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【東京オートサロン 2018】土屋圭市氏と開発陣がもの作りについてアツく語る「Modulo Xトークショー」
開発中の「S660 Modulo X Concept」ってどんなクルマ?
- 提供:
- 株式会社ホンダアクセス
2018年3月1日 00:00
- 2018年1月12日 開催
1月12日~14日の3日間、幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区)で開催された「東京オートサロン 2018」。開催当初は一部のクルマ好きを対象としたイベントだったが、カスタマイズに対する規制緩和やハイパフォーマンスカー人気などの時代の流れに沿って内容を進化させ、現在はアフターマーケット業界だけでなく、国内外の自動車メーカーも参加する規模となった。また、海外では日本車カスタマイズが高い人気を持っているので、海外のカーマニアも注目するイベントに成長している。
そんな東京オートサロンでは、出展各社がそれぞれ趣向を凝らしたブース展開を行なうが、その中でも「クルマで走る楽しさ」というメッセージを前面に出し、来場者の興味を引いていたのがホンダブース。
ブースの模様は東京オートサロン 2018の速報記事(「2列シート仕様の新型『ジェイド』も展示されるホンダブース」)で掲載しているのでそちらを見ていただきたいが、今回のブースでとくに目立つ場所に展示されていたのがホンダアクセスの手がける3台の「Modulo X」シリーズだった。
Car WatchではこれまでもModulo Xについて紹介している。このシリーズは単純に「用品を付けてスポーティに仕上げました」というものではなく、ベース車に対して安心感を高めつつ、走る楽しさが味わえることを目標に、細部にわたって独自の作り込みが施される特別なクルマだ。ただ、その作り込みは細かいものでもあるので、簡単な紹介でユーザーにModulo Xの本質を伝えるのが難しい面もある。
そこでホンダブースでは、普段は表舞台に出ることはないModulo Xの開発者がステージに立ち、開発者から来場者に直接もの作りのこだわりを伝える「Modulo Xトークショー」を開催した。
この「Modulo Xトークショー」は開期中に毎日開催されていたが、開発者から直接もの作りの話が聞けることに興味を示す来場者は多く、ステージは各回とも大勢のギャラリーを集めていた。そのステージの中から、Car Watchでは初日のステージと、2017年12月に発売されたばかりの「フリード Modulo X」を題材に取り上げた2日目のステージの模様を2回に分けて紹介する。
まずは初日の模様だ。開始時刻になって司会の水村リアさんがステージに現れると、みるみるうちにステージ前は人だかりとなった。そして水村さんに紹介され、ホンダアクセス Modulo統括の福田正剛氏、「S660 Modulo X Concept」エアロパーツ設計担当の塩貝僚氏、「S660 Modulo X Concept」エクステリアデザイナー及び「ステップワゴン Modulo X」デザイナーの小島孝氏、「S660 Modulo X Concept」内外装担当の湯沢峰司氏の順番でステージに登場。最後にModulo Xシリーズの開発アドバイザーを務める土屋圭市氏が登壇し、ひときわ大きな拍手が上がった。
登壇者が着席して軽いトークを交わした後、水村さんが「では、今回のトークの中心になるModuloですが、会場にはModuloのことをご存じないという方もいらっしゃると思うので、まずはそこから紹介していただけますか?」と登壇者に問いかける。
とは言え、開発陣はまだまだ緊張状態。そこで場慣れをしている土屋氏が助け船を出す。開発責任者の福田氏を指して「うんちくを言わせたらすごいですよ、あの人は」と語り、発言のきっかけを作った。
それに応えるように福田氏はマイクを取り「私どもは用品を作る会社です。用品とはクルマを購入したときに一緒に付けていただくオプションパーツのことですが、長年用品を作っているといろいろなノウハウが蓄積されてくるのですが、我々は“ホンダマン”でもあります。用品作りにおける“巧みの技”をクルマそのものに注ぎ込むと、クルマはこんなによくなるんだ、ということを見せたい気持ちを常に持っているんです。そして、その気持ちを具体化したのがModulo Xなのです」と、冒頭からアツい語りがスタート。これでステージ前に集まったギャラリーの集中力も高まったように見えた。
続けて福田氏は「Moduloは1994年にアルミホイールのブランドとしてスタートしました。その後、エアロパーツやサスペンションと幅を広げていき、2012年にはクルマ全体を我々でプロデュースした『N-BOX Modulo X』を製作。そして2015年に『N-ONE Modulo X』、2016年にステップワゴン Modulo X、昨年の2017年にはフリード Modulo Xと4台も作ってしまいました。もう、作りたくてしょうがないんですね、私たちは」と語る。
すると土屋氏は「1台のクルマを完成させたい、仕上げたいんだよね」と相づちを入れる。これに対して福田氏が「そうです」と言っただけでなく、話を聞いていたほかの開発スタッフも無言で頷いていた。
続けて土屋氏から「Modulo Xは、Conceptの段階まではホンダアクセスの開発陣が仕上げているんです。そして責任者の福田さんが“そろそろいいかな”と思ったあたりでボクが呼ばれてテストをするというパターンです。開発のときは北海道 旭川の鷹栖にあるホンダのテストコースを走り込みますし、ニュルブルクリンクにクルマを持ち込んだこともあります。ただ、Modulo Xシリーズに乗ってくれる人はひと握りの走り好きではなく一般のドライバーです。だから、最終的には一般道で乗り心地や質感もしっかりテストしてるんですよ」と開発の順序が語られた。
トークショーは始まったばかりだが、すでにテストコースやニュルといった単語が出てきていて、この時点でステージ前に来た人は「ホンダの新型車開発トークショーかな?」と思うかもしれないような濃い話題になっていた。
ここで水村さんが「でも、なんでわざわざニュルまで行くんですか?」と素朴な疑問を投げかけると「彼らはこだわるんだよね、自分たちが作ったコンプリートカーを世の中に送り出すとき自信を持っていたいんだよ。最終的に“誰もできないだろう”という部分まで仕上げるためにそこまでやる必要があるんだよね」と土屋氏が答えた。
すると福田氏は「しつこいんですよ、ボクらは」とひと言。そして「先ほどニュルという地名が出てきましたが、皆さんはニュルと聞くと有名なオールドコースを思い浮かべるでしょう。確かにあそこも過酷ですが、実はもっとすごいコースがあるんです。それは近隣の村と村を結ぶ道なんですが、田舎の道なのでセンターラインはなく、そこを走るクルマはかなり速いペースです。ラリーのコースに近いイメージと思って下さい。こういうところを走ると、クルマになにが必要かというのが分かるんですよね」。
「それはずばりコントロール性のよさです。これを得るためにクルマ作りをドンドン詰めていくと、バランスがよくなっていくだけでなく、乗り味がしなやかになって“走りの質感”も高まってくるんです。我々はこのフィーリングを自分たちのルーツとしていて、それをみんなで経験するために開発陣は走り込み、乗り味を身体に覚え込ませます。そのイメージを持ったままホンダの聖地である鷹栖テストコースを走り込むことで、Modulo Xの走りをより高めているのです」と語った。
ちなみに、鷹栖テストコースは山間部にあるので、コース内の高低差はいちばん大きいところで57.5mもあるという。そんなコースを、開発ドライバーだけでなく開発に携わるスタッフ全員がテスト車のステアリングを握って走るのだ。しかもテストコースを走るためにはホンダの社内ライセンスが必要なので、Modulo Xの開発に携わるスタッフは、全員が厳しい試験を受けてライセンスを取得するのだという。
次にデザイナーの小島氏がマイクを取った。「デザイナーが現場(テストコース)に出ることはあまりないと思うのですが、我々の場合、責任者の福田から“自分でデザインしたエアロなら自分で効果を体感しろ”と言われるのです。でも、乗ってみると形状によって走行安定性が変わることが体感できるので、開発ドライバーから言われる修正ポイントに対しても納得できるし、修正の本当の意味が分かるので、もっといいものに変えていこうという考えになれるのです。これは開発に関わるみんなが同じ目標に向かっていくために大切なことだと思っています」と言う。加えて「Modulo Xに関わるスタッフは、デザインルームにこもるのではなく、開発現場に全員集まってそこで即決、即断して詰めていくという開発スタイルなのです」と語った。
こんなアツい話はまだまだ続いた。土屋氏は「福田さんは厳しい人ですけど、彼が率いている開発陣も気持ちのいいヤツばかりです。上司から言われて仕事をしているという印象はないんですよ。Modulo Xのクルマ作りはいいものができるまでやるというスタイルなので、とことん突き詰めてきますね。でも、そのノリはボクらのようなレースの世界にいる人間にとって共感できるポイントなので、一緒に仕事をするのが楽しくもあるかな」と発言。このことから土屋氏と開発陣は、ただ単に仕事としてのつながりだけではなく、仲間意識を持って開発に取り組んでいるという印象を受けた。
さて、ここまで土屋氏と福田氏のアツいやり取りに圧倒されて(?)聞き役に徹していた塩貝氏だが、司会の水村さんから「上司の人がアツい現場はどんな雰囲気ですか? 意見の違いでぶつかることもあるのではないですか?」と質問されてマイクを取る。塩貝氏はエアロパーツの設計をしているとのことだが「鷹栖のテストコースではみんな本当に真剣なので、昼間の時間帯は無駄口や笑い声は一切聞こえないですね。笑い声が聞こえるのは食事のときだけですよ」と現場の雰囲気を語る。
ここで福田氏から、今回のオートサロンでお披露目になったS660 Modulo X Conceptについて引き合いに出された。「テストコースでの試験車は速度リミッターが付いていないので、本当の全開走行ができます。S660だと190km/hくらいは出るのかな? まあ、一般的に軽自動車というと高速道路の安定感が普通車より劣るイメージだと思うのですが、S660 Modulo X Conceptはそうではないです。出せる限界の速度域まで出してクルマを鍛えた結果、ものすごいクルマになりました」。
「どれぐらいすごいかというと、走行安定性を測るテストをしてみるたところ、某社の4WDスポーツカーと同等の結果が出たんです。軽自動車でですよ? ただ、公道ではそこまでの性能を試せることはないですけど、S660オーナーはカスタマイズ好きな人が多くて、サーキット走行をする人もたくさんいます。そういった使い方も“S660の現状”なので、そんな走りをした際にもすごく深い乗り味を味わえるように仕上げているのです」と言う説明だ。
と、S660 Modulo X Conceptの開発に触れたあたりで残念ながら時間いっぱい。壇上の皆さんはまだ話し足りなそうでもあったが、トークショーはここで終了となった。
しかし、S660のオーナーやS660が気になっている人は、S660 Modulo X Conceptのことをもう少し知りたいだろう。そこでトークショー終了後、エクステリアデザイナーの小島氏に話を伺ってみたのでそちらも紹介する。
S660には現時点でもModulo製のエアロパーツが用意されているが、これとModulo X Conceptに装着されているものは何が違うのかが気になるところ。そこでまず、その部分を小島氏に伺ってみた。
小島氏曰く「ディーラーオプション(Modulo)のエアロパーツも基本的な空力バランスは高めています。しかし、ディーラーオプションがゆえにエアロパーツは部位ごとに単品売りをしているので、お客様によってはどれか1つだけを装着するケースもあります。そうした場合でも空力バランスが崩れない作りにしているのがディーラーオプションのエアロパーツの特徴ですが、S660 Modulo X Conceptは全てのエアロパーツを組み込んだ状態で開発しています。すると空力バランスを高められるだけでなく、エアロパーツで走安性の向上を求めていくという部分まで作り込んでいけるのです」と語った。
このような作り込みが施されたS660 Modulo X Conceptはまだ市販されるか未定と言うが、これだけの話を聞けば「欲しい!」と思う人は多いだろう。Car Watchとしても市販されて、インプレッションを紹介できる日が来るのを期待したい。次回は2017年の12月に発売されたばかりのフリード Modulo Xについてのトークショーをお伝えしよう。