インプレッション

三菱自動車「パジェロスポーツ」(海外仕様)

国内で販売されないモデルに試乗するチャンス

 海外試乗会に行くと、日本国内では販売されないモデルやグレードに試乗できることは多々あるが、日本国内の試乗会で国内販売の予定がないモデルに試乗するなどということは非常に珍しい。今回は、まさにそんなモデルを紹介する。そのモデルとは、「トライトン」などとベースを同じにする三菱自動車工業「パジェロスポーツ」だ。パジェロスポーツが販売されるのはアセアン(タイ、フィリピン、インドネシアetc)が57%で中心となり、次いでアジア地域が13%、他にロシア、中東、アフリカなど。製造拠点はタイのラムチャワン工場。

 まずは2015年8月に初公開となった、3世代目となる新型パジェロスポーツ。エクステリアは歴代三菱車のデザインを継承し、そして進化させたフロントフェイスのデザインコンセプトである「ダイナミックシールド」を採用している。

 ダイナミックシールドとは、フロントグリルを挟んで左右と下側から包み込むようなデザインにすることを指し、乗員を守るような強いボディを表現したもの。これは現行アウトランダーにも共通するデザインだ。前後フェンダーは大きく左右に張り出し、1815mmという車高も相まって逞しさを感じさせる。ちなみに全長は4785mmで先代モデルからは90mm延長されている。全幅は1815mmで変更はない。ヘッドライトとデイタイムランニングランプはLEDで、広がりを考慮した調光となっている。リアの縦長のコンビネーションランプもLEDだ。

今回試乗した3代目「パジェロスポーツ」のボディサイズは4785×1815×1800mm(全長×全幅×全高)。「スタイリッシュ&コンフォータブル オフロードSUV」を商品コンセプトとし、「洗練された高品質なデザイン」「パジェロブランドを継承した本格オフロード性能」「上質な走りと快適な居住空間」「クラストップレベルの環境性能、先進の予防安全装備」を盛り込んだ
スポーティでダイナミックなエクステリアデザイン。フロントマスクでは新世代デザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用している

 インテリアでは三菱自動車のSUVでは初となる「ハイセンターコンソール」を採用し、ディスプレイを最上部に持ってくるなど、視認性と使いやすさを進化させている。全体的に高級感が増した室内だが、立体形状のフロントシートや2列目&3列目シートのシート厚が多層化などによりアップされ、大きさも含めてワンランク上の居住性を目指したという。確かにフロントシートに座った感じが大人っぽく感じられ、エグゼクティブな気分になる。2列目&3列目シートは前に折り畳むことでフラットな荷室が登場し、そのスペースも十分なものだ。

 また、乗り心地の改善のためラダーフレームとボディとのマウントの容量をアップさせている。パジェロスポーツは、流行りのモノコックボディではなくボディ・オン・フレームなのだ。エアコンは左右独立式になり、電動パーキングブレーキ、フローティングビューのマルチアラウンドモニターなどが追加されている。

3列シートを採用して7人乗車を可能にしたパジェロスポーツのインテリア。シルバー加飾や立体的な形状のシートなどを使って高級感を演出。装備面でも左右独立オートエアコンを採用して快適な居住空間を実現したほか、電動パーキングブレーキ、マルチアラウンドモニターといった利便性に優れる装備も与えられている

 パワートレーンは直列4気筒2.4リッターのディーゼルターボエンジンで、トランスミッションは8速AT。MIVECディーゼルターボエンジンはタイ仕様では先代モデルよりも燃費を17%向上させているという。このエンジンの出力は181PS/3500rpm、430Nm/2500rpmで、マツダの14.0に次ぐ15.5という低圧縮比化によってNOxやスモークを低減。アルミブロックにより軽量化、燃料噴射圧を2000barに高めタービン容量を可変制御するVGターボ、さらに8速ATとの組み合わせにより17%の低燃費化を実現している。また、エンジン単体の技術としては、吸気側のバルブタイミングとリフト量を低回転時と高回転時で2段階に制御するMIVECを採用しているところが注目だ。

直列4気筒 2.4リッター MIVEC ディーゼルターボ「4N15」型エンジンは最高出力181PS/3500rpm、最大トルク430Nm/2500rpmを発生。エンジン本体の軽量化とともに減速エネルギー回生システムなどの採用により、先代モデルから燃費を約17%向上させることに成功している

紛れもなく高性能なSUV

 では走り出そう。

 国内販売はないモデルなのでナンバーはついておらず、クローズドのオフロードコースでの試乗だ。ドラポジはいわゆるSUVっぽくアイポイントは高く見下ろす感覚で、視界はとてもよい。アクセルを踏み込むと予想以上に極低速域からトルクがしっかりと出て、約2t(4WDの車両重量)の車体を軽快に引っ張っていく。低速域での粘りを感じるが、アクセル全開で高回転域でのタレ感もディーゼルっぽくない。つまり、4000rpmを超えたあたりからの急激にトルクが落ち込むフィーリングがない。振動感も少なく、とても優秀なディーゼルだと感じるのだ。

 走り出しから感じるのはキャビンがとても静かなこと。パジェロスポーツに試乗する前に「アウトランダー」「アウトランダーPHEV」にも試乗したのだが、オフロード路面からの走行ノイズはパジェロスポーツの方が静かなほどだ。

 わずかにディーゼルエンジンのそれらしい振動感がステアリングから伝わるが、まったく嫌味じゃないし静粛性はかなり高い。今回の試乗はオフロードコースだけなのでサーキットコースほどの速度は出せないが、不整地路面をアクセル全開で駆け抜けたり、サーキットにはありえないような急な登降坂路を走破する。

当日はアウトランダーシリーズなどにも試乗できた

 路面に合わせて「GRAVEL」「MUD/SNOW」「SAND」「ROCK」の中から選べるオフロードモード制御によって苦もなく悪路を走り抜ける。急勾配の下り坂では、ヒルディセントコントロールによってステアリング操作だけに集中して安全に下りきることができる。

 最低地上高は先代モデルと同じ210mmとし、アプローチアングル30°、デパーチャーアングル24°、ランプブレークオーバーアングル23°で、かなり大きな凸凹路であってもほとんどボディを擦ることはない。かなりの速度で凸凹に突っ込んでも底突きしないから安心してオフロード走行ができる。また渡渉性は700mmとかなり高い。フロントにダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用しているので、しなやかなストローク感のある足さばきだ。ボディがとても堅剛なので、走っているうちにどんどんオフロードを攻め込みたくなる。また、ホイールベースは2800mmという長さなのに最小回転半径は5.6mと小回りが利くことも付け加えたい。

 静粛性が高いことと堅剛なボディ&フレームのおかげで、プチオフロードマニアの筆者でも安心して走行を楽しむことができた。改めて三菱自動車の4WD技術に感心しきりの1日となった。パジェロスポーツは紛れもなく高性能なホンモノのSUVだ。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:中野英幸