インプレッション

スバル「XV」(2015年モデル公道試乗)

 スバル(富士重工業)はそれほど多くのプラットフォームを持っていないが、効率的に活用してそれぞれ特徴あるモデルをラインアップしている。

 他社からのOEM車を除いて、スバルにとっての自社生産となるエントリーモデルは「インプレッサ」。インプレッサそのものはモデル末期で次期モデルの噂もチラホラと聞こえてくるが、派生車種となるクロスオーバーの「XV」は人気が高く、まだまだ継続される。ただ、そのまま生産を継続するというだけではなく、さらにブラッシュアップされての提供だ。

 XVのコンセプトは「スポーティ&カジュアル」。2015年10月の大幅改良では、そのコンセプトに合わせてヘッドライトやバンパー形状など、フロントマスクを力強く安定感のある意匠に変更した。また。コンべ(純ガソリン)エンジン車の17インチホイールもデザイン変更を行なっている。

 インテリアはシンプルなデザインだったが、ピアノブラック調+メッキフレームのパネルを使用し、コンべモデルのシートにオレンジステッチを入れるなどの変更で、こちらもスポーティに仕上げている。

XV 2.0i-L EyeSight。ボディカラーは新色の「ハイパーブルー」。ボディサイズは4450×1780×1550mm(全長×全幅×全高)でホイールベース2640mm
「アクティブでスポーティなモチーフ」を採用してデザイン変更されたコンべモデル専用の17インチアルミホイール
最高出力110kW(150PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpmを発生する自然吸気の水平対向4気筒DOHC 2.0リッター「FB20」エンジン。JC08モード燃費は基本的に16.2km/Lだが、試乗車はサンルーフやサンルーフ、SDナビゲーションなどのオプション装着で車両重量が1450kgに増加しているため、JC08モード燃費は16.0km/Lとなる
オプション設定されている「ブラックレザーセレクション」の本革シート。10月の大幅改良でオレンジのステッチを採用。セットオプションとしてフロントシートにシートヒーターが設定されている

 また、スバル独自の予防安全装備で前方を検知するアイサイトに加えて、アドバンスドセイフティパッケージがメーカーオプションで装着できるようになった。1つにはレーダーによる後側方の検知システムで斜め後方の死角を補う「スバルリヤビークルディテクション」、もう1つは夜間にハイビームとロービームを自動的に切り替える「ハイビームアシスト」。さらに助手席側ドアミラーのカメラで車両前方左側がチェックできるようになる「サイドビューモニター」などもセットになる。加えてエアバッグではSRSサイドエアバッグとSRSカーテンエアバッグが全車標準装備となった。これらは最新の安全システムの方向性に則っている。

 実は車体の方は2014年11月のマイナーチェンジで大きく変わっているので、今回の変更幅は小さく、各部のブラッシュアップ程度だ。2014年の改良では、フロントのクロスメンバーの剛性アップやリアのトレーリングブッシュの変更、ショックアブソーバーのダンパー減衰力とフリクション特性の最適化、スプリングバネ定数の変更などで走りと乗り心地のバランスアップを図っていたが、今回の試乗でもそれが再確認された。

XV ハイブリッド 2.0i-L EyeSight。ボディカラーは3万2400円高の「クリスタルホワイト・パール」
タイヤサイズは全車225/55 R17となる
XV ハイブリッドは10月の大幅改良でルーフスポイラーの車両後方側がブラック塗装に変更された
XV ハイブリッドのパワートレーンは、コンべモデルと同スペックの「FB20」エンジンに、最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgm)を発生する「MA1」型モーターを組み合わせる。JC08モード燃費は20.4km/L
XV ハイブリッドのインテリア。ステアリングやシフトセレクターのステッチがシルバーとなり、メーター照明がブルーの常時発光タイプとなる
右側ステアリングスポークに全車速追従機能付クルーズコントロールやSI-DRIVEなどの操作スイッチを設定。ダッシュボード右側のプッシュスタートのボタンと並んで、HIDロービームランプのレベライザーダイヤル、VDC(ビークルダイナミクスコントロール)のOFFスイッチなどをレイアウト
XV ハイブリッド 2.0i-L EyeSightはシルバーのウルトラスエード/トリコットシートを標準装備。そのほかのグレードではブラックのファブリック/トリコットシートを採用する
インパネ中央にあるマルチファンクションディスプレイは、大型カラー液晶画面にVDCの作動状態やハイブリッドシステムのエネルギーフロー、瞬間燃費、燃料節約時間、メンテナンス情報など多彩な項目を表示できる

使い勝手はセダン、実力はSUV。カジュアルで使い易いクロスオーバー

 試乗ではXV コンべモデルのハンドリングのチェックをした。XVはクロスオーバーと名乗るだけに車高を上げて、最低地上高は200mmもある。普通は重心高が上がるとロールなどは大きくなるが、XVではスバルならではの水平対向エンジンで基本的な重心高が低く、コーナリングでもロールはそれほど大きく感じない。2014年の改良でさらにバランスがよくなって、急な姿勢変化が減少して自然で好ましいロール特性になっている。さらにピッチング方向の動きも抑えられており、アクセルのON/OFFでバタバタしない。軽快なハンドリングはインプレッサ譲りで、オンロードをフットワークよく走り抜ける。漠然とハンドルを握っているとスポーティハッチバックのインプレッサと区別がつかないだろう。ただ、前後ともシート材質が滑りやすく、腰の座りがもう少しほしいところだ。

 市街地でのフットワークは、アイポイントが高い分もあり周囲の視認性がよく、こちらも使い易い大きなポイントだ。ステアリングギヤレシオが15.5:1から14.0:1に早くなっていることも市街地のイージーな運転に貢献している。ちなみにボディサイズは全長4450mm、全幅1780mmと日本の道で使い易いサイズで、高めとはいえ1550mmという全高は大部分の立体駐車場の高さ制限に合致する。これもユーザー本位で嬉しい配慮だ。

 乗り心地は大きな突起乗り越しなどのシーンではバンプストロークがもう少しほしいところだが、通常の路面ではまずフラットな上下動に満足できるだろう。舗装の荒れた路面ではショックをよく吸収してくれる。

 静粛性は前回のマイナーチェンジでドアガラスの板厚アップを図り、吸音材も増やしていることからレベルは上がっている。このカテゴリーのクルマは遮蔽板のないラゲッジスペースからのノイズ侵入が大きいが、XVでは相対的にリアからのノイズが大きいものの、キャビンの会話を煩わせるほどではなく、十分に許容レベルだ。

 また、強くアクセルを踏む加速時のエンジンノイズはやや大きく、このクラスの平均的なレベル+αだ。音の質はもう少し改善してほしい。しかし、CVTのリニアトロニックトランスミッションは振動やノイズも抑えられており、エンジンとのトータルの振動騒音はよく抑えられている。

 2.0リッターの自然吸気エンジンは150PSとそれほど大きな馬力は出さない。トルクも196Nmとターボのようなパンチ力のあるものではないが、レギュラーガソリンが使え、自然吸気エンジンらしいストレートな回転フィールを持つ。重量はAWDとしては軽い1.4t前後なので、馬力荷重は9.3㎏/PS程度でガツンとした加速力はない。最終減速比を落としたいところだが、燃費との兼ね合いを考えると妥当なところだろう。もちろん、日常的な使い方では必要十分な動力性能を持っている。

 アイサイト ver.3+アドバンスドセイフティパッケージでXVの死角はさらに少なくなり、安全性への関心が高まっている現在では大きな魅力になる。使い勝手はセダン、実力はSUV。確かにカジュアルで使い易いクロスオーバーであるXVの存在価値は大きい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一