レビュー

【タイヤレビュー】オンロードレーサー松田秀士はどう感じた? オフロード性能に特化したBFGoodrich「Mud-Terrain T/A KM3」に乗ってみた

丸太を並べた段々越え、ぬかるんだ急登坂もなんのその

オンロードレーサー、オフロードタイヤを試す

試乗会ではオフロードレーサーの能戸知徳氏(右)がオフロードコースでのクルマの走らせ方をレクチャーしてくれた

 オフロードの世界へようこそ! ということで、今回はジープを駆って本格的オフロードコースで攻めてみた。といってもクライスラーの人気ブランド「ジープ」の話ではない。そのジープが履いているオフロード用のごっついタイヤの話である。

 そのタイヤは、BFGoodrichブランドのMud-Terrain T/Aの3代目としてデビューした「Mud-Terrain T/A KM3(マッドテレーン ティーエー ケーエムスリー)」。2007年に登場した従来の「Mud-Terrain T/A KM2」に比べてブロックの配置が変わり、トラクション性能が進化。KM2では裏組みするとホワイトレターのロゴが見えなくなってしまうため、裏組みも可能なようにKM3ではホワイトレターを廃止している。

 というわけで、オフロード専用コースでKM3の試乗会が催された。オンロードサーキットレーサーの松田秀士は、今年久々にMINI CHALLENGEというレースにシリーズ参戦しているが、ちょっと気分を変えてKM3のオフロード試乗会にやってきた。

7月から順次販売を開始したオフロード用4x4ラジアルタイヤ「Mud-Terrain T/A KM3」をジープで体感

 2017年から他メーカーのオフロードタイヤ試乗会に出席するチャンスをゲットしたことから、ここ最近はすっかりオフロードタイヤ評論家気取りである。実のところ、オフロードタイヤは知れば知るほどに興味深い事実がある。それは、あのごっついブロックパターンだ。悪路にもいろいろと種類があって、砂地、砂利、岩に雨が降れば泥沼と化す。そのすべてをオフロードタイヤはこなさなければならないのだ。オンロードタイヤが走る路面にもサーフェースが粗い細かい、継ぎ接ぎなどの差はあるけれども、オフロードほどの差はない。オフロードタイヤに必要なのは、どのような路面でもパンクしないこと。そしてどのような路面でも抜群のトラクションがあることだ。

 まずKM3の写真を見てほしい。サイドウォールのかなり深いところまでブロックパターンがついているところに注目。普通、タイヤの接地面は地面と接する平らな底の部分だが、KM3ではサイドウォールも接地面と捉えているのだ。これは降雨などによるドロドロの沼地を走行する際、トレッド面だけでなくサイドウォールのブロックがトラクションを発揮するとのこと。実際、今回試乗したオフロードコースも前日の雨でかなりぬかるんでいたのだが、ホイールスピンさせずに進む性能に驚いた。

1980年に登場した世界初のオフロード用4×4ラジアルタイヤ「BFGoodrich Mud-Terrain T/A」の第3世代に当たる「KM3」。オフロード走行に求められる諸性能の向上を目的に、オフロードレース「Baja1000」でも使われる「Baja T/A KR2」で培ったテクノロジーをサイドウォールに用い、ショルダーブロックの裂け割れを抑制。また、大型のトレッドブロックによって強力なグリップを発揮するとともに、V字型の深い切り込みが特徴的なトレッドデザインを採用し、マッド路面での強力な走破性を実現している
米国で制作されたBFGoodrich「Mud-Terrain T/A KM3」のプロモーションビデオ その1(1分29秒)
米国で制作されたBFGoodrich「Mud-Terrain T/A KM3」のプロモーションビデオ その2(2分31秒)
こちらは2007年に登場し、日本では2008年から販売を開始した従来の「Mud-Terrain T/A KM2」

 また、切り立った岩場などではサイドの部分にも尖った岩が接触し、簡単にサイドウォールを切ってパンクしてしまう。10年ほど前に、英国のSUVメーカー試乗会でスコットランドに行った際には、林道で少しだけ突き出した岩にサイドウォールを接触させてあえなくパンクしてしまったことがある。このときは、オンロードでのハンドリング性能を謳っていたサマータイヤだった。やはり林道やオフロードを走るときには、見合った仕様のタイヤを装着しなくてはならないと感じた次第。

 そんな時にお勧めなのがKM3と言いたいところだが、一般的なユーザーならばKM3よりも少しオンロードも得意な「All-Terrain T/A KO2」をおススメする。KM3がMud-Terrain T/Aとオフロードに専念したタイヤなのに対して、KO2はAll-Terrain T/Aとオールラウンドタイプ。こちらは2015年から日本国内でも発売されている人気モデルで、燃費性能もロードノイズもKM3よりよいのだ。やはりKM3はオフロード専用。それはもう試乗中も、丸太を並べた段々越えや、丸太をV字に配置してわざとサイドウォールを虐めたり、30度ものぬかるんだ急登坂を登ったりと大活躍だった。

試乗会ではさまざまな設定でKM3の実力を体感した

 何度も言うけれども、このブロックデザインはかなり激しく、見た目にも「どんな悪路もかかってきなさい」って感じ。だけど一般道向きではないというのは一目瞭然。そのことはBFGoodrichのスタッフも認めていて、乗り心地や静粛性はKO2の方がよいとのこと。だが、そんな事実をよそに、実はこのKM3は予約が殺到していて販売予定をオーバーしているのだとか。つまり、このゴツゴツのブロックに魅せられて購入するというケースが非常に多いのだそうだ。

 確かにKM3を装着したSUVはカッコいい。本来SUVはオフロードもこなすものだが、現在ではオンロードに特化しているモデルも少なくない。そういうモデルは、タイヤもサマータイヤを装着するクルマがほとんど。すでにそのようなスタイルに慣れっこになっている私たちだが、KM3を履かせた瞬間に逞しく違うクルマに見えてしまう。そこまでSUVのファッション性にこだわると、確かに楽しそうだ。クルマもファッションアイテムと捉えるならば、SUVにはオフロード専用タイヤを装着するのもお洒落なもの。それゆえ、カタログ製作はオフロードとは無縁な都市のど真ん中で行なったとのこと。つまり、都市部でのKM3装着率が高いということだ。

シーソーにもチャレンジ

 さらにKM3を履いていれば、このところの異常気象により極悪路となった道路をもこなせるかもしれない。最近の異常気象に都市機能がマヒすることもしばしばなのだから。登山するときはそれ用の靴に履き替え、街中でもプチ登山なファッションに登山靴はぜんぜんOK。SUVというクルマのファッションなのだから、革靴やスニーカーではダメ。サイドまであるゴツゴツのブロックとラウンドしたショルダー、そしてしっかりとエアボリュームのある形状。超偏平系のスポーツラジアルとは真逆なデザインだが、迫力がありファッショナブルだ。エアボリュームがあるから悪路では意外と乗り心地もよい。

 試乗後、本格的なSUVがほしくなってしまった。KM3を履くために。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在63歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:中野英幸