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最近の教育では得られない学びとは? ポルシェ×東大先端研独自の教育プログラム「ラーン ウィズ ポルシェ」、2025年は“ポルシェで森に入る”
2025年9月4日 08:00
最近の教育では得られない学びとは?
現代では、何でも分かってしまう、もしくは分かったような気になってしまう、そういった環境や教育、情報機器類が増え続けているように思う。
筆者自身は、アナログとデジタルが混在する学生時代を過ごし、決してスマホやPC上だけでは手に入らない経験というものを、わずかながら享受できた世代だと思う。便利な情報やツールに触れながら、指先だけで検索してサラリと知るよりも、たくさんの失敗の中で、一見無駄に思えるような時間をかけて手にした経験というのは、今でも大きな力になっていると感じる。筆者の世代でもその経験が少ないと感じるのに、今の子どもたちが紆余曲折をしたり、失敗を繰り返したりする経験はさらに少なくなっているのではないだろうか。
東京大学先端科学技術研究センターとポルシェジャパンが共同で行なっている「LEARN with Porsche」は、そんな子どもたちがこれからの時代を生きていくために、学ぶことに対して必要な心構えを得たり、さらなる夢を抱いたりするためのスカラーシッププログラムだ。このプログラムに応募して選ばれた子どもたちは、プログラムの明確な内容を知らされず目的地に集められる。そのプログラムの課題をクリアするには、スマホなどの電子機器の使用や検索も禁止され、自ら考え、子どもたち同士で悩み、話を聞き、必要があれば大人に助けを求めなければならない。そういった能動的な経験の中にこそ、最近の教育では得られない学びがあるのではないか、というのがこのプログラムの意図するところだ。
「LEARN with Porsche」には2つのプログラムがあり、今回取り上げるのはものづくりに興味のある子どもたちへ向けたプログラムだ。今年で3年目となるこのプログラムは、「ポルシェで森に入る~60年代のポルシェトラクターを整備して森の生活を知る5日間~」と題されている。
1年目は「60年代の空冷ポルシェを甦らせよ!」というタイトルで、参加者は「昔の911を整備できるのでは」と期待に胸を膨らませてやってきた。現地に着いてみると“空冷ポルシェ”の正体は、なんとスポーツカーでも何でもない1960年代のポルシェトラクターで、いきなり出鼻をくじかれるというところからスタートした。参加した子どもたちにはきちんとした説明書や専用の道具などは与えられず、トラクターのスペシャリストである池田猛さんや、北海道で森の馬小屋を営んでおりプログラムの場を提供している田中次郎さん、そして「LEARN with Porsche」を主催している東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍先生にアドバイスをもらいながらレストアを進めていくことになる。
そしてもちろん、手取り足取り教えてもらえるわけではない。トラクターがどんな構造をしているか、どうやったら壊れた機構が動くようになるのか、道具がなければどうやって工夫して直せばいいのか。危険につながるようなことをしたり、先生たちや扱う道具への敬意がなければ容赦なく叱られる。子どもたちは、そんな中で自分で考えを巡らせながら仲間たちと勇敢にチャレンジしていった。
2023年のLEARN with Porsche
2024年のLEARN with Porsche
ポルシェトラクターは、これまで参加した子どもたちの手によって、ボロボロだったボディが見違えるようにきれいになり、タイヤを交換したり、油脂類を全て入れ替えたりすることで走れるようになった。さらにクラッチを修理したことで、PTO(パワーテイクオフ)を使ってトラクターの後ろに作業機をつけて、簡単な農作業などもできるようになった。
ただ、現状ではエンジンの始動性が悪く、セルを回しながらエアクリーナーにスターティングフルードを吹きかけることで、何とかエンジンがかかるようになっている。今回は、エンジンを調子よくするための整備をし、さらに森での生活を体験するため、ポルシェトラクターに装着するトレーラーをいちから作ることになった。
トラクターエンジンのレストアとトレーラーの製作
今回も、年齢も性別も学歴もバラバラな9人の参加者が集まった。「LEARN with Porsche」では、全員が対等にプログラムに取り組めるように、基本的に自分たちの学年や学校名は明かさないことになっている。子どもたちは、エンジンまわりの担当と、トラクターで大きな荷物を運ぶためのトレーラー製作担当に分かれて作業をすることになった。
これまで子どもたちの手によってレストアされてきたこのトラクターは、1960年代初期に生産されたポルシェトラクター「standard star 219」というモデルで、1750cc4サイクル2気筒ディーゼルエンジンを搭載している。これまでエンジンに関わるレストアはしておらず、今回初めてエンジンの中身を見ることになり、子どもたちだけではなく、大人たちも緊張感と期待感を持って臨むことになった。
まず、エンジンにコンプレッションゲージを装着し、エンジンの圧縮圧力を測定してみると、規定よりも低い数値になっていたため、エンジン内の吸排気を行なうバルブや燃料を吹くノズルの状態を確認してみることに。参加者の中には、工具を使い慣れている人とそうでない人がいるため、教え合いながら作業を進めていた。試行錯誤しながらエンジンの中身を分解してみると、ノズルの動きが悪く、燃料をきれいに吹いていない状態になっていることが分かった。
また、コンプレッションを上げるためにバルブを清掃し、バルブのすり合わせとバルブクリアランスを調整することになった。作業途中では、おそらく新車当時からバルブを上げ下げするためのタペットに不具合があったことが発覚したり、いろいろ試したものの結局コンプレッションが上がらないというハプニングも起きたりしたものの、子どもたちのおかげで再度組み上がったエンジンは想定以上に始動しやすくなった。エンジンはスターティングフルードを使わなくてもセルを回すだけで始動するようになり、バルブクリアランスもきちんと調整できたおかげか、これまでガチャガチャと機械的な音を立てていたエンジンがとてもスムーズな音色になった。
一方で、トレーラーを担当したグループは、いちからトレーラーを作る作業に四苦八苦。300kgの荷物を運べるようなトレーラーをイメージして、スケッチブックにイメージ図を描き、どんなものができるかグループで話し合った。田中さんと池田さんにもアドバイスをもらいながら、放置されていた廃材を組み合わせてトレーラーを製作していくことに。溶接作業は初めての子たちばかりで、溶接するための装備をしっかり整えながら、安全に気をつけて1つひとつ組み上げていった。溶接が終わると表面をならし、サーフェーサーを吹いてから、トラクターと同じ真っ赤な塗装を施していく。トラクターで部品を釣り上げながら隅々まで塗装し、納得がいかなければ池田さんや次郎さんに相談し、もう一度塗り直す子も。積極的にトレーラーを仕上げることに集中していた姿が印象的だった。
どちらのグループも試行錯誤を繰り返し、必死の作業の結果、3日間で見事トラクターのエンジン整備とトレーラー製作が完了した。
そのご褒美に、ではないが、作業を終えた子どもたちの前にポルシェジャパンが用意した最新の911 タルガ 4 GTSが登場した。クルマ好きの子も、そうでない子も「すごい!」と目を輝かせて911に見入っていた。筆者はドライバーとして子どもたちを乗せる役目を仰せつかったのだが、どの子も「こんなスポーツカーで思い切り楽しむ体験は初めて」と喜んでくれた。
馬を捕まえ森に入り、木を切るという学び
4日目は、タイトルにもある通り「ポルシェで森に入る」ことに。目的地の森へ行くまでは距離があるので、子どもたちは次郎さんの馬が放牧されている場所へ行き、まず自分たちが乗る馬を捕まえなければならない。ペアになって四苦八苦しながら、馬に無口と呼ばれる馬具を装着して捕まえると、次に馬に鞍を乗せ、乗馬の練習をする。普段動物と接している子もいて、子どもたちは思いのほか早く馬と仲良くなることができたようだ。ポルシェトラクターにトレーラーを装着し、準備完了。森へ続く一本道を、子どもたちと馬とポルシェトラクター、そして最新の911が連なって上っていく。そしてたどり着いたのは、木が鬱蒼と茂った森だった。
次郎さんが森の馬小屋を始めようと北海道に来た時、その一帯は森になっており、ひたすら手作業で木を切り倒して、倒した木を馬に引かせて運び出す作業を繰り返したという。池田さんも生活に必要な薪などを得るために、子どもの頃に木を切り倒していたそうだ。池田さんは「北海道の空港に降りる前に、飛行機から広大な農地が見えたと思うけど、それを見てどう思ったかな。今では何とも思わない当たり前の風景になっているかもしれないけど、莫大な数の人たちが信じられない苦労を重ねて開拓した土地なんだ」と教えてくれた。北海道の厳しい自然で暮らすために必要だったこと。一番の基本である木を切るという作業を自分たちの手でやってみることになった。もちろん、最新の機械などは使わない。次郎さんと池田さんが実際に使っていた、斧やナタ、ノコギリを使い、自らの力で切るのだ。
まずは両手で包めるような細さのシラカバの木から切ってみることに。斧を木に叩きつけてみるものの、表面を少し削るだけでなかなか切れる様子がない。「水平に斧を当てるのではなく、上下から斜めに切れ込みを入れていくことが大切」と教わり、ひたすら木に斧を叩きつけて切れ込みを深くしていく。斧を振るう作業は、思った以上に体力と筋力を使うようで、20回ほど斧を振るうと子どもたちはヘロヘロになり、次の人へと交代していた。見た目は細く、チェーンソーならものの数秒で切り倒せそうな木でも、素人が斧で倒そうとすると相当苦戦するものなのだと、子どもたちもおどろいた様子だった。
シラカバの次は立派なカラマツを切り倒すことになったが、ここでも大苦戦。斧で何度も切りつけるが、一向に木は倒れない。何十分も、下手したら1時間近く、斧で木を叩く音だけが森に響き続けた。鈍い音に混ざって、時たま「コーン」と良い音がする。池田さんは「こういう音がする時は、しっかり木が切れている証拠」と目を細めた。予定時刻を大幅に過ぎても、まだカラマツは倒れない。子どもたちは「諦めたくないので、あと5分ください!」と進言したが、その時間はすぐ過ぎ去ってしまった。
大きな木を倒す時には、木を倒す方向に受け口と呼ばれる切り込みを入れ、反対側に追い口を作り、その追い口にクサビを打ち込むことで倒す方向を定めることができる。ある程度、受け口を斧で切り続け、その後ろにある追い口にクサビをハンマーで思いっきり打ち込む。しかしクサビは受け口の方まで貫通しているというのに、木はそれでも倒れなかった。池田さんはポツリと「木もこんな若造たちに倒されるもんかって思ってるのかもなぁ」とつぶやいた。
その時、ハッと森の命について気付かされた。人は生きるためにさまざまな命やエネルギーを頂いているが、本当にその1つひとつが尊いものなのだということ。現代では、本当は身近なのにその大切な命に触れる機会がとても少ないのだと実感する。若者たちと木が互いにぶつかりあった結果、最後の最後に木はメキメキと音を立ててその場に倒れ伏した。倒れた木の幹を見てみると、木が最後までつながっていた部分がささくれとなって残っていた。しかし、それはわずか十数cmの範囲。改めて木の生命力に感嘆せざるを得なかった。
木を切り倒したあとも、それで終わりではない。木をいくつかの丸太にカットして、枝葉は全て手作業で落とす。これが思いのほか重労働で、ナタやノコギリの作業もコツがいるし、切り落としたたくさんの枝葉をトラクターに載せるのもひと苦労。切った丸太もみんなで作ったトレーラーに載せるのだが、子どもたちが4~5人がかりで丸太を持ち上げても、重過ぎて運ぶのが難しい。段差などがあってどうしても運べない丸太は、トラクターにくくりつけて引っ張り出す。あんなに重かった丸太がなんの苦労もなく引きずり出されるのを見て、子どもたちも人力から馬、そしてトラクターへと進化した恩恵を感じたようだった。丸太はおそらく総重量100kgを超えていたと思うが、みんなで溶接したトレーラーは全く壊れることがなかった。トレーラーにしっかりと丸太を結びつけると、無事トラクターで森の馬小屋まで運び出すことに成功した。最初はなかなか進まなかった作業も、それぞれがコツをつかんで上達し、ひと仕事終えて馬で森を出ていく子どもたちの姿はとてもたくましく見えた。
「見えないものを見る力」こそ子どもたちの成長に欠かせないピース
そして、最終日を迎えた。昨日切った木の処理やお世話になった森の馬小屋の片付けをし、自らの手で直したトラクターの試乗体験をしたあとは、特別講師として来てくださったロボットクリエイターの高橋智隆さんのお話を聞くことになった。
高橋さんは大学卒業後、ロボットを作るためのベンチャー企業ロボ・ガレージを創業。パナソニックの乾電池エボルタで動くロボット「エボルタくん」を製作し、たった2本の単三電池でグランドキャニオンを登り切るという偉業を達成。その後も、「エボルタくん」や「エボルタNEOくん」とともに、ル・マンのサーキットを24時間耐久走行したり、トライアスロンをしたり、フィヨルド1000m登頂を達成したりと、小さく愛らしいロボットで数々のチャレンジに挑んできた。
高橋さんは、今回のプログラムに関して「今回みなさんは北海道の自然の中で、一歩間違えば危ない道具を使い、命に関わるようなことを経験したと思います。僕自身も仕事や趣味の中で、一歩間違えば遭難してしまうようなシーンもあるのですが、普段生活しているだけではそういったことはなかなかないですよね。次郎さんや池田さんに怒られたり、怒鳴られたりもあったと思うけど、命に関わることだから、腑に落ちる部分も多かったんじゃないかな。きっと大きな経験が得られたと思います」と、子どもたちの苦労をねぎらった。
普段の暮らしの中で「自分は何の役に立っているんだろう」と思うこともあるかもしれないが、今回はトラクターを修理し、トレーラーを作り、木を切って、それが薪になった。全ての作業が実生活の役に立つということを目の当たりにして、得られた実感は非常に大きいものだっただろう。高橋さんのロボット作りも、そうやって1つひとつ物を形にしながら作ってきたものだという。実際に何かを自分で作ってみて、時間がかかったり悩んだり、失敗もあるかもしれないが、その試行錯誤すること自体が経験になり、それが次への発見やステップになることもある。
今回のトラクター整備やトレーラー製作を外部にお願いしたら、「自分はお金を払うだけ」と思うかもしれないが、出費する以上に、もっと大切な経験を失っているかもしれないと高橋さんは語った。もちろん全て自分でやるべきとは言わないが、アウトソーシングに任せすぎると、自分の知恵や技術が育たなくなってしまう。高橋さんは、エボルタくんのチャレンジの時にも、グランドキャニオンへ行くとスタッフや関係者が何百人もいたが、実際にロボットを作っていて、そのロボットのことを詳しく知っているのは自分だけ。現場に行ってみると、エボルタくんが登るための紐をまっすぐ垂らすことができず、紐がたるんで登れなくなってしまうなど、予期せぬ出来事が起きたという。誰かに助けてもらえなくても、これまでの自分の経験を駆使しながら、デッドラインを1日延ばしてもらい、何とか登頂に成功したという。
ノルウェーのフィヨルド1000m登頂の時には、雪や風などでエボルタNEOくんを登らせるのが難しいのはもちろん、チャレンジをするためには自分自身も過酷な雪山を登る必要があった。なんと高橋さんも10回もフィヨルドを登ったそうで、吹雪によって遭難しかけたこともあったそうだ。最初はフィヨルドを4時間かけて上っていたが、最終的には1時間半で登れるようになったという。実際に、高橋さんがエボルタくんが紐を登る様子を実演すると、子どもたちも前のめりになって熱心に観察していた。
高橋さんは、その他にもシャープと開発した「ロボホン」を見せてくれた。ロボホンは、電話機能があるかわいらしいロボットで、ただ電話ができるだけでなく、ロボホンとお話をしたり「写真撮って」「踊って」「今日の天気を教えて」など会話形式でお願いすると、まるで生きているような動作をしながらリクエストに応えてくれるのだ。高橋さんは、さらにスマホに寄ったロボットも製作中で、こちらはChatGPTを搭載しているため、よりスムーズに会話できる。これからさらにAI機能を進化させれば、作曲をしたり絵を描いたりできるようになるだろうと語る。
おそらくAIはこれまで人間にしかできなかったクリエイティブなこともできるようになり、そういった未来が訪れたら人間たちは何をやっていくべきなのだろうか……。高橋さんは、そんな時代にこそ、何が起こるか分からない自然や機械からヒントを得て、AIだけでは解決できないような部分に、人間の本当にできることを見出せるのではないかという。「これから世の中の状況はまだどんどん変わっていくと思いますが、今回のワークショップがみなさんの転換点になって、そういった時代を進んでいく力を自分で探し出せるようになってほしいと思います」と締めくくった。
子どもたちにとってもこの5日間は代え難い経験となったようで、それぞれが自分の言葉で今回のプログラムについて感想を言い合った。自動車に関心があってレストア自体に意義を見出している子もいれば、自分が全く想定していなかった木を切る経験や馬を捕まえて乗ることに感動を覚えた子、そして、もっとできたかもしれないと自分を省みて涙ぐむ子まで。みんなのさまざまな表情を見ながら、それぞれが自分が成長するためのきっかけや気付きを何かつかめたのかもしれないと感じた。
実は今回、1年目のプログラムに参加していた子が1人、再度参加していた。彼は、当時から工具の扱いなどに長けていて技術力も高かったが、あの頃と比べるとより自分から動き、仲間とのコミュニケーションにも積極的で、自分自身の目標も明確に掲げられるようになっていた。「いつかものづくりプロジェクトの講師側もやってみたい」と話す姿はまぶしく、確実にこのプロジェクトで大きく成長できた1人だろうとしみじみ感じた。
最後に、プログラムの先生方から子どもたちへ向けたメッセージが贈られた。
池田さんは「エンジンは予想していない不具合もありましたけど、とても始動性が良くなって音もきれいになった。トレーラーはどんなものになるか僕も不安だったけど、イメージ以上にとても良い完成度になったと思います。僕たちの時代は、料理をしたりお風呂に入ったりするのには必ず薪が必要で、馬に乗って1~2時間山に入って木を切り倒して、その丸太を馬で運び出していたんだ。今回、60年ぶりくらいに木を切り倒してみて自分でも良い経験になったかな。木も『若造に倒されたくない』と思ったのか分からないけど、なかなか倒れなくてね。その生命力には僕もおどろきました。きっと、みなさんにとって、今回体験したことは何らかの形で役に立つはずです。その時には今回のプログラムを思い出してほしいなと思います」と語った。
また、次郎さんからは「この森の馬小屋を作ったのは20年前。隣に学校に行っていない子がいたから一緒に作ろうということで木を切り倒しに行ったんだよね。その時はチェーンソーを買うお金もなかったから、全部手で切って馬で引かせて作ったのを思い出しました。みんなを見てて思ったのは、『やりたい』と思ったらチャンスを逃さず、もっとチャレンジしてほしいということ。それを逃してしまっている人がいたから、もったいないと思って。やりたいと思ったら、瞬間的に覚悟を決めて、やっちゃう。それができればもっと違うものが見えてくると思う」とアドバイスがあった。
中邑先生からは学校教育だけでは得られないような経験や学びについての話があった。「昔は僕の家でもかまどでご飯を炊いていた。今では便利な家電が増えたことで、自分が手を動かす機会が減ってしまっていると思う。昔は、クルマが壊れても構造がシンプルだから自分で直せたし、それでクルマの仕組みを自分で勉強していた。コンピュータだってCPUに直接命令しながら動かしていたから、今のパソコンのシステムも何となく理解することができている。そうやってありがたい経験を得られた大人が今の現代を作っているのだと思うけど、便利になった世界でただ暮らすだけでは子どもがバカになってしまう。だって、そういった元々の仕組みや物事の根本的なところも何も見ずに生活できてしまうから。こういった『見えないものを見る教育をやっていかなければいけない』ということで、僕はLEARNも続けてやっています」。
「見えないものを見るというのは、機械だけではなく社会のシステムもそう、人間関係もそう。この『LEARN with Porsche』も簡単にできているように見えて、裏ではものすごい努力がなされてる。それが何のためかって言ったら、君たちのような若者を応援したいから。このままじゃ良い世界じゃなくなっていくなって感じるから。みんな不安でいっぱいよね。これから不確実な社会で仕事をどうやっていこうか、これからやっていけるんだろうか。それを打ち破る力を持てば、今後も生きていけるはず。そう思ってこのプログラムを進めています。もっと気迫を持って自分を律してくれる大人を見ることも大事だと思う。誰もが優しい時代になりつつあるけど、ある意味甘やかされている。これからも自分の学びを感じ取ることのできるプログラムを続けていきたいと思うので、帰ったらぜひ自分の後輩や友達にも『こんなプログラムがあったよ』って伝えてください」。
3年目となった「LEARN with Porsche」ものづくりプログラム。トラクターは子どもたちの手によっていよいよ本来の姿を取り戻し、さまざまな作業もこなせるようになってきた。トラクターの内部に迫り、自然とともに学んでいく。まだまだ広がりを見せるこのプログラムのその先を期待してやまない。
自然の家での話し合いの時間が終わると、近所の学校の子どもたちだろうか、無邪気にキャッキャッと笑いながら廊下を走る音が聞こえた。これからこの子たちはどう生きていくのだろうかと思いを巡らせる。何もかもが分かるようになってしまった、そして分かる気になってしまった時代。その裏側にある、中邑先生が言う「見えないものを見る力」こそ、今の子どもたちの成長に欠かせないピースとなるのだろう。
Photo:堤晋一
























































