試乗レポート

トヨタ「ハリアー」に新設定のPHEVモデル、システム最高出力306PS&燃費20.5km/Lの実力を試す

ハリアーPHEV

満タンで1100km以上走行可能

 人気のSUV「ハリアー」にPHEVが加わった。ハリアーは日本にSUVを根付かせた功労車。先代は国内専用モデルだったが現行型は輸出も念頭に置かれて開発されている。すでに同じGA-Kプラットフォームを使っている「RAV4」にPHEVの設定があり、ハリアーにはマイナーチェンジのタイミングで追加されたものだ。

 トヨタハイブリッドシステム(THS)の燃費の良さは定評があり、ハリアーハイブリッドもクラス随一のWLTCモード21.6km/L(E-Four)をマークする。PHEVでは車両重量がハイブリッドE-Four(Zグレード)の1740kgから210kg重い1950kgとなっており、PHEVでの燃費は20.5km/hと少し低くなる。実際にはPHEVの駆動用バッテリは18.1kWhの容量があり、EVでの航続可能距離は93kmと長い。ちょっとそこまでといった近距離ではエンジンの出る幕もなく駆動用バッテリだけで走行可能だ。

 言うまでもなく走行条件によって距離は大幅に変わるので額面どおりではないものの、このクラスで20kWh程度の駆動用バッテリを搭載するPHEVの中ではトップクラスの航続距離だ。20.5km/Lの燃費性能のみ取っても55Lのガソリンタンクで約2tのSUVが1100km以上走れることになるからすごい時代だ。

 ハリアーPHEVの外観上はブラックアウトされたメッシュフロントのグリルや19インチ(タイヤサイズ:225/55R19)の大径ホイール、そしてPHEVバッヂなどから判別できる。内装は赤のステッチやパイピングがシートやダッシュボードまわりにアクセントとして入れられ新鮮。

今回試乗したのは2022年10月に発売された「ハリアー」のプラグインハイブリッド。E-FourのZグレードのみの展開で、価格は620万円。ボディサイズは4740×1855×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。パワートレーンは最高出力130kW(177PS)/6000rpm、最大トルク219Nm(22.3kgfm)/3600rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.5リッター「A25A-FXS」型エンジンを搭載し、フロントに134kW(182PS)/270Nm(27.5kgfm)の「5NM」型モーター、リアに40kW(54PS)/121Nm(12.3kgfm)の「4NM」型モーターを組み合わせる。システム全体では225kW(306PS)を発生し、WLTCモード燃費は20.5km/L、EV走行距離は93km
外観では専用のフロントグリルなどを採用するとともに、随所にブラック塗装が施された。足下は切削光輝+ブラック塗装の19インチアルミホイールとブリヂストン「エコピア H/L 422 Plus」(225/55R19)をセット

 基本的な操作系もPHEVと言ってもハイブリッドと大きく変わるところはない。いつものトヨタらしい使いやすさだ。半面、最上級グレードらしい華やかさがほしいと思うが、上質な仕上がりはトヨタらしいおもてなしと言ったところか。

 ディスプレイはドライバー正面とセンターに2面の12.3インチの大型液晶パネルで構成され、最初に必要な情報の呼び出しの方法さえ知っておけば、1~3ステップでパネルに表示させることができる。この操作方法はもう少しシンプルにすると使いやすそうだ。

インテリアではインストルメントパネルからドアトリムへ金属メッシュ質感のダークレッドパイピングオーナメントを採用。最大1500W(AC100V)の外部給電システムや後席シートヒーター、床下透過表示機能付パノラミックビューモニターなどを標準装備する
新型ハリアーのウェルカムイルミネーション
ブルーのインテリアイルミネーションはオプション設定

 ボディサイズは4740×1855×1660mm(全長×全幅×全高)で日本ではラージサイズクラスのSUVとしては使いやすい。特に全方位で死角を作らないレイアウトやカメラや警告音などで市街地でも安心してドライブできる。

優れた静粛性はハリアーPHEVの大きな魅力

 駆動力バッテリがチャージされていれば、市街地から高速まで電気だけで走り切ってしまう。高速道路でも80km/h程度は電気だけで走ってしまうので、あえてスポーツモードを選択してエンジン併用でハイブリッド走行してみる。

 2.5リッターのダイナミックフォースエンジン(130kW[177PS]/219Nm)とフロント134kW/270Nm、リア40kW/121Nmのモーターを使ったシステム出力は306PSとなり、スポーツモードでは常に加速のスタンバイ状態にあり、アクセルレスポンスもシャープでいきなり速い。フルアクセルでの0-100km/h加速は6秒前半と言われるが、ハリアーPHEVの良さはその速さを感じさせない上品さにある。車体がしっかりしており、EV駆動で音や振動をほとんど感じないからだ。例えば高速での追い越し加速でも雑音もなくグイと平行移動するような加速感で非常に滑らかで気持ちが良い。

 ドライブモードはECO、EV、ノーマル、スポーツがあるが、おもしろいのはその横に設けられたAUTO EV/HVモード。基本的にはEV、そして必要に応じてHV走行し、頻繁にチャージモードに入り積極的にエネルギー回生を行なう。このシステムだと電気を先行して使いきってエンジン走行となることを減らすことができるTHSの真骨頂だ。静かな住宅地でも電動走行を選択する余地が残る。さらにナビゲーションと連動してクルマにとっての最適解を選ぶ賢さを備える。それでなくともハリアーは静かなのだ。

 そう、ハリアーの上質さの1つは静かなキャビンにある。さすがにエンジンが高回転になると音振共に発生するものの穏やかで、同じエンジンを搭載した他モデルの中でもトップクラスにある。プラットフォームの構成や遮音材の使い方がたくみで、特にエンジンルームまわりの音は良く抑えられている。

 ロードノイズはザラメ路のようなコースではラゲッジルームから入ってくるノイズがあるものの、基本的によく遮音されている。滑らかな路面ではタイヤが発するロードノイズも小さく、すべてのパッセンジャーは静かな空間で会話が続けられる。

 乗り心地はSUVらしい腰のあるしなやかさ。段差通過の際もサスペンションがショックを吸収する。かといって高速で姿勢が不安定になることもなく、ピッチングやロールも小さい。ハリアーが安心してドライブできる点だ。

 サスペンション設定の妙はハンドリングにも表れる。ターンインからアウトまでハンドルの反応が素直で、適度なロール制御で安定した姿勢でツイスティな山道も走れる。この穏やかさは高速道路でのクルージングにも表れ、全車速追従クルーズコントロールとレーンキープを入れておくと、あまり迷うことなく車線をキープする。各種センサーの性能はもちろんだが、基本となる車体がしっかりしていてこその先進技術だと思う。ドライブフィールでは欲を言えばどっしりと路面をつかむ感触がほしいところだが、贅沢な希望だ。

 充電は普通充電のみで200Vで一晩充電すればほぼ満充電になる。また外部電力は1500W対応のコンセントを持っている。先進安全技術でも右折時の障害物検知など最新のトヨタセーフティセンスにアップデートされた。この分野での進化は速く、マイナーチェンジを待たずに変わっていくのが最近の傾向だ。

 ほぼすべての装備を付けて価格は620万円。歴代ハリアーの中では最も高価だが、それだけの価値はありそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛