試乗レポート

新型プリウスPHEV プロトタイプでサーキット試乗

新型プリウスPHEV プロトタイプでサーキット試乗

新型プリウスPHEVプロトタイプ

 新型プリウスPHEVの発売は3月になるが、プロトタイプを袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗した。3ラップの短い試乗時間だったのでファーストインプレッションをレポートする。

 新型プリウスはハイブリッドも大きく変わっているが、PHEVも大きな改善点がある。パワートレーンは1.8リッターから新型プリウス ハイブリッドの2.0リッターモデルと同様のM20A-FXS型となり、駆動用バッテリの位置をラゲッジルームの下から後席の下に移動した。従来型のプリウスPHVのEV走行距離68.2kmは魅力だが、ラゲッジルームの収納力が小さいのが難点だった。従来のGA-Cプラットフォームでは大きなバッテリをラゲッジルーム下に置いたため、かさばる荷物が積めず使い勝手がわるかったのだ。

新型プリウスPHEV プロトタイプを、各種走行モードで試乗

 しかし新型は、改良型GA-Cプラットフォームと大径タイヤで床下に余裕ができ、バッテリを後席下に収めることができた。そのためラゲッジルームはテンパータイヤを搭載した場合と同じフロア高になって実用性が大幅に向上している。また重量物であるバッテリを床下に置いたことで重量バランスもよくなっている。

 さらにオプションになるもののルーフにソーラーパネルを付けた場合は条件がよければ年間1250km走行に相応する電力を得られる。太陽電池で作られた電気は駐車中は駆動用バッテリに、走行中はエアコンや12Vバッテリに充電し省燃費に貢献する。

 この新型プリウスPHEVは、シリーズのハイパワーモデルとして位置づけられ、FFモデルのみでシステム出力は164kW/223PSを実現。ハイブリッドモデル(FFが144kW[196PS]、E-Fourが146kW[199PS])からパワーアップが図られ、アクセルレスポンスや力強さが向上している。

新型プリウスPHEV
システム出力で164kW/223PSを実現するM20A-FXS型エンジンとモーターの組み合わせによるTHS II

EVモード走行とHVモード走行

各種の走行モードで試乗した

 早速、袖ケ浦フォレストレースウェイを新型プリウスPHEVで走ってみる。最初の1ラップはEV走行だ。ちなみにEV走行距離は従来型に比べて50%も延びているとしており、新型PHEVでは約100kmを電気だけで走れることになる。通勤や買い物などはEV走行だけで事足りてしまう。

 ブリーフィングにおいて最高速度は80km/hが推奨され、できるだけ郊外路に近い感覚で走らせてPHEVの日常での使い勝手を確認するのが目的だ。

 新型プリウスPHEVはアクセル開度の小さいところから力強く走り出し、低周波のロードノイズだけが耳に入ってくる。すでに公道試乗で新型プリウス ハイブリッドの完成度の高さを知ることができたが、滑らかなサーキット路面でも同様だった。遮音性が高まったことで今までマスキングされていた音が顔を出した感じだ。EVの特徴でいつの間にか速度が出て、すぐに80km/hまで到達してしまった。アクセルオフでは転がり抵抗の小ささを実感し、何処までも空走していくような感触。タイヤはハイブリッドモデルと同じ195/50R19サイズで横浜ゴムのブルーアースGTを履く。

 説明では3段階で回生力の強さを選べるとのことだったが、他社のようにスイッチだけで変えることはできない。ステアリングスイッチからメニューページを選ぶモニタ画面にブレーキ回生を呼び出し、3段階ある強さを選択する。強くすれば減速度も大きくなるが、今回は慣れ親しんだガソリン車の感覚に近い一番弱い回生で走行した。

 運動性は低重心で落ち着いた動きだ。どっしりとしておりハイブリッドモデルとは違った安定感を持っている。サーキットではどうしてもアクセルを踏む時間が長くなる。それでもEV走行可能距離はスタートしてからもあまり変わらない。モニタで確認すれば、わずかなアクセルオフでも緻密に回生しているのが分かる。

 2ラップ目はHVモードを選択した。このほかにオートEV/HVモードもあるがそれは3ラップ目に確認する。

 HVモードでもEV走行からエンジンがかかかるまでの時間経過がある。かなりEVの守備範囲が広く、アクセル開度が大きくないとエンジン始動まで至らない。このモードでも袖ケ浦フォレストレースウェイを1周する間のエンジン始動は1/3程度だろうか。またエンジン始動時の振動や音もこれまでのプリウスよりかなり小さく抑えられている。日常的にはこのモードがオールマイティで、ドライバーは何も気にせずエネルギーマネジメントができる。

 そしてオートEV/HVモードを3ラップ目に試してみた。こちらはEV走行をさらに積極的に選択し、モーターで走る領域が広がった。HVモードに切り替わるのはアクセルを踏んだときだが、切り替わるタイミングがHVモードよりも遅い。

 今回のサーキット試乗では試せなかったが、このモードが面白いのは車載ナビを使ったときに減速地点に近づくと加速が抑制されるなど先読みをすることだ。ナビ上にコースを入れることで駆動用バッテリ残量や交通情報をベースにして、自動的にEVとHVを切り替えて効率よく走ることができる。ハリアーなどのトヨタの最新PHEVから装備されるようになっており、機会があれば実際の公道で使ってみたい。

 従来のプリウスPHEVには普通充電に加え急速充電も装備されていたが、新型プリウスPHEVの充電は普通充電だけが可能で、急速充電はできない。次第に数を増やしてきたバッテリEVの充電渋滞を回避するために配慮だという。

比較のために用意された従来型のプリウスPHV(後方の青い車種)と乗り比べも行なわれた

 比較のために用意されていた従来型のプリウスPHVにも同じ条件で乗ってみた。先ずロードノイズやメカニカルノイズが大きい。新型の静粛性を改めて感じた。アクセルレスポンスも新型の反応と比べると鈍く感じるが、従来型単体で乗れば納得できる加速だと思う。また1.8リッターユニットとシステム出力が小さいこともあり、少し大きめにアクセルを踏んでいることに気づく。ペダル剛性や出力特性の差は明快だ。

 しかし従来型はホイールベースが50mm短いことやロール特性の違いから意外とキビキビと走り、どっしりした新プリウスとは違った面白味がある。

 新旧比較は進化の経過がよく分かったのと同時に、初のTNGAモデルとなった従来型プリウスに乗ったときの新鮮な驚きを思い出した。疲れないクルマで実は積極的に乗りたいクルマの1台だった。2世代目となった初のTNGAモデルである新型プリウスは、再び時代を切り開く1台になるのだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸