試乗記

マイチェンした新型「エクストレイル」試乗 基準車、NISMO、AUTECH SPORTS SPECどれを選ぶ?

9月18日発売の新型「エクストレイル」に試乗

グレードは3つも増えた!

 2022年に登場した現行の4代目「エクストレイル」がマイナーチェンジを行なった。エンジンは日産自慢の可変圧縮ターボエンジンを原動力にモーターで駆動するe-POWERを搭載。前後駆動力配分と四輪のブレーキを強調制御し、4つのタイヤのグリップをうまく引き出しながら走るe-4ORCEという四駆システムを搭載していることは基本的に変わりはない。

 だが、エクステリアやインテリアなどは色々と改められた。そもそも現行モデルは「上質」というキーワードを掲げての登場だったが、それがまだまだ足りていないという自覚症状が日産にはあったようだ。そこでエクステリアデザインはまずグリルを改めてグロスブラックでスポーティに。素地色だったバンパー下部やサイドステップ下などもグリルと同色に塗装することで質感を高めている。また、デイライトを搭載して存在感を増したほか、前後のターンランプは電球からLEDへと改めた。

 インテリアはインパネやドアトリムをブラックに変更。クロスシートの質感アップ、さらにはナッパレザーオプションの薄めのタンカラーは廃止となり、濃いめのチェストナットブラウンに改めることで、大人の雰囲気を出した。さらにGoogleを搭載したNissanConnectインフォテインメントシステムを日産国内初採用。クルマの真下を合成映像で見せてくれるインビジブルフードビュー、3Dビュー、フロントワイドビュー地点登録機能(登録された交差点に近づくとワイドビューが立ち上がり死角を減らしてくれる)の追加も日産国内初搭載となる。

 ベースグレードの変更内容はよくあるレベルのものだが、今回のマイナーチェンジはここから先が実はスゴイ。なんとグレードが3つも増えてしまったのである。1つ目が初代&2代目が掲げていたコンセプトでもある「タフギア」をイメージしたアウトドアに振った「ROCK CREEK」。2つ目がプレミアムスポーティのAUTECHに対し、走りの上質感を増した「SPORTS SPEC」を追加。そして最後は速さと高揚感を追求した日産ファンおなじみの「NISMO」が登場するのだ。今回はテストコースにおいてベースモデルに試乗したのちに「NISMO」「AUTECH SPORTS SPEC」と乗り換えていく。

撮影車は「G e-4ORCE」(494万6700円)で、ボディサイズは4690×1840×1720mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2705mm
19インチアルミホイールにハンコック「Ventus S1 Evo3 SUV」(235/55R19)を組み合わせる
インテリアではインストルメントパネル上部のカラーを黒色に変更するとともに、オプションで選択可能なナッパレザー仕様では従来のタン色からより落ち着いた印象を与えるブラウン色に変更。日産として国内初となるGoogle搭載の最新NissanConnectインフォテインメントシステムなどを搭載
発電用の直列3気筒DOHC 1.5リッターターボ「KR15DDT」型エンジン。フロントに搭載する「BM46」型モーターは最高出力150kW(204PS)、最大トルク330Nmを発生。e-4ORCE仕様では後輪に「MM48」型モーターをセットし、最高出力100kW(136PS)、最大トルク195Nmを出す
9月24日に発売される新型「エクストレイル NISMO」。価格は「NISMO e-4ORCE」が541万6400円、「NISMO advanced package e-4ORCE」が596万2000円。NISMOでは全長が4705mmになる
足まわりではショックアブソーバーにカヤバ製Swing Valve(スウィングバルブ)を日産モデルとして初採用するとともに、「アリアNISMO」でも使われるミシュラン「PILOT SPORT EV」(255/45R20)を採用。サスペンションやタイヤの変更に合わせてパワーステアリングにも専用チューニングを加えている
「NISMO専用チューニングRECAROスポーツシート」をオプション設定。パワーリクライニング機構やシートヒーター機能を備える
スポーティグレードの「AUTECH SPORTS SPEC」(590万1500円)。ボディカラーはディープオーシャンブルーとダイヤモンドブラックルーフの2トーン。ボディサイズはNISMOと共通の4705×1840×1720mm(全長×全幅×全高)
エクストレイル「AUTECH SPORTS SPEC」では車体への入力を効果的に減衰させるパフォーマンスダンパーを採用したほかミシュラン「PRIMACY4」と合わせ、サスペンション仕様やパワーステアリング特性をチューニング
インテリアではNMC(日産モータースポーツ&カスタマイズ)開発陣の想いを「TUNED BY NMC」の文字に込め、専用エンブレムとして装着する

基準車、NISMO、AUTECH SPORTS SPECのそれぞれ

いざ試乗

 久々に乗るエクストレイルの走りは改めておもしろいことをやっているなと感じるものだった。モーターでスルスルと動き出し、コースインしてアクセルを踏み込むといよいよ可変圧縮ターボが目覚めてくる。3気筒エンジンながらも雑味が少なく、スムーズでリニアなフィーリングが感じられる。その陰で常用域は高圧縮比低回転で動かしたのちに、加速時には低圧縮比ハイブーストで走る、なんて芸当をやっているにも関わらず、である。「優雅に泳ぐ白鳥も水面下では激しく足を動かしている」という言葉が思わず頭に浮かんでくる(実際のところ白鳥が水面下で足を激しく動かしているのかは知らないのですが(笑)。

 シャシーはタウンスピードからしなやか、というかユルい仕上がり。ペースを上げていくとコーナリングでロールスピードが速く、ペタンと倒れ込んでしまうようなところもある。それでもe-4ORCEによってうまく曲げてくれるあたりが独特だし、普通に使う分にはまったくもって問題はないのだが、やや質感が欠けているかなと思えるのもまた事実である。

3気筒エンジンは雑味が少なく、スムーズでリニアなフィーリングが感じられた

 おそらくそんな世界を改めたかったのだろう。「AUTECH SPORTS SPEC」と「NISMO」は足まわりについては共通とし、カヤバ製のスウィングバルブ付きのショックアブソーバーに改めている。これは極微低速作動域(ピストン速度2mm/s以下)の減衰力を伸縮独立してコントロールできるというもの。動き出しのところから減衰力を発生させることで動きを早めに収められるため、シワの寄ったような路面の吸収などに優れるとのこと。

 また、はじめに動きを収められるので、メインバルブが受け持つハイスピード領域において減衰力を高める必要が減り、結果としてしなやかさが得られるそうだ。バネレートは基準車に対してフロント6%、リア22%引き上げている。これに合わせてショックアブソーバーの減衰力も改められ、基準車に対してフロントはやや引き締め、リアは逆に緩めてあるらしい。

気分はホットハッチ! なNISMO

 そんな「NISMO」を走らせてみると、タウンスピードではやや硬質に感じるところはあるが、ペースを上げていくとキビキビとした身のこなしを展開していくからおもしろい。基準車のようにグラッと動くことがなく、ロールスピードはゆっくりで落ち着いた動きながらも、リアの追従もよく左右の切り返しもレスポンス良くこなす。「これってSUVだったっけ?」と首を傾げたくなるほどにスポーティ。気分はホットハッチといった感覚だ。

 スポーツモードを選択するとリアに70%も駆動力を配分するようにセットされることも効いている。コーナーからの脱出時にアクセルをグッと踏み込んでみるとクッとインを向くような感覚で立ち上がってくれる。これはおもしろいし、バケットシートのオプションが準備されるのも頷ける。海外じゃSUVでレースなんて話もあるらしいが、いよいよ市販車でそんな世界があってもおもしろいのかもと思える事態になってきた。SUVが市民権を得たとはいえ、こんな異端児が現れるとは驚くばかりだ。

NISMOよりも快適な走りが得られたAUTECH SPORTS SPEC

「AUTECH SPORTS SPEC」はそんな尖ったところを、やや削ぎ落としたかのような仕上がりだ。タイヤはミシュランのプライマシー4に変更(NISMOはアリア用のパイロットスポーツEV)。さらにヤマハのパフォーマンスダンパーを奢っているところも特徴の1つだ。スポーティな感覚は影を潜めたが、一方でしなやかさが増し、タウンスピードにおける硬質さはなくなり快適な走りが得られるようになっていた。

 とはいえ、基本的には「NISMO」と同様であるから、コーナリングも奥深い感覚が得られる。リニアに走り、日常域もあまり我慢を強いられないところではちょうど良い落とし所なのかもしれない。ただ、両車共に20インチを装着しているせいか、ややフロア振動が出ているところが気になった。基準車ではそのあたりを感じなかったから悩ましい。

 いずれにしても走りの質感だけでも選択肢が豊かな今度のエクストレイル。それに加えてデザイン違いが4つもあるなんて……。これは購入する段階になったら、答えを出すのにかなり苦労しそうだ。

選択肢が多いゆえにどのモデルを選ぶか、悩む日々が続きそうだ
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛