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SDVが実現する「体験価値」でHMIを競争領域にする取り組みをCRI・ミドルウェア 近藤文仁部長が解説
- 提供:
- 株式会社CRI・ミドルウェア
2026年3月16日 00:00
- 2026年2月26日 開催
SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)時代の自動車ソフトウェア開発とモビリティ社会のこれからを探るオンライン講演会「第11回 オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア 2026 オンライン」(主催:インプレス、共催:名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所)が2月25日~27日に開催された。
自動車メーカーや部品メーカー、ティア1、ティア2、OEM系ソフトウェアメーカー、半導体メーカー、組み込みソフトウェアメーカーなどで研究開発に携わるエンジニアを中心に、事前登録するだけでZoom/Vimeoから無料参加できるこのオンライン講演会では、SDVが具体的な実装と事業化が本格化してきた近年のソフトウェア開発の最前線で活躍する多彩な登壇者が講演を実施。
開催2日目の2月26日にもさまざまな講演が行なわれたが、本記事ではCRI・ミドルウェア モビリティ事業本部 開発部 部長 技術エバンジェリスト 近藤文仁氏によるソリューション講演「SDVは具現化へ 体験を語り、試し、実装するMESH」で語られた内容について紹介する。
ソリューション講演「SDVは具現化へ 体験を語り、試し、実装するMESH」
2001年8月に設立されたCRI・ミドルウェアは、さまざまなソフトウェアを開発するために利用される「ミドルウェア」を手がける企業。ゲーム業界をはじめ幅広く利用されており、1万以上のタイトルでライセンスが採用されているほか、モビリティ向けでも音声をミキシングする「CRI ADX Automotive」、デジタルメーターのリアルタイム映像などを描画する「CRI Glassco」といった製品をリリースして、車載製品としても累計1000万台以上に搭載されているという。
近藤部長はもともとゲームメーカーのセガに入社して家庭用ゲームなどの開発を手がけ、その後CRI・ミドルウェアに移籍してからは業務用カラオケ、知育玩具などの制御ソフトを生み出し、2022年からは現職のモビリティ事業本部で新領域開発を担当している。
また、SDV向けのAPI策定プロジェクト「Open SDV Initiative」のHMIワーキンググループにも参加しており、HMI WGではSDVをAPIや機能から積み上げる「工学的アプローチ」と、ユーザー体験から逆算して落とし込む「体験的アプローチ」という2つの視点から新しいモビリティの形を模索しているという。これまでエンターテインメント系の「体験」を価値として提供する業界に携わってきた経験をモビリティ領域でも生かして技術的な交流を推進できる立場にいるのではないかと自身の役割について語った。
講演内容は「SDVの体験価値は逆算で作る」「体験の理を工学に昇華させる」の2つに分けられ、まずはSDVの体験を先行させ、実感した価値から正しいもの作りを逆算で作る手法について紹介された。
エンタメ業界ではこのような体験から逆算して想像力を発揮させていく手法は日常的に採られており、このような「体験的アプローチ」がモビリティ領域での新たな価値創造やサービス開発にも利用できると説明。このメリットとしては、新たなサービスを車両に実装する組み込みは時間がかかってしまうので、まずは実体験を行ない、ここでの実感を創意工夫で改善してまた体験するという試行錯誤を納得できるまで何回も繰り返すという力技によってクオリティを高めることができるとした。
この考え方はOpen SDV InitiativeのHMI WGでも進められており、「APIコンセプト」を中核として「ボディ」「AD/ADAS(自動運転と先進運転支援システム)」など7つのワーキンググループで行なわれているOpen SDV Initiativeの取り組みのなかで、これまで足並みをそろえて統一する「協調領域」に属すると考えられてきたHMI(Human Machine Interface)や各種アプリでも、エンタメ領域に近い体験価値を提供できる部分では「競争領域」としてビジネス的な価値を与えることができるのではないかとHMI WGの活動を通して近藤部長は考えるようになったとコメント。実際に自動車メーカーやサプライヤー企業の担当者、エンドユーザーなどと交流するなかでも、HMIなどの価値化について期待する意見も耳にしているという。
HMI WGでは、体験を成立させる設計原則として「体験を起点に設計する」「モビリティ全体で、体験を共有して設計する」「組み合わせではなく、調停で設計する」という3点を用意。HMIの設計では「何ができるか」ではなく「何を実現したいのか」を軸足として、すべてのアプリは一元的に管理されたルールのなかで動作することを基本としている。
また、実装する車種やデバイスが変化しても体験内容が変化しないよう、基本的な考え方や調停の仕組みなどを共通させるべきと定め、対象の変化を吸収する仕組みの構築を目指しており、これは4輪車にとどまらず、2輪車、小型モビリティなどを包括してモビリティ全体をカバーできるものにするという。
個別の組み合わせではなくロジックによる調停でHMIを「競争領域」に
3つめで挙げられた調停の重要さでは具体例を挙げつつ説明。アプリとデバイスの組み合わせを個別に定義していくと制御すべき作業量が爆発的に増えてしまうため、各種サウンドや表示類を車載されたビークルOSが調停して上手に連動させることが必要だと解説。HMIは基本的に対象となるのがドライバーなどの乗員となるので、人間が現実的に運用できる仕組みにすることが大切だと述べた。
具体例としてはCRI・ミドルウェアでも日常的に扱っているサウンド関連の制御について紹介。HMIでもさまざまな音源を扱うことになるが、「再生リクエストの種類」と「再生中の音の種類」の組み合わせで、新たなリクエストが発生したときに再生中となっている音を鳴らし続けるのか、音を停止するのか、または再生中の音を優先してリクエストを拒否するのかといった組み合わせを多層化や優先順位付けで管理する仕組みにすると、組み合わせが増えるに従って正しい動作を実現できているのか不安になってしまうという。自身でも6万×6万という組み合わせ表を目にして心が折れた経験があると語った。
また、この状態はコンテンツを提供するエンタメ側の立場から見ると、サウンドを増やして音を鳴らすことがミスや工数の増大につながり、気楽にできなくなってしまうと説明。SDVの時代にさまざまなコンテンツが増やしていきたい部分とマッチしない構造で、単体で見ればシンプルな仕組みでも、組み合わせが増えるとミスを防ぎきれなくなってしまう恐れがあるとした。
この課題をロジックで解決するため、HMI WGでは組み合わせの処理を「管理クラス」と「コンテンツクラス」に振り分けて制御する仕組みを採用。コンテンツでは乗員の操作や車両の動作を分かりやすくする短音を同時に3つまで吹鳴させる「サウンドエフェクト」、ナビ音声やテキストメッセージの音声読み上げなどの情報を1つだけ吹鳴させる「ボイス」、BGMや動画コンテンツの音声などを1つだけ継続的に流す「ミュージック」などを想定。コンテンツを制御する管理側では、車両の印象を決めるプリセットサウンドで上書き可能となる「コモン」、高優先で吹鳴し、ほかの音を停止、または低音量にして確実な情報伝達につなげる「アラート」、アプリなどを含めてさまざまなコンテンツを扱い、設定の自由度が高い「App」を用意して、個別の組み合わせではなくクラスごとの制御を行なう。
この考え方により、車両の走行中に発生する音声や効果音などをビークルOSが一元的に管理・調停して、複数の音が同時に吹鳴しようとした場合にクラスと優先度に応じて吹鳴の順番や音量などを制御して車内体験の破綻を防止する。
サウンドエフェクトの例では、同時に3つの効果音を吹鳴可能な車両の場合、すでに3種類の効果音が鳴っている状態で4つめの効果音を吹鳴させる必要が出てくると、「後出し優先」の法則で3種類のどれかを止めることになり、最も優先度が低い効果音が停止して新たな効果音が吹鳴する制御が行なわれるという。このような部分も積極的にユーザーの体験価値として訴求されるようになれば、HMIを競争領域にできるかもしれないと紹介した。
「正しく作る」と「体験を作る」の両面を大切にして新たな価値を創造する「MESH」
API(Application Programming Interface)に関する話題に続き、近藤部長はシミュレーション環境を活用する新しい開発基盤「MESH(Mobility Experience Simulation Hub)」についても紹介。
MESHはこれまで自動車業界などで推進されてきた工学的なアプローチによって「正しく作る」ことと、HMIやエンタメ領域に属する「体験を作る」というアプローチの両面をしっかりと連動させてもの作りを進めていく技術であり、HMI WGでも重視している新たな仕組みだと説明した。
日本の自動車業界ではすでに「正しく作る」手法は確立されており、これからは「体験を作る」領域を強化していくことが求められている。このために「何がよい体験なのか?」を実際に体感したいというニーズがあり、それは開発側でも同様で、MESHを「よい体験」を見極めていくための場所にしたいと述べた。
MESHを活用する例としては、SDVの車両が走行中に渋滞に巻き込まれたシチュエーションを紹介。体験者は車載されたコントローラーのスイッチを操作して、自車の前にいる車両に装着されているドライブレコーダーのカメラ映像をディスプレイなどに表示。この操作を繰り返してどんどん前方の車両に切り替えていき、最終的に最前列と目される車両の前方に事故や故障による停止車両が存在して、渋滞原因になっていることを確認できるといったこれまでにない運転体験をシミュレーションで再現できるという。このようなMESHはすでに製作されて展示会などで公開され、将来的な技術のよしあしや使い勝手について来場者に体験してもらっていると紹介された。
このように、MESHを活用することで実際に技術を体験した人から新しいアイデアが提供され、すでに新しいエンタメコンテンツの開発にもつながっているなど、「やりたい体験を先に見つけ、どう実現するかを考える」という従来的な開発手法とは逆のアプローチも行なわれるようになっているという。
「体験は魔法ではなく、突き詰めて考えていけば工学に帰結する」と近藤部長
後半ではHMI WGでも注力している、体験を競争力に変えて文化として昇華させる取り組みについて解説。モビリティのグローバル市場ではさまざまな手法で次世代をリードしようという取り組みが進められているが、近藤部長は日本人が得意としているのは技術の精度や思慮の深さであり、“おもてなしの心”に代表されるような「体験文化」ではないかと指摘。近年ではインバウンド需要などでも大きく注目されている部分で、このような「体験文化」の標準化によって世界をリードできるのではないかと述べた。
日本を訪れた外国人観光客にはゲームやアニメ、コンビニなどが体験文化として注目されているが、これをモビリティの視点から見ると、クルマに触れた瞬間に感じる「質感の応答」、映像などの動きや音などに統一感を与えた「表現の品位」、乗車して降りるまで迷わず進める「時間の流れ」、運転後に楽しかったと振り返ることができる「体験の余韻」といった要素が大切になると説明。このような「体験の記憶」を再現し、改善しながら継承していくことで積み重ねたものが歴史になっていくとした。
しかし、日本の産業界の現状では「評価制度の短期化」「サプライヤー構造の複雑化」などによって体験価値の継承や文化としての積層が途絶えがちになっていることが課題になっていると指摘。要求仕様を分解して機能単位で開発するスタイルは生産効率の向上を目指すことができる一方、ブランドの核となる体験文化の継承を困難にしているとの考えを示した。
車内のサウンド制御でも、現状では車両自体の警告や装着するカーナビ、ETC車載器、アプリなどがそれぞれ個別に最適とする動作を行なってあまり調停されておらず、個々としては適切でも1台のクルマとして見た場合には統一された判断が存在していないことを問題として指摘。判断主体がバラバラになっていることで回収可能だった体験価値が未回収のまま消えていると説明した。
これをHMI WGでも進めているようなビークルOSが主体となって優先順位を判定する技術を導入することで、機器ごとの吹鳴要求をビークルOSが調停。統一された基準でサウンドの使い分けが実施されて乗員の体験価値が向上するという。この状況ではCRI・ミドルウェアのようにエンタメコンテンツを提供するサードパーティのアプリは吹鳴が遮断されるケースも増えることになるが、サードパーティ側の立場としても警告などが行なわれるシーンでは吹鳴を遮断してほしいと考えており、判断をビークルOSに任せることで自由に安心してコンテンツ制作が行なえるようになると明かした。
また、ビークルOSが状況に応じてどのように判断したのかログデータとして残ることも重要であり、このログデータは再現や比較に利用可能で、次世代の車種やアプリにも継承可能。ログデータの判断内容が資産になると解説した。
体験価値の継承と共有が感動体験につながる例として、ゲーム開発で利用されるプロ向けのツールに搭載されている機能について紹介。そのツールでは「炎を5つ表示する」と指定するだけでランダムに異なるグラフィックの炎が生成されるが、これは「炎はゆらぎを持って少しずつ異なる内容で表示されるべき存在だ」とツール内で定義されており、利用するユーザーは簡単に炎が必要な個数を入力するだけで自然な炎をゲーム内に設置できるという。これは既存の知識や判断がシステムに組み込まれ、財産として継承可能な状況につながっていることを示しており、「感動体験は魔法ではなく、必ず理(ことわり)がある」とコメントした。
このように生み出された体験は可視化され、再現によって比較・検討につながって改善が施され、商品化されたものが継承されながら積み重なっていく大きなサイクルを回していくことで、クルマに与えられたさまざまな装備や機能を文化と呼べるレベルに高めていくと近藤部長は語り、ここに新たな技術動向や規制などの制度が入っていってクルマが進化して、改善の連鎖がブランドを守っていくとした。
最後にまとめとして、体験は最終的に工学的アプローチまでつなげて文化に昇華させることが重要で、まずは自分たちが持っている“おもてなし”などの体験文化の価値をしっかりと再認識することが求められ、形がないものでも国際競争力を持った価値のあるものだとアピール。
また、体験は魔法ではなく、突き詰めて考えていけば工学に帰結する技術に昇華できると説明。工学化された体験を積み重ねていくことで必ず文化になり、文化を積み重ねることを大事にしてもらいたいとコメント。「次の体験はぜひあなたの手で作っていただきたい」と講演を締めくくった。



































