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スバルのストロングハイブリッドを搭載した「クロストレック」で1000km走れる? 本州横断ロングドライブ
2025年2月3日 00:00
ストロングハイブリッドに高まるロングドライブへの期待
スバル待望のストロングハイブリッドが、クロストレックに初搭載された。筆者はそのプロトタイプを先んじてクローズドコースで試乗し、トヨタ譲りの「THS-II」ハイブリッドシステムと、スバルならではのシンメトリカルAWDが生み出す走りのポテンシャルに大いに感心させられたわけだが、「すぐにでもこのクロストレックを連れ出して、ロングドライブをしてみたい!という、強い思いに駆られた。
なぜなら、ストロングハイブリッドモデルの「クロストレック S:HEV」は現行スバル製モデルで一番の18.9km/L(WLTC総合値)という燃費性能を実現し、なおかつその燃料タンク容量が63Lにまで拡大されていたからだ。単純計算で1190kmという航続距離は机上の空論としても、“ワンタンクで1000km”ならば十分狙えるのではないか? 東京から北は北海道、西なら九州までワンタンクで走破できたら、それはちょっとしたロマンだ。そんな思いが試乗後に湧き上がったのである。そしてこの度、そんな筆者の熱烈なラブコールが実を結び、ロングドライブが始まったというわけである。
東京から西へ。始まりはEVスタート
出発地は東京・恵比寿のスバル本社。筆者を含めた大人3人と人数分のキャリーケース、そしてカメラ機材をラゲッジに詰め込んで、2泊3日のロングドライブはスタートした。ルールはいたってシンプルだ。数値を伸ばすための極端な燃費走行は一切行なわない。交通の流れに乗りながら制限速度を守り、途中では休憩をきちんと取りながら、九州方面を目指す。これだけである。
まずはステアリングの奥にある、スタートボタンをプッシュ。すぐさまその横にある「EV MODE」ボタンを押すと、クロストレック S:HEVはモーター駆動で走り出した。バッテリが適正温度領域に入っていなかったり、SOC(電池残量)が少なかったりする場合など、条件によっては最初からエンジンがかかることもあるが、今回は首尾よくEVスタートが決まった。
ちなみに試乗車は、走行距離わずかに52kmのまっさらな新車だ。よってその航続可能距離もそのわずかな走行距離をベースに構築された結果だろう、ガソリン満タンの状態でも880kmと、1000kmを割っていた。ロングランのデータを反映させて、これをどこまで伸ばせるかが、ひとつの山場だ。
東京の街中を、モーターだけで走るクロストレック S:HEV。走り始めだけにアクセルワークには慎重を期したが、50km/hくらいまで粘り強くEVモードが持続したのには、かなり驚かされた。ちなみにその駆動用モーターは、270Nmもの最大トルクを発揮する。EV走行の頻度は、これまでのe-BOXER比でおよそ1.5倍にまで拡大されているのだという。
また、たとえエンジンがかかっても、走りの質感が削がれないのも素晴らしかった。クロストレック S:HEVはそもそもの遮音性がかなり高い上に、振動を打ち消し合う水平対向エンジンも極めて静かだからだ。そしてアクセルオンでかすかに聞こえる、心地よいメカニカルサウンドが全体の印象をよくしていた。
そんな北米譲りの2.5リッター自然吸気ユニットは、今回のストロングハイブリッド化にあたって吸排気と制御を刷新。吸気バルブを「遅閉じ」して膨張比を大きく取るアトキンソンサイクル方式を常用回転のほぼ全域で導入することで、その燃費性能を高めた。またこれによってベースとなるFB25ユニットからの絶対的な出力値は160PS/209Nmへと少し下がったが、前述した走行用モーターが、低回転時のトルク不足や高回転時における出力不足を補っている。
街中での乗り味は、軽快かつ上質だ。デュアルピニオン式の電動パワステは街中でもとりまわしがよく、アクセルは軽く合わせるだけでパワーユニットがリニアに反応し、車体がスッと軽やかに進む。クロストレック S:HEVはストロングハイブリッド化で約50kg車重を増やしたが、その重みもほどよく車体の落ち着きを高めていた。またこれを支える足まわりが、まったりと路面をつかむ。つまりは乗り心地が、とてもいい。特にロッドを延長してフリクションを低減し、ストローク初期から減衰力を立ち上げるようになったリアダンパーは、後部座席の乗り心地を大きく向上させた。
渋滞時はアイサイトXで長距離でも疲れにくい
首都高速道路に入っても、こうした印象は変わらなかった。曲がり込んだカーブでもそのステアフィールは軽やかかつ正確で、ターンインではスムーズにノーズがコーナーの内側へ入っていく。これは後から聞いた話だが、どうやら操舵に合わせて、4WDのトルク制御も調整しているらしい。
ターンミドルで姿勢が安定しているのは、ハイブリッドシステムが車体の中心線に沿って配置され、シンメトリカルAWDの美点が損なわれなかったからだろう。そこからコーナーの出口に向けてアクセルを合わせ込んでいくと、四輪が旋回Gを実に気持ちよく縦Gへと変換していく。
東名高速道路に入ってからは、ドライバビリティに注目してみた。その主役となるのはやはり、クロストレック S:HEVに追加された「アイサイトX」。中でも特筆すべきは「アクティブレーンチェンジアシスト」の制御だろう。全車速追従機能付クルーズコントロール(ACC)を起動させ、アイサイトXのスイッチを押して作動を確認。そこからウインカーレバーを半押しすると、3D高精度地図データのある自動車専用道路であれば周囲の安全を車両が確認した後、すみやかにレーンチェンジの操舵支援が始まる。
こうした制御はすでにスバルでも実用化されていたが、クロストレック S:HEVでは一連の動きが明らかにスムーズになった。ハンドルの切り始めには唐突感がまるでなく、かつ操舵スピードと操舵量が適切なため、修正舵を与えることすらなくレーンチェンジが完了するのだ。これまではややアトラクション的な印象だったアクティブレーンチェンジアシストが、最新世代では十分実用できる装備になった。
ACCそのものの制御についても、まったく同じことが言えた。曲率が高いカーブに対する減速や操舵、そしてブレーキのかけ方など、すべての制御がさらに洗練されていた。そして渋滞時ハンズオフアシストが、とても実用的だった。車間を守り、かなりの操舵追従性を見せるのは当然ながら、低速時にしか作動しない制御も安心感が高い。だからインジケーターが青く光ってアシストが始まると、ホッとひと息つくことができた。
こうしたアシストのおかげで、アイサイトXで高速巡航をすると、本当に疲れにくい。そして運転中にリラックスできるようになったことで、さらに周囲の状況が見渡せるようになった。ステアリングは静電容量式だから軽く手を添えるだけで走れてしまうが、完全にクルマ任せというよりも、感覚的にはドライバーが運転を見守ってあげる立場になったという表現の方が近い。
さらに驚いたのは80~100km/h付近の巡航で、かなり頻繁にEVモードに入ったことだ。通常だとEV走行は高速巡航時の効率がわるく、エンジン走行を軸とするのが常套手段だと思っていたが、クロストレック S:HEVはかなり積極的にエンジンを停止させて、EV走行した。
シンメトリカルAWDの走りを維持しつつ、ストロングハイブリッドの燃費を発揮
さて、気になる航続距離についてだが、ハイライトは終盤の下関で訪れた。北九州へと向かう関門橋に差しかかったところで、ついにエンプティランプが点灯したのだ。メーター内に表示される航続可能距離は60km。そのまま北九州の街中へ行くことは可能だったと思われるが、ここは大事をとって、九州で最初の降り口となる「門司港IC」で高速道路を降りた。折しも最高のタイミングで11.6インチセンターインフォメーションディスプレイには周辺にあるガソリンスタンドの検索を提案するメッセージが現われ、それに従いながら、門司のガソリンスタンドの目の前でついに1000kmを迎えたのだった。
ちなみに給油量は58.17Lで、純粋なタンク容量で見る限り残り4.83Lとごくわずかだった。しかし実際は給油ホース分の容量も含んだ計測となるため、燃料はもっと残っていたことになる。そして満タン法での燃費は17.2km/Lと、高速道路主体の移動ではあったがかなり優秀な数値となった。
こうしてクロストレック S:HEVはワンタンクで1000kmを見事に走りきった。17.2km/Lという数字だけを見れば、これを上まわるライバルたちは確かに存在する。しかしここで重要なのは、スバルらしいシンメトリカルAWDの走りを維持しながら、この燃費が達成されたことだ。それはスバルファンだけでなく、スバル車に乗りたくても躊躇していた人々にも、勇気を与える結果だったと言えるのではないだろうか。
「クロストレック Premium S:HEV EX」概要
Photo:高橋 学