンスもまた魅力だったのかもしれない。

コントロール幅がかなり広がった印象だ
MTとATどちらもショックアブソーバーの減衰特性を改良し、スポーツカーらしいダイレクトなハンドリングレスポンスはそのままに接地感を向上させている

 だが、スポーツカーだって市販車であり、どの時代であっても年次改良を続けるごとに大人しくなっていくのは自然な流れだ。あらゆる路面を走り、あらゆる年齢層やドライビングスキルの人が乗ることを考えれば、そうせざるを得ない。

 そう考えた場合、今回のアプライドDは正常進化と言えるのではないだろうか。ただ、ここまで安定感が出たのであれば次なる一手が欲しくなってくる。次に求めるはパワーアップか!? GR86がまだまだ継続するであろう進化の軌跡を楽しみにしていたい。

今回のアプライドDは正常進化と言えるのではないだろうか
GR86のさらなる進化に期待したい
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛
Photo:堤晋一