試乗記
新型「ゴルフR」「ゴルフRヴァリアント」にクローズドコースで試乗 進化した4輪制御システム「4MOTION」は理屈抜きに楽しい!
2025年5月30日 12:57
世界各地で開催されているフォルクスワーゲン「Rトラック・デイ」。その日本版となる「Thrilling R(スリリング・アール)」が、千葉県木更津市にあるポルシェ・エクスペリエンス・センター 東京(PEC東京)で開催された。
そしてこのイベントに先駆けたメディア向け試乗会において、最新のゴルフRをテストできた。
さてゴルフRといえば、ゴルフシリーズにおける最もハイパフォーマンスなモデルであり、フォルクスワーゲンRシリーズのイメージリーダーだ。
ただしその価格は1番ベーシックな3ドアハッチバックで704万9000円と、“ゴルフ”として考えれば、かなり高額になってしまった。
こうした価格高騰の背景には純粋なパフォーマンスレベルの向上だけでなく、原材料費の高騰や日本の為替が、トリプルパンチで影響している。本来の感覚でいえば2.0リッターターボの4WDマシンとして、シビック タイプRやGRヤリスよりも少し高いくらい、600万円程度で手に入れられるのが理想的だ。
とはいえGRカローラ「RZ」の最上級仕様が598万円ということを考えれば、フォルクスワーゲンはがんばってくれている。そしてポルシェ ケイマン(948万円~)やBMW M2クーペ(1018万円~)といったハイパフォーマンスなスポーツカーたちがさらなる高騰を見せる現状を顧みると、ゴルフRのコストパフォーマンスは世界的に評価され始めている。
特に2023年に登場した第8世代のゴルフRは、グローバルで3万2543台を販売した。もちろんそれは、過去最高記録だ。
さらに昨年は、3万台を売り上げた。その内訳は、ドイツ本国が7981台でトップ。これに北米(4189台)、カナダ(4069台)、オーストラリア(3834台)、イギリス(2817台)と続き、なんと日本は6位で1014台を記録している。
ということで今回は、ベースモデルであるゴルフのマイナーチェンジと共に最新世代となったゴルフRの実力を、クローズドコースで確かめてみた。
新型ゴルフRは、2020年に登場した8世代の「ゴルフ8 R」のフェイスリフトモデルで、フロントフェイスやインフォテインメントのアップデートぶりからも分かる通り、俗にいう8.5世代のゴルフRだ。
マイナーチェンジ仕様ということからも、主要アーキテクチャは、第8世代を踏襲している。エンジンは2.0リッターの排気量を持つ直列4気筒ターボ「EA888」。そのパフォーマンスとしては、ゴルフR 8.0で登場した「R 20 Years(20周年記念車)」と同じ最高出力333PS/5600-6500rpmと、最大トルク420Nm/2100-6500rpmが与えられている。
そしてこのパワー&トルクは、フォルクスワーゲンが長らく使い続けるハルデックスカップリングの4WDによって、4輪へと伝えられる。
8.5世代目のゴルフRのハイライトは、まさにこの「4MOTION」の制御にある。
FWDをベースとするこの4WDシステムは、フロントで100~50%まで、リアでは0~50%の間で状況に応じてトルクを可変。そしてこれをレースモードに入れると、前後のトルク配分が50:50となる。
ポイントはここからで、後輪に分配された50%トルクは、ディファレンシャルギア脇の湿式多板クラッチによって、さらに0~50%の間で左右に振り分けることが可能となった。
ちなみにアウディ RS3も「RSトルクスプリッター」として同様のシステムを採用しているが、開発はフォルクスワーゲンのRチームが行ない、これを供給したのだという。
開発ドライバーでありレーシングドライバーのベニー・ロイヒターさんいわく、このトルクベクタリング以外は全て同じ仕様のゴルフRでニュルブルクリンク(ノルドシュライフェ旧コース)を走り比べたところ、そのタイムは12秒短縮されたという。ノルドシュライフェは約20.832kmだから、単純計算だが1kmあたり約0.6秒の短縮だ。
いざ最新のゴルフRを試乗
当日はそんな進化型4MOTIONの制御を確かめるために、3つのメニューが用意されていた。なかでも抜群に楽しかったのは、スキッドパッドだ。
セットアップとしてはまず、車両設定からESCをオフに。そして車両制御は「カスタム」モードから、ドライビングダイナミクスで「レース」モードの選択を勧められた。こうすることでレブリミット付近まで回転が上がっても、シフトが固定されトルク抜けを防げるからだ。
新型ゴルフRは見事に、アクセルオンでオーバーステアに転じた。これまでなら最大でも25%しか配分されなかったトルクを多板クラッチで制御し、内輪側を減らして外輪により多く伝えることで、ドリフトアングルを作り出したのだ。これはLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)の制御と似ているが、空転するタイヤを止めるのではなく、トルクそのものを制御する分だけ新型4MOTIONの方がロスは少なそうだ。
実際の4WDのドリフトコントロールは少し難しかったが、これまで徹頭徹尾安定志向だったゴルフRに、コントロールする喜びが与えられたことは革命的だった。カウンターをあて、進ませたい方向にステアを戻し、クルマを操るドライビングは、理屈抜きに楽しい!
ちなみに第8世代からこのシステムは投入されているが、ゴルフR 8.5になってさらにその制御は洗練されているのだという。
進化した4MOTIONでゴルフRの走りはどうなったのか?
しかし新しくなった4MOTIONの真価はドリフトではなく、実はもう少し奥深いところにある。
新型トルクスプリッターの制御は、アクセルを踏んで初めて働く。それはブレーキングを終え、ターンインして、ターンミドルからいち早くアクセルを踏み出せることを意味している。
ゴルフRをサーキットで走らせたのは今回が初めてだが、おそらく第7世代までの4輪制御であれば、プッシュアンダーステアを防ぐために、きちんとクルマの向きが変わるまで“待つ”必要があっただろう。
しかし新型4MOTIONは、そこで待たずに旋回中からアクセルを踏んでいけるのだ。
実際ハンドリングコース序盤の連続するS字では、その効果が大きく現れた。ベニーさんはこれを「アジャイル」と表現したが、アクセルを踏み込むほどにクルマが俊敏に、グイグイ曲がっていく。そしてクリッピングポイントからは、アクセルをフラットアウトできる。
見事だったのは、このときのフットワークだ。
筆者は翌日のイベントで豪雨のなかゴルフRを走らせたが、ダンパー減衰力がより高まるレースモードでも、サスペンションが跳ねることなくタイヤは路面を捉えていた。
アダプティブ・シャシー・コントロール(DCC)は各モードの起点を中心に、状況に応じてその減衰力を微妙に上下させる。またこの減衰力変化や車速、ステア状況、G変化に応じて後輪左右へのトルク配分も調整しているのだが、それを意識させないほど挙動は滑かで自然だった。
ブレーキ性能も素晴らしかった。絶対的な制動キャパシティの高さはもちろん、フェザータッチ時やリリース時のパッド離れもいい。それは型押しキャリパーとは思えない扱いやすさだった。
またベニーさんのドライブではローターが真っ赤に焼けるほどコースを攻めてくれたが、助手席に乗る限りその制動力は、最後まで安定していた。357×34mmサイズの大径鋳鉄ローターはピンでアルミハブに連結されており、高温時でもディスクが反りにくいのだろう。19インチホイールは開口部が広いデザインを採用しており、放熱性を高めながら空気の流れもコントロールしているのだという。
そんな新型ゴルフRのシャシーのキャラクターは、安定したニュートラルステア。
ブレーキングからのターンインでリアの接地性を下げて旋回状況を作り出し、それをアクセルでバランスさせるといった本格的なレーシングセットではないけれど、だからこそわれわれのようなアマチュアでも安全に、アジャイルな走りを楽しめる。つまりはつまりはターンインでノーズさえきちんと入れば、あとはアクセルコントロールで曲げて、立ち上がればいい。
この2.0リッターターボは低負荷時にタービンが一定の回転数を維持し続け、レースモードではコースティング時でもスロットルを敢えて閉じずにブーストを確保してくれるのだが、あまりに踏めるおかげでもっとレスポンスが欲しくなった。ゴルフRの0-100km/h加速は4.6秒と、スーパースポーツたちに比べれば決して目を見張るような速さではない。つまりその速さを作り出すのは、踏めるシャシーだ。
筆者は新型ゴルフRを一般公道で試していないが、コンフォートモードのしなやかな乗り味や、そのタイヤ選択(ポテンザ S005)からしてもこのクルマが、サーキット一辺倒のカタブツではないと分かる。そして開発陣もこのゴルフRが、ファミリーユーズをも想定したバーサタイル(多目的)な高性能コンパクトカーだと述べている。
確かにゴルフRを手にするユーザーの数は、この日本だと1000人強と決して多くはない。しかしこれが2000人に増えてもおかしくないほどの性能を持っているということは、筆者が保証しよう。
新世代のゴルフRは、とても魅力的だ。