試乗記

ハイブリッドになったランドクルーザー300、「生きて帰ってこられるハイブリッド」を搭載したフラグシップ

ランドクルーザー 300 GR SPORT 3.5L ハイブリッド 4WD(7人乗り)。群で展開するランドクルーザーシリーズのフラグシップ

ランドクルーザー群のトップオブトップとなるランクル300ハイブリッド

 トヨタ自動車が、トヨタ博物館やさなげアドベンチャーフィールドを舞台に開催したランドクルーザーシリーズの試乗会では、「ランドクルーザー“FJ”」「ランドクルーザー“300”ハイブリッド」「ランドクルーザー“250”」「ランドクルーザー“70”ショート」の4台が用意されていた。

 この中でも注目の1台となるのが、ランドクルーザー300 ハイブリッド。9月16日に国内初投入が発表されたばかりの新型車になる。ハイブリッドモデルのグレードはZX 3.5L ハイブリッド 4WD(7人乗り)とGR SPORT 3.5L ハイブリッド 4WD(7人乗り)が用意されるが、今回の試乗車はトップモデルであるGR SPORTとなっていた。

 そもそも、ランドクルーザー群の中で300シリーズはフラグシップと位置付けられており、多くの機能が付加されている。さらに、GR SPORTともなれば特別な内装となっているためトップオブトップのモデルとなっている。そのため標準価格は1020万300円と、ランドクルーザーのエントリーモデルとも言えるランクルFJが2台買えてしまうお値段。300円の端数が気になるが、値引き交渉のためのバッファなのかもしれない。

「生きて帰ってこられるハイブリッド」を搭載したランドクルーザー300

ランドクルーザー 300シリーズを担当するトヨタ自動車株式会社 Mid-size Vehicle Company MS統括部 製品企画 ZZ 主幹 井上徳人氏

 このトップオブトップのランクル300ハイブリッドのパワートレーンは、V型6気筒 3.5リッター DOHCツインターボガソリンエンジン「V35A-FTS型」に、Direct Shift-10ATという10速ステップATを組み合わせた上に、さらにパラレルハイブリッドシステムを組み合わせている。

 エンジン単体の出力は最高出力300kW(408PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmで、そこにハイブリッドモーター「1TM型」の最高出力40kW(54PS)、最大トルク290Nm(29.5kgfm)が組み合わされている。

 システム最高出力は336kW(457PS)、最大トルクは790Nm(80.6kgfm)となり、パラレルハイブリッドとして結構素直にモーターの力を乗せているのが分かる。最大トルクは8リッタークラスのものとなり、車両重量2690kg(何と総重量は3075kg)というランドクルーザーのボディも軽々と押し出していけるだけのスペックが用意されている。

ランドクルーザー 300 前面
ランドクルーザー 300 斜め前方
ランドクルーザー 300 側面
ランドクルーザー 300 側面
ランドクルーザー 300 後面

 ハイブリッドであるため燃費のよさを狙い、ランクルでも燃費よく走れるためのモデルだと思われがちだが、実は燃費は300シリーズの通常モデルとなるディーゼルモデルよりわずかに悪化している。同じGR SPORTで比べる(ディーゼルモデルは5人乗りのため、正確には同じではない)と、WLTCで3.3リッターディーゼルモデルが9.7km/Lに対し、3.5リッターガソリンハイブリッドが9.4km/Lになる。市街地モードが劣っており、郊外モードはハイブリッドが優れ、高速道路モードが同等と、一般的なトヨタのハイブリッドイメージと異なることが分かる。

 ランドクルーザー300シリーズの開発責任者であるトヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS統括部 製品企画 ZZ 主幹 井上徳人氏によると、この300ハイブリッドの開発の目的はCAFE規制に対応しつつ、ハイブリッドならではのよさをランクル300に加えたものであるという。

 一般的なトヨタのハイブリッドというと、プリウスに代表されるTHS(Toyota Hybrid System)を思い浮かべると思うが、このTHSは燃費の効率を最大限に追求するため2モーターと遊星歯車を使ったハイブリッドシステムになっている。

 一方、このランドクルーザーでは、北米で販売されているピックアップトラック「タコマ」「タンドラ」用の1モーターハイブリッドシステムを採用。この1モーターハイブリッドでは、エンジンとモーターの出力が遊星歯車によって絶妙に合成されるシリーズパラレルハイブリッドのTHSと異なり、シンプルにエンジンの出力をモーターがアシストするパラレル構成を採っている。

 そのため、特にSUVやピックアップトラックに要求されるトーイング(牽引)能力も高く、モーターホームを牽引してキャンプへ行くと行った用途にも対応。市場にマッチするよう開発された。

 また、ピックアップに優れるモーターの特性を活かしており、スタート時のアクセルのつきのよさも実現。重たいクルマでは、質量があるがゆえにアクセルの踏み込み量に対しての加速の立ち上がりが遅れ気味で、一度立ち上がると逆に加速しすぎということも起きやすい。もちろん、現代のクルマではアクセルとエンジンの関係はよくコントロールされているのだが、さらにコントロール性に優れるモーター出力を活かすことで、スムーズな加速の立ち上がりを実現している。

 井上氏はこの特性は、オンロードでは「低回転からの圧倒的トルク、伸びのある加速」、砂漠では「システムトルク最大化、さらに楽になった継続性、脱出性」、岩石路では「モーターの高レスポンス、新次元のアクセルコントロール性」といった場面でのメリットになるという。

 このハイブリッドシステムを搭載するためにランクル300側のフレーム改良も行なっており、最低地上高に配慮したほか、電池もタコマやタンドラと異なり防水対策を行なっている。

 そしてランドクルーザーらしく、最も大きな変更点となるのが「生きて帰ってこられるハイブリッド」にするためのオルタネータの追加。本来ハイブリッド車では、駆動用の大電力バッテリや回生など発電機構があるため、独立した発電機であるオルタネータは不要となっている。しかしながら井上氏は、「万が一ハイブリッド機構の電源部分が失陥しても、オルタネータで電気系を維持して、エンジンのみで走行できる」という。機械的な構造においても、電気的な構造においても、「生きて帰ってこられるハイブリッド」になっているという。

 このランクル300ハイブリッドの市場として中東地域があり、そこでは文字どおり一部が壊れても動き続けることが要求されている。そんな要望に応えたハイブリッドシステムを装備してきたことになる。

マッドなさなげアドベンチャーフィールドで発揮されるハイブリッドのコントロール性

E-KDSSによって高い接地性を確保するランドクルーザー 300 GR SPORT ハイブリッド

 この注目のハイブリッドシステムを持つランドクルーザー 300 GR SPORT 3.5L ハイブリッド 4WD(7人乗り)に、さなげアドベンチャーフィールドで試乗することができた。

 試乗当日は、残念ながらというか、幸いにもというべきか小雨。その結果、さなげのコースはマッドな環境になっており、つるつるぬちゃぬちゃ路面となっていた。タイヤの接地能力を体感するには最適と言える状況で、この厳しい状況をランクル300ハイブリッドがどのように超えていくのかが楽しみだ。

 まずは、水たまりを避けながらランクル300ハイブリッドに乗り込む。ランクル300は、ランクル群のフラグシップと位置付けられているだけあり、最も豪華な内装を持つ。特にGR SPORTだけあり、シートも華やかなツートーン仕上げとなっていた。

 ただ、ランクルだけに単なる華美ではなく、水平基調のデザインで路面との角度を把握しやすいものとなっており、悪路を走る際への配慮が行なわれている。ランクルの主要市場である中東の砂漠を考えれば、変化のない砂漠において自分のポジションを見失う可能性を低くするデザインは必要なものだろう。

 このランクル300ハイブリッドの走り出しは、さすがハイブリッドとでもいうべきもので、スムーズに走り出す。当たり前と言えば当たり前なのだが、3tにもなるクルマがするすると走り出すのは、パワートレーンに余力があり、しかも電動化されているハイブリッドならではの動きだ。

 走り出すとすぐに迫るのがマッドな下り坂になる。重さがあるだけに不安もあるが、アクセルと出力の関係が分かりやすく、必要なときに必要なトルクを引き出せる。排気量が大きいエンジンだと、アクセルの微少な開度でのトルクコントロールが難しい部分があるが、それもハイブリッドによって補われており、するする行きたいのに急加速をするなどの不安もない。

 また、アクセルコントロールもスムーズなのだが、ステアリングコントロールも実にスムーズ。ハイブリッドモデルではない300シリーズは油圧のパワーステアリング(とそれに電動操舵アクチュエータを装着したもの)なのだが、ハイブリッドモデルはEPS(電動パワーステアリング)になっている。そのため、ステアリング操作に不要な力を入れる必要もなく、3tを超えるクルマを容易に操れるのには感動した。

 このEPSと、ハイブリッドパワートレーンによりランクル300ハイブリッドは極めてコントロールしやすいクルマに仕上がっている。心配した下りの道や、下り勾配の急な坂も重さが有利に働くのか、容易にグリップを失わない。ゆるゆるタイヤを回しながら下っていけば、タイヤのグリップを失うことなく下っていける。マッドな路面だけにもっとつるつるしてしまうのかと思ったこちらの予想を裏切る動きだった。

 この下り坂についてもDAC(ダウンヒルアシストコントロール)というアシスト機能があり、クルマにおまかせで下っていくこともできる。実際に使ってみたが、マッドな下り坂で安心して下っていくことができた。

 ランクル300シリーズは、マルチテレインセレクト機能を装備しており、オフロード走行において、駆動力やサスペンション、ブレーキ油圧を適切に統合制御することが可能になっている。MUD(マッド)モードもあったのだが、今回はAUTOで走行していたが、その制御に不満を抱くことはなかった。

 ロックセクションはクリープで不安なく超えていくことができ、モーグルセクションでは凸凹の激しい状況でもタイヤの接地を確保しにいく。GR SPORTでは、フラットな路面状況とモーグルのような凸凹の激しい状況での走行性能の両立を図るためにE-KDSS(Electronic-Kinetic Dynamic Suspension System)を装備。フラットな路面ではスタビライザーを接続してコーナリング時のロールを抑制、一方、モーグルのような凸凹路面ではスタビライザーの接続を切り離してサスペンションストロークを大きく伸ばし(ホイールアーティキュレーションを向上)、タイヤの接地を確保しにいく。

 ランドクルーザーの場合、タイヤがいくつか設置していれば駆動力を伝えることが可能で、駆動力が伝わればクルマの状況が変わり、ほかのタイヤを使って駆動力を伝えることができる。極めて駆動抜けのないパワートレーンとなっており、このコントロールを自動で行なってくれる。

 これら多様な電子制御に加え、EPSの軽やかな手応えも加わり、「こんなに苦労せずにクルマが進んでいいのかな?」という謎な不安に襲われる。たとえて言えば、中東でのセールスを視野に入れているクルマだけに、マジックカーペットに乗っている気分(乗ったことないけど)とでも言えばよいだろうか。

高品質な室内空間
V型6気筒 3.5リッター DOHCツインターボガソリンエンジン「V35A-FTS型」の収まるボンネット

 このモーグルセクションを抜けると最後は30度近い上り坂となるのだが、ここでもランクル300ハイブリッドは、ハイブリッドらしいアクセルへのつきのよさを見せてくれる。このようなマッドな路面では一度タイヤと路面のコンタクトを失ってしまうと滑りまくりになりがちなのだが、アクセルを丁寧に踏めば丁寧なトルクを出してくれる。微少な領域でのトルクの出方がつかみやすい。

 トヨタのアクセルは0~100のステップで管理されており、ユーザーとしてはステップをつかみやすい部分もある。その変位をクルマ側で調製している部分もあり、それを予測しながら踏み込む楽しさもある。ランクル300ハイブリッドにおいても予測はしやすく、巨体をゆるゆると動かしていく非日常感は味わい深いものがあった。

 このつかみやすさが特に力を発揮するのが上り坂で、マッドな30度の上り坂でもアクセルを微調整すれば何とか自分のコントロールだけで上っていくことができる(もしかしたら、こっそり電子制御が入っているかもしれないが)。重さはここでもいい方向に働き、タイヤのグリップを高めてくれていた。

 ただ、途中90度に左に曲がる箇所があり、ここは路面が削れて凹んでもいることからグリップを失いがち。一度グリップを失うとスリップ状態になってしまい、その段階で電子制御におまかせすることにしてアクセルを踏み込んだ。

 アクセルを適度に踏み込めば、踏み込んだなりにクルマは進み、30度近くの急なマッドの坂道でも電子制御が効いていることを示すピカピカワーニングとともにランクル300ハイブリッドは前に進んでいく。クルマまかせとなり、やや負けた感はあるものの、マジックカーペット感が漂うランクル300の世界観を見せていただいた。

高品質かつ高信頼性を具現化したランドクルーザー300ハイブリッド

 日本の多くの道においては、ランクル300の能力はオーバースペックであるのは間違いないだろう。しかしながら、そのオーバースペックがもたらす余裕は、オーナーにとって「いいクルマだなぁ」という感覚をもたらすのは間違いない。特にこのハイブリッドであれば、発進などの際に静かに進み始めるので、さらにいいクルマ感は増したものとなる。ちょっと目新しいのは、モーターがどのくらい動いているのかもランクル300ハイブリッドでは分かるようになっており、モーターのパワーゲージが別途用意されている。回生が気になる記者としては回生ゲージがほしかったところだが、開発陣によるとタコマやタンドラからの表示モジュールを持ってきており、回生表示はないとのこと。エネルギーが豊富な国の表示はそんなものかなと思いつつ、モーター出力表示があるのなら、モーター回生表示は欲しかったなと思った次第だ。

 ランクル300ハイブリッドは、タコマやタンドラなどで実績のある1モーターハイブリッドをランドクルーザーに適用したものでありながら、「生きて帰ってこられるハイブリッド」として、さらにヘビーデューティに進化。75年間培ってきた信頼性を加えた形でランドクルーザーのフラグシップとして日本市場に投入された。ランドクルーザーの高品質さも味わえるクルマに仕上がっていた。

群で展開するランドクルーザー
編集部:谷川 潔
Photo:佐藤安孝(Burner Images)
編集部