試乗記

ホンダの新型BEV「スーパーワン」サーキット初ドライブ 軽量かつ低重心で手の内に収めやすい仕上がりに注目!

小型BEVの「スーパーワン」をサーキットで試す機会を得た

遊べるコンパクトBEVが登場!

 令和版シティターボIIブルドックとも称されるホンダのBEV(バッテリ電気自動車)スポーツ「Super-ONE(スーパーワン)」の正式発表、発売が5月下旬となることが明らかになった。それと同時に行なわれた袖ヶ浦フォレストレースウェイにおける先行試乗会の模様をお伝えする。

 そもそもは、イギリスで開催された自動車イベントGoodwood Festival of Speed 2025にて「Super EV CONCEPT」が走り出したのをきっかけに、その後はインドネシアではGIIAS 2025に出展。

 日本のJapan Mobility Show 2025では、その名を「Super-ONE PROTOTYPE(スーパーワン プロトタイプ)」として登場したことでも知られている1台だ。以前Car Watchでもテストコースにおける試乗をお伝えしたことがあるし、ホンダアクセスや無限といったチューニングモデルのレポートなどをご覧いただいた方々もいらっしゃるだろう。

 今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイでお披露目されたクルマは、まずこれまで見たことのないカラーが加わったことが新鮮だった。訴求色となる「ブーストバイオレット・パール」は雷が上へ上へと伸びる時に紫に発光するのをモチーフにしたもので、かなりのインパクトを与えるもの。

 それ以外には、「プラチナホワイト・パール」「クリスタルブラック・パール」「チャージイエロー」「ルミナス・グレー」のモノトーンが存在。ホワイト、イエロー、グレーにはルーフやミラーがブラックになる2トーンもラインアップされる。今回はブラック以外の4色が会場に並べられていたが、どれもワイドボディを際立たせる存在感があった。

BOSEサウンドシステムを試聴するために用意されていた車両のボディカラー“チャージイエロー”は、BEVの「ホンダ e」にも採用されていたボディカラーだそう

走りを楽しくするためのこだわりが満載

 新たに分かったことはそれだけじゃない。今回は車両重量が1090kgであることが明かされたのだ。基本コンポーネントを同じとする「N-ONE e:」が1030kgであることを考えると、普通車にすることで+60kgはまずまずの数値だろうか? 加速にも航続距離にもハンドリングにも効くというこの車両重量は、普通乗用車のBEVとしてはかなり軽い部類で、他の同クラスよりも300kg以上のアドバンテージがあるとアピールをしていた。

 これはベースとなる軽自動車のN-ONEで培ってきた軽量化技術があってこそ。結果として一充電走行距離は274kmを達成している。N-ONE e:が295kmであったことを考えると許せる範囲内ともいえそうだ。ちなみにベースとなるN-ONE e:とバッテリ容量は変わらずの82.7Ah(約29.6kWh)であり、タイヤを155/65R14から185/55R15へとアップしつつ、ハイグリップにしていることでエネルギー損失があるのだろう。

装着タイヤは横浜ゴムの「アドバンフレバ(ADVAN FLEVA)」で、サイズは185/55R15

 だが、走りは別物になるだろう。N-ONE e:に対し フロントまわりはアルミ鍛造の延長ロアアーム、ナックル、ブレーキキャリパー&ローター(13から14インチへ)、バネ&ダンパー(リアも)、スタビライザー、ブッシュを変更。一部に補強も与えているという。

 リアまわりはHビームを強化しハブの間にスペーサーを入れたほか、コンプライアンスブッシュの変更も行なっている。また、リアドラムのピストン系はφ15からφ19mmへとアップしている。これらの対策により普通車サイズの50mmワイドトレッドを実現。接地点横剛性はフロント約37%、リア約57%と「N-ONE RS」よりも引き上げられている。

高性能シャシーがおごられている

 そのうえでバッテリを車体の中心に置いたことが、重心高を一気に下げることにひと役買っている。重心高はN-ONE RSが約590mmなのに対して約520mmへと下がった。こうした相乗効果が走りにどう好影響を与えてくれるのかは楽しみだ。

 パワーユニットは基本的に同様ながらもBOOSTモードを追加したところが「スーパーワン」らしさ。ノーマルモードでは最高出力47kWだが、BOOSTモードに入れると70kWまで引き上げられる。それと同時に標準装備となるBOSEプレミアムサウンドシステムによって4気筒エンジン車のようなサウンドが楽しめるようになり、仮想有段シフト制御により7速DCTのようなキレのある変速ショックやG変化が体感できるようになる。

BOOSTモードにするとメーターが紫に!
ステアリングの右側に「BOOSTモード」にするボタンを備えている
BOOSTモードで左のパドルシフトを長引きするとマニュアルモードになり、自分でソフトチェンジをしないとレブリミットに当たったかのような演出も備えている。遊び心が満載だ

 インテリアは確実なホールド性を実現してくれそうなスポーツシートにはじまり、本革巻きステアリングやBOOSTスイッチなど、ベースモデルとはかなり異なる仕上がり。Google搭載のナビやBOSE(コンパクトカーとは思えぬ広がりあるサウンド!)、そしてロングイルミネーションを与えたところも魅力的。

 ドアインナーやシフトまわりなどややチープにも見えるが、この手のクルマならイジる楽しみが残されていると捉えるべきかもしれない。事実、ホンダアクセスからはカーボンパーツが発売されているし、サードパーティからも続々とアイテムがきっと出てくることだろうから……。

内装はベースのN-ONE e:とほぼ同じだが、アンビエントライトなど手が加えられている
前席はサイドホルスター形状と内部硬質パッドにより、体をシートに収めやすく、ドライビング中の姿勢を維持しやすくする形状を新たに開発
スポーティな仕上げとはいえ、ホンダNシリーズの利便性の高さはそのまま継承しているのもうれしいポイント
後席を倒せば大きなラゲッジスペースとなるので、ヘルメットやレーシングスーツなどサーキット走行で必要となるレーシングギアも余裕で積める

そんな前知識を入れたところでいよいよ試乗する

 サーキットとはいえ、今回はコース上にパイロンスラロームが置かれているなど、全開走行とはいえないが、できるだけその仕上がりを見極めてみたいと思う。まずはノーマルモードから走ってみると、当然ながらもBEVらしく静かに速度を重ねていく感覚に溢れている。

まずはホンダのスタッフと編集部員を後席に乗せ、3人乗車の状態でスタート。3人乗車の割にはよく走る

 登り勾配に差し掛かるとちょっと力不足かなとも思えるが、軽自動車と同じ出力で重たくなっているのだから当然の流れなのかもしれない。だが、ゆっくり流すならコレで必要十分なのは間違いない。乗り心地はその状況にもマッチするように、しなやかさが溢れている印象がある。

 足まわりは引き締めすぎずに程よく仕立てられた感覚があり、ガチガチのスポーツではないことが伝わってくる。それでいてコーナリングはよく踏ん張るし、スラロームをやってみてもキビキビとクルマの向きを変えていく。重心の低さとワイドトレッドがあるからこそ、こうした余裕が生まれるのだろう。

コーナリングはよく踏ん張るし、スラロームてもキビキビとクルマの向きを変えられる

 そんな仕上がりを確認したのちにBOOSTモードに入れてみる。突如エンジンが起動したかのような野太いサウンドはなかなかのインパクトだ! 加速を続ければ有段シフトの感覚がそのまま展開されている。パドルもついているためそれを操作しても楽しめる。ダウンシフト時にはブリッピングもしてくれるし、仮想レブリミットに当たれば加速が途切れてしまうほど忠実に再現されているところが面白い。

BOOSTモードに入れると野太い排気サウンドが車内に流れる

 そして何より好感触だったのはやはり出力のアップだった。レスポンスが引き上げられ、さらに高速域へ向けて伸び感もかなり高まることで、このクルマにしては広い袖ヶ浦フォレストレースウェイでも存分に楽しい。

 登り勾配であったとしても不満なく駆け抜けていくほどだった。インフィールドの高速複合コーナーはわずかにブレーキするか、アクセルオフだけでもクリアできそうな雰囲気。ギリギリで立ち上がるとLSDがないためにややアウトへとはらんでしまうが、そこでも不安な感覚はない。

ガソリン車では危うい場面でもBEV低重心を生かし、しっかりと曲がってくれる

 細かくコントロールが可能なBEVならではの世界、そしてフロントのイナーシャが少ないこともあるのだろう。ガソリン車であればもっとはらみそうなところを、絶妙なバランスで駆け抜けていく。スラローム区間も車体はキビキビと向きを変えてくれた。そこにタイヤが追いつかない感覚があり、低偏平なヨレの少ないタイヤが欲しくなる。けれども、これ以上グリップを上げていくと横転の危険性もあるのだろうから、いい落とし所なのかもしれない。パワーユニットもシャシーも、誰もがすべてを使いきれそうな仕上がりが面白い。

誰もがすべてを使いきれそうな性能なのが楽しい!

 これってどこかレーシングカートに似ているように思えた。老若男女の誰もが程よく楽しめるバランス、それが「スーパーワン」には確実に宿っている。軽量かつ低重心で手の内に収めやすい仕上がりがあったのだ。こんなクルマでレースでもしたら楽しいかもとさえ感じてしまった。

 日常の使い勝手もよく、さらにサーキットに来れば走りも存分に味わえてしまうその仕上がりは、FUNなクルマでスマッシュヒットを飛ばすホンダらしさが詰まっていた。今はホンダにとってBEV逆風の時代ではあるが、この小さな「スーパーワン」から地に足をつけてもう一度、世界へと羽ばたいて欲しい。

スーパーワンはホンダの「FUN」が詰まった1台といえる仕上がりだった
【ホンダ】新型コンパクトBEV「スーパーワン」×袖ヶ浦フォレストパークウェイ試走(Dr橋本洋平)1分16秒
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一