試乗記

ホンダの新型「スーパーワン」試乗 本気のEVスポーツは一度体験してみる価値あり

5月に発売されたばかりのAセグメントの小型EV(電気自動車)「スーパーワン」に乗った

試乗コースはまさかの箱根のワインディング

 イギリスのGoodwood Festival of Speed 2025で「Super-One(スーパーワン)」の前身となる「Super EV CONCEPT」がお披露目されてまもなく1年。その間に日本ではプロトタイプが日本のJapan Mobility Show 2025で登場。その後、テストコースや袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて試乗した模様をお伝えしてきたが、今回はいよいよ公道を走り出す。ホンダが選んだ試乗コースはまさかの箱根のワインディング。EVならばきっと東京か横浜あたりでサラッと乗って終わりなのだろうと高を括っていた。走りに相当の自信があるのだろう。

 試乗会場に並べられたスーパーワンには白ナンバーが装着されていた。サイズは3580×1575×1615mm(全長×全幅×全高)。軽自動車規格はそれが3400×1480×2000mm以下であるから白ナンバーは当然。ちなみにベースとなった軽自動車の「N-ONE e:」のサイズは3395×1475×1545mm。ワイドフェンダーばかりが注目されがちだが、全体的に程よくサイズアップを果たしボリュームを出している。軽自動車の枠を飛び越えたこのバランスは、たしかによく引き合いに出されるシティブルドッグの再来。これなら箱根も似合うか!?

「N-ONE e:」をベースに開発された小型EV「スーパーワン」(339万200円)。ボディサイズは3580×1575×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mm。N-ONE e:から185mm長く、100mm広く、70mm高いサイズ
搭載するモーターはベースモデルのN-ONE e:、スーパーワンともにMCF7型だが、最高出力はN-ONE e:の47kW(64PS)に対して70kW(95PS)まで高められ、最大トルクは162Nm(16.5kgfm)で共通。一充電走行距離(WLTC)はN-ONE e:が295km、スーパーワンが274km
ダイナミックなフェンダーなど特徴的なスタイルから現代版の「シティターボII(通称ブルドッグ)」とも称される
N-ONE e:のプラットフォームをベースにトレッドは40mm広げられ、1345mmのトレッドと大径ワイドタイヤの採用により、旋回時や高速走行時でも安定感のあるハンドリング性能を実現。足下では15インチホイールに横浜ゴム「アドバンフレバ(ADVAN FLEVA)」(185/55R15)を組み合わせる
インテリアでは専用スポーツシートを採用するほか、「BOSEプレミアムサウンドシステム」をホンダの小型モデルとして初めて標準装備。BOSE独自の音響技術「Dynamic Speed Compensation」を採用し、高品質なサウンドを実現するとともにアクセル操作に応じて仮想のエンジンサウンドを車内に響かせるアクティブサウンドコントロール機能も備わる

EVに対する価値観が変わる

果たしてワインディングでどのような走りを見せてくれるのか?

 試乗会場となる「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」から走り出す。この場所は敷地内から出てすぐの場所がかなり荒れた県道なのだが、そこでまずスーパーワンがタダものじゃないことが伝わってくる。低速域における突き上げはギリギリ許せるかなというレベル。かなりスポーツ方向に振っていることは明らかだ。まずはEVらしく静かに丁寧に走ってみるかと、ECONやCITYモードを選択してはみたが、足まわりは固定。コンパクトクラスだから減衰力を調整してくれとは言わないが、ちょっとそんなアイテムが欲しくなったのは事実である。

 そんな中でまず感心したのはCITYモードが生み出すワンペダルドライブだった。完全停止まで受け入れるこのモードは、パドルによって回生ブレーキの効き具合を4段階に調整できるところがうれしい。ワンペダルドライブは特にアクセルを抜く方向の操作を乱暴にやるとギクシャクしてしまうが、慣れないうちは回生ブレーキをユルめに設定すれば、多少乱暴にアクセルを扱ってもスムーズに動く。

CITYモードではワンペダルドライブが可能

 一方、ECONモードはコースティングの良さが体感できる。完全に回生ブレーキを抜くような極端な設定は安全も考えてやっていないそうだが、他のモードよりも明らかに転がっていく感覚があるこのモードは、電費を稼ぎたい時に役立ちそうな雰囲気。このように、さまざまなドライバーの要求に応えてくれる設定の広さ、これがまずスーパーワンの良さのように感じた。

 ワインディングに入り、いよいよスーパーワンの真骨頂ともいえるBOOSTモードのスイッチを入れてみる。ノーマルモードでは最高出力47kW。だが、BOOSTモードに入れると70kWまで引き上げられることになるため、上の伸び感は別物になる。その上で仮想有段シフト制御を盛り込み、BOSEプレミアムサウンドシステムを使った音の演出が始まるのだ。4気筒エンジン、7速DCTをイメージしたというそれは、野太いサウンドと変速ショックをあえて与えることで、今まで通りの感覚でリズミカルにワインディングを駆け抜けることができる。コーナーに差し掛かる前に左のパドルを弾きブリッピングしながらシフトダウン。立ち上がりはパワーメーターの針の動きを注視しながら、レブリミットに当たらないように走る……、なんていう一連の動きを当たり前のように行なえる。正直、EVであることを忘れてしまうくらいだった。

メーター表示。左がノーマルモード、右がBOOSTモード

 シャシーはこの状況に見事にマッチした仕上がりで、ワインディングにおける大入力をしっかりとしなやかに受け止めつつコーナーを旋回していく。その素直な動きはまさにかつてのホットハッチであり、シティターボIIブルドッグに通じている。けれどもかつてのように危うい動きをするようなことはない。重心高はN-ONE RSの約590mmから約520mmへとダウン。N-ONE e:に対しアルミ鍛造延長ロアアーム、ナックル、ブレーキキャリパー&ローター(13から14インチへ)、バネ&ダンパー(リアも)、スタビライザー、ブッシュを変更したことも効いているのだろう。

 リアまわりはHビームを強化しハブの間にスペーサーを入れたほか、コンプライアンスブッシュの変更も行なっている。また、リアドラムのピストン径はφ15からφ19mmへとアップ。これらにより50mmのワイドトレッドを実現。接地点横剛性はフロント約37%、リア約57%、N-ONE RSよりも高められた。ここまでやって車重1090kgの軽快さを実現しつつ、けれども四輪がしっかりと接地し、かなりレベル高くコーナーをクリアしてみせるという芸当をみせてくれる。今回の試乗ステージとなった芦ノ湖スカイラインは、コーナーからコーナーまでの直線がかなり短い区間が多いのだが、その間は持ち前のトルクで瞬時に加速してくれるところもおもしろい。

ワインディングでは車重1090kgの軽快さが感じられ、持ち前のトルクで瞬時に加速してくれる

 唯一気になったのはこのトルクの出方。コーナー立ち上がりでトルクをかけると、イン側のタイヤがやや空転気味になるほどトルクフルであり、その際に狙ったラインから少し外れていく感覚もある。開発陣に聞けばトルクの立ち上がりはこれでもやや抑えているそうで、VSA(スタビリティコントロール)が抑え込みにもいくのだが、追いつかないシーンもあるのだとか。次に求めるはタイヤのグリップアップか、はたまたLSDか!? そんなことを思わせるくらいパンチあるトルク感が逆にたまらなくもある。良い意味でヤンチャさが残っていてついつい笑顔になってしまった。

ときにパンチあるトルク感にタイヤが空転気味になることも

 ここまでおもしろいクルマに仕上がってはいるが、いま世間はまだこのクルマを手放しでは喜んでいない。一充電走行可能距離がN-ONE e:の295kmに対して274kmに減っているだとか、ヒートポンプを採用していないから冬はもっとそれがダウンするとか、急速充電が50kWまでしか受け入れないのはどうか、なんていうネガな話も耳にする。

 けれども、ここまで走りに対して真っ直ぐに向き合ったEVなら、いつかそれも許してはくれるのではないだろうか? できるだけ軽くというこの考えは、まるでかつてのTYPE-Rを作っているかのよう。開発陣はみな仕事が楽しかったと語り、実際に購入してしまったメンバーも多かったと聞く。それくらいスーパーワンはおもしろい。ICE派スポーツカーユーザーにはまだまだ受け入れられづらいのだろうが、この本気のスポーツを一度体験してみて欲しい。きっとEVに対する価値観が変わるはずだから……。

会場にはホンダアクセス、無限仕様のスーパーワンも展示

会場には標準車以外にホンダアクセスの純正アクセサリーによるエクステリアコーディネイト「BULLDOG STYLE(ブルドッグ スタイル)」モデルも展示。シティ・ターボIIの書体を再現した「BULLDOG」デカールをはじめ、スポーティな走りを想起させる「テールゲートスポイラー」、発光色のイエローとクリアの切り替えが可能な「LEDフォグライト バイカラー」、ベルリナブラックの「15インチアルミホイールME-027」、スーパーワンの車名プレートも付属する「ブラックエンブレム」を装着。インテリア向けとしてはスポーツペダルやUSB PDチャージャー(Type-C)なども用意される
ホンダアクセスでは6月下旬に発売するV2H充放電器「ホンダ V2H スタンド」(110万円)とともに、車両の充電残量や充電状況をLED点灯で確認できる「充電インジケーター」や「普通充電器(Honda EV Charger)」もラインアップ
こちらは無限(M-TEC)アイテムを装着したスーパーワン。「エアロボンネット」「フロントアンダースポイラー」「フロントオーバーフェンダー」「サイドガーニッシュ」「リアオーバーフェンダー」「リアアンダースポイラー」「カーボンドアミラーカバー」「カーボンテールゲートスポイラー」に加え、「リッドベースデカール」や16インチ鍛造アルミホイール「FC5」、「パフォーマンスダンパー」などをセット
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学