試乗記

スバルのバッテリEV「ソルテラ」が大幅バージョンアップ! 出力の上がった4WDモデルを“群サイ”でいち早く試乗してきた

スバル「ソルテラ」

まるでフルモデルチェンジかのような大幅改良を実施

 2022年に登場したスバルのピュアEV「ソルテラ」が大幅な改良を受け、今年の4月にまず北米でその姿を初披露した。

 そして今回は日本仕様のプロトタイプモデルを、群馬サイクルスポーツセンターで試乗することができた。

 新しくなったソルテラは、その顔立ちを大きく変えていた。一番特徴的なのは、スバルのコアデザインである「Cシェイプヘッドライト」がなくなったことだろう。ちなみに、ちょっと細めな2段式の6連ライトはデイタイムランプで、その下にある四角いライトがヘッドライト。そしてこのデイタイムランプは、これから派生していく新しいBEVシリーズの共通デザインとなるようだ。

 また、ヘッドライトの性能で十分に光量がまかなえるという理由から、フォグランプは廃止になった。

 バンパーからは六角形グリルとフレームがなくなり、ノーズの6連星オーナメントはLED化されて光るタイプに。さらにはフェンダーアーチの樹脂モールが廃止され、標準モデルではこれをブラック塗装に、上級モデルではオプションで同色フェンダーを選べるようにして、一気にアーバンテイストを高めた。

 ボディサイズは4690×1860×1650mm(全長×全幅×全高)と変わらず、ホイールベースも2850mmで同じだ。サイズ的にはフォレスターよりも35mm長く、30mm幅広で、全高は80mm低い。いわゆるクーペスタイルのミドルサイズSUVだが、ホイールベースは180mmも長い。ちなみにグランドクリアランスは、フォレスターより10mm低い210mmだ。

ソルテラ ET-HS(4WD)。ボディサイズは4690×1860×1650mm(全長×全幅×全高)。車両重量は2000kg
ホイールベースは2850mm。足下は18インチアルミホイール(ガンメタリック塗装)と、フルエアロキャップ(ブラック塗装+シルバー塗装)を組み合わせる。装着タイヤはブリヂストン「ALENZA 001」(235/60R18)。オプションで20インチホイール&タイヤも設定
Cシェイプヘッドライトから6連デイタイムランプとなり、大きく印象の変わったフロント。リアはあまり大きな変更はされていないものの、六連星エンブレムが消え、「SUBARU」の文字だけとなった
フロントの六連星エンブレムは、ライトを付けると光る
上部が6連デイタイムランプ、下部がヘッドライト/ハイビーム。ウインカーは6連デイタイムランプの中央を分断するデザイン
フロントのランプ類点灯イメージ
ET-HSのみ、オプションでホイールアーチモールをボディ同色に変更できる

 この長いホイールベースに収まる、走行用バッテリも大きく進化した。具体的にはフロアトンネル部分まで使ってバッテリセルを96セルから104セルまで増やし、その容量を71.4kWhから74.69kWhまで拡大した。数値的にはわずかな容量アップに見えるが、それは新型バッテリの容量が現在の規格で算出されたからだという。

 気になる航続距離は、4WD(20インチ)で先代の487kmからプラス135kmの622kmまで増やされた。そしてこれがFWDモデル(18インチ)になると、567kmからプラス189kmの756kmまで伸びた。

 もちろんそれはWLTC値であり、現実に走らせれば季節や走行条件によってさらに距離は短くなるはずだが、それでも途中で1回急速充電を挟めば、かなりの距離を不安なく走れるだろう。ちなみにバッテリ容量が増えても、150kWの急速充電約30分で、先代モデル同様10~80%のチャージが可能だ。

運転席側に普通充電ポート、助手席側に急速充電ポートを備える。駆動用バッテリのスペックは391V/74.69kWh
FWDは駆動用モーター「2XM」をフロントに搭載。最高出力は167kW(227PS)、最大トルクは268Nm(27kgfm)。WLTCモードでの一充電走行距離は746km。4WDはFWDと同じ駆動用モーターの2XMをフロントに、「3XM」をリアに搭載。3XMのスペックは最高出力88kW(120PS)、最大トルク169N(17kgfm)。WLTCモードでの一充電走行距離は18インチタイヤ装着車が687km、20インチタイヤ装着車が622km

 さらに今回からはナビに連動して充電ポイントまでにバッテリを適正温度まで温める「プレコンディショニング機能」が初搭載された。これまでもバッテリを直接温める機能はあったが、今回からはさらにサーマルマネジメントを向上させたことで、-10℃の環境下でも30分で急速充電が可能になったという。

 ちなみにプレコンディショニング機能を使わないと、同じ環境下での充電時間は約55分。現行モデルだと、さらに5分増しの60分が必要になるとのことだった。

ソルテラ ET-HSのインパネ。差し色にブルーが用いられる
インパネ部分とインナードアハンドルにマルチカラーアンビエント照明を採用
ブラックステッチ入りの本革巻ステアリング。左スポークにオーディオ類の操作スイッチを、右スポークにACCなどの操作スイッチを配置
メーターは7インチTFT液晶ディスプレイを採用。X-MODEの表示などがカラーで鮮やかに描写される
高画質な14インチセンターインフォメーションディスプレイを全車標準装備。シンプルなレイアウトとメニュー階層を採用したほか、下部に設定メニューを集約。一部のエアコン操作スイッチがソフトスイッチとなった
コンソールまわりは大幅な変更がなされ、2台のスマートフォンを同時に充電できるワイヤレスチャージャーが設置された。2段構造となっており、USB Type-Cのポートは下部に配置される
シフトはダイヤルタイプ。X-MODE(4WDのみ)やドライブモードのスイッチを配置する
ET-HSのシートはブラック/ブルーの本革(ナッパレザー)表皮を採用。ステッチ色はダークグレー
ラゲッジ
6:4分割可倒リアシートでアレンジ可能
パノラマムーンルーフ(電動ロールシェード付)は4WDモデルで選択可能なオプション装備

現行/新型4WDモデルを比較試乗

 今回の試乗は、新旧4WDモデル(20インチ)の比較となった。新型ソルテラに乗り込んでまず目を引いたのは、14インチに拡大されたセンターディスプレイだ(旧型は12.3インチ)。大きなタッチパネルながらもエアコンの調整ダイヤルや、オーディオのボリュームダイヤルおよびON/OFFスイッチが物理スイッチとなっているのは扱いやすそう。センターコンソールにスマートフォンを2台並列して置けるのも今っぽくていい。もちろん双方とも、ワイヤレスチャージャー付きだ。

新型ソルテラ(プロトタイプ)に最速試乗!

 天候は、あいにくの雨模様。“群サイ”が舞台ともあってまずはノーマルモードからゆっくり走らせた新型ソルテラの印象は、しっとりとした上質感が際立っていた。

 物理的にはセンタートンネルにまで敷き詰めたバッテリの容量アップが、この乗り味に効いているのは確かだろう。そして体感的にも、その重量を支える足まわりの動きが洗練されていた。

 EVはバッテリを床下に搭載する分だけ重心が低くなり、重厚感やコーナリング時の安定感を出しやすいが、反面エンジン車に比べてドライバーの頭と、重心位置までの距離が長くなる。その分路面のアンジュレーションやカーブの折り返しで頭が振られやすくなるのだが、今回はそこを足まわりで抑えたのだという。

 具体的にはフロントのバネレートを高め、相対的にリアをソフトにして、減衰力をバランスさせた。新型となってボディ剛性を引き上げたことで、サスペンションのチューニングしろが稼げたのだという。

低重心かつ足まわりの動きが洗練されており、走りは上質

 アクセルレスポンスは、意外にも穏やか系だ。特に素早く踏み込んだときなどは、トルクの追従が一瞬遅れる。

 とはいえこれは、あえての制御だ。新型ソルテラはフロントのモーターが先代の80kW(FWDは150kW)から、167kW(227PS)へと出力アップしている(FWDモデルも同数値)。

 合わせてリアモーターも80kW/169Nmから88kW(120PS)/169Nmまで高出力化されているから、ノーマルモードでは急激なパワーの立ち上がりを防いでいるというわけだ。

 よってモードを「SPORT」へと転じれば、そのレスポンスはとてもリニアになる(リアの駆動力も若干上がるとのこと)。そしてこれを丁寧に扱えば扱うほど、つま先の動きに一致した、極めてスムーズな身のこなしが得られるのだ。

モードを変更すればスムーズな身のこなしも可能

 というわけで、新型ソルテラのアクセルを踏み続けていけば、無音のもとにどんどん速度が上がっていく。群サイの曲がりくねった道をものともせずに曲がり、雨に濡れた路面でも確実にトラクションをかけてくれるのだが、正直その制御が洗練され過ぎていて、実力を測りかねたというのが本音だ。

 新型ソルテラの4WD制御は、今回からアクセルやステアリングといった、ドライバーの操作状況から先読みをするフィード・フォワード制御になった。その分応答遅れがなくなり、極端に言えばただ普通に運転しているだけで、クルマは素直に曲がり、滑らかに加速してくれる。

 しかしその制御があまりにこなれ過ぎているのか、かなり速い領域で走らせていても、その速さに対してあまり実感が湧かないのだ。そういう意味では乗り心地が少し雑でも、操舵初期から手応えのある現行モデルの方がスピードに身構えられた。

現行モデルにも走りのよさは十分にある

 確かにこれだけのパワーを滑らかに路面へと伝える4WDの制御は大したものだと思う。しかしこの速さに対してはそろそろ可変ダンパーを用意し、加速度や絶対Gに対して減衰力をコントロールして、ドライバーに安心感を与えることも必要だと思えた。

 また、ブレーキパッドの効き方には、若干改善の余地を感じた。通常は回生ブレーキが主体だからなのか、いざパッドで止める領域だと若干ジャダーを感じ、ABSが入るとこれをリリースしにくい場面があった。とにもかくにもクルマが重たく、そして速すぎるのだろう。もう少しパッドの作動温度領域を低めるか、ブレーキキャパシティを上げてもいい気がする。

 常用域であればペダルタッチこそ柔らかめだが十分な減速が得られるし、パドルを引けば5段階で回生ブレーキを調整することも可能だから、スピードコントロールはしやすいだろう。しかしながら緊急回避を考えれば、もう少し精度を詰めてほしいと思えた。

 総じて新型ソルテラは、フルモデルチェンジと言ってもよいほどの進化を果たした。果たしてその高性能ぶりが、どのように一般道でのドライバビリティへとつながるのかが、今から本当に楽しみだ。

新型ソルテラは一般道では果たしてどのような走りを見せるのだろうか

 さらにはよりスポーティなバージョンとしてショートホイールベースの「アンチャーテッド」が、アウトドア志向のモデルとしては「トレイルシーカー」が発売される。そういう意味で言えば今回のソルテラは標準的な仕様になるわけで、バランスの取れた中庸なセッティングになっているのも頷けた。

 むしろこうした急激なBEVのラインアップの拡充に対して、充電インフラを整えていくことの方が急務だろう。2024年から検討を開始したディーラーの充電器導入(150kW)は、全国でもその中核となる11特約店が、16基の導入を進めたに過ぎない。

 インフラと販売数はクルマの両輪だ。どちらが欠けていても、普及は伸びていかないだろう。走行距離も伸びた、性能も上がった。あとは全国のディーラーで、気軽に150kW充電をできるようにすることが、ソルテラの販売を促進する、一番の材料になるはずである。

急な下り坂を一定速度で走るX-MODEの機能も体感
見づらい車両周辺の状況確認をカメラでアシストするマルチテレインモニター機能も採用されている
ラリードライバー新井敏弘氏による新型ソルテラの同乗走行や群サイのタイムアタックも行なわれた
新型ソルテラ
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学