試乗記

ボルボのバッテリEV「EX30」が大幅アップデート! 復活した伝統の「クロスカントリー」の乗り味はいかに?

2025年8月21日 発売
479万円~649万円
ボルボのバッテリEV「EX30」が大幅アップデートを行ない伝統の「クロスカントリー」グレードが復活した

伝統の名称“クロスカントリー”がBEVで復活

 ボルボにとって史上最小のSUVであるバッテリEVモデル、EX30がシリーズの拡充を行なった。これまではリア駆動のシングルモーター仕様でパノラマルーフなどの豪華装備を与えたモデル「EX30 Ultra Single motor Extended range(579万円)」のみで勝負してきたが、そこからパノラマルーフなどを省いたモデル「EX30 Plus Single motor Extended range(539万円)」、LFP(リン酸鉄リチウムイオンバッテリ)を採用することでリーズナブルに抑えたリア駆動シングルモーター仕様「EX30 Plus Single motor(479万円)」、そしてフロントにもモーターを備えた四輪駆動仕様「EX30 Ultra Twin motor Performance(629万円)」を準備した。

 だが、それだけでは終わらず、なんとカッコからシャシーに至るまであらゆる変更を行ない、ツインモーター化した「EX30 クロスカントリー Ultra Twin Motor Performance(649万円)」が加わったのだ。V70に端を発した伝統の名称“クロスカントリー”の復活である。今回はこれまでとは違うエクステリアに生まれ変わった、そのクロスカントリーの試乗を行なう。

EX30 クロスカントリー Ultra Twin Motor Performance。試乗車のボディカラーはヴェイパーグレーメタリック。ベース価格649万円に、ドライブレーコーダー(スタンダード)とUV/IRカットフィルム施工がオプションで追加され671万2750円
ボディサイズは4235×1850×1565mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mm、車重は1880kg。最小回転半径は5.5m。フロントシールドと同じくリアのテールランプの間もブラック仕上げとなる
クロスカントリー専用のフロントシールドは、スカンディナヴィア山脈北部にあるスウェーデンの最高峰「ケブネカイセ山」周囲の標高線をトポグラフィーで描かれるとともに座標(67°54'0"N,18°31'0"E)も刻まれた。バンパー下部はヴェイパーグレー仕様となる
クロスカントリー専用の19インチホイール(7.5J)は、5スポークでカラーはマットグラファイト/マットブラック。装着タイヤはグッドイヤーの「エフィシェントグリップ パフォーマンス SUV」でサイズは前後とも235/50R19

 まずコンパクトさをうたっていたEX30なだけに、サイズがどのように変化したのかは気になるところだ。クロスカントリー以外のEX30のボディは、アーバンSUVとしての世界を突き詰め、さらに日本の市場も睨んでサイズを決定してきた。

 結果として全長×全幅×全高は4235×1835×1550mm。最後の全高の数値を見てピンと来る方も多いだろうが、つまりは都市部にあるタワーパーキングにしっかりと対応する数値に合わせ込んでいるのだ。

Cピラーと専用リアバンパーの下部に「CROSS COUNTRY」の文字が配される
フロンク(フロント+トランク)は充電ケーブルの収納にピッタリ。充電ポートは左後部に配置
リアにはツインモーターの証となる「TWIN PERFORMANCE」のエンブレムがあしらわれる

 対してクロスカントリーは、そのしがらみからは外れたところにいる。ボディサイズは4235×1850×1565mm(全長×全幅×全高)。ブラックアウトされたオーバーフェンダーやタイヤ外径を引き上げたことで、全幅も全高も共に15mm拡大した。

 ちなみに最低地上高はベースモデルの20mmアップとなる195mmを確保している。まあ、これでも近年のタワーパーキングであれば対応しているところも多くなってきたから、許せる範囲内といったところかもしれない。このサイズアップに加え、マットブラックが随所に散りばめられ、いかにも悪路を走れそうな雰囲気が漂っている。

水平基調で視界の開けたインテリア
ステアリングの上にDMC(ドライバー・モニタリング・カメラ)を搭載し 注意力散漫や疲労度を検知して警告する「ドライバーアラートコントロール」機能を有する
ダッシュパネルは亜麻を織ったスタイリッシュな装飾で、インテリアに自然で温かみのあるスカンジナビアの雰囲気をもたらす「Flax decor」仕様
ダッシュボードの中央には12.3インチのセンタースクリーンが配置されている
アクセルOFFで回生ブレーキを行なうワンペダルドライブは、強めの「高」、弱めの「低」のほか、コースティング(惰性で走行)する「OFF」も備える

 一方でシャシーもまたきちんと改められている。すなわち、見た目だけじゃなく、荒れた路面でも受け止めようという姿勢が感じられる仕上がりのようだ。ベース車両と比べるとスプリングは27N/mmから25N/mmへ、リアは99N/mmから86N/mmへ。リアのアンチロールバーもφ21mmからφ20.5mmへとダウン。これらに合わせてダンパーやEPSの再チューニングを行なっているそうだ。

インテリアカラーは、自然素材とリサイクル材とバイオ素材を融合した「パイン」で、スカンジナビアの森の常緑樹の松やモミの葉からインスピレーションを得た色彩となっている
ハーマン・カードンのオーディオシステムは全車標準装備
シートはウール30%とリサイクル・ポリエステルを70%使用したテイラード・ウールブレンド。フロントシートのクッションのデザインを変更し、シートの座り心地を改善している
後席は6:4の可倒式。5人乗車でも318Lのラゲッジスペース容量を確保
下段に61Lのアンダーフロアストレージを搭載
パノラマガラスルーフは「クロスカントリー」と「ウルトラ」は標準装備となる

コンパクトSUVではなかなか味わえないゆったりとした感覚

 ツインモーターとなるパワートレーンは、フロントモーター115kW(156HP)/200Nmと、リアモーター200kW(272HP)/343Nmを搭載。バッテリは69kWhのNMC(ニッケルマンガンコバルト)を組み合わせた三元系リチウムイオンバッテリを採用。航続可能距離は500kmを確保する一方で、0-100km/h加速は3.7秒を記録するほどの俊足ぶりである。

たった20mmの車高の違いだがサスペンションが専用品となっているため、走りの違いははっきりと感じられる

 そんなクロスカントリーを走らせてみると、これまでよりもちょっと目線が高くなったことで、よりSUV感覚を味わえることだった。乗降性が悪化するほど高いわけじゃないが、違いははっきりと感じられる。

 そしてもっとも違うのは、ゆったりとした乗り味だった。明らかに悪路を狙ったような仕上がりで、今回試乗した首都高速の荒れた路面では、荒れていることすら気にならないほどソフトに変貌していた。

ゆったりとした乗り味で、ホッとする仕上がりだった

 ダラッとフワッと乗れるかつてのボルボらしさが戻ったか!? ベーシックなEX30は引き締められ、俊敏な応答が得られる印象だったから、このキャラクター変化は面白い。内外装の癒される雰囲気とマッチした乗り味は、近年のカチッとしたアーバンSUVのEVに慣れきった身体には、なんだかよきリゾート感覚。ホッとする仕上がりだ。

 車重1880kgと重いのだが、その重さがいい意味で効いている。ゆったりとした感覚は独特。コンパクトSUVではなかなか味わえない世界がそこにある。

さすがツインモーター仕様。フル加速は強烈な加速Gを味わえる

 対して強烈なトルクを生み出すツインモーターを搭載したことは、かなりのインパクトだ。フル加速を行なえば離陸するかの如くリアを沈め、瞬く間に高速域まで連れていってくれるのだ。

 公道ではちょっと持て余すかも、なんていうほど有り余るトルクに驚くばかり。コーナーの脱出では慎重にアクセルをいれるべきだと思わずにはいられない。結果としてユルい足まわりとマッチするのは、トルク特性が穏やかになるレンジモードだった。

トルク特性が穏やかになるレンジモードが筆者は好みだった

 悪路走破性という意味ではこのトルクは武器になるだろうが、オンロードではそこまでいらないというのが正直なところ。いっそシングルモーターのクロスカントリーがあってもいいのでは? そんなことを思うくらいにこのツインモーターの威力はかなりのものだった。俊足好きにはオススメだ。

俊足好きにはオススメの1台である
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一