インプレッション

ルノー「トゥインゴGT」(車両形式:ABA-AHH4B1/公道試乗)

5速MTと6速DCT、どちらが魅力?

トゥインゴGTがカタログモデルでデビュー

 ちょっと趣味性の強い輸入車に乗ってみたいけれど、最近目を引くのは何だか“大きくて高価”なクルマばかり……。そんな印象を抱く人にぜひともチェックしてほしい最新の1台が、ここに紹介する「トゥインゴGT」だ。2017年10月に、200台限定でMT仕様のみが発売されたこのモデル。それが、今度は2ペダルのDCT仕様も交え、正式なカタログモデルとして限定台数ナシでの販売へと昇格されたのだ。

 前出の限定モデルとの違いはごくわずか。フードやルーフのストライプが省略された一方でボディに新色が追加され、ナビゲーションシステムがオプション装着可能になった程度。一方、限定版が224万円だったのに対し、新たなMT仕様が229万円と5万円高の設定なのは、導入タイミングの違いによる為替の影響であるという。

 新しいトゥインゴが“メルセデス生まれのシティコンパクト”を謳うスマートの4ドアモデル「フォーフォー」との兄弟車であることはよく知られているが、スマート独自の2シーターモデルである「フォーツー」の場合とは異なり、「全長やホイールベースなどを筆頭に、4ドア版のパッケージング開発はルノーが担当した」というのは興味深いポイント。

 一度は潰えたスマート フォーフォーの企画が、長い休眠期間を経て復活したのは、FFレイアウトからRRレイアウトへの大変革を決断した新型トゥインゴとの“合わせ技”によって、スケールメリットの追求が可能となったからに違いない。

2月22日に発売する「トゥインゴGT」。トゥインゴGTは2017年10月に200台限定車として先行発売されていたが、新たにカタログモデルとして登場。5速MT仕様と6速EDC(エフィシエントデュアルクラッチ)仕様を設定し、価格は前者が229万円、後者が239万円。ボディサイズは3630×1660×1545mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2490mm。車両重量は5速MT仕様が1010kg、6速EDC仕様が1040kg
エクステリアではサイドエアインテークやクロームデュアルエキゾーストパイプのほか、ブラックリアディフューザー、フェンダーモール、サイドスカートなどを装備。フロントではコーナリングランプ機能付きフォグランプも備える

 一方、スマート フォーツー由来のRRレイアウトの採用で極端に小さな最小回転半径を実現といったメリットもありながら、明らかにしわ寄せがきていると認めざるを得ないのが後席スペース。キャビン空間の広さを謳う多くの軽自動車のそれと比べるまでもなく、「これだと緊急用のスペースだよね」と納得するしかないのがこの部分だ。

 フロアが高めで、乗り込み時の足の運びも必ずしも楽とは言えないのに加え、前ヒンジ式で後端がわずかに外側に開くのみというリアドアのウィンドウなどにも留意が必要。4枚ドアの持ち主でありつつも2+2的要素が強いのが、新型トゥインゴ(とスマート フォーフォー)のシーティング・レイアウト。ここは購入前に必ずチェックし、納得しておくべき見逃せないポイントだ。

 そもそもが飛び切りキュートで、フランス車という先入観もあってか何故か兄弟車であるフォーフォー以上にオシャレに映ってしまうトゥインゴのルックス。それをベースに、細部に“走り”を連想させる独自のコスメティックを施したGTは、「これならば、ガレージに置いておくだけでも魅力的だナ」と、そんなことを思わせるアピアランスを実現させているのも、大きな見どころであることに間違いない。

 ベースモデルの15インチに対し、17インチと大径化された足下やクローム処理が施されたツインテールパイプ、左後輪の上部に小さく口を開いたインテークなどは、いずれも意外に目を引くGTグレードならではの小癪なアイテム。

 ドアを開いた時点で、“RENAULT SPORT”の文字が刻まれたスカッフプレートが目に飛び込ぶインテリアも同様。専用ストライプがスポーティな雰囲気を醸し出すシートやアルミ製のペダルなどが、このモデルがモータースポーツ部門“ルノー・スポール”が手掛けたモデルであることをさりげなくアピールする。

インテリアではホワイト・オレンジラインとオレンジステッチを施したレザー調×ファブリックコンビシートを装備
5速MT仕様のシフトノブ
6速EDC仕様のシフトノブ
レザー調ドアトリムにオレンジステッチをあしらうとともに、エアコン吹き出し口、シフトレバーブーツリングにもオレンジのアクセントを採用した。また、“RENAULT SPORT”ロゴ入りキッキングプレート、アルミペダルなども装着してスポーティに仕上げたほか、アルパイン製のカーナビでは専用のオープニング画面が用意される

 もちろん、ルノー・スポールのテクノロジーはハードウェア面にも顕著。形式名称は不変ながらも、ターボ付きの3気筒0.9リッターエンジンは、ベースユニットに対して吸排気系や冷却系、燃料系などに手が加えられることで最高出力を19PS、最大トルクを35Nm上乗せ。さらには、足まわり関係にも専用のリファインが施され、強化型ダンパーや大径化されたスタビライザー、介入しきい値の見直しが図られたスタビリティコントロールの採用などが報告されている。

ラゲッジ下に搭載される直列3気筒DOHC 0.9リッターターボエンジンは最高出力80kW(109PS)/5750rpm、最大トルク170Nm(17.3kgm)/2000rpmを発生

MTとDCT、どちらが魅力?

 テストドライブではまずMT、次いでルノーでは“EDC”と称するDCT仕様をチェック。ちなみに、スペック上では前者が30kg軽量で、0-100km/h加速もMT仕様が9.65秒、DCT仕様が10.45秒と、MT仕様の方が速いと発表されている。

 ところが実際に乗ってみると、少なくとも街乗りシーンでの“スピード性能”は、確実にDCT仕様の方が上であると実感。それは理屈上からも裏付けられるもので、何となれば、5速のMT仕様に対して、DCT仕様は隣合うギヤ間レシオがより細かく設定できる6速。加えて、DCT仕様の場合は変速時の駆動力ロスが皆無な上に、1速から5速までの駆動レシオ(トランスミッションギヤ比×最終減速比)もこちらの方が2%~18%低い加速重視の設定。第6速のレシオのみ、MT仕様の5速に対して4%ほど高い燃費重視のセッティングとされているのだ。

 トゥインゴのトーボード幅は、クラッチを含む3つのペダルを余裕をもってレイアウトするためにはタイトに過ぎるもの。結果として、クラッチ操作を行なった後の左足は、ペダルの裏側で休ませるしかない状況。変速操作を終えるたびに、踏み終えた左足をペダル上からペダル裏へと回り込ませる動作は、かなり鬱陶しいものだ。また、エンジン回転の落ちが鈍く、素早いアップシフト時には次のギヤに適切な回転数まで落ち切ってくれない場面があるのもやや気になる。

 かくして、個人的には“MT大好き!”という筆者でも、「これならばDCT仕様を選んだ方が理にかなっているナ」と、そう思わされざるを得なかったのは事実。ちなみに、そんなDCT仕様では早めのタイミングでアップシフトを行なう“エコモード”を選んでいても、十分活発な加速を堪能できる。ノーマルモードを選択すると、むしろ減速時のダウンシフトポイントが早過ぎる印象も受けた。

 ところで、そんなトゥインゴGTが、スポーティさを売り物としているからこそ装備面で不満に思えたのは、タコメーターとDCT仕様でのシフトパドルの用意がないこと。後者は押し側がアップ、引き側がダウンというコマンドを受け付けるフロア上のレバー操作で代用できるが、前者はトゥインゴGTのオーナーとなった人すべてに共通する、最大の不満点となってしまうかも知れない。

 パワフルとは言っても、そこは“わずかに”109PSと170Nmというエンジンスペック。駆動輪上に荷重がしっかり乗るRRのレイアウトと、205/40サイズのタイヤの組み合わせで、トラクション能力は十分に高い。減速時のブレーキバランスに長けていることも実感。もちろんこれも、前寄り荷重になってもなお後輪にも相当の荷重が残るRRレイアウトならではのメリットだ。

 一方、そんなリアヘビーゆえのオーバーステア傾向を抑えるべく、リアに幅広のタイヤが与えられ、サスペンションにもそれを念頭に置いたセッティングが施されたゆえに、スポーティモデルとは言ってもステアリング操作に対するキビキビ感は、実は意外にも控えめ。荷重の小ささもあって、前輪の接地感がちょっと物足りないという意見を持つ人もいるかもしれない。

 実際、指1本分といったステアリングの操作に対して、際立ってシャープな動きを期待する人には、物足りなさを与えてしまう可能性は少なくないのがこのモデルのハンドリングの感覚。一方で、ノーズがインを捉え始めた時点で積極的にアクセルONを行ない、ダイナミックなコーナリングフォームを生み出して行く、といった技を手中にしているドライバーには、後輪駆動でかつリアヘビーなこのモデルのフットワークは、何ともゴキゲンと受け取られるに違いない。

 ちなみにこのモデルは、日本では“エコタイヤ”として認知されている横浜ゴムの「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」を銘柄指定で装着。その採用に至ったのは燃費性能の高さ=転がり抵抗の小ささからではなく、「走りの性能の高さから」であったのだという。実際、グリップ力は十分に高いし、滑り出しの挙動もマイルド。確かに走りのポテンシャルは非凡なものなのだ。

トゥインゴGTではルノー・スポールが手掛けた専用ダンパーを装着するとともに、タイヤは横浜ゴム「BluEarth-A」(フロント:185/45 R17、リア:205/40 R17)をチョイス

 このモデルの場合、サーキットへと持ち込んでギンギンに走っても、さらなる感動を得るのは難しいかもしれない。その点では、同じルノー・スポールの作品ではありつつも、“R.S.”という記号の持ち主とはやはり一線を画していると言えそうだ。

 とはいえ、200万円前半でこれほどの輸入車感が味わえ、しかも日本の環境下でも秘めたポテンシャルをフルに引き出して楽しめるという点では出色の仕上がり。この期に及んで“重厚長大化”が進む世界の最新モデルの中にあって、強いアンチテーゼを発しつつ個性がキラリと光る1台だ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:高橋 学