試乗記

新型「ゴルフR」「ゴルフRヴァリアント」にクローズドコースで試乗 進化した4輪制御システム「4MOTION」は理屈抜きに楽しい!

フォルクスワーゲンの新型「ゴルフR」と「ゴルフRヴァリアント」に試乗する機会を得た

 世界各地で開催されているフォルクスワーゲン「Rトラック・デイ」。その日本版となる「Thrilling R(スリリング・アール)」が、千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンス・センター 東京(PEC東京)で開催された。

 そしてこのイベントに先駆けたメディア向け試乗会において、最新のゴルフRをテストできた。

ゴルフを体感するためのイベント「Thrilling R」が開催された
ゴルフRのレーシングカーや初代ゴルフRなども展示されていた
PEC東京にはアップダウンのある1周約2.1kmのテストコースがある

 さてゴルフRといえば、ゴルフシリーズにおける最もハイパフォーマンスなモデルであり、フォルクスワーゲンRシリーズのイメージリーダーだ。

 ただしその価格は1番ベーシックな3ドアハッチバックで704万9000円と、“ゴルフ”として考えれば、かなり高額になってしまった。

 こうした価格高騰の背景には純粋なパフォーマンスレベルの向上だけでなく、原材料費の高騰や日本の為替が、トリプルパンチで影響している。本来の感覚でいえば2.0リッターターボの4WDマシンとして、シビック タイプRやGRヤリスよりも少し高いくらい、600万円程度で手に入れられるのが理想的だ。

Rモデルの変遷

 とはいえGRカローラ「RZ」の最上級仕様が598万円ということを考えれば、フォルクスワーゲンはがんばってくれている。そしてポルシェ ケイマン(948万円~)やBMW M2クーペ(1018万円~)といったハイパフォーマンスなスポーツカーたちがさらなる高騰を見せる現状を顧みると、ゴルフRのコストパフォーマンスは世界的に評価され始めている。

 特に2023年に登場した第8世代のゴルフRは、グローバルで3万2543台を販売した。もちろんそれは、過去最高記録だ。

 さらに昨年は、3万台を売り上げた。その内訳は、ドイツ本国が7981台でトップ。これに北米(4189台)、カナダ(4069台)、オーストラリア(3834台)、イギリス(2817台)と続き、なんと日本は6位で1014台を記録している。

Rモデルの販売推移
2024年のRモデルのエリア別販売実績

 ということで今回は、ベースモデルであるゴルフのマイナーチェンジと共に最新世代となったゴルフRの実力を、クローズドコースで確かめてみた。

 新型ゴルフRは、2020年に登場した8世代の「ゴルフ8 R」のフェイスリフトモデルで、フロントフェイスやインフォテインメントのアップデートぶりからも分かる通り、俗にいう8.5世代のゴルフRだ。

 マイナーチェンジ仕様ということからも、主要アーキテクチャは、第8世代を踏襲している。エンジンは2.0リッターの排気量を持つ直列4気筒ターボ「EA888」。そのパフォーマンスとしては、ゴルフR 8.0で登場した「R 20 Years(20周年記念車)」と同じ最高出力333PS/5600-6500rpmと、最大トルク420Nm/2100-6500rpmが与えられている。

新型ゴルフRのボディサイズは4295×1790×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm
新型ゴルフRヴァリアントのボディサイズは4650×1790×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm

 そしてこのパワー&トルクは、フォルクスワーゲンが長らく使い続けるハルデックスカップリングの4WDによって、4輪へと伝えられる。

 8.5世代目のゴルフRのハイライトは、まさにこの「4MOTION」の制御にある。

 FWDをベースとするこの4WDシステムは、フロントで100~50%まで、リアでは0~50%の間で状況に応じてトルクを可変。そしてこれをレースモードに入れると、前後のトルク配分が50:50となる。

Rパフォーマンス トルクベクタリングのポイント
ホイールやブレーキも進化している

 ポイントはここからで、後輪に分配された50%トルクは、ディファレンシャルギア脇の湿式多板クラッチによって、さらに0~50%の間で左右に振り分けることが可能となった。

 ちなみにアウディ RS3も「RSトルクスプリッター」として同様のシステムを採用しているが、開発はフォルクスワーゲンのRチームが行ない、これを供給したのだという。

 開発ドライバーでありレーシングドライバーのベニー・ロイヒターさんいわく、このトルクベクタリング以外は全て同じ仕様のゴルフRでニュルブルクリンク(ノルドシュライフェ旧コース)を走り比べたところ、そのタイムは12秒短縮されたという。ノルドシュライフェは約20.832kmだから、単純計算だが1kmあたり約0.6秒の短縮だ。

ゴルフRのインテグレーションマネージャーを務めるヨーナス・ティーレバイン氏(左)と、レースからテストまでこなす開発ドライバー兼フォルクスワーゲンRブランドアンバサダーを務めるベニー・ロイヒター氏(右)
ヨーナス・ティーレバイン氏のプロフィール
ベニー・ロイヒター氏のプロフィール

いざ最新のゴルフRを試乗

 当日はそんな進化型4MOTIONの制御を確かめるために、3つのメニューが用意されていた。なかでも抜群に楽しかったのは、スキッドパッドだ。

 セットアップとしてはまず、車両設定からESCをオフに。そして車両制御は「カスタム」モードから、ドライビングダイナミクスで「レース」モードの選択を勧められた。こうすることでレブリミット付近まで回転が上がっても、シフトが固定されトルク抜けを防げるからだ。

車両設定はセンターディスプレイで変更できる
カスタムモードでは、ドライビングダイナミクスやステアリングなど多岐にわたって細かく設定可能
ESCをOFFにして、S+モードで4輪ドリフトを楽しんだ

 新型ゴルフRは見事に、アクセルオンでオーバーステアに転じた。これまでなら最大でも25%しか配分されなかったトルクを多板クラッチで制御し、内輪側を減らして外輪により多く伝えることで、ドリフトアングルを作り出したのだ。これはLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)の制御と似ているが、空転するタイヤを止めるのではなく、トルクそのものを制御する分だけ新型4MOTIONの方がロスは少なそうだ。

ゴルフRにコントロールする喜びが与えられた
8.5世代になり4MOTIONはさらに制御が洗練されている

 実際の4WDのドリフトコントロールは少し難しかったが、これまで徹頭徹尾安定志向だったゴルフRに、コントロールする喜びが与えられたことは革命的だった。カウンターをあて、進ませたい方向にステアを戻し、クルマを操るドライビングは、理屈抜きに楽しい!

 ちなみに第8世代からこのシステムは投入されているが、ゴルフR 8.5になってさらにその制御は洗練されているのだという。

進化した4MOTIONでゴルフRの走りはどうなったのか?

 しかし新しくなった4MOTIONの真価はドリフトではなく、実はもう少し奥深いところにある。

 新型トルクスプリッターの制御は、アクセルを踏んで初めて働く。それはブレーキングを終え、ターンインして、ターンミドルからいち早くアクセルを踏み出せることを意味している。

新型4MOTIONは旋回中からアクセルを踏んでいける!

 ゴルフRをサーキットで走らせたのは今回が初めてだが、おそらく第7世代までの4輪制御であれば、プッシュアンダーステアを防ぐために、きちんとクルマの向きが変わるまで“待つ”必要があっただろう。

 しかし新型4MOTIONは、そこで待たずに旋回中からアクセルを踏んでいけるのだ。

 実際ハンドリングコース序盤の連続するS字では、その効果が大きく現れた。ベニーさんはこれを「アジャイル」と表現したが、アクセルを踏み込むほどにクルマが俊敏に、グイグイ曲がっていく。そしてクリッピングポイントからは、アクセルをフラットアウトできる。

レースモードでもサスペンションが跳ねることなくタイヤは路面を捉える

 見事だったのは、このときのフットワークだ。

 筆者は翌日のイベントで豪雨のなかゴルフRを走らせたが、ダンパー減衰力がより高まるレースモードでも、サスペンションが跳ねることなくタイヤは路面を捉えていた。

 アダプティブ・シャシー・コントロール(DCC)は各モードの起点を中心に、状況に応じてその減衰力を微妙に上下させる。またこの減衰力変化や車速、ステア状況、G変化に応じて後輪左右へのトルク配分も調整しているのだが、それを意識させないほど挙動は滑かで自然だった。

 ブレーキ性能も素晴らしかった。絶対的な制動キャパシティの高さはもちろん、フェザータッチ時やリリース時のパッド離れもいい。それは型押しキャリパーとは思えない扱いやすさだった。

4MOTIONの作動状況はメーター内で確認でき、トルクが多くかかっているタイヤほどバーが長く伸びる

 またベニーさんのドライブではローターが真っ赤に焼けるほどコースを攻めてくれたが、助手席に乗る限りその制動力は、最後まで安定していた。357×34mmサイズの大径鋳鉄ローターはピンでアルミハブに連結されており、高温時でもディスクが反りにくいのだろう。19インチホイールは開口部が広いデザインを採用しており、放熱性を高めながら空気の流れもコントロールしているのだという。

 そんな新型ゴルフRのシャシーのキャラクターは、安定したニュートラルステア。

 ブレーキングからのターンインでリアの接地性を下げて旋回状況を作り出し、それをアクセルでバランスさせるといった本格的なレーシングセットではないけれど、だからこそわれわれのようなアマチュアでも安全に、アジャイルな走りを楽しめる。つまりはつまりはターンインでノーズさえきちんと入れば、あとはアクセルコントロールで曲げて、立ち上がればいい。

当日はハッチバックだけでなく、ヴァリアントRにもスラロームコースで試乗できた。その挙動はホイールベースが50mm長く、車重も80kg(ゴルフR Advanceに対しては70kg)重たい分だけ安定志向。当然ゴルフRの方が動きは軽快だったが、トルクベクタリングの効果で旋回性能は高く、ワゴンボディでも実に気持ちよく走れた
ちなみにトルクベクタリングのセッティングは、ヴァリアント用に少しだけ微調整が施されている。またニュルではロングルーフのおかげで空気抵抗が少なく、ハッチバックよりもトップスピードが伸びる(普通に走らせれば燃費もよくなるだろう)。そしてロングホイールベースのおかげで、高速コーナーはヴァリアントの方が速い。よってトータルのラップタイムは、3ドアハッチと変わらなかったのだそう

 この2.0リッターターボは低負荷時にタービンが一定の回転数を維持し続け、レースモードではコースティング時でもスロットルを敢えて閉じずにブーストを確保してくれるのだが、あまりに踏めるおかげでもっとレスポンスが欲しくなった。ゴルフRの0-100km/h加速は4.6秒と、スーパースポーツたちに比べれば決して目を見張るような速さではない。つまりその速さを作り出すのは、踏めるシャシーだ。

 筆者は新型ゴルフRを一般公道で試していないが、コンフォートモードのしなやかな乗り味や、そのタイヤ選択(ポテンザ S005)からしてもこのクルマが、サーキット一辺倒のカタブツではないと分かる。そして開発陣もこのゴルフRが、ファミリーユーズをも想定したバーサタイル(多目的)な高性能コンパクトカーだと述べている。

ハンドリングコースではゴルフGTIとの比較試乗も行なった。同じ直列4気筒ターボ「EA888」を搭載しながら、前輪駆動となるGTIはその出力が265PS/370Nmに抑えられている。当然その分だけ絶対的なパワー感やスピードは大人しいけれど、より軽い車重(1430kg)としなやかな足まわりのおかげで、コーナーのアプローチにヒラリ感があって楽しい。ロードマップだと次期型は電動化される予定だから、この軽やかさを手に入れるならいまのうちだ

 確かにゴルフRを手にするユーザーの数は、この日本だと1000人強と決して多くはない。しかしこれが2000人に増えてもおかしくないほどの性能を持っているということは、筆者が保証しよう。

 新世代のゴルフRは、とても魅力的だ。

ゴルフRは電動化される前に味わっておきたい1台といえるだろう
【フォルクスワーゲン】ゴルフR/ゴルフRヴァリアント試乗(ドライバー山田弘樹氏)1分32秒
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:堤晋一