試乗記
スズキの新型バイク「DR-Z4SM」「DR-Z4S」をクローズドコースで試乗してみた
400ccクラスで唯一無二のモデルが17年ぶり復活、電子制御で進化した性能を体験
2025年10月23日 12:51
- 2025年10月15日 開催
日本国内では2008年に販売が終了したDR-Z400シリーズ。それから17年の時を経て、後継となる新型モデル「DR-Z4SM」と「DR-Z4S」が登場した。世界的に見ても希少な400ccクラスのスーパーモト(モタード)モデルとデュアルパーパスモデルだ。
新型モデルは電子制御機能を多数取り入れたうえで、エンジンをはじめとする各部パーツを大幅にアップグレードした。かつての販売終了の要因となった排ガス規制についても最新のEuro5+に対応し、それでいて最高出力は38PSと旧モデル(40PS)に近い出力を維持している。
果たしてその乗り味はどのようなものになっているのか。ミニサーキットとグラベルコースで試乗する機会を得たので、レビューしたい。
扱いきれるパワーの「DR-Z4SM」、ミニサーキットも主戦場に
まずはスーパーモトモデルのDR-Z4SMから。890mmあるシート高(旧モデルからは20mmアップ)は、乗車時に腰高な印象を強く受ける。足つきも決していいとは言えないため、身長の低い人にはやはりネックになるだろう。
ただ、いったん走り出せば気にならない。視線こそ高く感じるものの、旧モデルと比べてハンドル部を20mm、フットレストを18mmそれぞれ手前に寄せているためか、身体が収まるべき場所にすぐ収まり、上背の印象よりコンパクトに感じられる。座面の材質は反発力が強めでスポーティな雰囲気だ。
そうしたライディングポジションの自然さと、398cc単気筒に似つかわしくない穏やかなエンジンフィーリングで、最初の走り出しから違和感なく、自在に操れる。排気量から考えれば軽量な154kgという装備重量に加えて、ハンドリングの軽快さからくるヒラヒラ感は旧モデルに通じるところがあるようだ。
ところで、この総重量は旧モデルから5kgほどアップしている。しかし、スズキによれば電子制御部品の追加や法規制(環境)対応などによって9kg分の増加があるとのことで、実質的には4kgの軽量化を果たしていることになる。
さて、今回の試乗場所は公道ではなく1周約1kmのミニサーキットだったが、このサイズ感のコースは、ある意味ミドルスポーツなDR-Z4SMにとってベストマッチな舞台に思えた。
速度120km/h~130km/hまで加速してからフルブレーキングで飛び込む1コーナー、そこから左右に車体を振ってクリアしていくS字、タイトな低速コーナーを立ち上がってパーシャルを使いつつの中速コーナーと続き、最後はフルスロットルで駆け抜けていく高速コーナーという構成だ。
高速域から一気にブレーキレバーを握り込んでも一切不安はなく、そのままブレーキを残しながらコーナーに進入していける。旧モデルでは正立フォークだったところから新型では倒立フォークに変わり、剛性を最適化したというアンダーブラケットとあいまって、高い安定感を生んでいる。新たに追加された電子制御の1つであるABSの存在もブレーキングの安心感につながっている。
S字コーナーでは49mm幅(旧モデルから16mm拡大)のフットレストの踏ん張りの利きやすさもあってパタパタと寝かせられ、それとともにライド・バイ・ワイヤ式電子制御スロットルのコントロールのしやすさも実感する。手首の動きにリニアに反応してくれるのでリズムを作りやすく、リアタイヤのグリップをしっかり感じ取りながら車体を前へと押し出していけるのだ。
タイトコーナーからの立ち上がりでは、路面を蹴り出すような単気筒らしい力強さを味わえるほか、続く中速コーナーではコントローラブルな電子制御スロットルのおかげで微妙なパーシャルを維持するのも容易。そこからは安定感ある車体に全幅の信頼を置きながら、全開で最終コーナーへと向かい、加速していく。
トップギアの5速まで入れ、38PSのパワーをフルに扱いきれる、まさにDR-Z4SMのおいしいところをすべて味わえるちょうどいいコース。大きなサーキットでの走行会やレースはどうしてもハードルが高くなるが、ミニサーキットでもポテンシャルをしっかり引き出せるDR-Z4SMならより気軽にスポーツライディングにチャレンジできるのではないか。スーパーモトの楽しさの一端に触れるのにも絶好のマシンだと感じた。
ちなみに、こうしたサーキットではノーマルセッティングだと、ブレーキング時などに前後のピッチングが大きく感じられることがある。しかし新型DR-Z4SMは、圧側・伸側ダンパー調整が可能なフロントフォークと、フルアジャスタブルのリアサスペンションを装備しているため、そんな場面でも対応可能。細かく調整して最適なセッティングを探っていくのも楽しみの1つだ。
今回はサーキットということもあり、全体的に高いグリップ感が得られるシチュエーションではあった。そのため、新たに追加された電子制御機能の効きを実感する場面はさほど多くはなかったように思う。
たとえばSTCS(スズキトラクションコントロールシステム)は、弱めに介入する「TC1」と強めの「TC2」、グラベル向けの「G」と「オフ」の計4段階ある。が、DR-Z4SMの扱いやすいパワーに加えて、内部構造をDR-Z4SM専用仕様としたダンロップ製SPORTMAX Q5Aの高いタイヤグリップのおかげで、トラクションコントロールの設定による効きの差はわずかだ。
「A/B/C」の3段階で切り替えられるスズキドライブモードセレクター(SDMS)も、今回のようなサーキット走行だとA以外にするメリットは薄いだろう。SDMSはピークに至るまでのパワーの取り出し方を変えるもので、Aは出だしからパワフルに、Cは出だしを抑えてピークに向けて大きく立ち上がる形、Bはその中間のリニアな出力となるもの。どれを選ぶかはほとんど好みだ。
かつて、SDMS搭載車種の出始めではウェット路面など滑りやすいシチュエーションでBやCを選ぶこともあったが、トラクションコントロールも利用できる今は考え方が少し異なってきているように思う。
たとえばSDMSにAを選んでSTCSをTC2にする、もしくはSDMSにCを選んでSTCSをTC1やG、あるいはオフにする、といったように電子制御の組み合わせのなかでバランスを考え、自分の好みにフィットするものを選べるからだ。このあたりの考え方はクローズドコースも公道も変わらないはず。
ABSについては、DR-Z4SMは「前後ともオン」または「リアのみオフ」の2パターンあり、路面状況やライディングスタイルに合わせて切り替えられる。オンにしていると、乗り方によってはブレーキングからのコーナー進入時に減速しすぎたり、反対にアンダーが出るようなイメージで押し出されるような感覚になることもあるため、スポーツ走行時は「リアのみオフ」にした方がよさそうだ。
デジタルでもアナログでも、好みのライディングを突き詰められる「DR-Z4S」
オフロードとオンロードの両方に対応するデュアルパーパスモデルの「DR-Z4S」は、一見したところではDR-Z4SMと大差ないように思える。が、実際には主にオフロード向けに各部を仕様変更しており、細部にわたってこだわりが詰め込まれている。
分かりやすい違いとしては、フロントが21インチ、リアが18インチのブロックタイヤ(DR-Z4SMは前後とも17インチのオンロードタイヤ)となっていて、シートを薄型・幅広の高反発ウレタンとしているところ(シート高は旧モデルの国内仕様から5mmダウンした890mmで、高さ自体はDR-Z4SMと変わらない)。
フロントの倒立フォークはDR-Z4SMよりストロークが20mm長い280mmとし、オフロード走行を考慮したねじれ剛性の最適化も図っている。リアホイールトラベルもDR-Z4SMより19mm長い296mmで、少し脚が長いイメージだ。ポジションは旧モデルからハンドル部で28mmアップ、フットレストで23mmバックさせて「体重移動の範囲を拡大した」としており、オンロードメインのDR-Z4SMとはしっかり差別化している。
電子制御についても一部異なる。DR-Z4SとDR-Z4SMは車両特性や走行シーンが異なることから、それに合わせてSDMSやSTCSのチューニングをわずかに変えている。また、ABSは「前後ともオン」「リアのみオフ」に加えて「前後ともオフ」のモードも用意している。これは「クローズドなオフロードコース走行時に限ったモード」という位置付けで、タイヤスリップの抑制で減速時の自由度が損なわれることのないようにするものだ。
したがって、DR-Z4Sのホイールを単に17インチ化してもオンロード向けのDR-Z4SMと同等にはならないし、反対にDR-Z4SMの足まわりだけ変えてもDR-Z4Sにはならない。エンジンやフレームは共通のプラットフォームではあるが、それぞれに個性があり、最適な走行シーンも異なる2台となっているわけだ。
そんなわけでグラベルコースに乗り込んだ。当然ながらDR-Z4SMと全く同じく穏やかなエンジンフィーリングで、電子制御スロットルのレスポンスもクイックだ。大径ホイールのブロックタイヤとストロークの大きいサスペンションにより、凹凸の激しい路面もしなやかに受け止めてショックを感じさせない。
しかし、ともすると38PS、151kgの車体は、滑りやすいグラベル路面では少し持て余し気味になるかもしれない。加速しようとスロットルを大きく開ければ無駄に空転させてしまうし、オフロードバイクとしては車重が大きい方になるため、スピードを出せば出すほど制動距離も長くならざるを得ない。
ただ、そのパワフルさやちょっとしたヘビーさを電子制御によりうまく手懐けられるのが、新しいDR-Z4Sの強みだ。特にトラクションコントロールのSTCSは、介入頻度の多い「TC1」や「TC2」を選んでおくことで、ラフにスロットルを扱ってしまった際にリアタイヤが逃げたりして転倒してしまうことを防げる。
ABSもオンにしておけば、ポイントポイントでコンディションの異なるグラベル路面で不意にスリップしてしまうことがないし、特に身体が温まっていない初めの慣熟走行を安全にこなしたりもできるだろう。
とはいえ、オフロードを自在に、最も楽しく走れるのは、やはり電子制御を極力使わないモードだ。特にABSは前後ともオフにしておくことで、あえてリアを滑らせながらコーナーに進入して向きを変えられるし、不意にフロントのブレーキが弱まることも減らせるため、狙ったラインで走りやすくなる場合がある。
パワーモードのSDMSやトラクションコントロールのSTCSも、効きを抑えめにしたり介入を弱めたりすれば、加速時に意図的にスライドさせるなどして曲げていくことも可能。深い砂利や柔らかい土のエリアであっても、しっかりパワーを伝えてクリアしていけるのだ。
STCSに関しては、グラベル向けの「Gモード」にするとオンとオフのいいとこ取りができるのが面白いところだ。「TC1」や「TC2」のモードは滑りやすい箇所だとすぐにタイヤの空転を抑制するため加速しにくくなってしまうが、「Gモード」は最小限の介入をしつつ一定以上でオフ状態になるため、空転させながらパワーで押し切りたいようなシチュエーションでも着実に前進させられる。
おそらく上級ライダーだとSTCSも含め電子制御は完全にオフにしたくなるだろうが、代わりにクラッチワークでスリップをコントロールさせるような走り方も、DR-Z4Sは比較的やりやすい。ここは新たに装備したスズキクラッチアシストシステム(SCAS)が貢献している部分だ。軽い力でレバー操作できるため、頻繁に使用するのも苦にならない。
電子制御が使える今の時代、それに頼った走り方をするのがトレンドなのだろうし、それによってオフロード経験の浅いライダーでも「そこそこ走れる」ようになるのはありがたい。一方で、あえて電子制御の使用を抑制し、従来のアナログ的な走らせ方も可能になっている。そういう意味では、スズキの狙う「ビギナーからエキスパートまで楽しめる」というコンセプトは確かに実現できていると言えるだろう。
1台でマルチに使える唯一無二のスタイリング
「DR-Z4S」「DR-Z4SM」の価格はともに119万9000円。旧モデル(60万円~70万円台)と比較すると「高い」と感じる人もいるかもしれないが、国産車で電子制御をふんだんに搭載した中排気量のモタード・デュアルパーパスモデルは唯一無二の存在。ノーマルのままでも1台で公道から本格的なサーキットやオフロードまで走れるとなれば、飛びつくユーザーも少なくないだろう。
実際、年間目標の1200台(DR-Z4SMが800台、DR-Z4Sが400台)はすでに突破し、10月時点で計約1500台の受注があるという人気ぶりを見せている。次世代機を待ち望んでいたDR-Z400シリーズのユーザーにとっても、とっつきやすくマルチに使える400ccを求める新規ユーザーにとっても、DR-Z4シリーズは満足度の高いモデルになっているだろうことが今回の試乗でよく理解できた。































