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「Modulo」開発で土屋氏が開発陣を騙す!?「ホンダ Modulo 体感試乗会」トークショー

SUPER GT参戦ドライバーも登場。岡山の公式テストで感じた2018年シーズンの調子を語る

2018年3月21日 開催

「ホンダ Modulo 体感試乗会」で行なわれたトークショーの模様をお届け

 3月21日にツインリンクもてぎで開催された「ホンダ Modulo 体感試乗会」。ホンダアクセスがホンダ車向けに開発するブランド「Modulo」のパーツを装着した車両や、コンプリートカー「Modulo X」に試乗できるこのイベントでは、Moduloの開発に携わる元レーシングドライバーの土屋圭市氏やホンダアクセスのエンジニア、そして2018年のSUPER GTでGT500/GT300クラスに参戦するドライバーもModuloファミリーとして登場し、トークショーを開催した。

 当日は昼ごろから冷たい雨が降り始め、やがて雪になるというあいにくの天候。土屋氏が思わず「年寄りには厳しい」と漏らすような寒さだったにもかかわらず、多くの参加者がModulo開発の裏話や、土屋氏とGTドライバーらによる2018年のSUPER GTにかける意気込みに耳を傾けた。

土屋氏をはじめとするModuloに関わるチームのドライバー4人とModuloスマイルの2人

開発は「Modulo X TYPE-Rみたいなところまで行っちゃう」

試乗前、ブリーフィングで参加者にModuloとModulo Xについて解説

 2018年シーズンのSUPER GTで、ホンダアクセスのModuloがサポートするチームは3つ。新チームとして参戦するGT300クラスの34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3(道上龍/大津弘樹組)、2017年から引き続きサポートするGT500クラスの64号車 Epson Modulo NSX-GT(ベルトラン・バゲット/松浦孝亮組)と、100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン組)だ。また、Moduloの開発アドバイザーである土屋圭市氏は、GT500とGT300の両クラスに参戦するARTAチームのエグゼクティブ・アドバイザーとして活動する。

 今回のトークショーでは、2チームの日本人ドライバー3人と土屋氏、さらにModuloの開発を手がける福田正剛氏と松岡靖和氏が登場し、「Modulo開発パート」と「ドライバーパート」の2部に分けて開かれた。

「Modulo開発パート」のトークショーがスタート

 最初のModulo開発パートでは、Moduloスマイルの水村リアさんの司会で、土屋氏、福田氏、松岡氏の3人が開発の裏側を語った。

 ホンダの純正パーツを製造するホンダアクセスが、ホンダ車の隅々まで知り尽くしたノウハウを元に、車両性能をさらに引き上げるチューニングパーツブランドとして展開しているModuloと、完成車として提案するModulo X。そのいずれも、土屋氏が元プロドライバーとしての視点から出した意見やアイデアを反映させながら開発を進めている。

 そのModuloについて福田氏は「(乗り味の)頂点を極める、匠の世界でやっている」と話す。「できあがったものを、おいしいねと言って食べる人もいるだろうし、もっとおいしく食べられるはずと思う人もいる。その中で期待に添えるように、これはいいねってみんなに認められるところを目指していきたい」と料理に例えつつ、「1990年代に登場したNSXが、認められるために世界へ出ていく感じがあったように、我々も世界で1位になりたい」とその目標を話した。

ホンダアクセスでModuloおよびModulo Xの開発を統括する福田正剛氏

 そんな“匠”の1人として関わる土屋氏は、Moduloにおけるホンダアクセスの開発のすごさを「行きすぎるまでやらせてくれる」ところだと語る。「たぶん開発担当の2人には予算があって、期限があると思う。だけど、僕からすると期限がなくて、とことんやらせてくれる。2年も3年も開発に時間をかけさせてくれるのがすごくありがたい。あれもやろう、これもやろうっていうのを全部やり尽くして、やり過ぎてから戻して、今のModulo Xになっているのね」とのこと。

開発アドバイザーの土屋圭市氏

 具体的には、土屋氏いわく「日本のニュル(ニュルブルクリンク)と言われる鷹栖のテストコース(ホンダが持つ北海道の鷹栖プルービンググランド)で、ジャンプして着地したときに、他社だと3回くらいふらつくところを、Modulo(X)なら1回半で抑えよう」といったような激しいテストだ。軽スポーツの「S660」やスポーツカーのNSXだけでなく、それ以外の「N-ONE」や「フリード」「ステップワゴン」のようなファミリーカーも同様のテストを行なっているという。

「戻している」というのは、そういったテストで1度は過剰なほどの性能まで突き詰めた後、一般の多くのユーザーが公道を走行するのにベストなセッティングに落ち着かせているという意味。「皆さんが買ったときに、これだと硬くて乗れねえって言うよなあ」(土屋氏)といったネガティブになりそうな部分を最適化させているのだという。

「中国、香港、タイ、フィリピンなどによく行きますが、彼らは日本車のミニバンを輸入して、ブレンボをつけて全開で走るのね。だからこいつら(Modulo X)を彼らが輸入してもいいように、鷹栖に持って行って、ジャンプして着地したときに姿勢のいいクルマを作ろうよって言う。そうすると(2人は)騙されるんだよ、うまく」と土屋氏が笑うと、福田氏と松岡氏は「騙されてるんですか僕らは」と苦笑い。

 フリードについても、ホンダアクセスが「市販されているクルマのなかで一番いいものを作ろうというコンセプトでModulo Xを仕上げている」とし、「僕としてはめっちゃやりがいがある仕事。Modulo X TYPE Rみたいなところまで行っちゃうんだから」と、レーシングドライバーとして全力で携われる製品開発であることを、ホンダのハイスペック仕様向けの「TYPE R」という表現を使って説明した。

 次に、話題は2018年の夏に発売が見込まれる「S660 Modulo X」へ。松岡氏が「絶賛開発中です。実際の量産に向けて八千代工業(ホンダ車の受託生産、部品製造などを行っている工場。4月2日からは「ホンダオートボディー」)で、いろいろな品質の熟成とかを今やっているところですね」という同車両について、その完成度の高さがうかがえる開発エピソードが明かされた。

同じくホンダアクセスで、ModuloとModulo Xの開発を担当する松岡靖和氏

 S660 Modulo Xは、現在は工場のラインを使った生産のプリテストの段階。先日ホンダアクセスの担当者がそれに立ち会ったところ、設計・製造上の問題が指摘されたという。通常、そうした問題が見つかると対処のために「我々担当者は帰れない」(福田氏)ことになるが、その際は普通に帰ってきたのだとか。担当者の話によると、工場の完成検査を行なう人から、「こんなことができるのか。(標準車両で)オレたちが言っていたところをこんなに直してくれるのか。すげえぜこれ。お前、帰っていい。指摘項目はオレたちで全部やるから」と言われ、送り出してくれたのだという。

「それくらい(Modulo Xの)技術的なところが、ホンダ車にずっと乗っている工場の人たちに認められるほどになっているということですよね」と福田氏。S660 Modulo Xの発売が楽しみだと言う水村氏は、そのエピソードを聞いて「八千代工業は(標準の)S660を作っている工場本体そのもの。オリジナルを作っている方たちもうならせるModulo X、期待しちゃっていいんですかね」と興奮気味に話した。

34号車道上選手と大津選手は「まあまあ」。64号車の松浦選手は絶不調?

いよいよ始まった「ドライバーパート」のトークショー

 続いてはドライバーパート。土屋氏に加えて、GT300クラスの34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3の道上選手と大津選手、さらにGT500クラスの64号車 Epson Modulo NSX-GTのドライバーの1人である松浦選手が登壇した。

 最初にチームの現在の状況について問われた松浦選手は「(中嶋)悟ちゃんのGT500のチームで2年目。絶不調です(笑)」と挨拶。「寒い時期はタイヤメーカーの間で性能差が大きく出るんですけど、(64号車が装着する)ダンロップは寒い時期が苦手。もうちょっと気温が上がってくれないと、本来のポテンシャルにたどり着けない」と話し、「セパンテストはそこそこいい結果で終わりましたけど、岡山のテストではちょっと気温が低かったかな」と、総合タイムで11番手に終わった岡山国際サーキットでの公式テストの結果を振り返った。

64号車 Epson Modulo NSX-GTの松浦孝亮選手

 公式テストのときに松浦選手が観察し、64号車と同じく「寒い時期は厳しそうだな」とみるヨコハマタイヤ。その装着車である道上/大津組の34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、「1年ぶりにGTの舞台に戻ってこられた。今度はGT300で、NSX GT3で戦う。テストは順調に進んでいるんですけど、レベルが高い」と道上選手。「GT300には土屋さんのチームもいて、台数も多いし強豪が多い。今まではGT500ばかり経験してきているので、GT300のことは全然分からなかったんですけど、いざ自分がその立場になってみると非常にレベルが高いな」と感じているという。

34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3の道上龍選手

 コンビを組む大津選手は、道上選手とはいわば師弟のような関係。「数年前まで鈴鹿のレーシングスクールの先生だったり、アドバイザーだったりした」(道上選手)。大津選手の方には最初は緊張もあったようだが、「今は一緒に移動とかしているし、去年あたりからレース以外でも会うことがちょくちょくあったので、慣れました。レース以外でも仲良くさせてもらっています」と話す。

 それを聞いて突っ込みを入れたのが松浦選手。「大津はここ数年いろんなドライバーの子分しているんですよ。以前は野尻の子分をしてて、次に武藤の子分をして、今は(道上)龍さんの子分をしてるんですよ。次はだれ? 土屋さん?」ときわどい話を振ると、大津選手は「僕は子分とか言える身分じゃないので」とたじたじ。「武藤さんは、僕がスクールに入っているときに、毎週のように一緒にトレーニングさせてもらって、お世話になっているんですよね」となんとか反論するも、道上選手が「今はチームメンバーなのに、武藤と一緒にいる時間はそれ以上に多い。いつも一緒にいますよ」と追い打ちをかけ、それに松浦選手が「たぶんもうちょっといいドライバーの子分をしたほうがいいかな(笑)。ジェンソン・バトンとか」と止めを刺し、会場を笑いの渦に巻き込んだ。

道上選手とコンビを組む大津弘樹選手。周りからの厳しい突っ込みにこの表情

 会話の内容とは裏腹に、実際のところはどのチームも雰囲気のよさが伝わってくる“Moduloファミリー”だが、Moduloに関わる1人としてどう応援するかを問う水村さんに土屋氏は、「道上が勝ってくれれば一番いいんじゃない? ウチは当然勝つからさ。ウチは毎年表彰台上がっていますからね。道上くん、応援しますよ」と不敵な笑みで挑発するかのようなコメント。水村さんが「道上さんは(自チームを運営する会社の)社長なので、誰も意見を言えないかも」という懸念を口にすると、土屋氏も「そういうこと。チームの誰も道上に指示を送れないですよ」と応じ、34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3の意外な弱点(?)を白日の下にさらした。

 さらに車両のパフォーマンス面についても、本番前のテスト段階で多くのチームが手の内を見せないよう「三味線を弾いている」というが、土屋氏は「この人(道上さん)は一杯いっぱい。岡山のテストで、ガソリンを軽くしていってもトヨタには追いつかない」と暴露した。道上選手も「そう、三味線は弾いてません。けっこう必死です」と話し、NSX GT3は新しい車両ではあるものの「普通は1年目の車両は優遇されるんですけど、NSX GT3はBoP(性能調整)が入った状態で走っているんですよ。もうちょっと優しくしてほしいなあ」とつぶやいた。

きわどい裏話をポンポン出していく土屋氏
司会の水村リアさんも率直な意見を口にする

 ただ、公式テストでは“優しさ”も感じられたようだ。「この前の(岡山の)テスト、GT500マシンが道上さんのマシンを抜いていくと、ホンダのドライバーはみんなハザードを焚いてくれたらしいですよ」と松浦選手。これについて道上選手は、「速いのが来たら譲るじゃないですか。そうしたらみんなしてハザードを焚くから、みんなマナーいいなあ」と思ったようだ。

 そうは言いながらも、道上・大津コンビの34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3は、1年目のチームとしては今のところまずまずのスタートを切れているようだ。「トップタイムではないが、今自分たちのやるべきことをやっているなかでのタイムとしては、まあまあいい感じ」と道上選手。大津選手が「自信は正直あるんですけど、まだ確信はない」と話す姿に松浦選手は、「勝てそうなときは日曜日の朝、GT500のみんなのところに挨拶に来い。そしたらみんながちょっとずつ援護射撃してくれるから。みんなお前を守りに行くから(笑)」と応援を約束していた。

大津選手に「お前を守りに行く」と宣言する松浦選手

 そんなGT500の松浦選手は、2018年の今シーズンが64号車 Epson Modulo NSX-GTのチームとして2年目の挑戦。岡山のテストでは「(鈴木)亜久里さんのところに挨拶に行ったら、おまえGT300に抜かれるぞ、って言われた」というほど、冒頭で語っていたとおり課題は多いようだ。それでも、「僕たちは一発屋でいいので、どこかでバーンと行くことができれば。たぶん各チームに役割があると思うんですよ。ホンダのブリヂストンを履いているチームは年間で勝負していかないとならないですけど、(自分の)64号車はまだ年間で戦える力が正直なところないです。でもそのなかで、2、3回ドカンと本当に強いところを見せらればいいかな、という風に思っています」と意気込みを見せた。

 終わりに水村さんにコメントを求められた土屋氏は、ひと言「道上君が勝ってくれればいい」とだけコメント。最後の最後まで会場を笑わせてトークショーを締めくくった。

トークショーの終わりにはジャンケン大会でプレゼント。参加者全員にお土産も配布された
イベントの合間やトークショーの後にサイン会やドライバーとの記念撮影会も開かれた
試乗会だけでなく、4人のレーシングドライバーによる同乗走行も
S660(MT車)の同乗走行を担当した土屋氏
道上選手は青のS660(AT車)で
Moduleの足まわりがセットされたN-ONEは大津選手
松浦選手はレース用のセッティングが施されたN-ONEで走行
どれも軽自動車ではあるが、雪が降る中、軽自動車と思えない全開走行で駆け抜けていく
同乗した参加者からは、一様に「ものすごいG。プロのテクニックを体感できた」と感動の声
「コーナーでひっくり返りそうな勢いだったが、それでも常に安定していた」というコメントも