インプレッション

ホンダ「フリード Modulo X」(車両型式:DAA-GB7&DBA-GB5)

“Modulo X 第4弾”の走りを一般道と高速道路で確かめた

筆者(左)と、試乗に同行して技術解説などをしてくれた株式会社ホンダアクセス 開発部の齋藤貴文氏(右)

 自動車メーカーのコンプリートカー戦略が進んでいる。従来はディーラーオプションなどで装着していたサスペンションやエアロパーツなどを最初から組み込んでメーカーから出荷することでブランドとして確立し、ユーザーにも装備などを分かりやすく購入できるようにしたものだ。トヨタ自動車の「GAZOO」、日産自動車の「NISMO/AUTEC」がそれにあたるが、本田技研工業も早いタイミングで「ホンダアクセス」のパーツを組み込んだ「Modulo X」がラインアップされている。

 ホンダアクセスのパーツは1980年代の最後から走りの質を上げるための開発を進め、「NSX」や「S2000」、「シビック タイプR」などのサスペンションで、知る人ぞ知る完成度だった。時代の要請からコンプリートカーに発展し、Modulo Xとして2013年1月に「N-BOX」からスタートした。その後、「N-ONE」「ステップワゴン」と販売ボリュームの大きなところに焦点を絞って投入され、2017年12月のフリードで第4弾となる。

 Modulo Xのコンセプトは車種からも分かるように現実的だ。サーキットでも痛快に走れるサスペンションなどをコンセプトとしていた初期のモデューロから、N-BOX以降のModulo Xでは一般公道をドライブしたときに誰でも快適に走れるようなクルマ造りを目指している。

フリード HYBRID Modulo X Honda SENSING。ボディサイズは4290×1695×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2740mm。車両重量は1440kg。ボディカラーは「ホワイトオーキッド・パール」(3万2400円高)

 パーツ単体の販売とは異なり、コンプリートカーとしてユーザーの手に渡す場合、エアロパーツとの相乗効果を発揮できるなど総合的なパフォーマンスが上がる。また、ホンダ車の開発を担当していたエンジニアが専従でパーツ開発を行ない、デザイナーも意見交換をしながら細部まで造り込まれているという。チューニングの仕上げには作り手側の感性が重要になる。

フリード Modulo X Honda SENSING。ボディサイズは4290×1695×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2740mm。車両重量は1380kg。ボディカラーは「プレミアムスパークルブラック・パール」(3万2400円高)

4輪の接地感が高くロングドライブでも疲れが少ない

 フリードには1.5リッターガソリンモデルと「フィット」と同タイプの1.5リッターハイブリッドがあるが、いずれにもModulo Xが用意されている。

 まず、コンベンショナルな(Modulo Xではない)普通のフリード ハイブリッドに乗ってみる。さすがに激戦のこのクラスで高い人気を誇っているだけにバランスがいい。乗り心地に少しふわりとしたところもあるが大きな不満はなく、ハンドリングも誰でも乗りやすく快適に使える。改めて完成度の高さを確認する。

ディスク/リムの剛性比、ハブ面の剛性の最適化を図った専用15インチアルミホイールに、185/65 R15サイズのダンロップ「エナセーブ EC300」をセット

 次はModulo Xのハンドルを握る。一見しただけでコンベンショナルモデルとは違って、サイドに張り出したフロントエアロバンパーとグリルが力強いイメージだ。アルミホイールもスポーティな専用品で、コンベモデルとはガラリと違った外観となっている。インテリアもピアノブラック調のパネルと専用ステアリングホイール、カラーを替えたシートなどでModulo Xならではの差別化が図られている。

 パワートレーン系はコンベモデルと共通なので、走りの面ではサスペンションと空力が性格の違いとなる。タイヤも同じダンロップ「エナセーブ EC300」の185/65 R15で共通だ。

ハイブリッドモデルでは、最高出力81kW(110PS)/6000rpm、最大トルク134Nm(13.7kgm)/5000rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンと、7速DCTに内蔵する高出力モーターの最高出力22kW(29.5PS)/1313-2000rpm、最大トルク160Nm(16.3kgm)/0-1313rpmを組み合わせて前輪を駆動
ガソリンモデルでは最高出力96kW(131PS)/6600rpm、最大トルク155Nm(15.8kgm)/4600rpmを発生する直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載

 試乗した周辺道路は適度なワインディングロードと凹凸のある路面などが混在しており、標準車との違いをチェックするには向いている。第一印象はカチリとした足まわりで、軽快さが感じられた。コーナーでハンドルを少し切ったところでもロール量が急変しないので、しっかりした感触だ。

 さらに大きく切った場合はその違いが顕著で、適度にロールが抑制されており、ライントレース性が向上している。左右にハンドルを切り返すようなS字コーナーでもロールが残らないので、スムーズで軽快だ。Modulo Xでは専用アルミホイールのハブ面の剛性を上げることで、よりダイレクトな操舵感覚を得られているとレクチャーを受けたが、実際にスチールホイール比較だと結構違いがあるだろう。

 ハンドリングはハイブリッドでもガソリン車でも同じコンセプトでまとめられているが、とくにガソリン車ではハンドル中央からの切り始めが軽快だ。ハイブリッドでは重量配分の違いからハンドル保舵時、ニュートラルの幅がやや広くなっているものの、やはり軽快感は同様に大切にしている。

 路面アンジュレーションによる姿勢変化が小さく、4輪の接地感が高いのでハンドルに伝わる安心感が高い。郊外の道路を流して走っている程度でも直進性も上がっているのが分かる。ロングドライブでも疲れが少ないと言われるゆえんがここにある。

 また、高速道路での直進安定性の高さでは空力が貢献している。フロント下部のガイドフィンから入る空気の流れをディフューザー形状のリアスカートに流すことで、接地性を向上させて直進安定性がかなり上がっているとされており、確かに実感できた。さらに横風にも強い。最近の空力デザインはフリードのようなボクシーなボディ形状でも生かされており、Modulo Xの大胆なエクステリアはキチンとした理由があってデザインされたことが分かる。コンプリートカーならではのサスペンションとエアロパーツによる相乗効果だろう。

 乗り心地の面では少し突き上げ感が残る。段差や荒れた路面では標準車よりもリアから入る突き上げは強めになっており、また短い周期のピッチングもあるので、コンベモデルのふわりとした乗り味とは違っている。

 サスペンションはザクっと言うと、ダンパーの減衰力の伸び側が30%ほど高められている。ピストン速度は確認できなかったが、低中速域のような感触だった。逆にスプリングレートはバランスをとるためにフロント側で標準車より下げられ、リア側は上げられたとされている。メリハリの効いたチューニングだ。

 開発者がModulo Xに与えたかったポイントが分かるチューニングで、その成果は報われているといえるだろう。

フロントエアロバンパー下部に用意された縦置きのエアロガイドフィン。見えにくいフロア下までこだわって空力性能を向上させ、直進安定性を高めている
専用セッティングが与えられたサスペンションはショーワ製。車高は純正状態から変わらないが、これは使い勝手に影響を与えないようあえて同じ数値にしているという

 装備では基本的にコンベモデルのフリード G Honda SENSINGをそのまま受け継いでおり、先進安全支援システムのホンダセンシングももちろん継承している。さらにETC2.0の車載器も装備し、オプションで9インチのプレミアムインターナビも選択できる。価格はガソリン車で約283万円から、ハイブリッドで約313万円からになるが、装備からするとかなりお買い得感のある設定になっている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:佐藤正巳