試乗記
ホンダの新型「スーパーワン」試乗 本気のEVスポーツは一度体験してみる価値あり
2026年6月12日 10:59
試乗コースはまさかの箱根のワインディング
イギリスのGoodwood Festival of Speed 2025で「Super-One(スーパーワン)」の前身となる「Super EV CONCEPT」がお披露目されてまもなく1年。その間に日本ではプロトタイプが日本のJapan Mobility Show 2025で登場。その後、テストコースや袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて試乗した模様をお伝えしてきたが、今回はいよいよ公道を走り出す。ホンダが選んだ試乗コースはまさかの箱根のワインディング。EVならばきっと東京か横浜あたりでサラッと乗って終わりなのだろうと高を括っていた。走りに相当の自信があるのだろう。
試乗会場に並べられたスーパーワンには白ナンバーが装着されていた。サイズは3580×1575×1615mm(全長×全幅×全高)。軽自動車規格はそれが3400×1480×2000mm以下であるから白ナンバーは当然。ちなみにベースとなった軽自動車の「N-ONE e:」のサイズは3395×1475×1545mm。ワイドフェンダーばかりが注目されがちだが、全体的に程よくサイズアップを果たしボリュームを出している。軽自動車の枠を飛び越えたこのバランスは、たしかによく引き合いに出されるシティブルドッグの再来。これなら箱根も似合うか!?
EVに対する価値観が変わる
試乗会場となる「ザ・プリンス箱根芦ノ湖」から走り出す。この場所は敷地内から出てすぐの場所がかなり荒れた県道なのだが、そこでまずスーパーワンがタダものじゃないことが伝わってくる。低速域における突き上げはギリギリ許せるかなというレベル。かなりスポーツ方向に振っていることは明らかだ。まずはEVらしく静かに丁寧に走ってみるかと、ECONやCITYモードを選択してはみたが、足まわりは固定。コンパクトクラスだから減衰力を調整してくれとは言わないが、ちょっとそんなアイテムが欲しくなったのは事実である。
そんな中でまず感心したのはCITYモードが生み出すワンペダルドライブだった。完全停止まで受け入れるこのモードは、パドルによって回生ブレーキの効き具合を4段階に調整できるところがうれしい。ワンペダルドライブは特にアクセルを抜く方向の操作を乱暴にやるとギクシャクしてしまうが、慣れないうちは回生ブレーキをユルめに設定すれば、多少乱暴にアクセルを扱ってもスムーズに動く。
一方、ECONモードはコースティングの良さが体感できる。完全に回生ブレーキを抜くような極端な設定は安全も考えてやっていないそうだが、他のモードよりも明らかに転がっていく感覚があるこのモードは、電費を稼ぎたい時に役立ちそうな雰囲気。このように、さまざまなドライバーの要求に応えてくれる設定の広さ、これがまずスーパーワンの良さのように感じた。
ワインディングに入り、いよいよスーパーワンの真骨頂ともいえるBOOSTモードのスイッチを入れてみる。ノーマルモードでは最高出力47kW。だが、BOOSTモードに入れると70kWまで引き上げられることになるため、上の伸び感は別物になる。その上で仮想有段シフト制御を盛り込み、BOSEプレミアムサウンドシステムを使った音の演出が始まるのだ。4気筒エンジン、7速DCTをイメージしたというそれは、野太いサウンドと変速ショックをあえて与えることで、今まで通りの感覚でリズミカルにワインディングを駆け抜けることができる。コーナーに差し掛かる前に左のパドルを弾きブリッピングしながらシフトダウン。立ち上がりはパワーメーターの針の動きを注視しながら、レブリミットに当たらないように走る……、なんていう一連の動きを当たり前のように行なえる。正直、EVであることを忘れてしまうくらいだった。
シャシーはこの状況に見事にマッチした仕上がりで、ワインディングにおける大入力をしっかりとしなやかに受け止めつつコーナーを旋回していく。その素直な動きはまさにかつてのホットハッチであり、シティターボIIブルドッグに通じている。けれどもかつてのように危うい動きをするようなことはない。重心高はN-ONE RSの約590mmから約520mmへとダウン。N-ONE e:に対しアルミ鍛造延長ロアアーム、ナックル、ブレーキキャリパー&ローター(13から14インチへ)、バネ&ダンパー(リアも)、スタビライザー、ブッシュを変更したことも効いているのだろう。
リアまわりはHビームを強化しハブの間にスペーサーを入れたほか、コンプライアンスブッシュの変更も行なっている。また、リアドラムのピストン径はφ15からφ19mmへとアップ。これらにより50mmのワイドトレッドを実現。接地点横剛性はフロント約37%、リア約57%、N-ONE RSよりも高められた。ここまでやって車重1090kgの軽快さを実現しつつ、けれども四輪がしっかりと接地し、かなりレベル高くコーナーをクリアしてみせるという芸当をみせてくれる。今回の試乗ステージとなった芦ノ湖スカイラインは、コーナーからコーナーまでの直線がかなり短い区間が多いのだが、その間は持ち前のトルクで瞬時に加速してくれるところもおもしろい。
唯一気になったのはこのトルクの出方。コーナー立ち上がりでトルクをかけると、イン側のタイヤがやや空転気味になるほどトルクフルであり、その際に狙ったラインから少し外れていく感覚もある。開発陣に聞けばトルクの立ち上がりはこれでもやや抑えているそうで、VSA(スタビリティコントロール)が抑え込みにもいくのだが、追いつかないシーンもあるのだとか。次に求めるはタイヤのグリップアップか、はたまたLSDか!? そんなことを思わせるくらいパンチあるトルク感が逆にたまらなくもある。良い意味でヤンチャさが残っていてついつい笑顔になってしまった。
ここまでおもしろいクルマに仕上がってはいるが、いま世間はまだこのクルマを手放しでは喜んでいない。一充電走行可能距離がN-ONE e:の295kmに対して274kmに減っているだとか、ヒートポンプを採用していないから冬はもっとそれがダウンするとか、急速充電が50kWまでしか受け入れないのはどうか、なんていうネガな話も耳にする。
けれども、ここまで走りに対して真っ直ぐに向き合ったEVなら、いつかそれも許してはくれるのではないだろうか? できるだけ軽くというこの考えは、まるでかつてのTYPE-Rを作っているかのよう。開発陣はみな仕事が楽しかったと語り、実際に購入してしまったメンバーも多かったと聞く。それくらいスーパーワンはおもしろい。ICE派スポーツカーユーザーにはまだまだ受け入れられづらいのだろうが、この本気のスポーツを一度体験してみて欲しい。きっとEVに対する価値観が変わるはずだから……。































