インプレッション

トヨタ「アルファード」(車両型式:DAA-AYH30W)/「ヴェルファイア」(車両型式:DBA-GGH35W)

走りや使い勝手を公道試乗で確認

 王道を歩むLクラスミニバンの「アルファード」「ヴェルファイア」で行なわれたビッグマイナーチェンジのポイントは、第2世代の予防安全パッケージの「Toyota Safety Sense」(TSS)を搭載したこと。これまでTSSを搭載していなかったことが不思議なほどだが、これにより最高級ミニバンが一気に最先端の安全装備を手に入れたことになる。

“第2世代”と呼ばれる理由は、ミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせたシステムの解析能力を大幅にアップさせたことで、車両検知、歩行者検知能力に加えて自転車まで検知できるようになったことのほか、夜間でも歩行者が確認できるようになった。接触予想を検知すると警報とディスプレイ表示を行ない、プリクラッシュブレーキを作動させて衝突回避、あるいは被害軽減に結びつける能力が大幅にアップした。

アルファード HYBRID Executive Lounge(735万8040円)
ボディサイズは4945×1850×1950mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm、車両重量は2240kg
ヴェルファイア Executive Lounge Z 4WD車(737万7480円)
ボディサイズは4935×1850×1950mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm、車両重量は2210kg

 また、新たに加わったレーントレーシングアシスト(LTA)は車線中央をトレースすると同時に、片側の車線が見えない場合も道路端を認識して走行レーンをキープする能力が高まっていることも大きなトピックだ。これらに加えて全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロール、アダプティブハイビームシステムなども性能アップして使いやすくなった点も大きい。

 変更されたのは安全装備だけではない。外観もインパクトのあるデザインになった。というか、ここまでやるかというぐらいに迫力満点で、従来型からはひと目で新型と分かる。具体的にはヘッドライト、フロントグリル、バンパーなどのフロントまわりのデザイン変更で印象が大きく変わり、それに合わせてリアもコンビランプなどに変更が加えられている。

フロントグリルの両サイドに追加したメッキ加飾をヘッドライトまで連続させて存在感を強調
ヘッドライトには3眼LEDヘッドライト+LEDクリアランスランプを標準装備し、ウインカーにも流れるように発光するLEDシーケンシャルターンランプを採用する
ルーフエンドスポイラーやリアコンビネーションランプ側面の「エアロスタビライジングフィン」などを全車に標準装備して空力性能を向上
リアコンビネーションランプの造形は変わらないが、発光パターンを変更し、フロントがLEDシーケンシャルターンランプになるモデルはリアも“流れるウインカー”になる
ヴェルファイアではフロントグリルをボディ同色部分で上下に分割し、2段式のヘッドライトデザインを強調。ヘッドライトはアルファードと同じく3眼LEDヘッドライト+LEDクリアランスランプを標準装備
リアではリアハッチ中央のメッキグリルをボディサイドまで連続させてワイド感を演出。リアコンビネーションランプの発光スタイルも大きく変化している
従来から引き続き、標準ボディ(左)とエアロボディ(右)の2種類を外観デザインに設定

ボディ剛性の強化で走りのダイレクト感や静粛性が向上

 では、さっそくビッグマイナーチェンジを行なったアルファード/ヴェルファイアに乗ってみよう。アルファード/ヴェルファイアではスペック、グレードとも共通のものが用意されているが、ヴェルファイアでは3.5リッターのガソリン仕様「Executive Lounge Z」(4WD車)に試乗した。エンジンスペックが従来モデルから変更になり、さらに6速ATから8速ATとの組み合わせになった。

 V型6気筒エンジン(2GR-FKS)は、最高出力が206kW(280PS)から221kW(301PS)にアップ。トルクバンドも広くなると同時に最大トルクは334Nmから361Nmに向上している。

V型6気筒DOHC 3.5リッター直噴の「2GR-FKS」型エンジンは最高出力221kW(301PS)/6600rpm、最大トルク361Nm(36.8kgm)/4600-4700rpmを発生。8速ATとの組み合わせで4WD車のJC08モード燃費は10.4km/L

 さすがに走行には余裕があり、ダウンサイジングエンジンがもてはやされる昨今だが、燃費を改善して堂々とV型6気筒エンジンを継続使用しているのは潔い。とくにスタートではLクラスミニバンらしい滑らかな加速力が魅力で、カバー範囲が広いギヤ比でクルージング時のエンジン回転を下げ(100km/hクルージング時のエンジン回転は約1500rpm)、発進時の駆動力を増やすことで、ドライバビリティを上げることができている。また、追い越し加速でも適切なギヤ比がスタンバイしているので、加速に途切れが少なく、合わせて変速ショックも小さい。約2.2tのヴェルファイアが重さを感じさせない加速力を発揮し、もともと加速力に不足のなかった3.5リッター仕様の加速の質が向上した強い印象を受けた。

インテリアは基本的な形状などに大きな変更はないが、木目調の加飾パネルの色やシート表皮などを変更。Executive Lounge Zで標準装備するホワイトのプレミアムナッパ本革は汚れが付きにくく拭き取りやすい防汚処理加工が施されている

 向上したのは加速力だけではない。静粛性もさらに上がっており、走行中に感じられるロードノイズ系の音が小さくなっている。ボディの接着剤使用範囲を大幅に拡大したことでボディ剛性が上がった効果だと思われる。さらにフロントウィンドウに接着剤を使っていることでねじれ剛性が上がったため、ハンドル操舵時の反応にダイレクト感が増している。もちろん、ボディの接着剤使用も貢献している。乗り心地面ではこのボディ剛性の向上とともに、リアダンパーの減衰力の見直しと使用バルブのチューニングでしなやかな感じが増している。このように、走りの質感はビッグマイナーにふさわしく従来型から着実に進化した。

 ただ、アルファード/ヴェルファイアが持っていた走行中のゴロゴロ感は多少残っていて、とくに2列目シートでは小さなフロア振動があり、この辺は今回のビッグマイナーでも大幅な改善にはつながらなかったのは残念だ。FF仕様でもスタンバイタイプの4WD仕様でもこの辺りは変わらない。

3列目シートは全車左右分割の2人掛け
2列目シートは写真の「エグゼクティブラウンジシート」のほか、左右分割の「エグゼクティブパワーシート」と「リラックスキャプテンシート」、3人掛けの「6:4分割チップアップシート」、左側シートが電動で回転&昇降する「サイドリフトアップチルトシート」をラインアップ
電動オットマンやサイドサポートを備えるヘッドレスト、両サイドの肘掛けなどを備えるエグゼクティブラウンジシート。肘掛けのクッション下にはパワーシートやシートヒーター、ライト類の操作スイッチ、格納式テーブルなどが用意されている

センタリングが自然な「レーントレーシングアシスト」

試乗したアルファード/ヴェルファイアのどちらも225/60 R17サイズのタイヤを装着

 アルファードではハイブリッドモデル(Executive Lounge)に乗ったが、ハイブリッドのパワートレーンは変わらず直列4気筒2.5リッター(2AR-FXE型)のエンジンと105kW(前)+50kW(後)のモーター駆動でシステム出力は145kWになる。ちなみにハイブリッドは全て後輪をモーター駆動する「E-Four」の4WDのみとなる。

 こちらは2240kgでモーター分重くなるが、加速力などは不満なく、余力のある動力性能を持つ。3.5リッター仕様ほどの力強さには及ばないが、セールスボリュームのあるハイブリッド仕様の満足度としては十分だと思う。7人掛け用の2列目シートはたっぷりとしており、前後長も長くて厚遇されている。さらに3列目もシートクッションは硬めだが、長時間移動でも不足のないストローク感を持っており、2列目シートを無理のない範囲で少しだけ前にスライドしてもらうと、3列目のレッグルームも余裕の広さを誇る。さすがにLクラスミニバンである。ただ、2列目シートが立派であるだけに、3列目へのアクセスはちょっとコツが必要だ。

ハイブリッドモデルでは、最高出力112kW(152PS)/5700rpm、最大トルク206Nm(21.0kgm)/4400-4800rpmを発生する「2AR-FXE」型の直列4気筒DOHC 2.5リッターエンジンと前後2個のモーターを組み合わせる
アルファード HYBRID Executive Loungeのインテリア。メーター加飾が変更となっており、ハイブリッドモデルの2眼式メーターは左側がパワーメーターとなる

 Executive Loungeが持つ完全に大きなソファタイプの2列目シートはさすがに立派で、気合の入った贅沢な造りだ。ただ、シートが大きく左右の肘掛けが高いので少し閉塞感を感じた。のんびりというよりも威儀を正して正座するという感じに近いだろうか。シート表皮などはしっとりした感触で気持ちよい。ただ、3列目へのアクセスはさらにわるくなり、ワンタッチで右2列目シートが移動する「マニュアルウォークイン」仕様は4月からの販売になる。

3列目シートを跳ね上げ格納してラゲッジスペースの容量を拡大可能
脱着折りたたみ式デッキボードの下に、148L分の収納スペースを用意

 先進安全装備の中ではレーントレーシングアシストを試すことができたが、車線のセンターをチョロチョロすることなくスムーズに走る。センタリングが自然で、実用性が高い。第2世代のTSSからは「P」の表記がなくなったが、飛躍的に高まったスペックでさらに交通事故が減少することを期待できる。

ステアリングスポークのスイッチを押してレーントレーシングアシストをONにすると、メーターパネル中央のマルチインフォメーションディスプレイに日本語表示が行なわれ、右下にアイコンが表示される
2列目や3列目のシートに人が座っていても、リアハッチのカメラの映像を表示して後方確認できる「デジタルインナーミラー」を新採用
「LEDルーフカラーイルミネーション」は全車標準装備
「12.1型リヤシートエンターテインメントシステム」はExecutive LoungeとExecutive Lounge Zに標準装備。そのほかのグレードにメーカーオプション設定する

 ちなみに燃費は、JC08モードで3.5リッターガソリンが10.4km/L、ハイブリッドが18.4km/Lとなる。さすがにセールスボリュームの大きなミニバンの旗艦、アルファード/ヴェルファイアだけにレベルアップの幅は大きく、高い人気が続くことは間違いなさそうだ。しかも装備の割には意外と価格が抑えられているのは知られていない。ミニバンユーザーには買い得感がある。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:原田 淳