試乗記

メルセデス・ベンツ「GLC」の新エントリーモデル「GLC 220 d 4MATIC Core」試乗 GLBとどちらを選ぶ?

新エントリーモデル「GLC 220 d 4MATIC Core」に乗った

GLBとGLC

 高級な輸入車ブランドやスポーツカーメーカーで、「もっとも売れているモデルはSUVです!」と聞いても、今となっては驚かなくなった。それは世界中でSUVが大人気で、すでにたくさんのSUVが走っているから、という理由もあるが、自分自身が多くのSUVに触れてきて「ブランドに似合わない」と思うよりむしろ、どのモデルもよく作り込まれていて「そのブランドにぴったりだ」と感じるモデルが増えたというのが大きな理由だ。

 高級輸入車ブランドであるメルセデス・ベンツにも多数のSUVが登場しているが、私自身がもっとも親しみを持っているのが、GLBとGLCだ。最近家族が増えて、「コンパクトカーよりも大きめのクルマがあったら便利かも」と考えるようになり、もしメルセデスの中からモデルを選ぶなら、この2台が現実的かなと思ったからだ。

 両車は同じくらいのサイズ感ではあるが、成り立ちや性能は異なっている。GLBは3列シートが用意され、最大7人乗車することができ、ファミリーユースや実用性に長けたFFベースのモデルで、GLCは最新のデバイスが装備されており、運動性能も高いCクラスと共通のFRプラットフォームを採用している。最新の機能や運転をすることを考えればGLCがいいけれど、価格はGLBの方が100万円以上安く、7人乗りも魅力的なので「もし自分がどちらかを購入するならGLBだろうな」と思っていた。しかし今回、GLCにさらにベーシックなグレードが追加されたと聞き、「これならGLCも検討しやすいかも」とさっそく試乗させていただくことにした。

 近年はメルセデスでもSUVが売上を支えており、2024年の販売台数はSUVの割合が5割を超えたという。そして、GLCは2024年にもっとも売れたメルセデスのモデルであり、輸入車の中で年間登録台数も第2位、ミドルサイズSUVでは1位を獲得した。さらに、2025年3月から新たなエントリーモデルである「GLC 220 d 4MATIC Core」を販売している。

今回試乗したのは2025年3月に発売となった、GLCの新エントリーモデル「GLC 220 d 4MATIC Core(ISG)」。SUVとしてのコアバリューはそのままに、ボディカラーを3色設定としたこと、オプションをAMGラインパッケージとパノラミックスライディングルーフの2つに絞ったことで戦略的な価格(819万円)を実現。ボディサイズは4720×1890×1640mm(全長×全幅×全高)
足下は20インチアルミホイールにグッドイヤー「イーグルF1」(255/45R20)の組み合わせ

 GLC 220 d 4MATIC Coreは、これまでベースグレードとして設定されていた「GLC 220 d 4MATIC」と同様の直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンとマイルドハイブリッドシステムを搭載している。標準装備の内装色はブラックのみ(オプションのAMGラインパッケージはホワイトも用意される)で、シート素材は合成皮革と、装備はやや簡素になっている。しかし、メルセデスの4輪駆動システムの4MATICや最新のインフォテインメントシステム、運転支援機能、オフロード走行モードなど、根幹の機能は上級グレードと変わらない。

エンジンは最高出力145kW(197PS)/3600rpm、最大トルク440Nm/1800-2800rpmを発生する直列4気筒2.0リッタークリーンディーゼルターボ「OM654M」型を搭載。48VマイルドハイブリッドはISG(スタータージェネレーター)で17kW(23PS)/205Nmの出力を持ち、ディーゼルエンジンをサポート

 今までのベースグレードだったGLC 220 d 4MATICは車両本体価格が876万円、クーペは916万円で、GLC 220 d 4MATIC Coreは819万円、クーペは866万円となっている。内容を考えれば、約50~60万円価格が下がるのはお買い得な気がしてしまう。

 それでも高級なことに変わりはないので、その価値を感じられるモデルなのかどうか、GLC 220 d 4MATIC Coreをしっかり試乗してみることにした。

インテリアでは本革のような質感が楽しめるレザーARTICOを用意し、カラーは標準仕様のブラックに加え、AMGラインパッケージにはネバグレー/ブラックも設定。インテリアトリムは標準仕様にシルバーグレーダイヤモンドインテリアトリムを、AMGラインパッケージではメタルウィーブインテリアトリムをそれぞれGLCとして初採用した

快適で洗練された走りを味わえるGLC

いざ試乗

 GLCのエクステリアは、曲線が美しく、丸みを帯びたスタイリッシュなスタイリングをしている。近年はGクラスのような無骨なデザインが好まれると分かっていても、GLCはまとまりがあり、かっこよくも可愛くも見えるきれいなデザインだと感じた。試乗車はAMGラインパッケージのオプションを装着していることもあって、よりスポーティな雰囲気だったが、女性オーナーであればノーマルの穏やかなスタイリングを好む人も多そうだ。インテリアは、デジタルメーターのほかにセンターには縦長の大きなメディアパネルが設置されていて、デザインも機能も洗練されている。シートは合成皮革でも特に高級感は失われていないと感じた。

 運転し始めてみると、駆動用モーターとしても機能するISGがアシストしてくれることもあり、スタートからスムーズに加速することができた。エンジンは直列4気筒2.0リッターディーゼルターボ(197PS/440Nm)で、そこにマイルドハイブリッドシステム(23PS/205Nm)が加わるため、ミドルサイズSUVのGLCでも低速のトルクは力強く、パワー不足は感じずスイスイ走ることができる。さらにメルセデスのモデルはステアリングの操舵力が軽めに設定されていることが多く、GLCも女性の私でもステアリングを楽々と操作することができた。

低速から力強い加速を見せてくれる

 そして、少し運転しただけでもGLCが良くできたモデルだということが端々から伝わってくる。こちらの操作に対して的確かつ素直にクルマが反応してくれるのだ。クルマがカチッとした1つの剛体となって、全体の動きに遅れがなく、ドライバーの意図通りに自然に走らせることができる。4MATICではあるが、Cクラス同様のFRベースのプラットフォームで、前後のトルク配分が絶妙に調整されていることもあり、SUVとは思えないほど取り回しが良い。GLBも運転しやすいクルマではあるが、GLCほど隅々まで行き届くようなドライビングの感覚を得ることは少し難しい。GLBの方が設計の年式は古いし、プラットフォームがFFベースなので仕方のないことだと思うが、見た目よりも運転感覚はかなり違い、GLCは洗練されている印象だ。

 GLC 220 d 4MATIC Coreには電子制御サスペンションが装着されていないので、乗り心地にはそこまで期待していなかったのだが、硬すぎず柔らかすぎずスッキリとした乗り味で、個人的にはこのくらいがちょうどいいと感じた。後席に乗っていたスタッフも「後ろも思っていたより乗り心地が良いです」と満足した様子だった。GLCは、一般道でも交差点やカーブなど、少しステアリングを切るようなシーンでも、クルマがとても素直に反応してしてくれるから「これならきっと誰でも運転しやすいだろうな」と感じる。

硬すぎず柔らかすぎずスッキリとした乗り味が印象的

 さらに峠道も走ったが、右に左にステアリングを切り返すような道でも、クルマがスムーズについてきてくれるので焦ることがない。車内に一緒にいたスタッフも「運転うまくなりました?」と声をかけてくれるほど、自然な感覚で運転することができて心地よかった。

 GLBは、ファミリーユースとしては7人乗りがあるのはやはり魅力的だし、644万円からという価格帯も、メルセデスのモデルとしては手に入れられそうな夢がある。ただ、やはりGLCに比べると、やや古さを感じるところと、個人的には特に運転した感覚が全く異なると感じた。ファミリーユースのSUVとしてガシガシ使うにはGLBが適していると思うが、最新のデバイスが装備されていて、クルマをより便利に使うことができたり、メルセデスらしい快適で洗練された走りを味わったりするにはGLCの方が優秀だ。

 追加されたエントリーモデルのGLC 220 d 4MATIC Coreでもその魅力は存分に感じられたので、これまでGLCが欲しくて価格で足踏みしていた人にとっては、朗報なモデルになるはずだ。

エントリーモデルでもGLCの魅力は存分に感じられた

【お詫びと訂正】記事初出時、グレード名表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

伊藤梓

クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから自動車雑誌カーグラフィックの編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を活かし、自動車関連の動画やイベントなどにも出演している。若い世代やクルマに興味がない方にも魅力を伝えられるような発信を心がけている。

Photo:安田 剛