インプレッション

マセラティ「ギブリ」

 決してメジャーとは言えないものの、それがイタリアの作品であるという点も含め、ネーミング自体にもどこかミステリアスで、かつエキゾチックな香りが漂うのがマセラティというブランド。そんなマセラティから2013年にローンチされた4ドアセダンが、旧くは1960年代のスポーツカーにも用いられた、このブランドにとっては由緒ある名前の「ギブリ」シリーズだ。

 マセラティにとって、歴史上で初となるEセグメントに属するミドルセダン――そのように紹介される戦略モデルでもあるギブリの、「さすがはこのブランドの作品ならではの真骨頂!」とまず実感させられる部分は、ズバリそのエクステリアデザインにある。

 リアシートに腰を降ろすと左右ウィンドウの倒れ込みがかなり強く、独立したトランクルームも高さ方向の寸法が小さめ。結果、セダンとしては幾ばくかの制約も伴いはするものの、それでもフル4シーターと認めるに足るパッケージングを実現の上で、ここまでスタイリッシュな表現がなされているのは特筆もの。昨今流行の4ドアクーペ風味も香る流麗さというだけでなく、むしろ“妖艶”という表現すら使いたくなる仕上がりが、このブランドの作品ならではだ。

V型6気筒 3.0リッター直噴ツインターボエンジンにZF製8速ATを組み合わせるミドルサイズスポーツセダン「ギブリ」。車名はイタリア語で「アフリカ北部で吹くサハラ砂漠からの熱く乾いた風」を表す。ボディサイズは4970×1945×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース3000mm。車両重量は1950kg。価格は915万円
4ドアセダンでありながらクーペ然としたエクステリアでは、マセラティの象徴的なグリルが目を引くほか、LEDヘッドライトユニットに備わるLEDのシグネチャーが個性を主張する。アルミホイールはオプション設定の19インチを装着し、タイヤサイズはフロント245/45 ZR19、リア275/40 ZR19

 インテリアへと目を向けた際の第一印象も期待を裏切らない。正直なところ、細部の仕上げにまで目を配ると、例えば樹脂部分の質感などにはプレミアム・ブランドのモデルとしてはちょっと物足りなさを覚える部分も皆無ではない。サッシュレス・ドアの持ち主ゆえ、ガラス部分の保持が甘めになることもあってか、ドア閉じの際の音にもあと一歩の重厚感がほしくなる。

 けれども、幾ばくかのオプションを採用して標準状態よりもさらにゴージャスさを増したテスト車のインテリアは、こちらもまた“妖艶”という2文字を使いたくなる見栄えを実現。その上で大きな2眼式のアナログメーターや、ツインコクピットタイプのダッシュボードの造形、高いセンターコンソールなどが、強いスポーティさを色濃く醸し出している。

インテリアカラーは「ロッソ トロフェオ」。「ダブル・コックピット・レイアウト」と呼ばれる、運転席と助手席を独立させた専用デザインのダッシュボードを採用するほか、ダッシュボード中央にはトライデントエンブレム入りのアナログ時計を装備。トランク容量は500Lとアナウンスされている

 現在、日本で展開されるギブリのバリエーションは、提携関係にあるフェラーリのマラネロ工場で生産される最高出力330PSを発する3.0リッターのツインターボ付きV6エンジンを搭載する、グレード名の付かないベースモデル。同ユニットをベースに、より高度なチューニングが施された410PSを発する心臓を搭載する「S」グレード。そして、同エンジンが発した出力を4輪へと分散する電子制御式の4WDシステムを搭載した「S Q4」グレードという3タイプ。

 その中から今回テストドライブを行なったのは、単に「ギブリ」と呼ばれるベースグレード。ちなみにそれは、現在の全マセラティ・ラインアップの中にあって、唯一1000万円を大きく下回る価格が与えられた1台でもある。昨今耳にする日本での好調なセールスの要因が、この戦略的なグレードを筆頭としたギブリシリーズの導入にあるのは容易に想像できる事柄だ。

V型6気筒 3.0リッター直噴ツインターボエンジンは最高出力243kW(330PS)/4750rpm、最大トルク500Nm/1600-4500rpmを発生。最高速は263km/h、0-100km/h加速は5.6秒。JC08モード燃費は7.6km/L

 フラグシップセダンの「クワトロポルテ」に対して、弟分的な印象も強いギブリ。確かに全長は300mmほど短いものの、全幅や全高は同等だ。ちなみに“コンパクト”とは言っても、その全長はあとわずかに30mmで5mに達する大きさ。それでも、実際に目前にしてもさほどのボリューム感を抱かせないのは、各部が強く絞り込まれ、抑揚に富んだスタイリングの成せる技なのだ。

 前出3タイプのバージョンの中では最もアンダーパワーではあるものの、それでも300PSを大きく超える最高出力はやはり伊達ではない。というよりも、街乗りから有難いのは、わずか1600rpmから発せられる500Nmという大トルクの方。これが、ワイドな変速レンジとクロスレシオを売り物とし、駆動力の伝達感もタイトな8速ATによって効率よく引き出されるので、日常シーンでも「すこぶる俊足なセダン」というのが実感になるのだ。

 道行く人を思わず振り返らせるほどに、派手で華やかなサウンドを振り撒くのが、8気筒エンジン搭載のマセラティ各車。一方、V6ツインターボエンジン搭載のギブリでは、街乗りシーンでは低音がメインとなるなど、サウンドの演出はやや控えめだ。

 それでも、6気筒エンジン車としては「音はかなり頑張ったナ」と認められるのがこのモデル。ちなみに、そんななかなか“イイ音”を聞かせてくれるこの心臓は、レッドゾーン目がけて高回転域までストレスなく回る。そんな軽やかな回転フィールに、いかにもフリクションの小ささがイメージできるあたりは、「なるほど最新設計のエンジンだな」と思わせる部分。

 一方、何ともスタイリッシュな“八頭身美人”のギブリでちょっと物足りないのは、シャシーの仕上がりがやや凡庸であることだ。

 テスト車は、標準よりもファットで大径なフロント245、リア275サイズの19インチ・シューズを装着していたが、街乗りシーンでの快適性はわるくない。バネ下の動きも想像以上に軽やかだ。

 けれども、ボディ剛性感はやや物足りず、わずかな轍路面に対してもステアリングがとられがちとなるワンダリング性の低さもちょっと残念だ。ブレンボ製のブレーキはしっかりした効き味を提供してくれるものの、世界に名だたるプレミアムセダンとしては、全般によりタフネスに富んだシャシーの仕上がりを実感させて欲しいと望みたくなってしまう。

 かくして、純粋なドライバーズカーとしての視点から見ると、正直なところ幾ばくかの不満も残るところ。けれども、とにもかくにもスタイリッシュで、希少性に富んだ4ドアのプレミアムモデルに興味があるとなった時、俄然その存在感が増してきそうな1台がこのギブリシリーズでもあるのだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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Photo:堤晋一