試乗記

日産の新型「キックス」初試乗 2WDとe-4ORCE仕様を乗り比べた結果は?

新型キックスに試乗

第3世代e-POWERを搭載

 日産自動車のBセグメントSUV・キックスがフルモデルチェンジした。旧型は2020年登場だからおよそ6年ぶりの刷新となる。だが、よくよく思い返せば旧型キックスは非e-POWER仕様が2016年から海外で売られていたから、そこから数えれば10年ぶりとなる。少しややこしいのだがこの新型キックス、実は2024年に北米でこのボディでの販売が開始されている。けれどもそれは非e-POWER。日本仕様の新型は先代同様、e-POWERを搭載しての発進となる。

 そんな新型キックスは「タフ&アジャイル」をコンセプトとし、アメフト選手のように力強く軽快であることを狙ったという。そのせいか旧型と中身はまるで異なる。まず、VプラットフォームからCMF-Bプラットフォームに改め、サイズは全長75mm、全幅40mm拡大。ボディサイズは4365×1800×1615mm(全長×全幅×全高)となる。

 発電特化型の1.4リッター自然吸気エンジンを採用する第3世代e-POWERを搭載し、モーター、インバーター、減速機、増速機、発電機を一体にする5-in-1電動ユニットを日産として初搭載。ユニットの剛性は旧型比+60%で、静粛性にも寄与するほか、エンジン回転数を低減することも可能に。50km/h走行時にエンジンが作動している場合、騒音は4.5dbも低減できたという。また、市街地の約10分の走行におけるエンジン始動回数が4回だったところを、1回にまで低減できたそうだ。

 ちなみにこの5-in-1電動ユニットは新型エルグランドが先では? と思ったが、エルグランドの正式発売はまだ先なのでありました……。このほか、四駆仕様はe-4ORCEを搭載するなど、日本仕様は妥協なき装備が奢られている。

新型キックスでは第3世代e-POWERを採用し、発電特化型エンジンは現行「セレナ」でも採用される直列3気筒DOHC 1.4リッター「HR14DDe」型。WLTCモード燃費は旧型から約11%向上し、25.7km/L(2WD/X系グレード)をマーク

 エクステリアは黒いグリルをボディで挟み込むかのような力強いフロントフェイスを持っている一方、リアは「ロ」の字型の黒いグラフィックを与え踏ん張り感を強調しているところがポイントだ。そこに前述したサイズの拡大があるのだから存在感はなかなかだ。インテリアは包み込まれた感覚がありつつも、開放的な視界を与えてくれる。ドライバーズシートからの視界には、フロント両サイドのフェンダーの盛り上がりもあり、見切りがしやすいところが好感触。12.3インチ×2の統合ディスプレイを奢る、イマドキな日産車感も漂っている。旧型の華やかなインテリアカラーが影を潜めてしまったのはチト残念にも思える。今後の動きに期待していたい。

2026年6月18日に発売された新型「キックス」。写真は2WDの「G」(389万8400円)で、これに加え4WDの「X e-4ORCE」(359万9200円)にも試乗することができた
新型キックス(2WD/Gグレード)のボディサイズは4365×1800×1615mm(全長×全幅×全高。4WDの全高は1610mm)、ホイールベースは2655mm
アメリカンフットボールのヘルメットから着想を得たというフロントフェイス。特徴的なシグニチャーランプとともに水平基調でワイドなグリルを採用
リアまわりでは特徴的な口の字型の黒いグラフィックに加え、車幅いっぱいに配置したテールランプによってSUVらしい存在感を強調
Gグレードは19インチホイールに225/45R19サイズのダンロップ「SP SPORT MAXX 060」をセット
モダンで開放的な居心地の良い空間を目指したインテリア。インストルメントパネル、センターコンソール、ドアトリムには合皮やファブリック素材で仕立てたソフトマテリアルを採用し、上質さと触れた時の心地よさを追求したという
Gグレードは上質な合皮シートを採用。乗員の負担を軽減するゼログラビティーシートを後席左右にも採用し、後席の快適性を高めたのもポイント。ニールーム、ヘッドルーム、後席室内幅はクラストップレベルを誇る
ドライブモードは「SPORT」「STANDARD」「ECO」を設定。e-4ORCE仕様ではさらにキックスとして初採用となるSNOWモードも用意する
Google 搭載のNissanConnectインフォテインメントシステムと、12.3インチのデュアルディスプレイを採用した統合型インターフェースディスプレイを採用。インパネ中央部は手を置いて操作しやすいように下部が張り出したデザイン
電動スライドガラスを採用したパノラミックガラスルーフはGグレードに標準装備
ラゲッジスペースの100V AC電源(1500W)はシンプルパッケージをのぞく全グレードにオプション設定
ラゲッジスペースは開口部と容量を拡大し、パワーバックドア機能も備えた

 最も大きく進化したと思えるのはリアシートの居住性だ。窮屈だったレッグルームは十分な余裕が確保されるようになったし、ヘッドクリアランスもなかなか開放的。4.5度倒せるリクライニング機能や先代にはなかったアームレストも加わり、快適な空間になっていた。BセグメントSUVとは思えぬ広さを有していた最大のライバル、ホンダ・ヴェゼルを睨んで開発しただけのことはある。また、ラゲッジの開口幅もクラストップで荷物が入れやすく、容量も476Lを確保し使いやすくなった。今回はカメラマンさんの脚立や三脚などをそこに積んだが、余裕で横方向に寝かせられるほどだった。これなら家族で旅行などに行っても我慢を強いられることはなさそうだ。

X e-4ORCEは17インチホイールに215/60R17サイズのハンコック「ventus prime4」を組み合わせていた
X e-4ORCEは織物/トリコットシートでエンボス加工によるグラフィック柄を採用
メーター内でe-4ORCEの作動状況が確認できる

感心したのはX e-4ORCEの17インチ仕様

2WDとe-4ORCEの両モデルに試乗

 さて、そんな新型キックスのFFモデルから乗ってみる。借り出したのは19インチタイヤを装着する最上級グレードのGだ。走り出すとまず感じるのは静粛性がとにかく高いことだった。たしかにエンジンが始動する回数は少ないし、そもそも街中ではエンジンの存在をさほど感じない。1.2リッターから1.4リッターへと排気量が引き上げられたことで、余裕が生まれたところもあるのだろう。もしもエンジンが始動したとしても、低回転でグッと回っている感覚がある。そして、アクセルを踏み込めばリニアに吹け上がるところも好感触だった。

 首都高速に乗りフル加速を重ねれば当然ながらややエンジンの唸り音は大きくなるものの、巡航状態に戻れば街中における静粛性とさほど変わらない環境に戻ってくれるから快適だ。ダッシュインシュレーターの厚みを増し、ドア内部の遮音構造の見直し(パネルを覆うビニールは完全に廃止しグロメットによる封止)を行なうなど、多角的な取り組みが功を奏したのだろう。

まずはFFのGグレードから試乗

 シャシーは骨太に作られた感覚があり、入力をうまくいなしている感覚がある。ボディのねじり剛性+20%、サスペンション横剛性+20%、ステアリングシステム剛性+60%、ショックアブソーバーは外筒φ45mmから50mm、内筒φ30mmから32mmへ。こうした対策があり、フラット感に溢れる走りが魅力的。19インチ仕様(225/45R19)でグラスルーフの今回の仕様は、低速時の微振動や、高速コーナーにおけるフラつきが気になった。ルックス重視で装備を奢った状態の安定感はもう一声奢って欲しいようにも感じる。

実際に走ってみると静粛性の高さが際立った

 感心したのは続いて乗ったX e-4ORCEの17インチ仕様(215/60R17)だ。60扁平のおかげか低速からしなやかさが際立ち、突起の乗り越しもうねりもしなやかに受け止めてくれている印象が際立っていた。少し懐かしいような乗り味に感じるところはあるが、これが都市部の荒れた路面や首都高のギャップを乗り越す際にはとにかく心地よく感じられる。こうなるとコーナーリング性能などはあまり期待できないかと思いきや、e-4ORCEのおかげで機敏な立ち振る舞いもこなせてしまうからおもしろい。タイヤ依存にならず、クルマが曲げてくれる感覚に溢れている。これはスノードライブも期待できそう。「タフ&アジャイル」というコンセプトは、たしかにと思えるものがあった。

新型キックスの本命はX e-4ORCEの17インチ仕様か

 蛇足だがここまで仕上がった新型キックスは、実は今回よりタイではなく日本の、それものちに閉鎖されることが決定している神奈川県横須賀市にある追浜工場で生産される。すなわち、追浜工場として最後の新型車なのだ。マニアでなければ関係ない話だろうが、日産好きで追浜という地にピンとくる方々、最後に注目してみてはいかがだろうか? ひょっとして価値が出たり、なんてことはないんでしょうけれど……。

追浜工場製の新型車に乗れる最後のチャンスかも?
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学