トピック
ポルシェと東大先端研による「ラーン ウィズ ポルシェ 2024」、“トラクターのレストア”と“農業”から学生たちは何を学んだか?【前編】
子供たちの夢に向かう力を引き出すプログラム、2024年もスタート!
- 提供:
- ポルシェジャパン株式会社
2024年9月4日 08:00
LEARN with Porscheとは?
インターネット、動画サイト、SNSなど、情報を得るためのバーチャルなツールが目まぐるしく進化する時代。学校教育としても、これからどんな学びを提供していくのか十分に議論する時間が足りていないのが現状だ。学校は、どんな人でも隔てなくさまざまな分野の教育を受けることができるし、他者との交流を通してこれから社会に出ていくためのコミュニケーション能力を身につけることもできる。しかし、枠組みの中で学んでいかなければいけない一辺倒な学校教育が肌に合わず、不登校となる子どもも増えてきている。
そんな時代の中で、子どもたちに対して一般的な学校教育とは違う学びを得られる機会を作ろうと、東京大学 先端科学技術研究センター「個別最適な学び研究」寄付研究部門では「LEARN」というプロジェクトを行なっている。
「LEARN」とは、Learn(学ぶ)、Enthusiastically(熱心に)、Actively(積極的に)、Realistically(現実的に)、Naturally(自然に)の頭文字を取っており、違う方向性の言葉から成り立っていることから分かるとおり、多様なプログラムを行なっている。
この「LEARN」を主導しているのは、東京大学 先端科学技術研究センター シニアリサーチフェローである中邑賢龍(なかむらけんりゅう)先生だ。先生は、多様性を認め合い、ユニークな人材を受け入れる社会的素地の創生こそが、イノベーションを生む未来の社会システムに結びつくと考えており、LEARNも教科書ではなく活動をベースにした学びの場を子供たちに提供している。
その中でも、ポルシェジャパンがこのプロジェクトに共感し支援を行なっている「LEARN with Porsche」は、夢に向かう力を引き出すプログラムだ。未来の壁に立ち向かっていくスカラーシップ生を探し、その子どもたちにこれからの学びに必要な心構えと夢をプレゼントする独自のイノベーティブなスカラーシッププログラムとなっている。
「LEARN with Porsche」には2つのプログラムがある。参加当日までどんなプログラムを行なうか明かされず、電子機器類も一切使えない状態で、自分や仲間たちの力で新たな発見や体験に挑む「サマープログラム」と、さまざまな産業や分野において、ものづくりや仕組みに興味を持つ子供たちへ向けて、専門家と共に修理や整備など、具体的に手を動かして進める「ものづくりプログラム」だ。
今回取材したのは2024年で第2回目となる「ものづくりが好きな若者向けのプログラム」。2023年に実施された第1回目のテーマは、「60年代の空冷ポルシェを甦らせよ! - 人や機械からものづくりの知恵を学ぶ5日間 -」というものだった。この「60年代の空冷ポルシェ」という文言に引きつけられた学生たちが「自らの手で356や911をレストアできるぞ!」と意気込んで北海道の地へと集まってきた。しかし、そこにあったのは憧れのスポーツカーではなく、なんとボロボロのポルシェのトラクターだったのだ。
学生たちは最初こそガッカリした表情を見せていたものの、長い時を経て、あらゆるパーツが汚れ、壊れ、錆びついた状態になっていたトラクターを真剣に1つひとつよみがえらせていった。すると、学生たちの心にトラクターへの愛着が湧いてきただけではなく、その部品の意味や役割を自然に理解するおもしろさや、何もかもイチから考えて行動することへの大切さが、自らの手を動かすことによって芽生えたように見えた。そして、最後にはそのトラクターのエンジンに火が入り、学生たちが直した1つひとつのパーツがかみ合って動き出す。ポルシェのトラクターは、ついによみがえったのだった。
トラクターのレストアに加え、今回は農業体験も
そして第2回目となる今回のプログラムでは、「ポルシェで耕せ~60年代の空冷ポルシェを整備して小麦畑を耕し、ものづくりの面白さを感じる5日間~」と題し、ここまでレストアしてきたポルシェトラクターをさらに実用レベルまで整備し、いよいよ本来の姿である農作業も行なうという。
前回のプログラムと少し異なるのは、第1回目はクルマの整備がある程度分かっている工業高校などの学生たちが多かったのに対し、第2回目はそういった学生たちだけではなく、農業に興味があったり、クルマとは違う分野が得意な子だったりと幅広く集まった点だ。
それぞれ別のベクトルに興味を持つ学生たちが集まり、同じプログラムに参加してレストアや農業に向き合うには「肩書や年齢は関係がない」ということで、プログラムが開始する前に中邑先生から「学生同士で学校名や年齢は明かさないように」と告げられた。
「これから5日間、北海道のこの場所で、教科書なし、協働なしの『LEARN with Porsche』のプログラムを始めます。みんなで無理して協力する必要もありません。やりたければ一緒にやってください。今回はポルシェを修理して、小麦畑を耕せとタイトルにあったと思いますが、小麦があるかどうかは畑に行ってみないと分かりません。そういうプログラムです。天候によっては予定していた作業やプログラムを進めることができなかったりするかもしれませんが、それは農業も一緒。お天道さま次第で毎日できることとできないことがありますから、自然と相談しながらやっていきたいと思います」。
明らかに学校教育とは異なる中邑先生の話を、期待と不安が入り混ざった表情をしながら聞いているのは、全国から集まった7名の学生たち。興味のある分野が違うだけでなく、年齢も性別もバラバラだ。これから具体的に何をするかもよく分からない状態で、初対面の学生たちと共に5日間を過ごしていく。
そして、中邑先生以外にこのプログラムには欠かせない人物がいる。北海道清水町にある十勝千年の森にほど近い場所で「森の馬小屋」を営んでいる田中次郎さんと、トラクターのディーラーで48年間勤務したトラクター整備のスペシャリストであり、自身も熱心なクラシックトラクターの愛好家でもある池田猛さんだ。
次郎さんは単にトラクターの修理や整備を後押しするだけではなく、危険があれば容赦なくしかるし、一から十まで手取り足取り教えてくれるわけではなく、学生たちに自ら考えさせるように投げかける厳しい先生だ。そして、池田さんは単純に整備マニュアルだけにとらわれず、トラクター整備の現場で培った自身の経験を生かしてトラクターと対話するように修理を行なっていく。この2人の技術や経験だけではなく、生きざままで学生たちに惜しみなく披露し、指導してくれるところも、学生たちにとって大きな財産になることは間違いないだろう。
「ポルシェトラクター」という題材は与えられながらも、自ら考えて手を動かし、そしてスペシャリストの先生たちに自らの言葉や行動で相対していかなければ何も得ることはできない。果たして、今回の学生たちは「LEARN with Porsche」を通してどんなことを学んでいけるのだろうか。
Photo:堤晋一