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単なるSUVにあらず。松田秀士が感じたアルファ ロメオ「ステルヴィオ」の美点とは?

高性能な走り、快適な室内を両立したブランド初のSUV

高性能な走りを実現する理由

 アルファ ロメオ「ステルヴィオ」の軽井沢初乗りインプレッションはすでにCar Watchで公開済み。試乗会では一般的に、数種類あるグレードのうち限られたグレードに限られた時間内での試乗ということになり、深くそのモデルを理解できるところまではいかないもの。そこで私自身は個別に広報車を借り出し、数日間手元に置いて試乗するように心掛けている。それにしても連続した長距離を乗る機会はそうあるものではない。

 そこで今回は2日間かけて高速道路を含めた長距離移動を行ない、ステルヴィオの真価を試してみることにしたのだ。試乗コースは、まず千葉県で海岸沿いを走り、その後、愛知県までの往復を2日間に渡り走破するもの。試乗車のグレードは「2.0 TURBO Q4 スポーツパッケージ」。基本的なスペックおよび性能はベースとなる「2.0 TURBO Q4」(受注生産)もよりコンフォートな「2.0 TURBO Q4 ラグジュアリーパッケージ」も同じだが、スポーツだけに走り指向のインテリアやホイール(19インチ)などが採用されている。

レーシングドライバーでありモータージャーナリストである松田秀士氏がステルヴィオの魅力に迫る

 さて、アルファ ロメオ初の本格的SUV・ステルヴィオはどのようにしてでき上がったのか? 多くのSUVが誕生するプロセスと同じように、ステルヴィオにもベースとなるモデルがある。ステルヴィオの場合、それが「ジュリア」だ。ジュリアは2017年にデビューしたスポーツセダン。その走りはラグジュアリーでありスポーティ。要約すると「快適重視ですがガンガン攻めた走りができます」という相反するテーマを持つ。私自身も実際にジュリアのステアリングを握るまでよく理解できなかったが、走り始めると実によく動くサスペンションが路面の凸凹を見事に舐めるようにいなし、しかもステアリングもアクセレレーションも驚くほど俊敏に反応する。欲張り! と思わず叫びたくなるほどに、ジュリアは見事にこの二律相反のスポーツ性を達成しているのだ。

 そんなジュリアをベースに持つステルヴィオの気持ちよさは、もう説明しなくても分かりそうなものだが、もう少し“ステルヴィオ オタク”になって私の話に耳を傾けてほしい。ジュリアがベースということはプラットフォームが同じ。プラットフォームが同一だとサスペンションの取付位置も同じで、サスペンション形式もジュリアと同じフロント:ダブルウイッシュボーン式、リア:マルチリンク式だ。

 マルチリンク式はダブルウイッシュボーン式の進化系なので同じ性能。注目はフロントのサスペンションがダブルウイッシュボーン式であること。多くのSUVはフロントサスペンションにストラット式を採用することが多い。それはベース車両がそれほど走りに特化していないか、あるいは2WD(FF)ゆえに横置きエンジンとなり、サスペンションアームを長くとれないといったことなどが原因だ。しかしここがキモで、ストラット式サスペンションよりもダブルウイッシュボーン式サスペンションの方が偉いのだ。

 これを説明し始めると、皆さんはこの先読むのをやめてしまうと思われるから省略。でも少しだけ説明させてください。F1マシンを見たことがあると思う。F1マシンは前後ダブルウイッシュボーン式サスペンションなのです。もうお分かりですね。ステルヴィオは走りに特化したサスペンション型式を採用し、そして後輪駆動の「GIORGIOプラットフォーム」を共に持つジュリアとGIORGIOファミリーを形成している。いかにもイタリアーノらしいネーミングだ。

今回試乗したのは直列4気筒 2.0リッター直噴ツインスクロールターボエンジンに8速ATを組み合わせ、駆動方式に可変トルク配分機構を備えた4WDシステム「アルファ ロメオ Q4」を採用する「2.0 TURBO Q4 スポーツパッケージ」(691万円)。ボディサイズは4690×1905×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2820mm。ベースグレードの「2.0 TURBO Q4」、コンフォートな「2.0 TURBO Q4 ラグジュアリーパッケージ」のいずれもパワートレーンは共通。このほかV型6気筒DOHC 2.9リッター直噴ツインターボエンジン(510PS/600Nm)を搭載するトップエンドモデル「クアドリフォリオ」もラインアップ
スポーツパッケージでは19インチ5ホールアルミホイール、スポーツブレーキ/レッド仕上げブレーキキャリパーなどを装備。撮影車はピレリのオールシーズンタイヤ「SCORPION VERDE ALL SEASON」(235/55 R19)を装着していた
直列4気筒2.0リッター直噴ツインスクロールターボエンジンは最高出力206kW(280PS)/5250rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/2250rpmを発生

 シートに腰かけてみよう。SPORTのシートはすっぽり包み込んでくれる。しかも肘など操作系の妨げにならない。そしてSUVらしいアイポイントの高さが特徴で、ジュリアに比べてヒップポイントが190mm、車高が65mm上がっている。SUVらしいドラポジを演出するためにシート高も上げられているわけだが、ダッシュボードがほぼ完全なフラットに仕上げられているので視界がよく運転しやすい。

スポーツパッケージのインテリアではスポーツレザーシートをはじめ、スポーツレザーステアリング(オーディオコントローラー付)、レザーインストルメントパネル/ドアパネル、アルミニウムパネルなどを専用装備。イタリア車らしく情熱的な赤がよく似合う

 また、ホイールベースはジュリアと同じだが、トレッドがフロントで54mm、リアで29mm広げられている。つまりこれは、よりコーナリング重視のハンドリングを狙ったもの。ホイールベース÷トレッドの比率が低くなるほどにハンドリングの俊敏性が増すのだ。しかもステルヴィオはただ車高を上げたのではなく、スペーサーを入れてジュリアと同じロール軸に仕上がるようサスペンションをイチから作り上げていて、簡易的に作り上げられたSUVではないのだ。

 ジュリアとのデビュー時期が近いことからも、設計段階からこの2モデルが企画されていたことが予想できる。つまり、ジュリアだけでなくステルヴィオの車高でも高性能な走りが実現できるように設計されていたわけだ。

前席も後席も快適

 では、その走り。軽井沢での初乗りでそのハンドリングのスポーツ性が優れていることは確認できているが、今回改めて、特にあの時は新車だったがすでに数千km走り込んだステルヴィオのステアリングを握って感じたのは、ハンドリングの奥の深さだ。

 軽井沢ではまだ新車ゆえのブッシュ類などがフレッシュで、常にコーナーにチャレンジしたくなる印象だったが、走行距離とともにしなやかさが出てきている。それはヤレとか言われる類ではない、当たりがついたのだ。だからコーナリング中の路面凸凹の吸収が上達し、ライントレースの正確性が向上している。しかも高速道路での長時間移動が苦にならない。ほんのごく初期のサスペンションの動きにフレキシビリティが芽生えたらしく、指でなぞるというよりも舌で舐めるといった感じ。

 しかし、そこを通過してしまうような大きなギャップでは、しっかりと腰のあるサスペンションエリアに達し、スポーツマンらしい硬さがタイヤグリップをドライバーのヒップに伝えて、強くいなす。これは突き上げではなく安定なのだ。その理由は通過した後の上下動の収まりが早いことで、これによってドライバーの眼球は手振れ補正のサポートをそれほど行なわなくて済む。要するに疲れにくいのだ。上下動がいつまでも収まらない柔らかいサスペンションがよいわけではない、というわけ。後席にも長く試乗したが、とても乗り心地がよかったことと、前席との会話がスムーズ。高速移動中の室内静粛性も高い。

 ステルヴィオには最近流行りのLKA(レーンキープアシスト)システムは装備されていない。しかし、このクルマには要らないだろうと思うほど、非常に自立直進性が安定している。真っ直ぐ走らすことが苦にならない。高速移動でのアドバンテージが高いクルマは疲れにくいのだ。LKAは装備されないがACC(アダプティブクルーズコントロール)は装備されている。

 驚くのはこのACCのレスポンスが鋭いこと。例えば、追い越し車線を走行中に前々車が走行車線に戻り、前車が急加速した時などほぼ遅れず追走する。別にスポーツモードにしていないのに、ドライバーが気負うことなく追走モードに入ってくれる。このACCは実用性が高い。

 今回の試乗で感じたのは、走り込むほどにステルヴィオは進化し身体になじむ、ということ。おそらく、手に入れて走れば走るほどに愛着が沸き、手放せなくなるだろう。私がステルヴィオを買ったらきっとそうなる予感がする。