試乗レポート

【氷上イッキ乗り】日産の最新4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載する新型「エクストレイル」「アリア」、その制御力と安定感に驚き

e-4ORCEの実力を氷上でチェック

 日産自動車「エクストレイル」に搭載されている4輪制御技術「e-4ORCE」の効果は大雪の東北で経験することができ、その緻密な制御に瞠目した。内燃機ではひと呼吸おいて作動が始まるために、ドライバーはそれを見越した運転をすることになるが、駆動をモーターで行なうe-4ORCEでは瞬時にコントロールすることで積雪路面での安定性はずば抜けていた。

 今回はBEV(バッテリ電気自動車)の「アリア」とe-POWERのエクストレイルのe-4ORCEを凍結した湖で走らせるという究極の試乗になる。アリアは2WDモデルをオンロードで試乗したがe-4ORCEは初めて。しかも氷上での試乗は絶好のチャンスだ。グレードはB9 e-4ORCE リミテッドで91kWhのバッテリを搭載し、リアはフロントと同じ「AM67」型モーターを持ち、その最高出力は290kWとなる。

 重量は2230kg以上あり、氷上ではその影響がどう出るかも焦点の1つ。試乗当日は冷え込みが厳しく、車内温度計はマイナス16度を示す。いつもの女神湖よりしっかりグリップするがそれでも氷の上だ。次第に磨かれて滑りやすくなる。装着タイヤは氷に強いブリヂストン「VRX3」(255/45R20)を履く。今回の氷上試乗に提供される車両は一部を除いてVRX3に統一されている。

アリアとエクストレイルのe-4ORCE仕様を凍結した湖で走らせてみた

 まずトラクション性能。驚くほど滑らかにスタートした。あっけないないほどだ。わずかに動き出したところで4輪の駆動力を前輪主体から即座に後輪の駆動力を上げ、自然に速度があがり途切れのない加速力は驚くばかり。アクセルOFFでは前後輪で回生ブレーキをかけることで安定した姿勢で減速する。フットブレーキによる制動を加えても滑りやすい氷の上でも姿勢の乱れはほとんどなく、安定感抜群だ。

前後に「AM67」型モーターを搭載する「アリア B9 e-4ORCE リミテッド」(790万円)

 スラロームでは慎重に速度を落としてから入ったが、最初のハンドル応答性があっけないほどですんなりと向きを変え、短いスパンのスラロームも反応よく予想より簡単にクリアできてしまった。

 スラロームは速度を上げると最後に辻褄が合わなくなるのが常だが、アリアも次第にハンドル操作が遅れがちになるが限界域はかなり高く、タイヤのグリップ力を最大限に活かしているのが分かる。前後の駆動力に加えて左右輪の制動力を変えることで高い旋回力を得ている。タイヤのグリップ力の限界を超えることはできないがすごい制御力だ。

 氷上円旋回ではフロントが逃げてしまい曲がらないのが普通で、前後グリップをバランスさせるのが難しい。ところがアリアはハンドル舵角を大きくし過ぎなければ旋回力が出て曲がろうとする。また後輪のモーター出力が大きく、リアもある程度の横滑りを許容するので旋回を続けることができる。

 これもスラロームで感じた前後輪の駆動力の瞬時に変えられることと、左右のブレーキ制御が大きな効果をあげている。この動きが流れるように連続して行なわれることで姿勢変化はスムーズだ。いずれにしてもタイヤの限界以上のことはできないが、その力を積極的に使うことができるのがe-4ORCE。

 BEVのアリアができることは想像した以上に大きかった。モーターの細かい制御は内燃機にあるタイムラグを圧倒的に圧縮し、流れるような制御をするのがe-4ORCEの魅力だ。

 これまでの制御では前後のトルク配分を行なって、それから横滑り防止装置(VDC)が作動するという2つの動きを別々に行なっていたが、これらの2つの作動をまとめて統合制御することで、フィードバックだけでなく先読み制御も行なえるようになり、違和感のない動きになっている。

減速の安定感と制動力は期待以上のエクストレイル

 一方、同じe-4ORCEのエクストレイルは、前回の東北ツーリングの雪だけで分からなかったe-4ORCEの制御を明快に体感できた。同じe-4ORCEでもアリアとエクストレイルはモーターも搭載バッテリも異なり、それによって制御は異なるが結果的に同じ味付けになっていた。

 日産が持っている特許の1つに制振制御がある。モーターからの駆動力はドライブシャフトを通じてタイヤに伝わるが、トルクの立ち上がりが早いモーターだとドライブシャフトの剛性の影響で微妙にトルク反動があり、ドライバーにはピッチングとなってギクシャクした動きに感じられる。内燃機などでは、これを嫌って最初から出力制御するのが一般的だが、日産ではモーターを逆方向に力を加えることでイヤな振動を防いでいる。モーターのレスポンスが非常に早くないと不可能だが、e-4ORCEではこれを実現しているという。

 アリアとエクストレイルはドライブシャフトが異なるので、その剛性も異なり制御も違ったものになっているという。これらは「リーフ」から研究されていたもので、エクストレイルもアリアも一連の滑らかな動きには、この制振制御がひと役買っている。

 さて、エクストレイルのスラロームや円旋回の動きはアリアより300kgほど軽いので動きも軽快だ。そして基本的な動きはアリアもエクストレイルも同じだった。

カスタムカー「エクストレイル AUTECH」のe-4ORCE仕様は3列シート仕様の「AUTECH e-4ORCE」(459万8000円)、ナビゲーションシステム、先進安全装備、便利・快適装備などをパッケージ化した2列シート仕様の「AUTECH e-4ORCE Advanced Package」(504万6800円)を設定

 速度の高いハンドリング路でも加速時と直進安定性が高く、氷とはいえμが変わったり凹凸のあるのが氷上の特徴だが、姿勢制御のブレがないのは素晴らしい。また減速の安定感と制動力も期待以上のものがあった。タイヤに磨かれてしまったタイトコーナーではフロントがグリップ限界を超えてアウトに滑り出してしまうが、最初にターンインの姿勢を作りやすくコーナーでの安全マージンは大きくなる。

 改めて思うのはターンインからアウトまでの一連の動きが流れるような姿勢変化で、ドライバーへの負担は驚くほど少ないことだ。モーターの雪道での緻密な制御は安定性に大きな効果をもたらすが、e-4ORCEをさまざまな路面でドライブしたことで、その効果と可能性の大きさを改めて実感した。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学