特別企画

【特別企画】SUPER GTタイヤメーカー インタビュー 2013(ブリヂストン編)

 ブリヂストンと言えば、日本を代表するグローバル企業の1つで、米グッドイヤー、仏ミシュランの3社で世界シェアを激しく争っているタイヤメーカーだ。そうしたブリヂストンは、モータースポーツ活動に熱心な会社としても知られており、1997年~2010年まで続けられたF1参戦、佐藤琢磨選手の初優勝で日本での認知度も上がりつつあるインディカー・シリーズへのタイヤ供給(ただしブランドは子会社のファイアストン)、日本のモータースポーツの黎明期から続けられているトップフォーミュラ(昨年までのフォーミュラ・ニッポンや今年からのスーパーフォーミュラなど)へのタイヤ供給など、ハイレベルなモータースポーツに対して積極的な活動を行っている。

 そのブリヂストンはSUPER GTへは、カテゴリーが立ち上がった当初からタイヤ供給を続けており、トップカテゴリーであるGT500の大多数はブリヂストンユーザー。GT500のチャンピオンも2010年までブリヂストンが独占し続けるなどまさに独壇場だった。しかし、一昨年(2011年)と昨年(2012年)には一点集中型の戦略をとった競合他社との戦いの中で王者の座を失い、2013年はその奪還を至上命題として戦っている。

今回お話をうかがった、ブリヂストン コーポレートコミュニケーション本部 モータースポーツ推進部長 二見恭太氏(右)と、MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏(左)

 そうしたブリヂストンの2013年のSUPER GTの戦略、モータースポーツ活動にかける想いなどについて、ブリヂストン コーポレートコミュニケーション本部 モータースポーツ推進部長 二見恭太氏、ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏の2人にうかがってきた。

 なお、このインタビューは第2戦富士の際に行ったものだ。SUPER GT500クラスは第6戦富士まで消化し、残るは第7戦オートポリス、最終戦もてぎと2戦を残すのみ。GT500は6ポイント差に6チームが収まる状況で、チャンピオンの行方はまだまだ分からない。GT300も混戦となっている。GT500に参戦するタイヤメーカー4社(ブリヂストン、ミシュラン、横浜ゴム、ダンロップ[住友ゴム工業])のインタビュー記事を順にお届けするので、一連の記事とあわせて、SUPER GTの終盤戦を楽しんでいただきたい。

●GT500クラスの順位(第6戦富士終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位18号車 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)46MI
2位12号車 カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)46BS
3位23号車 MOTUL AUTECH GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)44MI
4位38号車 ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)43BS
5位17号車 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大)41BS
6位37号車 KeePer TOM'S SC430(伊藤大輔/アンドレア・カルダレッリ)40BS

※:MI=ミシュラン、BS=ブリヂストン

●GT300の順位(アジアン ル・マン終了時)

順位マシン名(ドライバー名)ポイントタイヤ
1位16号車 MUGEN CR-Z GT(武藤英紀/中山友貴)68BS
2位11号車 GAINER DIXCEL SLS(平中克幸/ビヨン・ビルドハイム)52DL
3位61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(山野哲也/佐々木孝太)51MI
4位52号車 OKINAWA-IMP SLS(竹内浩典/土屋武士)45YH
5位4号車 GSR 初音ミク BMW(谷口信輝/片岡龍也)42YH

※:BS=ブリヂストン、DL=ダンロップ、MI=ミシュラン、YH=ヨコハマ


ドライでは高いパフォーマンスを発揮した開幕戦、課題となったウェットは第2戦で大幅改善

──岡山で開催された2013年の開幕戦ですが、結果から言えば見事にブリヂストンのユーザーチームである100号車RAYBRIG HSV-010が優勝しました。
細谷氏:ドライで行われた決勝に関しては、非常に強力なレースができ、よいレースができたと思っています。しかし、実戦をやってみて課題も見えてきました。具体的にはウェット路面で行われた予選で、弊社のユーザーチーム様が沈むという結果になり、そこは大きな改善をしていく必要があります。今回のレースには新しいパターンのウェットタイヤを持ち込んだのですが、構造やゴムなどの点でマッチングが取り切れていませんでした。

──新しいパターンのウェットタイヤというのは具体的にはどのようなタイヤなのでしょうか?
細谷氏:SUPER GTのタイヤルールでは持ち込みの数が制限されています。ウェットタイヤを複数種類持ちこむと、その種類について持ち込めるタイヤの数が減ってしまいます。実際、持ち込みできるタイヤは9セットで、そこに浅溝、深溝と持ってくると、持ち込めるタイヤの数が半分になってしまうのです。そこで、ゴムとトレッド面、さらに構造をいろいろと変化させることで、溝は1種類だけど幅広いコンディションに対応できるレインタイヤを作ることにしたのです。岡山ではその第1弾を導入したのですが、合わせきることができなかったので、今回はその改良版を持ってきました。

二見氏:エンジニア達は、今回の富士で雨が降らなくて残念だって言ってるぐらいなんですよ。ぜひ、レースで雨が降ったときをご期待ください。

──岡山の予選のウェットでは苦労されていましたが、決勝では予選で沈んだレクサス勢も含めて上位に来ました。ドライタイヤも変わったのでしょうか?
細谷氏:ドライタイヤも全面的に見直しました。タイヤの形状から構造までできるところはすべてです。もちろん、昨年までのタイヤの延長線上にあるモノではありますが、ほとんど別物と言っていいほどの進化を遂げています。そしてこれからもどんどん変えていきたいです。

二見氏:SUPER GTの特徴は、ほかのタイヤメーカー様も参加されて世界的にも珍しいタイヤでの競争が発生していることです。我々は昨年非常に悔しい結果になったので、今年は勝たなくてはならない、そう考えています。

──GT500の昨年は8戦して6勝でしたが、残念ながら2年連続でチャンピオンを失う結果になりました。その昨年を振り返っていかがでしょうか?

二見氏:この2年間、実に不甲斐ない成績に終わってしまいました。これ以上負け続けることは、ブリヂストンのブランドに対する信頼を傷つけることになりかねません。本当に崖っぷちに立っているのだという気持ちで、モータースポーツ活動にかかわる者が全員で頑張っていこうと思っています。

レクサス勢の台数が増えたのはブリヂストンのチョイスではなくチーム側の選択の結果

──2013年のGT500の体制ですが、レクサスの台数が増え、ホンダとニッサンが減るという形になりました。外野から見ると、ブリヂストンはレクサスを重視するのかな?と見えますがいかがでしょうか?
二見氏:外からご覧になっていれば、そう見えるだろうことは理解しています。ただ、弊社の立場としては、弊社がイニシャチブをとって、このような体制になったという訳ではございません。

 毎年そうですがエントラントとなるチーム様が、ご自身でドライバー、車両、タイヤを組み合わせでできるだけ優れたパッケージをと模索されています。そのため、弊社がどこを重視しているといったことはございません。弊社としては、チーム様が弊社を選んでいただけたことは大変光栄ですし、その期待にちゃんと応えられるタイヤをご提供したいと考えています。また、チーム様から信頼され、選ばれるタイヤメーカーでありたいと思います。

──今年のように、レクサスの台数が多くて、ホンダとGT-Rの台数が少ない状態では、レクサスのマッチングは進むという意味でレクサス勢が有利ということはありませんか?
二見氏:マッチングのような作業というのは、仮説を立て、テストをし、その結果を検証するということの繰り返しです。その検証する対象が多ければ多いほど検証する結果の信頼性が高まりますので、正しい結論を導きだしやすい。ですから、台数が多いSC430でのマッチングがほかの2車種より進むというのは、事実です。ですが、台数が少なく1台しかないGT-Rは駄目かといえばそんなこともなくて、1台しかないからこそ“インパルスペシャル”みたいなタイヤを作ることができますから、一概にどちらがよいとは言えないと思います。

GT300はCR-Zが2台になり、大幅なパフォーマンスアップに期待

──昨年より参戦を開始したGT300ですが、今年で3年目になります。
二見氏:GT300に関しては昨年の途中から弊社のユーザー様が2台になり、データも増えてきつつある状況ですので、今年に関してはユーザー様が思い通りにレースができるようなタイヤを供給していきたいです。開幕戦では55号車ARTA CR-Z GTが予選のトラブルで最後尾からのスタートになってしまったのにいいレースができていましたし、16号車MUGEN CR-Z GTも昨日の予選(筆者注:このインタビューはSUPER GT第2戦富士の決勝日の午前中に行われた)で2位を獲得するなど、CR-Z+ブリヂストンというパッケージに信頼感がでてきたと思っています。

細谷氏:昨年は2台でしたが、CR-ZとGaraiyaという車両もタイヤサイズもまったく異なる2台でした。しかし、今年は同じCR-Zが2台ですので、データも共有できるのでその点でも強化されたと言えると思います。実際55号車は開幕戦では練習走行や予選でトラブルがでてテストが十分にはできていませんでしたが、決勝ではいい走りができましたので。

二見氏:逆にホンダ様からもGT300で結果を出すことには期待されているのです。GT500の話をしに行くと、先方の方からGT300の方をぜひという話をされることが多いです。なので、弊社としてもぜひGT300でもよい成績が出せればと考えています。

──GT300ではハイブリッド車のCR-Zにタイヤを供給している状況ですが、それに併せてエコピアのブランドを利用するというお考えはありませんか?
二見氏:時代は変わりましたので、モータースポーツと言えども、環境や安全に配慮していかなければなりません。そうした時代の要請の中で、カーメーカー様はハイブリッドという技術を、モータースポーツにうまく持ち込まれていて、ハイブリッドにより燃費が改善されCO2の排出が減ったなどアピールが可能になっています。弊社としても、持続可能な社会に向けての取り組みを掲げており、モータースポーツにおいても貢献・改善を進めていく必要があると考えておりますが、まだ皆様にお伝えできるレベルの取り組みができておらず、今後の課題でもございます。今後の取り組みによっては、おっしゃるとおり、エコピアというシンボルを活用するときがくるかもしれません。

──それでもエコピアのロゴがリアウイングに貼ってあるだけで、エコピアブランドのアピールにはなるのではないかと思うのですが?
二見氏:もちろんエコピアというブランドを広めることはできますが、エコピアにふさわしい活動ができているか、お客様に伝えたいストーリーは何かということ考えると、残念ながらまだエコピアのPRがふさわしいと状況にはございません。また、異なるアプローチとしてはタイヤにも環境への貢献を考えたルールがこれからは必要になるのかもしれません。例えば、タイヤが想定以上に持ったら何秒かもらえたりとか、効率のよさをアピールできるようなルールが導入されれば、世の中に対してもアピールできるようになるのではと考えています。

GT500の目標は全勝してチャンピオン奪回、GT300はまずは1勝を

──ブリヂストンにとってモータースポーツを行う意義はなんでしょうか?いつもお話しを聞いていて思うことは、勝負にはこだわっていらっしゃるなということを感じます。

二見氏:弊社ではモータースポーツは技術を磨く場だと考えています。材料から、構造まですべて色々試して技術力を高めて、その結果としてレースに勝つ。そうしたことにより、ブリヂストンの技術の優位性を一般の皆様にもアピールしていくことができると考えています。

 ですので、逆に言えば我々の技術的な優位性や開発力をお見せしてブリヂストンのブランドバリューを高めていくためには、SUPER GTのようにタイヤのコンペ(筆者注:競争)が行われているところでは勝たなければ、何の発信にもなりません。勝たなければ、ブリヂストンタイヤの性能や技術はたいしたことないということになってしまいますので。私も立場上、経営者に結果を報告に行ったりしますが、あたり前ですが、勝ったときには何も言われないしほめてももらえないのです(笑)。しかし、負けたときには負けたと記事にも書かれますし、そうすると「何をやっているのだ」ということになりかねない、そういう意味では現場は大変なプレッシャーの中で頑張ってくれています。

──現在SUPER GTにおけるタイヤ戦争には大きな注目が集まっています。ブリヂストンにとって、SUPER GTに参戦し続ける意義とは?
二見氏:SUPER GTについては、世界的に見てもタイヤで競争をしているレースは、ほとんどこれだけと言っていいような状況です。そうした中で、SUPER GTのレースを通じて、タイヤという黒くて丸いだけのものに注目が集まっていることはありがたいと感じています。一般のユーザー様にも、車の性能の中で、タイヤの占める割合というのは実は多いのだということを、こうした場を通じて認識して頂ければそれが安全性の向上につながったりなどの効果があるのではないかと期待しています。もちろん競争は激しく大変なことは事実ですが(笑)。

──市販用のタイヤでアクアパウダーという技術が利用されていますが、それはモータースポーツで開発されたモノだというアナウンスがされています。

細谷氏:特に新しいブレークスルーがあったのではなく、これまでモータースポーツタイヤを開発する上で、少しずつ積み重ねてきたノウハウのようなモノが利用されています。もちろん、モータースポーツ向けに開発された技術が、引き出しのような形で少しずつ蓄積されていて、その引き出しは市販タイヤを開発したエンジニアもいつでも開けられるようになっていて、それを市販タイヤに応用するということはよく行われていますので。

──最後に今年のSUPER GTでの具体的な目標を教えてください。
二見氏:GT500はシンプルに全勝してチャンピオンです、それ以外には考えていません。GT300はいきなりチャンピオンというのは難しいかもしれませんが、まずは1勝をしっかり挙げていきたいです。


 冒頭のランキングを見てもらえれば分かるが、GT500では勝利を挙げているものの、勝利チームが分散しており、ポイントではミシュランに逆転されるという構図になっている。一方、GT300では、現在ポイントランキング1位と、昨年から大きな飛躍を遂げた。果たしてブリヂストンは、2年連続で失ったGT500のタイトルを再び獲得することができるのだろうか。

 注目の「2013 AUTOBACS SUPER GT 第7戦 SUPER GT in KYUSHU 300km」は、10月5日~6日にオートポリスで開催される。

笠原一輝

Photo:安田 剛