インプレッション

ジャガー「Fタイプ R AWD クーペ」(2016年モデル)

トップパフォーマンスモデルの4WD

 世に出て間もないころに、このクルマを初めてドライブしたときの衝撃をやや興奮気味にお伝えしたことを記憶している。それもまだそう遠い昔の話ではないが、以降もこのクルマに触れる機会があるたびにワクワクする思いだった。

 2013年5月からコンバーチブルが、2014年1月からクーペが日本に導入されている「Fタイプ」。なにせこのスタイリング、ドライブしていると周囲からの熱い視線を感じっぱなし。やはりそれだけ“華”のあるクルマということなのだろう。そしてドライブフィールも本当にエキサイティングだ。乗るほどにジャガーの底力を思い知らされたような気がする。

 そんなFタイプの2016年モデルには、新たに4WD車と6速MT搭載車がラインアップに加わった。4WDの「Fタイプ R AWD クーペ」はトップパフォーマンスモデルとして位置づけられており、価格もクーペの中でもっとも高く、2WDに対して約70万円高い1443万円となる。

今回試乗したのはグレイシャー・ホワイトカラーの「Fタイプ R AWD クーペ」。ボディサイズは4470×1925×1315mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2620mm。価格は同エンジンを搭載する2WD車の「Fタイプ R クーペ」から約70万円高の1443万円。試乗車は従来のアルミニウムルーフより20%の軽量化を実現するオプション設定のカーボンファイバールーフ(30万9000円)を装備
足下はグレーフィニッシュの20インチホイール(タイヤサイズはフロント255/35 ZR20、リア295/30 ZR20)を装着。その奥にオプション設定の「カーボンセラミックブレーキパック2」(130万1000円)がのぞく

 ジャガーが開発した「IDD(インテリジェント・ドライブライン・ダイナミクス)」と呼ぶ4WDシステムは、セントラル・トランスファーボックス・クラッチとフロントデフで構成される。IDDはヨーセンサーとAWDのECUが連動しており、通常の運転状況下では後輪に最大100%まで、システムがオーバーステアやアンダーステアを感知すると即座にパワーを自動的に配分し、前後輪に適切なトルク配分を行ない、トラクションの回復と車両コントロールの維持を図るというものだ。

 スーパーチャージャー付きのV型8気筒5.0リッターエンジンは、最高出力550PS、最大トルク680Nmものスペックを誇り、0-100km/h加速は4.1秒をマークしているというから楽しみだ。

V型8気筒5.0リッタースーパーチャージドエンジンは最高出力405kW(550PS)/6500rpm、最大トルク680Nm/3500rpmを発生
センターコンソールはダークテクニカルアルミニウム(Rグラフィック)、シートカラーはジェット・レッドゾーン。そのほかオプション設定となるエクステンテドレザーパック+プレミアムレザーインテリア(31万4000円)、レッドカラーのカラーシートベルト(3万6000円)などを装備

安定した中で刺激的な走りが楽しめる

 いざドライブすると、派手なエキゾーストサウンドとともに、パンチの効いた強烈な加速を味わわせてくれるV8 5.0リッターエンジンはやはり圧倒的だった。AWDになったことでより瞬発力が増している。

 フットワークも、2WDモデルではやや挙動が乱れがちなところもあるのに対し、攻め気味に走っても安定した中で刺激的な走りを楽しむことができる。一方で、4WDでは気になるアンダーステアが強い印象もまったくない。2WD(FR)のFタイプと同じようにキビキビと曲がる。システムが駆動力配分を最適に制御してアンダーステアを抑えているのだろう。

 思えば最近では世の高性能スポーツカーの多くに4WDが設定されている中で、ジャガーはなかなか導入しなかった。むろんいろいろ事情はあったことだろうが、ここにきて採用したのは、やはり必要かどうかというよりも、あったほうがよいという判断があったからに違いない。Fタイプから用いられた新世代のプラットフォームも、それを見越したものだ。

 このクルマも、限界域でも高いスタビリティに守られた中で攻めて楽しめるのは4WDなればこそ。やはり高性能をより不安に感じることなく楽しむための手段として、エンジン性能が高くなるほど4WD化は有効で、得られるものは大きいといえる。

 4WD化と併せてフットワークも強化されていて、乗り心地はやや硬め。Fタイプにおけるトップモデルとしてのパフォーマンスを与えようとしたことをうかがわせる引き締まった足まわりは、姿勢変化が小さく、より俊敏なハンドリングを実現している。

 また、2016年モデルでは全クーペモデルにおいてカーボンファイバー・ルーフが選択できるようになるなどオプションの充実も図られており、それによるルーフ軽量化もこの走りに寄与していることに違いない。

待望のMTがついに設定

「Fタイプ S クーペ」の6速MTモデル

 2016年モデルでは、「Fタイプ S クーペ」に6速MTモデルが追加されたのも大きなニュース。これを待ち望んでいた人も少なくないことだろう。価格は1078万円で、こちらはV型6気筒3.0リッタースーパーチャージドエンジンのみとの組み合わせとなる。

 最高出力280kW(380PS)/6500rpm、最大トルク460Nm/3500-5000rpmと、むろんスペックも十分に高いが、前記のR クーペ AWDのように走りを極めたという位置づけではなく、Hパターンの3ペダルMTに乗りたい人向けに設定されたといえる。

 MTに乗りたいという声は周囲でもよく耳にするものの、販売の絶対数としてはそれほど多くはないため、もともと本国に設定があっても日本に導入するメーカーというのは少ない。同等の価格帯でパッと思い浮かぶのはコルベットやポルシェぐらい。ところが最近ではフォルクスワーゲンのGTIなど、輸入スポーティモデルでもMTの導入例がいくつか見受けられるようになり、ついにジャガーでも選べるようになった。

 シフトフィールはすこぶるよい。節度感が高く、ガシッとした剛性感があって好印象で、MTを操ること自体がドライビングプレジャーとなる。こちらも動力性能はかなりのもので、それをよりダイレクトに味わうことができるのもうれしい。

 運転しやすいよう、スロットル特性もMTに合わせて最適化されており、ノーマルモードでは街乗り向けにややゲインを控えめにして扱いやすくしている一方で、ダイナミックモードを選択するとアクセルレスポンスが俊敏になり、パワー感も増す。

 エキゾーストサウンドも任意に選択できて、MTを操る楽しさを聴覚的にも高めている。むろんATの完成度も文句なく高いのだが、自分が操作したとおりにクルマが反応してくれる感覚というのは、やはりMTに勝るものなしだ。

 筆者にとって、もともと個人的にもジャガーが手がけたピュアスポーツのFタイプはかなりお気に入りの1台だったわけだが、こうして2016年モデルに新たに2つの魅力が加わったことを、大いに歓迎したいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一