【インプレッション・リポート】
トヨタ「アクア」

Text by 日下部保雄


 すでに10万台もの受注を得ているアクア。プリウスの弟分にあたるハイブリットモデル、しかもコンパクトでさらに低燃費でありながら、買い得感のある価格設定が高い人気の理由だ。このアクア、展開は日本だけにとどまらず、北米、欧州でも販売されるグローバルカーになる。

 アクアはヴィッツのプラットフォームをベースにし、プリウスのストロングハイブリットを徹底して軽量、コンパクトにしたシステムを搭載したモデルで、JC08の燃費モードでは35.4km/Lをマークしている。これは10・15モードでは40.0km/Lとなり、政府の掲げる燃費削減のプログラムに則った成績を持ったクルマとなる。

 2モーターと遊星歯車を組み合わせたTHS(トヨタ・ハイブリット・システム)IIは初代プリウスから15年を経て、改良・最適化が進められ、あらゆる車種に展開されているが、アクアはそのローエンドをカバーすることになる。アクアのために新規で起こされたものが多く、単純にヴィッツにこれまでのTHS IIを乗せたものではない。

 ガソリンエンジンは排気量1.5リッターの1NZ-FXE型で、2代目プリウス以来のものだが、70%以上にも及ぶ大幅な改良を施されてアクア専用のものに生まれ変わっている。エンジンブロックこそ変わっていないが、圧縮比は13から13.4に高められており、ピストンの低フリクション化、燃焼室形状の変更、インテークマニフォールドの樹脂化、エンジン全長の短縮化など、コンパクトなアクアのエンジンルームに入れるために性能向上とコンパクト化、軽量化に努めている。


 ハイブリットシステムも、モーターは軽量化と小型化が図られ、コンパクトカーに適した45kW(61PS)の出力になった。同時にトランスミッションも小型化されている。PCU(パワーコントロールユニット)も小型化されてエンジン+トランスミッション+モーターとともにエンジンルームに押し込まれているが、DC12Vの車載バッテリーの行くところがなくなって、リアシートの下にハイブリット・バッテリーとともに収められる。このニッケル水素のハイブリット・バッテリーもアクアに合わせ、電池モジュールを減らす形で容量を削減している。

アクアの心臓部。1.5リッターのアトキンソンサイクルエンジンと、新型モーターのユニット発電機、変速を行う遊星歯車、モーターと並ぶ。発電機とモーターでは、ステーターが巻き線式のものから、プレス工程で作られる角線のものになった。これにより、電気抵抗を低減するとともに、密度アップを図り、小型化を実現している
これまで使われてきた巻き線式のステーター。プリウスもこのタイプアクアで投入された角線のステーター。高密度化のほか、コストダウンに寄与すること大と思われる

 バッテリーは当然重く、これをリアシートの下に配置できることは重心高の低下につながり、ハンドリングの面でも大きなメリットになる。燃料タンクは36Lで、バッテリーの後方、リアアクスルの前に位置している。

 さてパッケージングだが、同社のコンパクトカーである「ヴィッツ」と比べると分かりやすいだろう。全長は3995mmでヴィッツよりも110mm長く、一回り長くなっている。またホイールベースも長くなっており2550mm(+40mm)の長さを得て、リアシートの居住空間に貢献している。逆に全高は1445mmとヴィッツに比べて55mmも低い。これがアクアをスタイリッシュにしている大きな要因だと思う。全幅は1695mmで変わらない。魅力的なデザインは空力的にも優れており、Cd値で0.28。小さくルーフ後端に伸びたスポイラーが特徴的だ。

 さて試乗したモデルは中間グレードのSで、179万円のモデル。ただ試乗車はオプションを満載しており、アルミホイールやスマートエントリーシステム、シートヒーター、LEDヘッドランプ、ナビゲーション、サイドカーテンエアバッグなどで約242万円のプライスタグがついている。このSグレードの装着タイヤはブリヂストンのエコピアで、サイズは175/65 R15。アクアでは新色のシトラスオレンジをはじめ、10色のカラフルなボディーカラーを揃えている。オレンジは発色に優れておりアクアを楽しいクルマと印象付けている。

 インテリアはエクステリアカラーに比べるとおとなしいが、ワンポイントでブルーのラインを入れるなど、アクアらしさを出している。ダッシュボードはセンターメーターを中心にしたプリウスにも通じるもので、ちょっとした未来感も感じさせ、グレードによってインテリアの質感も異なる。ベースグレードのLではかなりシンプルで、実際に購入されるのはS以上になるだろう。

 スタート時のアクセルコントロールは自然で、ちょっとアクセルを踏んだだけで飛び出すようなこともなく扱いやすい。加速フィールは軽快でプリウスの力強さとはちょっと違ったアクアらしい軽々としたフィーリングを持っている。

 アクセルを一杯に踏み込むとこのクラスとしてはなかなか速く、0-100km/hのタイムは10秒を少し上回る程度なのでコンパクトカーとして十分な能力を持っている。その際のシームレスな加速感はTHS II独特のもので、中間加速もなかなか鋭い。これはハイブリットのモーターのパワーもさることながら、軽量化によるパワー・ウエイトレシオが小さいことも大きく貢献している。

 軽量化はプラットフォームに高張力鋼板を多用するなどのほか、ハイブリットシステムの改良なくしては成しえない。具体的にはバッテリーパックのコンパクト化、2個のモーターも新設計で薄くされるなど1.5リッター時代の第2世代プリウスの焼き直しなどではない。車両重量はLグレードで1050㎏にとどめられているのは立派だ。

 ハイブリットシステムで感じたのは加速のシャープさだけではなく、減速時のショックも小さく、スムースなこと。THS IIのデビュー当初はアクセルOFFで小さなショックを伴っていたが、アクアではほとんど感じない。

 ブレーキフィールもストロークがあって好感触だ。ハイブリットは回生ブレーキとの協調制御が難しく、ブレーキコントロールが難しかった面があるが、モデルごとに改良されてアクアではほとんど普通にコントロールできる。

 ハンドリングはなかなか軽快だ。相対的に重心高が低く、操舵量に対してロールが小さく感じられる。限界を試せるようなシチュエーションではないので、日常的な速度での話だがハンドルの左右への切り返しでも応答性は優れている。

 ただ電動パワーステアリングのフィーリングがもの足りない。ハンドルセンターからの切り始めのステアフィールが曖昧でもう一つ手ごたえ感が欲しい。ロック・ツウ・ロック2回転半の操舵力は軽く、接地感もあるので不足はないが、この切り始めのところが惜しいところだ。

 また高速直進性もまずまずだが、速度を上げた時にステアリングのセンターフィールが甘くなり、スワリが欲しい。前述のEPS(電動パワーステアリング)の影響もありそうだ。

 乗心地は凹凸路面での突き上げもよく吸収され、よほど大きな段差でなければフラットに通過できる。ピッチングも小さくコンパクトカーとしてはなかなか快適だ。シートはコンパクトカーとしてはサイズアップされ、またサポートがよく、特にシートバックのホールド感がよいので、ロングドライブでも疲れなくてすみそう。

 ノイズに関してはクルージングではリアからのロードノイズは入ってくるものの、全体としてはよく抑えられているほうだが、加速時の音質は残念ながら上質感はない。エンジンからのガサガサとした音は仕方がないところだろう。またアクセルOFF時の回生ブレーキの音は比較的大きいが、これはハイブリットらしくてわるくない。

 ただ走行中、フロアの制振性が不足しており、ぶるぶるした振動に気がつく。もっともこの性質は多くのトヨタ車が持っているので、快適な居住性に直接影響するものではない。

 Gグレードで試乗したのはオプションのツーリングパッケージで、195/50 R16のヨコハマdBを履いたモデル。低転がり性能で定評のあるタイヤだ。

 こちらはタイヤサイズが大きくなっているために保舵感がしっかりしており、縦バネも高くてコーナリングはより軽快だ。コーナリングの安定感もグンと高くなる。半面、乗り心地では突き上げが強めになり、ゴツゴツ感は強くなる。

 Gグレードになるとベース価格が185万円となり、装備もぐんと上がる。このグレードでナビなどのオプションを追加していくとプリウスの下位グレードに手が届くので、オプションを選択していくと悩みも増えるだろう。

 アクアはアクティブセーフティも進んでいる。VSC(横滑り防止装置)&TRC(トラクションコントロ-ル)が標準装備で、ヒルスタートアシストも装備されるのは良心的だ。もちろん前後のブレーキ力をコントロールするEBD付ABSも標準装備となるので、乗員の数によって制動力が変化するのを最小限に防げる。

 面白いのは、暖房に排気熱を利用してヒーターの負担を軽減するシステムがシートヒーターと共にオプションで選べることだ。またアドバンスドディスプレイパッケージを選定すると高輝度マルチインフォメーションディスプレイが装着され、エコドライブをゲーム感覚でアシストする機能が備わる。従来の燃費を示すインジケーターだけでなく、エコドライブを5段階でリアルタイムで表示するなどで、いじっていくとなかなか面白い。

 さてキャビンだが、リアシートもクッションストロークが見た目以上にあって、シートバックの角度も丁度よく、ゆとりを持って座れる。特にレッグルームのスぺースとつま先がフロントシートの下に入るのでラクだ。ヘッドクリアランスは斜め上方はそれほどゆとりはないが、頭上は余裕があり、着座ポイントが高いこともあって、視界はわるくない。

 ラッゲージスペースは開口部が大きく、嵩張るものも積みやすい。幅もあるのでフルサイズのスーツケースも入りそうだ。さらにハイブリット・バッテリーをリアシート下に入れたことで、リアシートのバックレストを簡単にたため(さすがにフラットにはならないが)、ゴルフバッグも簡単に積める。

 アクアは最小のストロングハイブリットであるだけでなく、随所に工夫を凝らしたなかなかの力作だった。世界で戦うアクア。日本から、そして東北で生産されるこのクルマの健闘に期待したい。


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2012年 2月 27日