試乗レポート

新型アウディ「A8 L」、新V8エンジンを搭載しリムジンとドライバーズカーの2面性を見事に表現

新型「A8 L」

3130mmと長大なホイールベースを持つA8 L

 アウディ乗用車シリーズの頂点に立つのがA8、そのロングホイールベース版がLになる。アウディのエンジンといえば全長の短いW型12気筒という特異なエンジンを思い出す。パワフルだったが燃費はわるかったので今では使われなくなった。そして現在のA8のトップエンドモデルは改良を加えた4.0リッターV8 TSFIツインスクロールターボエンジン。その出力は338kW(460PS)/660Nmを出す圧倒的なパフォーマンスである。

 CO2削減のためにV8にもベルト駆動のスターターオルタネーターとリチウムイオンバッテリで構成される48Vのマイルドハイブリッドが組み込まれ、発進時など強いトルクが必要とされる時にモーター駆動でエンジンをサポートする。組み合わされるトランスミッションは8速ティプトロニック。ロックアップ領域を広げた8速トルコンである。この大出力の駆動力を受け止めるのは4WD、定評あるセンターデフを持ったクワトロシステムとなる。

 A8 Lを受け取ったホテルの車寄せではそのサイズにちょっとひるんだ。FセグメントのA8、それもロングとなると全長は5mを楽に超える5320mm、全幅も1945mmと堂々たるサイズで、全高だけは1485mmとセダンらしい。そしてホイールベースはスタンダードボディのA8も3000mmと超ロングホイールベースだったが、それよりもさらに130mm長い3130mmと長大だ。伸びた130mmは後席にあてられている。

今回試乗したのは2022年7月に大幅改良を受けて発売されたフラグシップセダン「A8」のロングホイールベース版「A8 L」。ロングホイールベース仕様は「A8 L 60 TFSI quattro」のみの展開で、価格は1800万円。ボディサイズは5320×1945×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3130mm
今回の改良ではデザインを一新し、シングルフレームグリルの底辺を広げることでより存在感を高めた。また、サイドエアインテークも同様にクロームによって強調されており、6ライトのキャビンデザインやなだらかに傾斜するリアエンドなどにより、端正でエレガントなフォルムを実現。テールランプをLEDライトストリップで結ぶことで高級感も高めたという

振動がなく極めて滑らかなV8エンジン

 さてひるんでばかりもいられない。早速イグニッションをONにし、A8 Lをしずしずと加速させる。V8エンジンと見事なコンビネーションだ。

 A8はボディ、フレームに伝統的にアルミニウムを使っている。軽量化と資源の再生化に貢献しているが、それでも数多くのリムジン装備を持ったA8 Lの車両重量は2160kgとなる。通常のスチールではどれほどの重さになっただろう。

 話を元に戻そう。V8エンジンはその存在を感じさせないくらい粛々と回っているが、その回転フィールはさすがアウディ。振動がなく極めて滑らか。この回転フィールだけでも感動するだろう。アウディのエンジンはどの車種も硬質な回転フィールが機械としての上質さを示しており、このV8はまさにその頂点に立っている。

 さすがにハイパワーエンジンが始動すると軽い排気音がするのでそれと分かるが、ショックはごくわずか。A8の上質な室内空間は静謐なままだ。本革シートはたっぷりとしたサイズでマッサージ機能付き。さまざまなウェーブ機能があり、身体全体をサポートしてくれる。最近は本革から人工皮革やファブリックという流れができつつあり、最後の本革になるかもしれない。

A8 Lが搭載するV型8気筒DOHC 4.0リッターエンジンは2基のツインスクロールターボを搭載した新エンジンとなり、最高出力338kW(460PS)/5500rpm、最大トルク660Nm(67.3kgfm)/1850-4500rpmを発生

 走り出しはリムジンらしく穏やかなもので、常に後席の乗客が不快にならないようにあくまでピッチングや上下動のないフラットな乗り心地だ。A8 Lは前後ウィッシュボーンにエアサスを組み合わせ、エアサスの動きは非常に洗練されており、凹凸などはこのサスペンションで吸収される。

 ドライブモードはエフィシェンシー、オート、ダイナミック、コンフォート、インディビジュアルが選べ、まずは万能のオートを選択する。このモードは走行状態によってエアサスの硬さを変えてくれ、しかも乗り心地は極めて上質。コンフォートにすると路面からの突き上げはさらにソフトになり、エアサスの名前にふさわしいソフトな味付けとなる。このモードは後席にとっては雲のじゅうたんでリムジンらしいモードになる。車高の上下調整も可能で、乗下車時に車高を50mmほど上げて乗降性を容易にする機能も持っている。しかもこの調整時間は極めて短く実用的だ。

 3130mmという超ロングホイールベースに不安を覚えたが、走行中のフットワークのよさは最初に抱いた不安を一気に取り除いてくれた。S8にも装備されるよくできた4WSはA8 Lではオプションになる。一番困るのは駐車だと思う。5320mmの全長は簡単に駐車枠をはみ出してしまうので注意が必要だが、それ以外では困惑させられることはあまりなかった。

 レーンチェンジも穏やかで正確に反応し、高速道路での直進安定性は絶品だ。全車速対応のクルーズコントロールとレーンキープアシストを入れておけば、ドライバーの負担は大幅に軽減され、ヘッドアップディスプレイに映し出されるシグナルに従ってリラックスしたロングドライブが可能だ。高音質のサウンドシステムも耳に心地よい。

 少し狭い山道に入る。さすがのロングボディは機敏とはいかないが、ロールの少ない美しい姿勢で駆け抜ける。ちなみにドライブモードでダイナミックを選択すると8速のトランスミッションの低いギヤを積極的に選んで元気よく走り出す。0-100km/h加速4.5秒の実力も納得できるパフォーマンスだ。

 アクセルの反応もはるかに早くなり前に出て行こうとするが、センターデフを持つクワトロシステムのステア特性は常に安定志向で4輪のグリップ感をハンドルからも感じとれる。今回はドライでのインプレッションだったが、もし氷雪が交じるような路面だったらクワトロの本領が発揮されるだろう。

 前後の駆動力配分は基本的に40:60で、660Nmもの強大なトルクをバランスよく受け止め、強い駆動力と4輪でのグリップ力は圧倒的な信頼感がある。ブレーキは強大。重くてパワフルなA8 Lに見合う制動システムを持つ。ブレーキタッチはストロークと踏力がグッドバランス。ただ重いものを止めているという緊張感は常に残る。

 リムジン仕様のスポットライトは、後席の多彩なシートアレンジと後席の乗り心地を重点として考えられていることだ。長大なレッグルームはさらに助手席を前に出すと落ち着かなくなるほど広くなる。基本4シーターのLではセンターアームレストに多くの機能が集約されており、インフォテイメントも充実している。ディプレイからマッサージ機能を多くのバリエーションの中から選択でき、それはオーディオも同様。シートリクライニング角度も深い。折り畳み式のテーブルを出してちょっとしたデスクワークも可能だ。そして前述のようにコンフォートモードでの後席の乗り心地はさらに素晴らしくよくなる。多くロングボディの中で最良の部類だと思う。

 またアウディらしいのはトランクの開口部幅が1mほどあり、奥行きも約1.2mと広大。505Lの容積を誇る。さらにセンターアームレストの奥にあるふたを下ろすと長尺物も積める。アウディ伝統の装備だ。

新型A8のインテリアは開放的なラウンジをイメージしたものとなっており、幅広さを強調するために水平基調のシンプルで上品なデザイン、エクステンデッドレザーやエスクテンデッドアルミニウムルックインテリアなど、素材のクオリティにこだわることで上質で快適な室内空間を実現
トランスミッションは8速ティプトロニック
ドライブモードはエフィシェンシー、オート、ダイナミック、コンフォート+、インディビジュアルから選択可能
明るく上質な前後シート
後席用のディスプレイでさまざまな機能をコントロールできる
トランク容量は505Lを誇る

 ちょっと郊外まで足を延ばした平均燃費は8.2km/L。ストップ&ゴーの多い都内だけで見ると3.2km/Lだったが、WLTCモード燃費は8.0km/L、郊外モードは8.2km/Lなので実力どおりの燃費だった。燃料タンクは82Lと大きく、満タンでの航続距離は結構長い。

 静かで速くそして快適。A8 Lはリムジンとドライバーズカーの2面性を見事に表現したアウディらしい超Lクラスモデルだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛