インプレッション

三菱自動車「eKカスタム」(2015年大幅改良モデル)

「20歳の顔は自然の贈り物だが、50歳の顔はあなたの功績である」。ココ・シャネルが遺したこの名言は、いかに顔というものがその人の信念や努力を色濃く表すものなのか、鋭く突いていてハッとさせられる。それはクルマにも同じことが言えると思う。

 三菱自動車工業は、6月に登場した新型「アウトランダー」から、新しいフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を取り入れたフロントマスクを採用した。両サイドからグリル中央に、アンダーカバーからグリルに向けて、三方からクルマと人を守る盾を差し出しているようなイメージのダイナミックシールドは、もともとは歴代「パジェロ」が培ってきたモチーフに由来しているという。それが、新世代三菱自動車モデルの“強さ”を表すのにふさわしいと考えられたのは、やはりメーカーとして積み重ねてきた信念と努力の賜物ではないかと思う。

 この10月に大幅改良したトールワゴン軽自動車「eKカスタム」にも、そのダイナミックシールドが採用されている。遠くから見ても存在感があり、近づいていくとキリリとして硬派なかっこよさに惹き付けられる。バンパーセンターではグロスブラック加飾が上質感を放ち、バンパー左右のLEDイルミネーションとクロームメッキ加飾はハイクラス感のある輝きを演出する。SUVのアウトランダーとはまた違った、eKカスタムならではのダイナミックシールドがしっかりと強さを伝えてくるいい顔だなと思う。

今回の大幅改良における外観の大きな変更点はフロントマスクの一新。「eKカスタム」(左)、「eKワゴン」(右)ともに印象を新たにしている
eKカスタム T Safety Package。ボディーカラーは「レッドメタリック」
eKカスタムは三菱自動車の新フロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を導入。また、アンダーグリル両サイドにクロームメッキ加飾とLEDイルミネーションが追加された
eKカスタム、eKワゴンともに「LEDリアコンビネーションランプ」を全車で標準装備。eKカスタムはクリアタイプを採用する
eKカスタム T Safety Packageでは、アルミホイールを光輝切削処理とダークグレー塗装を組み合わせたデザインに変更。タイヤサイズは165/55 R15のまま
eKワゴン T Safety Package。ボディーカラーは大幅改良で追加になった「ポピーレッドメタリック」
eKワゴンもアッパーグリルを上下に広げ、バンパーの両脇にインテークを模したガーニッシュを追加するなどの変更をフロントマスクに実施。上級グレードではeKカスタムと同じくディスチャージヘッドライトを新たに標準装備した
eKワゴンも「LEDリアコンビネーションランプ」を新採用
14インチの8本スポークアルミホイールもデザイン変更を行っている

 でも、ただ顔が変わっただけならわざわざ試乗会を催すはずがない。メカニズムの変更点は、電子制御サーモスタッドの採用やCVT制御の見直しなどで、自然吸気エンジンの2WD(FF)車で燃費が従来より0.4km/Lアップの30.4km/Lになったこと。そしてターボエンジン車には、不要な燃料消費を抑える「オートストップ&ゴー(コーストストップ機能付)」と「アシストバッテリー」を自然吸気エンジン搭載車と同じく採用して、パワフルな走りはそのままに燃費を2.8km/Lアップの26.2km/L(2WD)としたこと、と資料にはある。あまり大きな違いはなさそうだと思いながらも、eKカスタムのターボエンジン搭載車に試乗してみた。

 しっかりとクッションに張りのあるシートや、手のひらにしっとりとした感触が伝わるステアリング、そしてピアノブラックのセンターパネルが先進感を表現するインパネなど、日産自動車との共同開発車両ということもあって、室内の上質感は軽自動車トップクラス。広さもライバルたちに肩を並べ、1人では寂しくなるほどの空間だ。

 プッシュボタンを押してエンジンをスタートし、そっと右足を踏み込むと、最初はちょっとビックリするほどグイッと力強く加速していく。と言っても下品な加速感ではなく、慣れてくると必要なところで速さが得られる扱いやすいターボだと分かる。1つ気になる点を挙げるならば、エンジン音が「ア”~」という感じで、ちょっと古典的に車内に響いてくること。最近は軽自動車でもサウンドチューンをするものまで出てきているだけに、どこか懐かしい感じがするのだった。

3B20型の直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンは最高出力47kW(64PS)/6000rpm、最大トルク98Nm(10.0kgm)/3000rpmのスペックに変更はない。しかし、微速走行中からアイドリングを停止する「オートストップ&ゴー(コーストストップ機能付)」や減速時の運動エネルギーを電気に替えて蓄える「アシストバッテリー」(写真右。助手席下に設置)などを新たに採用して、2WD車では26.2km/LのJC08モード燃費を実現している

 とはいえ、大人3人乗車でのドライブはいたって快適。直進でもコーナーでもしっかりとした安定感があるし、ステアリング操作に適度な手応えがあるから、クルマと意思の疎通がしやすいように感じる。新規採用となったアイドリングストップも自然な作動感なので、ほとんど気にせず運転できる。後席にも乗せてもらったが、身体がほとんど揺すられることなく安定し、乗り心地のよさを実感できた。

 eKカスタム&eKワゴンは、登場したてのころはライバルたちと比べてやや走りのフィーリングに古さがあるように思えたが、それから幾度もの改良を積み重ねて、今ではすっかりなめらかで上質感のある走りに仕上がっている。そんなところも、この“いい顔”に表れているのだと思う。

eKカスタムのインテリア
eKワゴンのインテリア

 そしてもう1つ。クルマと人を守るという意味のあるダイナミックシールドを裏付けるように、それにふさわしい装備が新たに採用されている。日産の「デイズ」と並んで軽自動車初搭載となった「オートマチックハイビーム」は、夜間走行時に周辺の状況や先行車・対向車の有無を認知し、ハイビームとロービームを自動切り替え。利便性と遠方視認性を向上させてくれる画期的な装備だ。

 試乗会は昼間だったので残念ながら試せなかったが、開発者に聞いたところかなり感度がよく、実用性は高いという。日没が早くなるこの時期、山道や郊外の暗い道を走る機会が多い人にはとても心強い機能になる。加えて、低車速域衝突被害軽減ブレーキ「FCM-City」や「誤発進抑制機能」がセットになる「e-Assist」や、自車を上空から見るように映してくれる「マルチアラウンドモニター(バードアイビュー機能付)」など、より安全装備が充実したSafety Packageグレードが新しく設定されたのもトピックだ。

「オートマチックハイビーム」では、ルームミラー前方に設置したカメラで対向車のヘッドライトや街路灯といった光源を認識。必要に応じてハイビームからロービーム、ロービームからハイビームに自動的に切り替える。運転席右側前方に設置されたスイッチでON/OFFを選択できる
ドアミラーなどボディーの四方に設置したカメラで撮影した映像を、ルームミラーに内蔵した画面に「バードアイビュー」など多彩な設定で表示できる「マルチアラウンドモニター」

 もともと三菱自動車モデルは、ヘッドライトの消し忘れを防いでくれる機能など“人間のうっかりミス”をクルマがカバーしてくれたりと、「無骨だけれども優しさのあるクルマ」というのが魅力の1つだった。新しいeKカスタムは「優しい人というのは強い人のことなんだよなぁ」なんて、しみじみ思い出させてくれた三菱自動車らしい軽自動車だった。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:深田昌之