レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストン「レグノGR-XIII」、新基盤技術エンライトンを採用した次世代プレミアムコンフォートタイヤの乗り味とは?

2024年2月 発売

2万6730円~11万3960円/本

ブリヂストンの次世代プレミアムコンフォートタイヤ「レグノGR-XIII」を試乗する機会を得た

新技術により電動車に求められる性能を搭載した「GR-XIII」

 ブリヂストン(以下、BS)のプレミアムタイヤの基幹商品「レグノGR-XII」が刷新され「レグノGR-XIII」へと進化した。BSの新しい基盤技術である“ENLITEN(エンライトン)”を駆使して完成した国内初の量産市販タイヤとなる。ENLITENは生産技術の考え方、BCMA(Bridgestone Commonality Modularity Architecture)と組み合わせて軽く、真円なタイヤがアジャイルに作りあげることができるのが特徴だ。

 新しいレグノGR-XIIIは、従来のソフトで静かという定着したイメージから一歩踏み出し、静粛性と乗り心地の性能アップと共に、さらに運動性能を向上させるというレグノの枠を越えたコンセプトを打ち出している。

新技術基盤である“ENLITEN(エンライトン)”を初採用した「レグノGR-XIII」
レグノは1980年代に誕生した歴史のあるタイヤだ

 GR-XIIIのトレッドパターンは、従来品「GR-XII」の消音効果の高いパターンを進化させ、一見近似性があるものの縦溝の幅が異なり、溝の中で空気がぶつかり合う気柱管共鳴を低減する構造をさらに進化させてたものとなっている。

GR-XIIIのトレッドパターンは、溝の中で空気がぶつかり合う気柱管共鳴を低減する構造をさらに進化させたという

 また、これまで要求性能に対して部材を当てていたものを簡略化して、ENLITEN×BCMAにより無駄を省いた構造を実現したことにより、剛性確保と各性能のアップが図られ、同じサイズでは約10%もの軽量化を達成したという。試乗会会場には、GR-XIIとGR-XIIIのカットモデルがあったが、確かに余分な構造材を必要とせず、無駄のない美しい構造だった。

従来品GR-XIIと新製品GR-XIIIの同サイズ持ち比べもでき、軽さを実感できた
左が従来品GR-XII、右が新製品GR-XIII
左が従来品GR-XII、右が新製品GR-XIII

一般道、高速道路、テストコースとさまざまな条件で試乗

 郊外試乗はBMW「i4」で、装着サイズはフロント245/40R19、リア255/40R19と、内燃機のBMW「840d」も用意され、こちらはフロント245/35R20、リア275/30R20の2台の車両に試乗した。短時間ではあったが一般道と高速道路を試乗して突出して感じたのは静粛性。バッテリEVの音は主としてロードノイズと風切り音になるが、もともとi4は風切の風切り音が目立たないので主たる音源はロードノイズになる。しかしGR-XIIIが発す“ゴー音”はかなり抑えられており静粛性の高いキャビンが際立っていた。

 音は凹凸のある一般道からフラットな高速道路まで速度域、路面の種類に関わらず突出した音がないのが特徴だ。

バッテリEVモデルのBMW「i4 M50」では、ロードノイズがかなり抑えられていることを体感できた

 安定性の面では高速ではバッテリEVならではの低重心で直進性が高い。タイヤ剛性も高く安心感があったが、ニュートラル附近の反応はそれほどシャープには作られていない。この後BMWの840dにも試乗した。ハンドリングも軽快でフットワークに優れているが、タイヤとの相性はi4がベターのように感じられた。

ディーゼルエンジンモデルのBMW「840d xDrive グランクーペ Exclusive M Sport」では、ハンドリングも軽快でフットワークも優れていた

 一方テストコースでは高速でのライントレース性や、スラロームの応答性、そして特殊路面でのロードノイズを従来のGR-XIIと比較しながら行なった。使用車両はレクサス「ES300h VersionL」とメルセデス「EQE 350+」、タイヤサイズはレクサスが前後235/45R18、メルセデスが前後255/45R19となる。

 車両は2台ずつ用意されており、GR-XIIとGR-XIIIを同条件で比較試験できるメニューが用意されていた。

 最初にレクサスESでさまざまな路面を模した特殊路で路面からの衝撃やロードノイズをチェックする。GR-XIIもBSのプレミアムレンジの基幹商品だけにソツのない乗り心地だが、路面によってはパターンノイズが高かった。GR-XIIIでは路面による音の変化が少ないのは郊外路試乗でも実感したが、テストコース内にある数種類の特殊路面、特に荒れたアスファルト舗装での音圧の変化の少なさが印象的だった。

GR-XIIIは路面による音の変化が少ない

 乗り心地ではタイヤかタッチから路面形状が分かりやすい。では突き上げ感があるのかと思いきやバネ上の動きはフラットでちょっと不思議な感覚だった。上下収束が早いことでそのように感じられているようだ。

 細い縄を連続的に渡した小さい突起路面は顕著には分からなかったが、GR-XIIに比較するとタイヤから感じられる衝撃が小さい。ゴムとシンプルなタイヤ構造で上下動を吸収しやすくなっている感触だった。

細い縄が敷かれた小さい突起路面も試走

 メルセデスEQEでは中高速でのハンドリングを確認した。GR-XIIIのステアリング応答性は転舵速度が遅い時はジワリとした反応を見せる。一方のGR-XIIではもう少し重みのあるよい意味での鈍い応答性を持つ。

メルセデスEQEでは中高速でのハンドリングを確認した

 GR-XIIIで少し違和感があったのは、早いステアリング操作で左右に振った時に収束遅れがあったこと。ただし発散するのではなくクルマの姿勢は落ち着いているところが興味深い。ヨー収束は早く納まりがいいことがうかがえる。

 一方、高速で一定舵角で旋回した時はGR-XIIIはGR-XIIに比較すると舵角が少ないのが特徴。応答性はしなやかでスッキリとした操舵感になる。同じく低速のスラロームでは低重心のEQEでは前後タイヤがバランスよく踏ん張って曲がっていく感覚だ。BMWのi4同様、低重心、重量級のバッテリEVとの相性はよい印象だ。

高速外周路では従来品のGR-XIIよりも新製品GR-XIIIのほうが舵角量が少なかった
低重心&重量級のバッテリEVモデルとの相性もいい

 さて、タイヤの10%におよぶ軽量化は転がり抵抗などのメリットも大きいが、コーナリング時の腰砕けや突き上げでの乗り心地の悪化を招くケースもあり、剛性バランスを巧みに取らなければならない。その点GR-XIIIは非常にうまくまとめられている印象だ。

 レグノは乗り心地がよく、静粛性が高い国内専用のGR-XIIからGR-XIIIにモデルチェンジする過程で、新しいプレミアムタイヤ像を目指したことが分かる。バッテリEVに代表される重量級の車両に対応したブレーキの大型化、それに伴うタイヤの大径化、走りの安定性、静粛性の向上など、これからのタイヤに求められる性能を新しい開発の基盤技術と生産技術で開発されたのがGR-XIIIだ。

レグノGR-XIIIのレーダーチャート

 目指したタイヤのレーダーチャートを見ると静粛性の向上代が大きいが軽量化を達成しながらハンドリングの向上部分も見過ごせない。ここまで触れていないがコンパウンドも分子レベルでの性能向上で、ソフトで剛性の高いゴムを開発できたことで、サイレント構造と合わせて静音性能、低燃費に貢献をしている。

静粛性向上の詳細
ハンドリング性向上の詳細
資源循環性や重量の軽量化、低燃費性能も向上している

 また今回ウェット路での試乗はできなかったが、ウェットラベリングは全53サイズで「a」を取得しており、ウェット性能も向上したことがうかがえる。

 GR-XIIIはブリヂストンの新しい基盤技術ENLITENと生産技術BCMAによって短時間での開発が可能となった今後登場する商品群の第一号となる。

サイドウォールにはブリヂストンの新基盤技術である「ENLITEN」のロゴも入っている
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一