試乗記
500台限定の「S210」に乗ることでSTIが考えるボディ補強やチューニングの方向性が見えた
ワークスチューニング試乗会2025【STI編】
2026年1月4日 08:00
STIが用意したのは、コンプリートカーの「S210」と、そのベース車である「WRX S4 STI スポーツ R EX」にSTIのパーツをフルに装着した車両だ。
STIがニュルに挑戦する理由とは
STIがコンプリートカーを手がけ続けるのには理由がある。ボクサーエンジンとシンメトリカルAWDによるスバル車の高い性能を世に証明するため、スバルはWRCをはじめさまざまなモータースポーツに取り組んできた。モータースポーツも商品開発もテーマは同じで、意のままに操れる性能を実現することを目指している。
クルマにとってもっとも大切なことは、誰がどこで乗っても意のままに動くことだ。それは楽しいだけではなく、安心、安全を提供することにつながると考えており、STIのコンプリートカーはまさにそれを目指している。
その究極の姿こそ、ニュルブルクリンク24時間レースにあると考えている。1周約25kmで300mもの高低差と170以上のコーナーがあり、路面も荒れている世界有数の過酷なサーキットを、夜間も含め4人のドライバーが交代で24時間走り切れる性能がとても重要になってくるからだ。
それを踏まえたS210の商品コンセプトは、ニュルブルクリンク24時間レースを走り切るレースカーをコンプリートカーで実現した、レースマシン直系のスポーツセダンだという。
全面的にファインチューン
500台限定のこのクルマが量産車に対して大きく異なるポイントは3つ。1つめがSシリーズ初となる、2ペダル専用のパワーユニットだ。量産では275PSのエンジンをS210では300PSまで引き上げている。
吸排気を設計し直して吸気効率を上げ、そこで生まれた自由度を有効に使ってECUを再セッティングしている。実際にアクセルのツキがよいので、体感的には25PS増という数値以上に上がっているように感じられる。
そのレスポンスが向上したエンジンに合わせてCVTも専用に適合を図り、量産と同じようにノーマルモードは無段変速、Sモードは7段のステップで、S+モードではさらにアグレッシブに高回転まで使うようにされている。
実際に乗ると、ノーマルではあたかも大排気量のクルマに乗っているような感覚となり、量産だとキックダウンするところでも、そのまま粘って引っ張っていく。Sモードにすると小気味よい変速を味わえる。S+モードを選ぶと、ターンインでセンターデフの拘束をゆるめることで回頭性を上げるようなことも行なっている。
2つめは、タイヤのワイド化と専用のシャシーチューニングによる操舵応答性と安定性の向上だ。255/35R19サイズのパイロットスポーツ4Sには、リム幅を8.5Jから9.0Jに広げた、フレキシブルパフォーマンスホイールの考え方を盛り込んだホイールを組み合わせる。従来はフロントだけだったところ、今回はリアにもそれを用いたという。
Sシリーズ初となる電子制御サスペンションも、ZF製ダンパーのバルブの制御がS210専用にリセッティングされている。また、フロント6ポッドのブレンボ製キャリパーや前後ドリルドローターというのもSシリーズ初となる。電動ブースターを専用にスポーツカーのようにチューニングし、踏力で制動力をコントロールしやすい特性としている。加えて、車体およびシャシーには、STIお得意のフレキシブルパーツ、フロントはドロータワーバー、ドロースティフナーリアなどが装着されている。
3つめは、機能と洗練された意匠を意識した専用の内外装だ。新設計のガーニッシュやエアロパーツでスポーティさを洗練させたほか、インテリアも専用の上質なマテリアルにステッチを施すなどして、かなり意匠的にもこだわりを持って仕立てられたことが伝わってくる。
コクピットにはカーボンバックレストのインパクト満点の専用シートがドアを開けた瞬間からドライバーを迎えてくれる。ツヤ黒のパネルに赤のワンポイントを配して、スポーティで上質な雰囲気を演出しているところもいい。
絶品のドライブフィール
ドライブフィールはもう文句のつけようがないほどすばらしい。まずエンジンがいい。持ち前のスムーズな回転フィールにより磨きがかかり、6000rpm+αまでキレイに回る。ダイレクト感があり繊細なアクセル操作に的確に応えてくれるところもいい。それにはCVTに手を加えたことも効いているに違いない。
足まわりは無駄な動きを出すことなく、振動も瞬時に収束させるのでフラットライド感がある。動きに一体感があるうえに快適性も高い。専用のシートもその一端を担っているに違いない。
件のVTDの制御は、インディビジュアルモードにしてほかの項目は変えずにそこだけスポーツに切り替えると、センターデフによる走りの変化がより明確になる。もともとVTD自体も回頭性に優れるところ、さらに回頭性が高まるのがよく分かる。
とにかく走りが絶品で感心した。究極のボクサーエンジンに意のままのハンドリング、高性能、快適性、上質感のすべてを兼ね備えていて、統一感を持って開発されたことがうかがえた。スポーティな走りから余裕のクルージングまで、どんなシーンでも高い満足感を与えてくれそうだ。
STIがニュルで行なっていることは、コントロール性を高め意のままに操れるようにすることによって、安全で速いクルマを作れるということであり、それをユーザーにもコンプリートカーを通じて感じてもらえるとありがたいと考えているという。
高価ながら限定500台には10倍を超える応募があったとのことで、このクルマを購入できた人は本当に幸せだと思う。落選した大勢の人たちはさぞかしガッカリしていることだろうが、そんな方々のためにというべきか、STIはちゃんと次なる一手を用意している。
「WRX S4」の最上級グレード「STI Sport R EX」にSTIパーツを装着
STIが用意していたもう1台の試乗車が、まさにその落選してしまったユーザーが限りなくS210に近づけられる仕様で、考え方としてはS210のコンセプトと同じ方向性でまとめられたものだ。
WRX S4 STI Sport R EXに、STIで市販しているパーツをフルで装着するとともに、試験中の3つのパーツも装着されていた。具体的には、ドアピラーガニッシュ、トランクを開けたところに装着するフレキシブルトランクバー、ボンネットのフロントガラス側に装着するフードガーニーなどだ。
量販モデルにもこれだけ手を加えると、もちろん到達点はそれなりに違うが、同じ考え方の延長線上で開発されたことが、S210と乗り比べてよく伝わってきた。



























