インタビュー

装備にデザインに空力に、こだわりを詰め込んだスズキの新型「スイフト」開発者インタビュー

新型スイフトの開発を担当した小堀昌雄氏(右)

 12月6日、スズキの新型「スイフト」が発表された。発売はCVT車が12月13日、5速MT車が2024年1月17日で、1.2リッターエンジンを搭載する「XG」と、1.2リッターエンジン+マイルドハイブリッドエンジンを搭載する「HYBRID MX」「HYBRID MZ」の3グレードが設定される。価格は172万7000円~233万2000円。

 その新型スイフトについて、チーフエンジニアの小堀昌雄氏、エクステリアデザインを担当した髙橋秀典氏、インテリアデザインを担当した小川勇氏の3名に話をうかがった。

モデルチェンジにあたってユーザーの声に応えた装備を追加

──ドライバーズシートに座ってみたのですが、スイッチ類やナビの操作がかなりしやすく進化したようですね?

小堀氏:新型スイフトの社内的なミッションとしては、先代モデルのパーツをなるべくキャリーオーバーして使うことでした。プラットフォーム部品は2世代使うことが基本的には前提です。けれども、今回は使いやすくしたいという思いがあり、お客さまからの声に耳を傾けてダッシュボードまわりを変更することにしました。

 要望としてお客さまからうかがったのは、スイッチ類の分かりやすさや距離を近くしてほしいということでした。そこで、右側のスタータースイッチ側はドライバー側に3度、モニター側は8度傾けるようにセットしています。また、センターベンチレーターやハザードスイッチは位置を下げて角度を奥にしないことで、手が届きやすくもなっています。

 ステアリングやセレクターレバー、シートに関してはキャリーオーバーとしたかったのですが、シートについてはデザインから要望があり、これまた変更となりました。

四輪商品開発第2部 チーフエンジニア 小堀昌雄氏

小川氏:基本的には先代を踏襲するかたちなのですが、立体感を強めたくて形状やボリューム、そして縫製を鋭角縫製として六角形が見えるようにしました。結果的に収まり感が増しましたね。

──使い勝手という点でみると、新型はついにEPB(電動パーキングブレーキ)が採用されましたね。

小堀氏:実はEPBを採用することは社内的には反対があったのですけれど、今回は押し切らせてもらいました。これもお客さまからの声がありましたので。特に50歳代以降からの要望が多く、逆に若年層からは意外にも要望が少なかったんです。スイフトは初めてクルマを手にする方々だけでなく、ダウンサイジングを考えてお乗りになる方々も多いんです。これまで上級モデルに乗っていたお客さまは、ダウンサイジングするときにこれまであった装備がなくなると、どうしても満足できないようです。五十肩でハンドブレーキが引きにくいという方もいらっしゃいましたので、EPBの採用は喜ばれるのではないでしょうか。

──CDのスロットがあったのも50歳代以降を考えてのことですか?

小堀氏:たしかにその年代からの要望は多いですね。けれども、サブスクにない曲を聴きたいというZ世代もいるようです。全世代をカバーするのはなかなか難しいのですが、できるだけ多くのお客さまに満足していただきたいという考えですね。

──一方でエクステリアはスポーツすぎるのをやめようというお考えだとうかがいました。それはなぜですか?

髙橋氏:スイフト=スポーツというところにファンがいらっしゃるのは理解しています。しかし、それだけで終わらずにもっと多くの方々に受け入れてもらえるようにならないかと模索しました。とはいえ、これまでのスポーツ路線を否定するのではなく、そちらも満足できるような手法を考えました。

 5ナンバー枠に入りながらもタイヤを四隅に配置すると同時に、ランプ類も外側へと取り付けることでワイドな感覚を強調し充実感を得られるようにしました。これまでのスイフトの文法では出てこなかったボンネットの切り方を行なっています。

 注目していただきたいのはサイドビューです。フローティングルーフと名付けていますが、キャビンとボディを分けた見え方がするところ、また、テールが少し出ていることも特徴です。

商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループ 係長 髙橋秀典氏

小川氏:ひと目見て「ハッとするデザイン」をエクステリアはつくってくれていましたね。多面体を横に回したような感覚でした。インテリアもそこに合わせるように囲まれ感を大切にして合わせていきました。

商品企画本部 四輪デザイン部 インテリアグループ 係長 小川勇氏

小堀氏:旧型は寸法に縛られて立体的な造形ができませんでした。新型はもう少し立体感を出したいと全長を15mmほど伸ばしました(フロントバンパーだけでなくリアバンパーも合わせての数値)。結果として奥行き感が出せたと思います。また、ベルトラインをまっすぐ後ろに通すことで、ガラスエリアを広げることが可能になり、結果としてインテリアに光が入りやすくなりました。外を見やすく広がった感覚を持てると思います。

──空力にこだわったところはありますか?

小堀氏:グリルからバンパー、ベルトライン、そしてリアクォーターにかけては風をきれいに流すためのデザインを入れてもらいました。また、エンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、ストレイク、ホイールデザインも空力を考えて形状を見直しています。また、リアスポイラーはミリ単位で伸ばす量を試行錯誤しましたね。

──タイヤの前にあるストレイクは前から後ろに斜めに傾斜する独特なスタイルに感じましたが、あれも空力ですか?

小堀氏:今まではまっすぐ落とすようなもので十分だったのですが、新型ではボディに流れる風が流れやすくなったので、床下も速く流れてくれないとバランスがわるくなるんです。そこでストレイクも斜めにして上下のバランスを取りました。

──プラットフォームは基本的にはキャリーオーバーですよね?

小堀氏:ホイールベース、トレッド、タイヤは基本的にそのままキャリーオーバーですが、それ以外の部分は改良を行なっています。フロントのスタビライザーは中空から中実に。ショックアブソーバーも変更し、ストロークアップや足まわりの剛性アップも行ないました。サスペンションメンバーも変更しています。

──エンジンは3気筒がメインとなりましたね。

小堀氏:これは新規に興したエンジンとなり環境性能を高めています。4気筒から3気筒になることで軽くなるのかと言われることが多いのですが、実際のところはボアが大きくなるのでそれほど変わってはいません。

──ADASが加わったということはパワーステアリングも変更となりましたか?

小堀氏:モーターを変更してより冗長性を高めたものになっていますね。結果としてステアリングはよりリニアな反応ができるものになっています。よりインフォメーションが豊かになっていると思います。

 こうしてさまざまな領域で装備を増していますが、あらゆる領域で軽量化を行なうことで、最終的には重量アップを約10kgに収めることができました。走りもよくなっていると思うので、試乗を楽しみにしていてください。

果たして走りのほどはいかに……

 このように新型スイフトは見た目から走りまで、かなり上質に変化していることはほぼ間違いないのだろう。このインタビューのあとに新型スペーシアに乗ったが、電動パワーステアリングの素直なフィールと、構造用接着剤を2種類使い剛性と振動をできるだけ排除した走りに感心した。新型スイフトのインタビューではその接着剤の話は出てこなかったが、おそらくスペーシア同様の手法が与えられるのではないかと期待している。公道を走るときが待ち遠しい。