試乗記

E-TECHハイブリッド専用になったルノー「ルーテシア」、変わったのはエスプリアルピーヌのデザインだけじゃなかった!

ルノー「ルーテシア」

25.4km/Lで輸入車No.1の低燃費なルーテシア

 世界で最も売れているフランス車の称号を持つ「ルーテシア」は、1990年登場の初代から5世代にわたり、常に時代を先取りした革新性を追求しながら進化してきた。日本では、洗練されたデザインと走りのよさがちょっとツウな人に響くコンパクトモデルを演じているが、本国フランスでは“国民の相棒”として万人に愛されるモデルであり、ラリーなどモータースポーツシーンでの活躍からルノーファンを獲得してきた立役者でもある。単なるオシャレなコンパクトモデルではなく、大いなるポテンシャルを秘めた名車であることをまだ知らない日本人は多い。

 そんなルーテシアの最新モデルは、今回のマイナーチェンジにあたり、5代目となってから搭載された輸入車唯一のフルハイブリッドシステム「E-TECH」に一本化された。車名は「ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッド E-TECH」となり、往年のフランス車ファン、ルノーファン、モータースポーツファンなら誰もがグッとくる“アルピーヌ”のエッセンスが注がれたこともトピックだ。

「エスプリ アルピーヌ フルハイブリッド E-TECH」のワングレードとなったルーテシア。価格は399万円。ボディサイズは4075×1725×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2585mm
ブルーのアクセントカラーが入る専用デザインの17インチホイールには、コンチネンタル「EcoContact 6」(205/45R17)を装着

 もうエクステリアデザインからして、大胆な変身を遂げている。先に登場したコンパクトSUVの「キャプチャー」同様、デザインのキーワードとなっているのは「アサーティブ」。強い主張を持つ、際立つという意味だそうで、エレガントさが強かった従来のイメージとは打って変わって、彫刻的で引き締まったアグレッシブな印象を受けた。ルノーはデザインに与える役割として、「人間中心」「社会貢献」「革命的な存在」「際立つ」「フレンチテック」の5つを挙げており、フレンチテックとは職人的なこだわりと工芸品のような繊細さを表す。

 フロントフェイスでは特にそのこだわりを実感することができる。グリル内のチェックグリッドは、ルノーのロゴであるロザンジュを挟み、端にいくにつれて大きさと明るさが変化。見る人に深みとテクニカルな印象を与えるのだという。そして緻密でシャープな表情となったフルLEDヘッドライトは、細いのに存在感たっぷり。バンパー左右のフィニッシャーがまた斬新で、これはロザンジュを左右に分割したシグネチャーデザインとなっており、サイドから見る表情と正面から見る表情は大きく異なるのが新鮮だ。モータースポーツの世界からインスピレーションを得たというマットシェルグレーブレードも、フロントフェイスを引き締めている。

新しいルノーデザインはモダンかつアサーティブ(主張しながらも周囲となじむ)がテーマ。特徴的なフロントグリルやバンパーサイドのフィニッシャーデザイン、スリムなフルLEDヘッドライトで個性を際立たせている

 リアビューにも「アサーティブ」のエッセンスは注がれており、2つのダイヤモンドが共生し、絡み合う光学効果が連続的な動きの感覚を与える新しいルノーエンブレムが中央に置かれ、新クリアレンズのテールランプ、新デザインのリアバンパーで上質かつ精悍な印象が高まったと感じる。

リアエンブレムは、ルノーの新世代デザイン「Nouvel'R」を採用。2つのダイヤモンドが共生し、絡み合う光学効果で連続的な動きの感覚を付与する
新しいデザインのリアバンパーを採用。空力スクープとアンダープロテクターでリアを視覚的に大きく見せている
クリアリアレンズを新採用
アルピーヌのエッセンスを採用した証となるエンブレムを装着

 さらに、車名にある「エスプリ アルピーヌ」の要素として、ブルーの「A」がアイコンとなっているエンブレムや、ドアを開けた時に思わずニンマリとしてしまうALPINEのキッキングプレート、アルピーヌのスポーティでエレガントなデザインを採用した17インチアルミホイール、「A」が刻まれたシートを装備。特にシートは、アスリートの体幹から発想を得たY字模様が入り、形状としてもより身体を包み込むようなものにアップデートしている。座面にはリサイクルPET(ポリエチレンテレフタレート)で作られた生地、側面にはリサイクルグレインコーティング生地を採用するなど、環境性能へのこだわりも伝わってくる。

 そのほかインテリアでは、インパネ中央のディスプレイが7インチから9.3インチへと拡大し、縦型となったことでマップなどがより見やすく進化。レザーステアリングにも、バイオ由来のポリエステル繊維で作られたグレインコーティング生地が採用されている。

スポーツシックで上質なエスプリ アルピーヌのインテリア。モダンでエレガントなエッセンスを取り入れている
センターディスプレイはこれまでの7インチから9.3インチの縦型に変更。メーターは10インチフルデジタルインストゥルメントパネルとなった
フロントシートは厚いフォーム層で包み込むとともに、横方向のサポートを向上させた。座面はリサイクルPET生地、側面はバイオ由来のポリエステル繊維で作られたリサイクルグレインコーティング生地(リサイクル素材と合成皮革を組み合わせたもの)を採用

 パワートレーンをはじめ、基本的なメカニズムは従来通り。ルノーがF1で培ったノウハウを駆使して独自に開発したE-TECHは、メインモーターであるEモーターとHSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2つのモーターに、1.6リッターの自然吸気エンジン、電子制御ドッグクラッチマルチモードATで構成される。ただ、システム出力が従来の140PSから143PSへと向上しており、燃費は0.2km/Lアップして25.4km/Lに。キャプチャーと揃って輸入車No.1低燃費の座についている。車両重量が約10kg軽量化されたことが大きく寄与しているとのことだが、出力アップにしても燃費アップにしても、本国からどこがどう変わったという具体的なアナウンスはないらしい。果たして走りには何か違いがあるのだろうかと注意を払いながら、試乗は横浜の市街地から首都高に乗り、東京湾アクアラインを渡って千葉へと向かった。

最高出力69kW(94PS)/5600rpm、最大トルク148Nm(15.1kgfm)/3200rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.6リッターエンジンを搭載。E-TECHシステムは、メインモーター(Eモーター)が最高出力36kW(49PS)、最大トルク205Nm(20.9kgfm)を、サブモーター(HSG)が最高出力15kW(20PS)、最大トルク50Nm(5.1kgfm)を発生する。トランスミッションは、F1で培ったノウハウを活用した電子制御ドッグクラッチマルチモードATを採用。WLTCモード燃費は25.4km/Lで、輸入車No.1の低燃費となっている(EV・PHEVを除く)
新しくなったルーテシアに試乗!

本当に基本スペックは従来通り? 細かいブラッシュアップを感じる走り

 発進はモーターでスッと滑らかに走り出すE-TECHのルーテシアは、電動車が低速域で感じやすい空走感のような頼りなさがなく、しっかりとした接地感とリニアなトルク感が持ち味だ。速度が上がるにつれて、頃合いをみて主役はエンジンに引き継がれ、モーターはアシストの役割を器用にこなしながら爽快な走りを披露してくれるところも、従来から変わっていないように思えた。ただ前回は軽快感とパンチの効いた加速フィールが楽しかったガソリンモデルと交互に乗り比べた影響があるのか、E-TECHではもっと重厚感や上質感が強調されていた記憶がある。それが今回は十分な軽快感と重厚感がとてもバランスよく引き出されていると感じ、特に高速クルージングではどっしりとした感覚よりも、軽やかでスポーティな味付けの方により魅力を感じていた。

高速クルージングは軽やかでスポーティな印象。安全装備も充実し、制御も申し分なかった

 また、モーター走行からハイブリッドに切り替わる際にエンジンがかかるタイミングも、エンジン音があまり目立たないようになっている気がしたのは偶然なのか計算なのか。帰路に後席で試乗した際にもそのように感じたので、何か静粛性に関するブラッシュアップもあったのかもしれないが、やはり具体的な変更点は届いていないということだった。とはいえ、ルーテシアにE-TECHが搭載された当初から、明確な時期は示されていないものの「ゆくゆくは手を入れていく部分の大まかなロードマップ」のようなものは伝え聞いているとのことだったので、何かが変わっているのは確からしい。

 はっきりとした違いを感じたのは、やはりフロントシートだ。背中から肩、二の腕にかけてのフィット感が高まっており、きついカーブや車線変更などで横方向のサポートがしっかりある。高速域での安心感もアップしているように感じた。

 そして、新たにリアクロストラフィックアラート(後退時車両検知警報)が追加され、先進の安全運転支援機能が充実しているのもルーテシアの強み。車線の中央を走るようアシストする「レーンセンタリングアシスト」は廃止となり、「レーンキープアシスト(車線逸脱防止支援)」が作動するということで、高速道路ではアダプティブクルーズコントロール(ストップ&ゴー機能付)とともにONにしてみたが、その精度はかなり高い。隣の車線から無理な割り込みがあった時などは、スーッと自然な減速で車間距離を合わせてくれて、とても感心したほどだ。これなら同乗者はまったく気づくことなく、快適に過ごせるに違いない。

モーターとエンジンの役割がスムーズに切り替わり、1300kgという車両重量も相まってか軽快に走る

 海辺にたたずむ「ブルーアイロンM」のルーテシアは、雲の切れ間から時折差してくる光に表情を変え、台風の影響で強く吹く風に立ち向かう勇敢なヒーローのように見える瞬間もあった。色のせいだけでなく、新しいルーテシアは確実にまた進化して、ルノー独自のフルハイブリッド・コンパクトとしての世界観は成熟期に入ってきたと実感する。なお、ルーテシアにとても似合うと評判のボディカラー、「ルージュフラムM NNP」はローンチ記念限定色として30台限定となっているので、狙っている人はお早めに。ほかに新色のボディカラー「グリ ラファルM」や「ブラングラシエ」「オランジュバレンシアM」が揃い、オシャレさも健在だ。

ボディカラーもシックなものからビビッドなものまでラインアップされているのがフランス車らしい
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。

Photo:安田 剛