特別企画

【特別企画】本田雅一が“ダイレクト損保の仕組み”を解き明かす(後編)

“三井ダイレクト損保のDNA”が現代に適合した独自のサービスを生み出す

 前回までの話で、個人的に抱いていたダイレクト損保に対する認識が思い込みによるものだと反省した筆者。試しに、取材先となった三井ダイレクト損保のWebページ(http://www.mitsui-direct.co.jp/)で筆者が契約しているプランの見積もりを取ってみると、掛け金はなんと5万円を切っていた。現在契約中の自動車保険と比べて3万円ほど安い金額だ。

 事故対応やロードサービスの品質に大きな差がないならば、ダイレクト損保を選びたくなるのも当然というところだろうか。自動車保険は複数年での契約によって割引率を高めることが多い(筆者も2年契約だった)ため、今すぐに乗り替えというわけにはいかないが、“次回契約時は幅広い選択肢から選ぼう”という決意だけは、頭の中にはたたき込んでおくことにしたい。

新たな“三井ダイレクト損保のDNA”が大きな武器

 さて、前回に引き続き、三井ダイレクト損保の船木社長の話を中心に記事を進めていこう。インタビュー取材で印象的に感じたのは、前記事で船木氏が“三井ダイレクト損保の特徴”と話していた「商品やサービスの発想が斬新で、しかも“優れた企画だ”と判断したとたん、組織全体がすばやく企画実現のために動ける小まわりのよさとスピードを持ちながら、老舗の大手損保会社のノウハウを活かした高品質なサービスを兼ね備えている」という組織上の利点だ。

 小まわりのよさ、すなわち世の中の新しい動きや市場、顧客から寄せられるニーズに対して敏感に反応して、新しいアイディアを商品やサービスに反映させ、時代に即した動きを素早くできるからこそ、品質の高さを追求する余裕も生まれる。

 その典型的な例は、前回紹介した「指定修理工場制度」などに表れていると思う。全工場を視察したわけではないが、各所の写真を見るといずれも最新設備を導入した修理工場であることが分かる。それぞれの地方において名の通った工場なのだそうだ。指定修理工場の制度は他社も導入しているが、業界で初めて本格的に展開したのが三井ダイレクト損保だった。

 船木氏は「よりよい工場で修理、整備をしていただければ、事故や故障の確率を減らすことができ、損保会社としてもトータルの支出を減らすことができます。一方、修理工場側も我々との契約を持つことで顧客動線を確保し、収益の安定化を図ることができます。各地方におけるトップクラスの修理工場と契約できたのは、こうしたコンセプトをいち早く発案して交渉を行ったからです。もちろん、お客さまにとってもよりよい修理工場でサービスを受けた方がよい結果を得られる“三方よし”の仕組みです」と話す。

船木氏は「老舗ならではの品質と新たなアイディアを生み出す新鮮な人材で独自のサービスを開発している」と語る

 現在では他社も似たサービスを提供している。しかし、他社に先駆けていち早く施策を提供することで“よりよい位置取り”ができる。また、ダイレクト損保であるため顧客との距離が近く、市場からのフィードバックに対して短いサイクルで商品やサービスの品質を最適化できる。ここでは、もちろん老舗である三井住友海上火災から持ち込まれたノウハウも活かされており、その思想は生き続けているというが、一方で“三井ダイレクト損保のカルチャー”も脈々と育ってきた結果として現在があると船木氏はいう。

「多くのダイレクト損保は母体となっている損保会社からの出向者が中心で、異なる事業形態ながら企業文化は極めて近いものです。しかし、我々は中途採用に加えて2008年からは新卒採用を始め、三井住友海上火災のDNAと組み合わせることで、新たな“三井ダイレクト損保のDNA”を産み出そうとしてきました。老舗ならではの品質と新たなアイディアを生み出す新鮮な人材。この両方によって、独自のサービスを開発しているのです(船木氏)」

 小まわりとスピード、それに三井住友海上火災のノウハウや思想を引き継ぐ確かな品質が、競争の激しいダイレクト損保市場における三井ダイレクト損保が持つ一番の武器というわけだ。

スマートフォン時代におけるダイレクト損保のあり方とは!?

 そんな三井ダイレクト損保。船木氏によると、創立15周年を迎えるにあたってさらに“現在の市場”に最適化したサービスへの改善を進めているという。それがスマートフォン時代への最適化だ。

 前回紹介したように、三井ダイレクト損保が獲得している契約のうち、すでに90%以上がインターネットからの申し込みとなっている。いち早くパーソナライズのトレンドを取り入れ、顧客一人ひとりに対して最適化した「Myホームページ」を提供することなどでサービス品質を高めてきた三井ダイレクト損保は、これまでも携帯電話やスマートフォンといったモバイル端末向けの画面デザインや機能を提供してきたものの、基本的な部分でパソコン重視の設計になっていたという。

 しかし、昨今はスマートフォンやタブレットからのアクセスが急増しており、今ではスマートフォンからの契約者が大きな比率を占めるようになってきているとのこと。もちろん、事故対応や各種ロードサービスを利用するときにも、ほとんどのドライバーが持っているモバイル端末の機能が重要になる。そこで、これまでパソコン向けのサービス/システム設計を基礎に、モバイル端末向けの機能を“建て増し”していた設計を改め、今年4月にスマートフォン重視のデザイン、機能の設計へと大幅な改修を実施した。

既存の契約者に向けたサービスの拡充について解説する船木氏

 もちろん、新しいシステムは逐次成長を続けている。スマートフォン時代におけるダイレクト損保のあり方を、小まわりとスピード、それに老舗の伝統を組み合わせた“三井ダイレクト損保のDNA”をもって変えようという意欲からだ。

 船木氏は「スマートフォン重視の新システムへの切り替えは行いましたが、まだ改良は続けます。10月以降順次スマートフォンからの利便性をさらに向上させる予定で、この機能向上ではスマートフォンに適した画面設計での見積もり依頼、契約、契約後の内容変更などが可能になり、パソコンとの機能差はほぼなくなるでしょう。スマートフォン向け専用アプリの提供も、将来的には検討していきたいテーマです」と話した。

 また、より利用者の実態に即したサービスの最適化も進める。保険のような契約型商品は、とかく新規契約者に対する特典を充実させがちだ。しかし、損保会社の経営を安定させているのは、長期に渡って契約を続けてくれている安定した顧客にほかならない。そこで、「これまでのご愛顧に応えるために、継続3年目以降のお客さまを対象にして、各種施設への優待や割引サービスをする“クルマ生活応援サービス・VIPプラス(仮称)プラン”を9月から導入します(船木氏)」とのことで、長期契約者に対する利益還元の仕組みを強化している。さらに、以前から実施している新規インターネット契約割引きの拡大も実施済みという。

 品質面でも抜かりはない。最新の事故対応システムを今年から導入。これにより、事故対応の速度や品質が大幅に上がっていると船木氏は胸を張る。

 これまでもペーパーレス化を進めてきた三井ダイレクト損保だが、新システムでは徹底して“紙”による情報ファイリングや伝達手段としての利用を排除。コールセンターやインターネットを通じた事故報告、クレーム対応などをすべてネットワーク化し、担当者の枠を越えた顧客情報の共有を可能にした。これにより、連絡をすればいつでも最新の顧客情報を元に適切な対処が行えるようになり、事故後の対応速度や品質が向上することにつながるそうだ。

 もちろん、事故に遭わないことが最善ではあるが、もしものときの対応が改善されるとするならば期待したいところだ。と、ここまででもダイレクト損保に対するイメージが個人的にもさらによくなったのだが、「実はちょっと面白い話がある」と船木社長から切り出された。

 それは、三井ダイレクト損保が2011年から続けているという「MUJICOLOGY!(ムジコロジー)」という取り組みについて。これは「お先にどうぞ」という譲り合いの気持ちで事故を減らそうという社会活動とのこと。さらに渋滞学の権威である東京大学の西成活裕教授を所長に迎えた「ムジコロジー研究所」(http://www.mujicology.jp/)を設立。そしてさらには……と、なかなか興味深い話が続いた。

 ということで、この話の続きは次回。“ムジコロジー”というユニークな社会活動にフォーカスして紹介することにしよう。

Photo:堤晋一

本田雅一