インプレッション
2015ワークスチューニンググループ合同試乗会(その2、ニスモ/無限編)
2015年8月14日 00:00
TRDとSTIを紹介した前半(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20150813_716093.html)に続き、後半となる今回はNISMOと無限をリポート。NISMOは、ニュルで量産車最速のタイムをマークした車両とほぼ同じ仕様の「GT-R」、無限は登場してまもない「S660」にアイテムをフル搭載したデモカーを持ち込んでいる。
また、本来は走りを苦手とする箱形ミニバンを両社が手がけるとどうなるのか、その仕上がりにも注目だ。
NISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)
「GT-R NISMO N アタックパッケージ装着車」
独ニュルブルクリンク・北コースで2013年11月の発表時に量産車世界最速となる7分8秒679のタイムを出した、ほぼそのままの仕様で手に入るというだけでも胸躍るが、実際にターンパイクを走らせると“ニュルでタイムを出すためにはなにが必要か”ということを教えてくれる気がする。
エンジンパワーはもちろん大切だが、それを確実に路面に伝えるトラクション性能が十分でないと、せっかくのパワーが無駄になってしまう。その点で、このクルマの足まわりは意外なほどしなやかだ。引き締まっていながらも、路面のアンジュレーションにタイヤを巧みに追従させるようよく動き、粘り腰のグリップを発揮する。速度を高めるほどダウンフォースが発生してタイヤが路面に吸い付いていくような感覚もあるし、前後に備えた機械式LSDも効いている。
エンジンの速さは言うまでもなく、このクルマで走っていると、目の前の景色はまるですべてが早まわしのよう。そして限界はまだまだはるか上にある。GT-Rのようなクルマを造れる日産自動車はすごいと思うし、それをこのようにチューニングできるNISMOもすごいとあらためて思った次第である。
「エルグランド NISMO パフォーマンスパッケージ」
「NISMO パフォーマンスパッケージ」というのは、一連のNISMOの名前を与えられたコンプリートカーではなく、基本コンセプトを共通としながら、さまざまな事情によりNISMOのグレードがない車種に関して、あくまでパッケージオプション装着車という位置付けでNISMOが提供しているものだ。
エルグランドはクルマ感度の高いユーザーが多い。そこでこのクルマでは、ドライバーが運転を楽しめる、よりスポーツ志向のセッティングを目指した。追求したのは圧倒的な動力性能と、スピードを感じさせない安定性の高さ。ECM(エンジンコントロールモジュール)のスポーツリセッティングにより、小さなアクセル開度でもスーッと軽やかに加速していき、奏でるV6サウンドも気分を高めてくれる。アクセルを踏み込んだときの瞬発力はかなりのものだ。
SUPER GTのGT500に携わるエンジニアが監修したというエアロパーツは、快適にロングドライブできるよう、横風の影響によるふらつきを抑え、高速走行時の直進性向上を図っている。それと同時に、ワインディングの走行も楽しめるハンドリングを目指しており、今回のターンパイクでもそれを実感することができた。
もともとミニバンらしからぬ走りが売りのエルグランドが、さらに走って楽しめるクルマに仕上がっていた。狙いどおり、車両重量が軽く車高の低い乗用車と比べても大きなハンデを感じさせないフットワークを実現している。
「ノート NISMO S ニスモパーツ装着車」
ベース車の「ノート NISMO S」はけっこう売れているようで、街で走っている姿をよく見かける。実際に運転してもなかなか刺激的なドライビングが楽しめて、人気の秘訣がうかがいしれるのだが、そんなノート NISMO Sをベースにさらに各部に手を加えて、より本格的な走りを追求したのがこのクルマである。
乗ってみると、とにかく楽しい! 軽量フライホイールに交換していることも効いていて、エンジンレスポンスは最高だ。強化エンジンマウントやトルクロッドの恩恵で、ストッロルのON/OFFでパワートレーンが暴れることなく、よりダイレクト感のある走りを楽しめるし、クルマが軽くなったように感じる。チタンマフラーによる乾いたサウンドも心地よい。
フットワークもLSDの効果でステアリングを切った方向にグイグイ曲がっていき、アンダーステア知らず。オーリンズの車高調は、ベース車よりもずっと乗り心地がよくて、調整幅が広いなかから好みのセッティングを選べる。ショートストロークの5速MTのシフトフィールも上々。これでMTが6速だったらもっとうれしいところだ。
また、GT-R NISMO譲りの「NissanConnect Nismo用データトランスミッターキット」も試してみた。ドライビングを分析できるというのはこれまた楽しい。興味がある人はぜひ装着してみるとよいだろう。
無限(M-TEC)
「無限 S660」
ボディー各所に空力付加物を配した、ちょっとレーシーで派手な外観がまず印象的。また、ロールトップに換えて装着するハードトップ(試作品)が装着されている。これらにより雰囲気がガラッと変わっている。
走りもそのイメージに相応しくスポーティ度が向上しており、ノーマルもよくできているS660の延長線上で、よりシャープなハンドリングが楽しめるように味付けされている。ノーマルのS660はステアリングを切ってからワンテンポ遅れて反応するところ、切った瞬間に曲がるよう味付けしたと開発関係者が述べるとおりの印象だ。ステアリングギヤ比を速めたかのようにクイックで、それでいてリアのスタビリティは高い。全体としては穏やかな挙動のまま回頭性を引き上げた印象で、いわばミッドシップレイアウトのよい部分を際立たせて、より深く味わえるようにした感じである。
ターンパイクの高速コーナーもまったく不安を感じることなく攻められる。エキゾーストサウンドも、野太いというと大袈裟だが低音が効いていて、3気筒エンジンの安っぽさを払拭したスポーティな音質になっている。
購入者のうちチューニングする人の割合がかなり高いであろうS660だが、ノーマルに物足りなさを感じる人、よりエキサイティングな走りを求める人に、参考になる部分の多いクルマである。
「無限 ステップワゴン スパーダ」
無限の足まわりには、これまでも素晴らしい仕上がりにたびたび舌を巻いてきたが、今回もそんな印象を強くすることになった。しかもそれは、スポーツカーはもちろんだが、こういった量販モデルでより強く感じるケースが多い。
今回もS660はもちろん、ステップワゴン スパーダの仕上がりに感銘を受けた。姿勢変化が小さく、乗り心地がよく、フラットライドで、これほど重心が高くてトレッドも広くないクルマとは思えない仕上がりだ。
ベース車では例の「わくわくゲート」の採用で、本来は低下してしまう剛性を十分に確保した半面、オーバーハングがかなり重くなってしまった。その影響で、ワインディングを走るとアウト側に引っ張られる感じになって旋回性を阻害していると無限の開発関係者は分析。そこでこのクルマではその動きを消すように味付けした。実際にドライブしても、とてもスムーズなコーナリング姿勢と狙いどおりのライントレース性を実現していた。乗り心地もわるくない。
ブレーキも、踏力の微妙な調節で制動力と前後荷重をドライバーの意思に忠実にコントロールできるように味付けされている。多くの乗員を乗せるミニバンであれば、乗員にとってより快適な移動空間とする意味でも、加減速の制御はよりスムーズであるべきだと思うところだが、このブレーキはまさしくそのように味付けされていた。
4月に5代目モデルとなったベース車が、スパーダでもメッキの使用部位を減らして控えめなルックスとされたところ、これまでの無限の路線を踏襲したクロームメッキなどを多用するスタイルとなっている。“やっぱり派手なほうが好み”という人も少なくないであろうミニバンのユーザー層に受け入れられることと思う。ただし惜しいのは、この見栄えするクロームメッキ仕上げのフロントグリルが運転支援システム「Honda SENSING」非対応であること。難しいとは思うが、なんとか両立してくれるよう期待したい。