インタビュー

プジョーのストフェル・バンドーン選手とロイック・デュバル選手インタビュー ル・マン24時間/モンツァでの好調を“第2の地元”日本での好結果につなげたい

今週末の9月8日~10日に富士スピードウェイで開催されるWEC第6戦富士6時間を前に、ストフェル・バンドーン選手とロイック・デュバル選手に話を聞いた

 世界三大レースの1つとなるル・マン24時間レースを含む、FIA 世界耐久選手権(World Endurance Championship:WEC)の第6戦となる富士6時間レースが、9月8日~10日に富士スピードウェイで開催される。

 今シーズンからトヨタ、プジョーに加えて、フェラーリ、キャデラック(GM)、ポルシェといった新しいマニュファクチャラーがハイパーカークラスというトップカテゴリーに参戦したことで、より競争が激しくなり、シーズンのハイライトとなるル・マン24時間ではフェラーリが58年ぶりに優勝したことは記憶に新しいだろう。

 そのWECに2022シーズンの途中から参戦しているのが、フランスの自動車メーカーであるプジョーのワークスチームとなる「Team PEUGEOT TotalEnergies」だ。リアウイングがないというユニークなレーシングカーとなる「PEUGEOT 9X8」を走らせる同チームは、2022年こそ新型車の立ち上げに苦労していたが、ル・マン24時間では雨が降った序盤から中盤にトップを快走するなどしたほか、直近の第5戦モンツァでは2台のうち93号車が初めてのポディウムに上がるなど、上り調子を維持している。

 今回、WEC 第6戦富士に参戦するために来日したTeam PEUGEOT TotalEnergiesのドライバーで、以前日本でレースに参戦していた2人のドライバー、ストフェル・バンドーン選手、ロイック・デュバル選手にお話をうかがう機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。

ストフェル・バンドーン選手(左)とロイック・デュバル選手(右)

リアウイングレスが話題の「PEUGEOT 9X8」に「違和感はない」

──お2人とも日本でレースをされた経験があって、それから欧州に戻ってF1、Formula EやWECなどに参戦されていると思う。今回WECのレースで日本に戻ってきた、今のお気持ちを教えてほしい。

ストフェル・バンドーン選手:日本に帰ってくることができて本当にうれしい。2016年にスーパーフォーミュラに参戦して、日本で1年戦う生活をしていた。大変いい思い出だし、スーパーフォーミュラに参戦することを大変楽しんでいた。そしてその1年を日本で過ごしたことで、日本の文化もよく理解できた。今回はニコ(ニコ・ミュラー選手)が負傷して欠場するということで、その代役として参戦することになった。ニコが早くよくなってくれることを心より祈っているが、個人的には日本でレースができることを本当にうれしく思っている。

ロッイク・デュバル選手:日本は僕にとって第2の故郷だ。僕が日本で過ごした時間は長く、僕のキャリア全体を見れば、日本でのレース経験は最高の部類に入ると思う(筆者注:ロイック・デュバル選手は、2009年のフォーミュラニッポン、2010年のSUPER GT/GT500のタイトルを獲得したのち、アウディと契約してWECに参戦した)。世界で戦うようになってからも、何度かこうして戻ってくることができたが、今年は昨年に続いて2年連続でプジョーと戦えるので、いいレースを日本のファンの皆さんにお見せしたい。

──バンドーン選手は、今回初めてプジョーでの参戦になるが?

バンドーン選手:これまでもLMP2やSMPからLMP1(ハイパーカーの前身のカテゴリー)に参戦したことがあるなど、決してこのシリーズは自分にとって未知なシリーズではなくて、今回復帰戦のようなものだと感じている。特に今年はハイパーカーのカテゴリーの中に、LMHに加えてLMDhが参入できるようになったことで、競争は激しくなっている。そんなエキサイティングな時期にレースできるのが楽しみだ。

──すでにテストではPEUGEOT 9X8を運転しているか?

バンドーン選手:2月か3月にプライベートテストのときに乗った。それ以来この9X8はドライブしていないが、チームと一緒に進化点は追いかけている。今回はそれ以来のドライブになるが、すでに1度乗っているので特に違和感なくドライブできると考えている。

──デュバル選手は、このプロジェクトに最初から参加してきた。PEUGEOT 9X8はどのように進化してきたか?

デュバル選手:われわれはこのプロジェクトをゼロからスタートさせた。新しいチーム、新しいエンジニア、新しいメカニックを迎えて、チームを作り上げてきた。そして昨シーズンの後半からコースを走るようになって、今に至っている。そのプロセスは非常に長いものだったし、決して簡単だったとは言えない。困難は当初から予想されていたが、こんなレベルの高い選手権に参加するのは強力なライバルも多数いて、厳しいものになるだろうと思っていたが、それは間違っていなかった。

 しかし、今年に入って状況は改善され、ル・マン24時間レースでは朝の3時までハイパーカーの中でトップを争えていたし、そして前戦のモンツァではついに表彰台に上がれた。次の目標は今週末の富士のレース、そして最終戦のバーレーンで再び表彰台を獲得することだ。そして来年は優勝とタイトルが獲れるようにしていきたい。

──ル・マン24時間レースの序盤やモンツァでプジョーチームは本当にいいレースをしていた。依然としてマシンの改良は進んだのだろうか?

デュバル選手:このシリーズではレギュレーションで開発はほとんど行なえないので、マシンの挙動やセッティングなどでパフォーマンスを上げていく必要もあるし、BoPによる性能調整も影響する。シーズン序盤の状況を見て、ACO(WECやル・マン24時間レースのプロモーター)やFIAはそこを読み取って、ル・マン24時間レースで少々調整を入れたのだと思う。もう1つはマシンの性能を最大限引き出すようなセットアップが進んだこともある。そこはチーム全体が努力してきた成果ができているのだと思う。実際、モンツァではうちのチームは1番タイヤ交換が速かった。その意味で、どんどんよくなっていると感じている。

──PEUGEOT 9X8は発表会のときに、リアウイングレスのユニークなデザインが話題を呼んだ。ドライバーの観点からこのデザインはどのように感じたか?

デュバル選手:確かにユニークなデザインで多くの人がそこに注目していることはよく知っている。ドライバーとしても確かにリアが覆われていて、一般的なリアウインがなかったことは驚いたよ。最初車がアンベールするときに、リアウイングがあるあたりが後ろだなって分かるのだが、このクルマではカバーの下ではフロントもリアもよく似ているので分からなかったぐらいだ(笑)。しかし、すぐ慣れたし、クルマは初日から非常に美しいと感じたのもまた事実だ。

 実はテクニカルディレクターに最初に質問したのは、リアウイングの有無やフロアの使い方とか、それをどういうコンセプトで作っているのかってことだった。それを聞いたら、ちゃんとこうしたデザインにはデザインの理由があることが分かった。僕はドライバーだし、エンジニアが技術的な観点から決めた決定には全幅の信頼を置いている。実際、ポール・リカールでの最初走らせてみたときは大変よくて素晴らしいフィーリングだった。特に高速コーナーが素晴らしくてポジティブな感想を得た。

──つまり、リアウイングがあるかどうかではなく、きちんとダウンフォースが出ているかどうかが大事だということか?

デュバル選手:その通りだ。ポール・リカールの高速セクションを走らせたところ、カーブやコーナーでは何も問題がなかった。ただ、セブリング(筆者注:WECの開幕戦が行なわれたアメリカのサーキット。IMSAのセブリング12時間レースと併催で行なわれている。セブリングはオールドサーキットで路面の凹凸が激しく、よくクルマがはねるコースであると知られている)のようなバンピーなコースに行ったときは少々問題があった。そこで、セッティングを見直したりする必要があった。しかし、コンディションに合わせてセットアップをすれば、より安定して走らせることができた。

 重要なことはこの9X8というクルマは、美的観点からも、レーシングカーとしての特性としてはライバルとは全く違って見えることだ。多くの人がこのクルマについて話をしてくれるというのはいいことだね(笑)。

バンドーン選手:正直なところ、ドライバーとしては、リアウイングがあるかなど感じない。空力やフロアの設計思想がほかのクルマとは違うけれど、それでもダウンフォースはきちんと発生している。結局僕たちはドライバーだから、クルマの見た目が面白いとか、きれいとかはどうでもよくて、ただただ速いクルマがほしい。それだけだ。より速くて、勝てるクルマ、それを僕たちのチームは作ろうとしている。

 すでにお話ししたように、このチームはまだ新しくて、始まったばかりのプロジェクトなのでこれまで苦労してきたけれど、ここ数戦でチームは大きな進歩を遂げて、モンツァで初の表彰台を獲得した。それを今回の富士でも確認できることを期待しているし、この勢いを維持したいと思っている。

「巨大ポッキーを差し入れてくれる日本のファンは世界一」とデュバル選手。富士ではモンツァの勢いのまま好調を維持したい

──今回は2km近いストレートがある富士スピードウェイのレース。ドラッグが少ないリアウイングレスのPEUGEOT 9X8には有利なサーキットのように見えるがどうか?

デュバル選手:有利かどうか判断するのはまだ難しい。というのも、昨年チームが富士スピードウェイでレースをしたのは、モンツァでのデビュー戦を経てまだ2レース目だった。それを考えれば昨年はかなり頑張ったと思うが、基本的にはマシンを理解することに徹していて、サーキットに合わせ混むなどということができた訳ではない。今シーズンは徐々にマシンもまとまってきて、セッティングも進んできている。

 富士スピードウェイの特徴は、おっしゃる通り長いストレートがあることだが、同時に第3セクターのようにコーナーばかりのセクションもあり、そこではタイヤの劣化をどうやって抑えるかが鍵になる。レースに勝つには、その両方に合わせこんでいくことが大事だ。

 また、富士スピードウェイのレースでは天候が結果を左右することも多い。昨年はずっと好天の中でドライのレースになったが、今年はどうなるのかまだ分からないが、チャレンジングなレースになることは間違いないだろう。

 昨年のレースでは2台とも小さな問題は抱えていたが、表彰台を目指して戦っていた。今年は信頼性とパフォーマンスの観点で素晴らしい進歩を遂げられているので、上位で戦うチャンスがあると思う。モンツァでの勢いをそのまま維持していきたいね。

──日本でのレース活動の後、アウディでWECを戦い、その後プジョーという母国のメーカーのワークスドライバーになった。母国自動車メーカーのワークスドライバーになるというのはどんな気持ちだろうか?

デュバル選手:僕が最初に優勝した大きなレースは、2011年のセブリング12時間レースで、そのときもプジョー(正確にはカスタマーチームのオレカチームからの参戦)だった。ちょうと2011年の東日本大震災の直後に行なわれたレースだったのでよく覚えているのだ。その後、アウディで走るようになり、2013年にはWECのタイトルとル・マン24時間レース優勝という成果を出すことができた。そして、一昨年からこのプジョーのプロジェクトに参画して、自分の母国であるフランスのマニュファクチャラーとWECのトップクラスに戻ってくるチャンスを得たときには、本当にうれしかった。プジョーはモータースポーツの歴史に輝くブランドであり、ラリーでも、耐久レースでも輝かしい成果を出してきた歴史がある。だから、自分がその一員となってそれを繰り返していくことが非常にチャレンジングで大きなチャンスだと考えた。

──バンドーン選手は、今回はニコ・ミュラー選手の代理ということでの参戦となる。今年からTeam PEUGEOT TotalEnergiesのリザーブドライバーとしてチームに参画してきたが、チャンスがあればやはり以前何度か参戦しているル・マン24時間レースに戻りたいか?

バンドーン選手:これまでル・マン24時間レースには2度参戦している。2019年にはSMPチームからLMP1クラスに参戦して総合3位。2021年にはLMP2に参戦して2位といずれも表彰台を獲得できたのでそれなりの結果は残せていると思う。言うまでもなくル・マン24時間レースは特別なレースだ。ロイックはすでに勝っているのでうらやましいよ(デュバル選手からは君はF1まで行ったからいいだろ? とチャチャが入る)。

 もちろんこれまでのル・マン24時間レースがどんなレースかは理解しているつもりだったけれど、2019年に、そして2021年に実際にレースに参加してみて、本当のことは理解していなかったって分かった。参加してみて分かったことは、そこには熱狂的なファンがいて、レースに勝つにはものすごいエネルギーをつかって準備する必要がある。本当にものすごいレースなのだ。だから将来はル・マンで勝ちたいと思っているし、そのチャンスが巡って来るといいなと今は願っている。

──日本のファンはお2人のような日本で活躍して上のカテゴリーに進んでいったドライバーを「おらが村のドライバー」と言ってとても応援しているし、日本のイベントに「帰って来て」くれてレースをしてくれることを大変心待ちにしている。日本のファンとの交流などについての思い出を教えてほしい。

バンドーン選手:ロイックは何年も日本にいたので、僕よりもいろいろあると思うけれど(笑)。日本でレースをしていた1年は、すごく楽しい日々だった。ちょうどF1にいく前の年だったので、ここに来てレースをするのは特別な感じがしたのだ。そして日本のファンは本当に熱心に応援してくれる。どのレースにいっても応援の幕を出してくれて、たくさんのプレゼントをもらった。この週末にはそうした日本のファンにまた会えるというのは本当にうれしい。

デュバル選手:本当に日本のファンは熱心に応援してくれる。いつでもサーキットにきて応援してくれるし。実は僕の大好物はお菓子のポッキーなのだけれど、前にその話をしたら、それからいつもファンのみんながポッキーを差し入れてくるようになって……しかも彼らは巨大な箱のポッキーをプレゼントしてくれて、もう僕のおなかはレース前にポッキーでいっぱいだった(笑)。

──それはお菓子会社にスポンサーになってもらわないといけない(笑)。

デュバル選手:本当にそうだ(笑)。それだけではない。毎年僕はフランスTV局でのF1中継の解説の仕事で、日本GPを訪れる。鈴鹿サーキットに行くと、毎年僕を応援する横断幕がはってあるのを見つけるんだ(笑)。F1ドライバーの名前に混じって自分に向けた横断幕、しかもF1ドライバー向けのそれより大きな横断幕を見つけた時は「スゲー」ってなったよ(笑)。F1ドライバーはどこの国にいっても「この国のファンは最高だよね」って言っていると思うが、僕は日本のファンこそ世界最高だと信じているし、僕らが受けるサポートは本当に特別なものだと感じている。残念ながら僕にはストフェルのようにF1ドライバーになるチャンスはなかったけれど、日本でレースをしていると、自分がF1ドライバーになったような気分になれるんだ。

──プジョーの市販車の中で印象的なクルマはなにか? また今はどんなプジョー車を使っているか?

デュバル選手:祖母からプジョー205を譲り受けたとき、祖母が運転していた205は本当に印象的だった。だから、祖母からそれを譲り受けたときには、どうやったらあんな風に運転できるんだろうって悩んだぐらいだった(笑)。今のクルマで言えば、プジョー 508 PACを社用車として利用している。非常にパワフルで、道路が走りやすくていいクルマだ。

バンドーン選手:僕はまだ社用車をもらっていないので、プジョーのみんなが送ってきてくれるのを待ってるよ(笑)。駐車場を開けておかないとね(笑)。