インプレッション

日産「エクストレイル ハイブリッド」(公道試乗)

同社のFFモデルに1モーター2クラッチ式ハイブリッドを初導入

 日産自動車「エクストレイル ハイブリッド」では、1モーター2クラッチによるパラレルハイブリッドシステムが採用されている。このシステムは同社の「スカイライン ハイブリッド」や「フーガ ハイブリッド」と同じシステムなのだが、この2モデルはFR。エクストレイル ハイブリッドはFFとして初めて同じシステムが導入されたモデルである。また、オールモード4WDシステムもチョイスできる本格4WDハイブリッドだ。

 信号待ちからのスタートでは、まずアイドリングストップからモーターの力で動き始め、その後エンジンが始動して本格的な加速体制に入る。クルマは静止状態から動き始める瞬間に大きなエネルギーを必要とするから、ここをエンジンに任せると燃料消費が多くなる。動き始めを回生エネルギーによって蓄積した電気でモーター駆動させれば、かなりの燃費節約が期待できる。これがハイブリッド車の大きな強みなのだ。特にエクストレイルのようなSUVの場合、それなりの車重があるわけで(FF:1570kg、4WD:1630kg)、モータースタートの効果は大きい。

 今回のエクストレイル ハイブリッドの試乗会は、横浜にある本社を拠点に行われた。みなとみらい地区といった市街地の雑踏から首都高速まで、バラエティに富んだ走りを試すことができる。もう1つ、このような市街地での走行においては、一般的なアイドリングストップ付きエンジン車ではブレーキペダルから足を離した瞬間にエンジンが始動するが、ハイブリッド車ではほんの少しだがエンジンの停止時間が長くなる。この蓄積も市街地での燃費に影響してくるのだ。

エクストレイル ハイブリッドのボディーサイズは4640×1820×1715mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2705mm。試乗車は4WDの20X HYBRID“エマージェンシーブレーキ パッケージ”(ブリリアントホワイトパール)で、価格は301万1040円
足下は17インチアルミホイール(17×7J)にハイブリッド専用となるダンロップ(住友ゴム工業)の低転がり抵抗タイヤ「GRANDTREK ST30」(225/65 R17)の組み合わせ
インテリアをブラックで統一するエクストレイル ハイブリッド。シートは利便性に優れる防水仕様。メーターの中央に5インチカラーディスプレイの「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」を備え、エンジン走行中、モーター走行中、エンジン走行+モーター走行中、回生ブレーキでの充電中などの情報が確認できる

市街地でも高速でもエンジンを積極的に停止

 さて、市街地を走っていて感じたことは、エンジンが停止している時間が長いということ。40-60km/hという市街地モードでの速度域で、気がつくとエンジンが頻繁に停止している。エンジン回転計の指針がゼロを指したままで、エネルギーモニターに目をやると電気モーターパワーで走行しているのだ。そうかと思えば、信号待ちで停車しなくてはならないような減速時には、減速エネルギーを利用してモーターによって逆に発電が行われる。エンジン車と同じようなメカニカルな摩擦ブレーキに頼らず、可能な限り減速エネルギーを電気に変換してリチウムイオンバッテリーに蓄積させるのだ。これが回生ブレーキなのである。

 このように、積極的にエンジンを停止させてエンジンとモーターとの間のクラッチを切り、走行できるところが1モーター2クラッチシステムのメリットでもあるのだ。さらに、1モーターが駆動も発電も受け持っているのでスペースと重量を節約することができる。また、素早い充放電が可能なリチウムイオン電池によって、高速走行では精密なモーター制御によるクラッチ操作が行われスムーズな走行が可能だという。

直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴「MR20DD」エンジンは最高出力108kW(147PS)/6000rpm、最大トルク207Nm(21.1kgm)/4400rpmを、モーターは最高出力30kW(41PS)、最大トルク160Nm(16.3kgm)を発生。JC08モード燃費は20.0km/L(2WD車は20.6km/L)。エコカー減税により自動車取得税と自動車重量税が免税(100%減税)される
走行中に「アドバンスドドライブアシストディスプレイ」でエネルギーの流れを確認できる

 ところで、気になるのがハイブリッド化したことでラゲッジスペースなどが狭くなったのではないか? ということ。ハイブリッドの場合、回生したエネルギー(電気)を貯めておく大容量のバッテリーが必要になってくるが、これを置くためにいろいろな場所のスペースが犠牲になる。エクストレイル ハイブリッドでは、前述したように効率に優れるリチウムイオンバッテリーを採用しているので、スペースを最小限にとどめることができている。

 リアゲートを開けると、荷床の後方(手前)部分は通常のエクストレイルと変わらないスペースにして、奥の一段高くなった部分にリチウムイオンバッテリーが設置されている。日産は「リーフ」などEVの技術があるので、リチウムイオンバッテリーの小型化とスペースに合わせた設計が上手いと感じた。これにより400L以上のラゲッジスペースを確保している。

エクストレイル ハイブリッドのラゲッジスペース。フロア下にテンパータイヤを備え、その奥にリチウムイオンバッテリーを搭載するが、ラゲッジ容量はガソリン車の445L(3列シート車)~550L(2列シート車)に対して430Lと、遜色ないスペースを確保

 高速道路に入り、アクセルをしっかり踏み込むとなかなか力強い加速だ。2.5リッターエンジンを超える加速とのことだが、確かにモーター(41PS/160Nm)+ハイブリッド専用エンジン(147PS/207Nm)のパワーは、特にトルク感があって気持ちがよい。トランスミッションがCVTなので、この特性も加わってまったく不満もなくよく走る。高速走行でも、エンジンは頻繁に停止して必要に応じて回生を行う。このときにも、いつエンジンが停止していつ始動したのかがほとんど分からない。まずショックが感じられないのだ。エクストレイル ハイブリッドにはトルクコンバーターが装備されておらず、機械的なクラッチ(2つ)操作だけでエンジンとモーター+CVTを断続させているのだが、制御が非常に優秀なことが理解できる。また、走行中の室内の静粛性も高く、長距離ドライブも疲れにくいはずだ。

 エアコンのコンプレッサーを電動式にするなど、ベルトレスによるフリクションロスの軽減による燃費効果も見逃せない。電動式コンプレッサーなら、夏場の信号待ちでも圧倒的にエンジン停止時間が長くなり、渋滞停車時の効率も非常に高い。この方式を採用するメリットは大きいのだ。そして、エマージェンシーブレーキの採用なども安心だ。日産では、今後主要車にエマージェンシーブレーキを全車装備させる計画とのこと。

 そうしたエクストレイル ハイブリッドで1つだけ気になったのは、ブレーキペダルの踏みしろが大きいこと。これは、どのメーカーのハイブリッド車にも言えることだが、この部分に関してはまだまだ開発の必要性を感じる。とはいえ、本格4WDもチョイスできるエクストレイル ハイブリッドの実力はかなりのものだった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:安田 剛