フォトギャラリー

中野英幸の「第90回ル・マン24時間レース」フォトギャラリー

2022年6月11日~12日(現地時間)開催

第90回ル・マン24時間はTOYOTA GAZOO RACINGの8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮組)が優勝で幕を閉じた

 6月11日~12日(現地時間)、フランスのル・マン市にあるサルト・サーキットで伝統の耐久レース「第90回ル・マン24時間レース」が開催された。コロナ禍にあって3年ぶりの6月開催、2年間取材が許可されなかったのでようやくここに帰ってきた気がする。

 思えば1988年にはじめてこの地を訪れてから、34年の月日が経った。その間、ピットが変わり、シケインが作られ、コースもかなり変化したもののこのレースの持つ魅力(魔力?)は何の変化もない。

 ただ、毎年撮影禁止区間(いわゆるレッドゾーン)が増えていくのには困った。その日の天候と時間を考えながら撮影していたのは遠い昔、今は撮影場所が限られ、「この時間とこの天気ならこの場所」みたいな感じでコースを巡る。その中にも新しい発見があるものでそれも1つの楽しみである。

 ところで出発前に悩まされたのはやはりコロナ対策だった。事前に「MYSOS」なるアプリをスマホにインストール、これはチェックインの時に確認が取られる。ヨーロッパ入国の際のアプリは必要なくなったという情報もあったが、こちらも一応インストールした。

 成田空港はマスクの着用が義務付けられている。飛行機は満席状態、キャビンアテンダントも今日からマスクの着用がなくなったと大喜びだ。飛行時間はロシア上空を飛べないので北極まわりで、いつもより3時間長い15時間のフライトとなったが、いつものようにお酒を飲み寝るを繰り返す自分にとっては時間が伸びたことなどまったく苦にはならなかった。

 入国はパスポートのみのチェックでいつもと同じ。まわりの日本人が何枚もの書類を抱えているのを尻目にあっさり通過した。翌日、フランスから戻った際の到着時の検査と待機がなくなったとの情報を入手(滞在していた国によって異なる)。ラッキー!

 問題は帰国時に必要な72時間以内のPCR検査で、厚生労働省発行の書類にスタンプをもらわなくてはならない。帰国便が火曜日の10時35分だったので土曜日の10時30分以降に検査を受ける必要があり、そうすると決勝日に検査を受けなければならない。決勝スタート前はとんでもない渋滞が考えられるのでさっさとサーキットへ向かう予定だったが、そうなるとレース中に受けざるを得ないことになる。

 幸い、テルトル・ルージュのすぐそばの病院で手続きできることが確認できたので、スタート後にテルトル・ルージュまで撮影し、そこの出口から出て検査後にまたコース沿いを歩いてピットに戻るという計画を実施した。

 さてレースの話。ハイパーカーを撮るのはもちろん今回が初めてだが、この規定自体が何度も変更され今やどんな規定になっているかもよく分からなくなっている。そもそもトヨタがハイブリッドで参戦したのは、アウディのディーゼルエンジンの燃費のよさに対抗するというのが1つの理由だった。

 この何年も前から「早く出てこいハイブリッド」を提唱していた自分としては、ようやくかといった思いがあったが、アウディもしたたかでディーゼルエンジンにハイブリッドシステムを搭載して勝ってしまった。まさにハイブリッド初勝利を手に入れたわけだ。

 その後、アウディはシステム開発にさらに力を入れ、ポルシェの参加も始まる。ポルシェは参加当初から早さを見せ、参戦2年目の回生エネルギー放出量が6Mから8Mに引き上げられたことで一気に早さを手に入れた。当時1個のバッテリが2400万円とも言われたリチウムイオンバッテリを走行ごとに新品にして圧倒的な速さを見せた。

 トヨタも早さを身に着け2016年に初優勝かと思われたが、ゴールわずか3分前にトラブルが出て初優勝は手からこぼれ落ちた(2018年に悲願の初優勝を果たした)。そして2016年をもってアウディはWECから撤退、翌2017年にはポルシェも撤退してしまった。そこで提案されたのがハイパーカークラスだった。

 このクラス、当初は市販車であることが前提だったが、参加表明していたアストンマーティンが取り消したことでトヨタだけになってしまった。このため市販車という縛りを取りやめた。ではどこがLMP1クラスと違うのか? 簡単に言えば2人がちゃんと乗れるコクピット寸法が必要。外観はこれぐらいでコストがかかることに変わりはない。参戦するチームのないまま2022年のル・マンを迎えた。

 プジョーはマシン開発が遅れル・マンには間に合わず、フェラーリは当初から2023年の参加を目指している。ハイパーカーの規定が機能しなくなった時点でACOはIMSAと手を結ぶことを決め、2022年からのデイトナプロトハイブリッドをLMDhとして迎え入れることを発表したが、コロナ渦で1年先送りとした。

 この規定ではLMP2のシャシーに独自のエンジンと空力パーツを投入することができ、ハイブリッドシステムとバッテリ、ギヤボックスは共通部品としてコストを抑えた。この規定に反応したのはポルシェ、アウディ、BMW、キャデラック、アキュラといったメーカーで、当初はIMSAのみの参戦とみられるがポルシェはWECへの参戦を表明している。

 残念ながらアウディは計画を一時凍結してしまったが、ほかにもランボルギーニやアルピーヌなども参加を考えているようだ。当初参戦予定だったプジョーはWECモンツァ戦への参加を表明している。トヨタとの勝負が見ものである。

 最後にひと言。耐久レースとは既定の中で技術力を争うレース。BoP(性能調整)などといったハンデを付けたレースではオーガナイザーがレースの順位を決めてしまいかねない。事実、今年の1回目の予選でタイムの出なかったアルピーヌに対するBoP調整により2秒ものタイムアップがあり、慌てて元に戻すといった順位調整とも取れるできごとがあった。マシンが最高の状態でのレースが見たい! それこそが耐久レースの醍醐味だと思うのだ。

 なお、帰国時は南まわりでフライト時間はいつもと同じ12時間、成田空港ではとにかくMYSOS一辺倒である。これさえ入力していれば書類など一切必要なし。無事に帰国した。3年ぶりのル・マン、行ってしまえばいつもと同じ宿の家族や顔なじみのオフィシャルの人たちも変わらずで、2年の空白などなかったかのよう。こんなこともル・マンの魅了なのである。さあ2023年は100周年記念大会だ!

中野英幸