インプレッション

アウディ「Q5/A6/A8 ハイブリッド」イッキ乗り

 2012年に登録された輸入乗用車は23万9546台(外国メーカーのみ/日本自動車輸入組合調べ)。これは2011年から17.5%の伸び率となるが、特筆すべきはフォルクスワーゲン、BMWなど日本市場に正規モデルとして導入されているハイブリッドモデルの比率が、徐々にだが高まっていることだ。今回採り上げるアウディもそのブランドのひとつである。

 「2012年9月から販売をスタートしたA6 ハイブリッドは、今やA6シリーズ販売比率の10%以上を占めていますが、2013年は20%以上に増やしていきたい」とアウディ広報部・岩野氏は意気込みを語る。

 今回、その「A6 ハイブリッド」に加え、「A8 ハイブリッド」(120台限定販売)、「Q5 ハイブリッド」(350台限定販売)の3台を1度に試乗する機会を得た。

EVモードを持つフルハイブリッド

 A8はアルミ製のアウディスペースフレームを採用したフラッグシップとして人気を博しているビッグセダンだ。一方のQ5は2009年に導入されたミドルクラスのSUVで、クワトロフルタイム4WD方式による高い走破性をセールスポイントに、世界的にも販売台数を伸ばしている。

 3車ともハイブリッドシステムを構成するスペックは同じだが駆動方式には違いがあり、A6 ハイブリッドとA8 ハイブリッドがエンジン縦置きのFFで、Q5 ハイブリッドがアウディお得意のクワトロフルタイム4WD方式となる。

 エンジンはA4 クワトロなどでお馴染みの2リッターTFSI(直噴ターボエンジン)をハイブリッド向けに最適化して搭載。EV走行モードを持つ、いわゆるフルハイブリッドシステムはZF製で、一般的なATに採用されているトルクコンバーターを取り除き、替わりにモーターと多板クラッチを配置した8速AT(ティプトロニック)をトランスミッションとした。

左からA6、A8、Q5のエンジンルーム

 バッテリーは容積26L/重量36.7kgのコンパクトサイズ。電圧266V/エネルギー容量1.3kWh/定格出力約40kWのリチウムイオンタイプで、後輪トレッド間に配置される。

 エンジン(155kW[211PS]/350Nm[35.7kgm])とモーター(40kW[54PS]/201Nm[21.4kgm])が織りなす総合的なシステム出力は180kW(245PS)/480Nm(48.9kgm)と強力だが、発揮できるのは10秒間と制限がつく。

エンジンはスムースもEV走行に課題

 まず、A6ハイブリッドで朝のラッシュが抜けきらない都市部の国道に出る。現行A6シリーズとしては初となる直列4気筒2リッターエンジン搭載とあって、まずはそのマッチングについて意識しながら走らせてみたが粗さは一切ない。

 アイドリング振動を感じさせないばかりか、ハイブリッドシステムとのマッチングも非常によく、走行中のエンジン停止/再始動をわずらわしく感じる場面はない。これは通常、計器盤左に位置するタコメーターがハイブリッド走行状態を示すパワーメーターに置き換わっていたこともあり、エンジンの存在を意識する機会が少なかったことも要因だろう。

 ただ、エンジン停止状態でのEV走行(最大3kmで100km/hまで許容)はいささかマナーがわるかった。モータートルクが急激に立ち上がるため必要以上にボディーが押し出される感が強いのだ。完全停止状態からの発進特性は許容範囲だが、10km/h以下で微速調整を行う場合、アクセルにのせた足をほんの数mm動かしただけでドンと前に進んでしまう。よって、渋滞路や駐車場での微速時には慣れが必要だった。

 注目の燃費数値だが、平均車速14km/hで約6km走った渋滞路での平均燃費は8.2km/Lとカタログ数値の約60%と振るわなかった。たがこれは、駆動用バッテリーのSOC(充電状態)が半分以下の状態で計測を開始したことに加えて、冷間始動と外気温2度(ヒーターも全開!)という条件が重なっていたことによる悪影響だ。また、いわゆる“燃費テスト”のような特殊な運転方法はとらず、ごく一般的な走行シーンを想定した試乗であったことも付け加えておきたい。

 ちなみに次の試乗コースとなった高速道路区間では、平均車速67km/hで約36km走らせたが、途中何度も20km/Lを超える大台をたたき出しながら、最終的には17.6km/Lの記録を残している。

計器盤左のメーターがハイブリッド走行状態を示すパワーメーター
パワートレーンの状態はメーターパネル中央とMMIのディスプレイで確認できる
A6 ハイブリッドのトランク

クラス相応の快適性を実現したA8ハイブリッド

 次にA8ハイブリッドに乗り換え南東方向へと進路をとる。A6ハイブリッドとの車両車重の違いはわずか80kgだが、エアサスペンションがもたらすしなやかな足さばきと、80mm延長されたホイールベースによる高められた直進安定性、さらにはA8専用のセッティングが施されたサーボトロニック(速度感応式電動パワーステアリング)により、提供される乗り味はA6ハイブリッドから確実に2ランク以上アップする。

 クラス相応といえばそれまでだが、例えば同クラスのメルセデス・ベンツ「Sクラス」やBMW「7シリーズ」と肩を並べる快適性を、流行りのダウンサイジング2リッターエンジン+ハイブリッドシステムで達成したA8ハイブリッドの高い実力は素直に認めたい。

 ただ、動力性能だけを切り分けてみると、同じくダウンサイザーであるジャガー「XJ」に新規導入された2リッターモデル「LUXURY」との比較では、若干の不満を感じてしまう。1780kgと150kg軽いボディーもさることながら、240PS+8速ATが生み出す力強い走りは、明らかにA8ハイブリッドの上に位置する。

 また、A6ハイブリッドとの比較でもややおとなしいフィーリングだ。先に述べた車両重量の増加と、約2.6%ハイギヤード化されたファイナルギヤ(8段のギヤ比は同一)に起因するところが大きいようで、トップクラスの空気抵抗係数0.26を誇るA8のボディーをもってしても、80km/hを超える速度域ではそれが顕著になる。

 具体的にはA6ハイブリッドであればパワーメーターの針が40%付近で落ち着くようなアクセルワークで周囲の流れをリードする加速力を示すのに対して、A8ハイブリッドでは60%近くを保たなければ(つまり、それだけ踏み足さなければ)、同じような加速感が得られないのだ。

 ただ、こうしたことを踏まえ、ゆったりとした走りに徹すれば、動力性能とトレードオフの関係にある燃費数値に関しては上々だ。平均車速29km/hで約11km走った一般道での平均燃費は、14.7km/Lとカタログ数値を6%以上超えただけでなく、平均車速78km/hで約22km走った高速道路での平均燃費は16.4km/Lと、ジャガー「XJ LUXURY」を約14%上回る数値(筆者個人の蓄積データ)を記録した。

A8 ハイブリッドには段差のあるトランクルームにフィットするケースが標準で付属する

正真正銘のSUV、それでいてハイブリッド

 Q5ハイブリッドはクワトロフルタイム4WD方式を採用する。駆動配分は、フロント40%、リヤ60%の駆動配分を基本とし、スリップ率によりフロントが最大で70%、リヤが最大で85%の駆動力を受け持つ。

 4輪駆動であるため減速時のエネルギー回生も4輪で行うが、当然、他の2車よりもエネルギー回収効率は高い。とはいえ、受け皿であるリチウムイオンバッテリーの充電率に違いがあるわけではないので、平坦路が主体の今回の試乗コースではSOCメーターの上昇率に違いを見いだせなかったが、これが勾配路での試乗であれば、その効果を実感できたはずだ。

 乗り味における一番大きな違いは、全域に渡る活発な動力性能だ。試乗車はオプションの電動パノラマサンルーフを装着していたこともあり、車両重量は2030kgとA6ハイブリッドから10%近く重くなるものの、前後のファイナルギヤはそれぞれ15%ほどローギヤード化されている。これにより、信号待ちから発進加速では3リッターエンジン並みの力強さを発揮すると同時に、先に述べた80km/h付近でのA6ハイブリッドにおける40%付近の加速感は、Q5ハイブリッドでも同じ40%程度で体感できた。

 ただ、乗り心地にまでプレミアムSUVのテイストを過度に期待できないこともわかった。誤解を恐れずに言えば、伸び側減衰力の高さが際立つ、いわゆる硬めの乗り味なのだ。セダンライクな上質な乗り味≒快適でプレミアム性が高い、といった評価軸を持つユーザーには事前の試乗を強くおすすめしたい。

 整理すべきは、そもそもQ5はスタイルこそプレミアム性をうたうアウディそのものなのだが、オン/オフを問わない高い走破性にこそ、キャラクターを形成する要素の過半数が占められている。よって、ハイブリッドシステムを搭載したとしても、その特性は不変であり、ゆるぎない部分なのである。最低地上高175mm/渡河水深500mmをそれぞれ確保し、登坂能力31度でヒルディセントアシストも装備する正真正銘のSUV、それでいてハイブリッドモデル。それがQ5ハイブリッドの魅力だ。燃費数値は、平均車速64km/hで約62km(高速道路93%対一般道7%)を走り11.9km/Lだった。

1モーター2クラッチの功罪

 こうして3車を乗り比べてみたのだが2リッター直噴ターボエンジン+ハイブリッドシステムの高い汎用性が顕著に現れた結果となった。しかもそれは燃費数値だけでなく、異なる3車のキャラクターにしっかりと根付いていることからも証明されたといえる。

 しかし一方で、BMWのアクティブハイブリッド兄弟(3/5/7)にも採用されているZF製8速ATとハイブリッドシステムの組み合わせが潜在的に持っている構造上の弱点も露呈した。

 ZF製のそれは、1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムと呼ばれている。構造はシンプルであり、まず、エンジンとトランスミッションの間にモーターと組み合わされた分離クラッチ(便宜上、クラッチ1)が接続されている。これにより、エンジン停止状態でのEV走行が可能となる。

 次にクラッチ1の背後にあるのが8速AT本体なのだが、じつはこの内部にもスタータークラッチ(同クラッチ2)が存在する。これがオン/オフを繰り返すことにより、トルクコンバータを持たないトランスミッションの変速が可能となるとともに、発進時や変速後に起こるショックも緩和することができるのだ。また、このクラッチと1とクラッチ2は単独で機能するだけでなく、時に接続/断絶それぞれのタイミングを計りながら、シームレスな加速と高効率なエネルギー回生を両立している。

 じつはこの1モーター2クラッチ方式、日本では日産がZFよりも先に製品化を果たしている。2010年10月に「フーガ・ハイブリッド」に搭載されたハイブリッドシステムがそれだ。同システムは2012年4月にハイブリッド専用車として復活した「シーマ」にも搭載されている。V型6気筒3.5lエンジン(306PS/35.7kgm)とモーター(68PS/27.5kgm)に加え、冷却性能に優れるラミネート構造のバッテリーセルリチウムイオンバッテリーの搭載により、システム出力364PSを誇りながらカタログ数値はアウディのそれを凌ぎ、BMWアクティブハイブリッド3(16.9km/L)にも迫る16.6km/Lを達成している。

 既存ATの流用を可能とし、エネルギー損失の大きいトルクコンバーターを使用せず、かつコンパクトな軽量設計の達成と、いいこと尽くしに思える1モーター2クラッチ方式だが、予備知識なしで走らせると違和感を感じることがある。顕著なのが、高速道路などでETCゲート通過後に再加速をする際だ。

 20km/h程度からの本線への合流にむけてグッと(70%以上)アクセルを深く踏み込んだと想像してほしい。ドライバーはこれだけ踏み込んでいるのだから、本来であればそれ相応の力強い加速を期待したいところだろう。しかし実際は、意図した加速力が得られるまでに1秒前後のタイムラグが発生してしまう……。これは、2つあるクラッチ制御の最適化に必要なシークタイムなのだが、これこそが1モーター2クラッチ方式最大の弱点だ。

 ではなぜ、弱点を抱えながらも製品化されたのか? 複数の理由が考えられるが、こうした症状は「アクセル開度が大きく、しかし瞬時に踏み込まれた際に頻発する現象」であり、「実際に街中や高速道路で走行する場面ではほとんど遭遇しないシーン」であると開発陣が判断したからではないか、と筆者は考えている。

 もっとも、この分野も日々進化しており、日産が2015年までに発売するであろう直列4気筒2リッタースーパーチャージャー+ハイブリッドシステム(ATではなくCVTを採用)には、この1モーター2クラッチ方式が搭載されることが決まっている。プロトタイプに試乗したが、フーガやシーマのそれとは違い、クラッチ1とクラッチ2の連携がよりスムーズになっているばかりか、大開度のアクセルワークに対しても、大きなタイムラグなしに加速力の高まりを体感することができた。

 今後は、THS-2に代表されるトヨタ、1モーター2クラッチ方式の日産やZFのハイブリッドシステムに加えて、ボディーの大小、カテゴリーの上下を問わず内燃機関のダウンサイジング化が急速に進んでいく。そうなると、LCA(ライフサイクルアセスメント:製品の原料採掘から製造、輸送、使用、廃棄までのすべての段階における環境負荷の評価)の観点から、ハイブリッド化することだけ最善ではないという見解も出てくるだろう。必要は発明の母である。技術のさらなる進化に期待したい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員