レビュー

【タイヤレビュー】コンチネンタル「マックスコンタクト MC7」、APAC地区をターゲットとした最新スポーツタイヤの実力とは?

コンチネンタルのスポーツタイヤ「MaxContact MC7」をオーストラリアで試した

スポーツタイヤの頂点「スポーツコンタクト7」とのすみ分け

 コンチネンタルのスポーツタイヤ「MaxContact MC7」(マックスコンタクト7)の試乗会が、シドニー近郊で開催された。コンチネンタルがオーストラリアを開催地に選んだ理由は、MC7がアジア・パシフィック地区のユーザーをターゲットとしたタイヤだからだ。

 ちなみにコンチネンタルは、スポーツタイヤの頂点に「SportContact7」をラインアップしている。そして純粋なグリップ性能だけで言うと、MC7はその下に位置付けられたモデルだ。

 ここでおもしろいのは、コンチネンタルがこのMC7を「SportContact7の廉価モデル」とは見なしていないことだ。なぜならAPAC地区のユーザーは、たとえスポーツタイヤであってもそこに静粛性や、乗り心地のよさを求める傾向があるからだという。

 そこでコンチネンタルは、APAC地区が欧州に比べてスピードレンジが低い分のマージンを、快適性に振り分けた。市場価格がSportContact7よりも安いのは生産拠点をアジアに置き、ロジスティクスでのアドバンテージを得た結果であり、タイヤ自体は決して安価な素材を使ったアフォーダブルモデルではない、というのが彼らの強い主張だった。

 こうした経緯からコンチネンタルは2004年に登場した「ComfortContact」をベースに、「SportContact5」を開発した。そしてこのたび約7年ぶりに、MC6からMC7へとフルモデルチェンジが行なわれたというのがその経緯だ。

今回試乗したのは、日本では2024年第2四半期の販売開始を予定しているスポーツタイヤ「MaxContact MC7」。優れたコントロール性能、制動距離の短縮、スポーツ性能と静粛性の両立といった特徴を備え、16~21インチの全29サイズを展開する予定
ドライ路面での優れたコントロール性能について
ウェット路面での優れたコントロール性能について
制動距離の短縮について
日本での展開サイズ一覧

性能に欲張りな人にMaxContact7はかなりおすすめ

 MC7の試乗は、サーキットと一般公道で行なわれた。初日はニューサウスウェールズ州にある「ラデナム・レースウェイ」で、ウェットおよびドライ路面でのグリップ性能を確認した。

 80km/hからのウェット制動では、2台のBMW 330iにMC7と名メーカー名を伏せたライバルタイヤ(おそらくティア1相当のプレミアムスポーツタイヤ)が用意された。試走は2回行なわれたが、そのどちらもMC7が1m強の差をもって短く止まった。ここから分かるのは、MC7がスポーツタイヤながらも高い排水性を持ち、ドライ性能に特化したスポーツタイヤではないということだった。

 続くテストは、上り勾配のヘアピンカーブを同じく80km/h付近からノーブレーキで進入し、アンダーステアが出た際のハンドリングを比較するというユニークな内容だった。

 このときライバルタイヤは、いったんアンダーステアが出ると接地がなかなか回復せず、フロントグリップが抜け続けてしまう状態になった。対してMC7は、アンダーステアを出しながらもタイヤがしつこく路面を捉え続けようとした。またその滑り方がとても穏やかだった。かつ舵角を戻して行なったときも、そのグリップを速やかに回復させた。

 こうしたウェットグリップの高さは、まずトレッドパターンから導き出されている。MC7はその主溝に「ノイズブレーカー3.0」という技術を搭載している。これは気柱共鳴音を減衰してパターンノイズを低減する技術だが、雨天時はこのシステムが主溝を通る水の流速を早めて、排水性をも高めているのだ。

 またトレッド中央には主溝につながる「スターサイプ」と「ライトニングサイプ」、そして一番内側のブロックには「アクアサイプ」を搭載した。これらは全て、サイプが3D構造となっている。特にユニークなのはアクアサイプで、トレッド上にある小さな穴は大型の排水パターンへとトンネル構造でつながっている。これによってトレッド面積を減らすことなく、その排水性が高められるのだという。

 また路面密着性においては、リフレックスコンパウンドが大きく貢献している。シリカを多く含んだコンパウンドはカーボンブラックに比べて温度レンジが広く、ウェット路面でもしなやかにゴムを路面に追従させることができる。かつブレーキングや操舵で大きな力が掛かるとそのエネルギーを素早く熱交換し、グリップ力を高める技術がそこに込められているのだという。

 興味深かったのはこうしたウェット路面での操縦安定性の高さが、ドライ路面でも上手に生かされていることだった。剛性感だけで言うとSportContact7の方が高いと思う。しかしMC7は、タイヤがしなやかに路面を捉える分だけ荷重の掛かり方がつかみやすい。かつドライ路面においてもその滑り出しがとても穏やかで、滑る量自体も少なめだから、とてもコントロールしやすいのだ。

 タイヤを支える技術としては、アウト側にマクロブロックを配置。そしてこれに隣接する細い排水溝の中には、スタビライザーバーを装備してブロックの倒れ込みを防いだ。またそのコンパウンドもしなやかさだけでなく、減衰力の高い可塑剤を配合することで剛性バランスを整えている。絶対的なグリップ力ではSportContact7だが、これなら運転を楽しみながら学んでいくことができるだろう。

 ただこうした穏やかな特性から、サーキットのような高荷重領域だとある程度サスペンション剛性のあるクルマの方が、そのレスポンスを引き出しやすい。そういう意味でもサーキットのような高負荷領域では、スポーツカーやスポーツセダン、そして可変ダンパーを持つクルマへのマッチングがよいタイヤだと感じた。

 テスト2日目はシドニーからハンターバレーまでおよそ250kmの道のりを、街中から高速道路、そしてワインディングまで満遍なく走らせた。街中や高速道路では、まずスポーツタイヤとは思えない静粛性の高さが印象的だった。また荒れた路面ではその入力が、しなやかに吸収・減衰されて乗り心地がとてもよかった。

 サーキットだとしなやかに感じたその剛性バランスは、公道の荷重レベルだとジャストフィットした。低荷重域ではタイヤがスムーズに転がり、カーブやブレーキングに応じてグリップを高める特性はロングツーリングにもマッチしており、運手席はもちろんのこと、助手席や後部座席でも全く苦にならなかった。

 総じてMaxContact7は、実に日本人好みなスポーツタイヤだと思う。正直SportContact7は静粛性も抜群に高いし、ハイグリップだけれど乗り心地も全くわるくない。しかし日常でより快適に、そしてときにはスポーティな走りも楽しみたいと欲張るなら、MaxContact7はかなりおすすめだ。そしてこの両者を好みに応じて選べる日本のユーザーは、かなり得をしていると思う。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。