杉並区立和田中、STI社長を招いての特別講義
中学3年生を対象に電気自動車のテクノロジーなどを解説

和田中で特別講義を行うSTI代表取締役社長の工藤一郎氏

2009年2月16日
東京都杉並区立和田中学校




 教育への先進的な取り組みを行っていることで知られている東京都杉並区立和田中学校。その和田中学校で2月16日、STI(スバルテクニカインターナショナル)の工藤一郎社長らSTIの社員を招いて、「自動車産業における先端技術と世界選手権」と題した特別講義が行われた。

 特別講義が行われたのは、中学3年の選択技術科「モーターボーイズ&ガールズコース」を選択した21名の生徒に対して。この選択技術科を担当する大関清隆講師によると、毎年特別講義という形で、自動車開発者などを招いており、今回は今後自動車の大きなトレンドなる電気自動車をテーマに講義をお願いしたと言う。

 特別講義は5時限目と6時限目があてられ、5時限目は視聴覚室において工藤社長の電気自動車に関する講義、6時限目は金工室においてSTIの泉智彦氏と坪川彩美氏によるモータースポーツに関する講義が行われた。

電気自動車の電池が大人気

視聴覚室で行われた5時限目の授業風景

 工藤社長は、以前スバル(富士重工業)でスバル技術研究所長であったこともあり、電気自動車の開発にも携わっていたことから、その講義内容は非常に詳しいものだった。スバルの電気自動車「R1e」を例に取り、現在の自動車産業の流れや電気自動車のメリット、実際の実証実験の様子などが話された。

 下部に掲載したスライドからも分かるように、中学3年生向けとしては専門的で、興味津津にスライドを見ている生徒もいれば、難しいという顔をしてスライドを眺めている生徒もいるといった具合。ただ、それら中学生向けとしてはハイレベルな講義を行いながら工藤社長が強調していたのが、「今後は技術と環境の両立が求められている。いかに二酸化炭素(CO2)の発生を低く抑えながら、“走る”楽しさを実現できるか」ということ。人間の根源的な欲求である“速く”移動するための自動車の開発には“環境”に配慮したものが必要であることを強く語っていた。

 その実現には“技術開発”が大切であり、「電気自動車で問題となるのが、電気をためるために使われているバッテリーで、まだまだ大きくて重いものしかできていない。優れたバッテリーの開発が今後の開発の大きなポイントであり、そこにビジネスチャンスがある」と言い、これから社会を担っていく中学生へ将来の技術開発の動向を示していた。

スバルのエネルギーロードマップ。新ディーゼルエンジンや電気自動車など多様な形態でクリーンエネルギーによるグランドツーリングの実現を目指すエネルギー問題対応の取り組み。パワートレインによる差が書かれている
スバルはディーゼルエンジン車や電気自動車によってエネルギー問題へ取り組むR1eのCO2排出量比較。レガシィと比べて少ない
各国の発電比率。青色が水力発電で水色が原子力発電。1番目のカナダは水力発電の割合が多く、2番目のフランスは原子力発電が多くを占める。下から2番目が日本のグラフで水力、火力、原子力とさまざまな手段で発電されているR1eの経済性。燃料代の比較グラフで、深夜の電力料金であれば、より燃料代が低く抑えられる
すでにスバルは東京電力にR1eを納入し、実証実験中。7年7万kmの耐久性を目指すR1eの市場性。首都圏での航続距離は80kmあればほどんどカバーできるとのこと
R1eを構成する主要部品。工藤社長が強調していたのはシート下部などに設置されている電池。これが電気自動車で大事な部品であり、ここの開発が大切と語るR1eのパワーユニット
R1eのバッテリーパック配置図R1eはリチウムイオン電池を搭載し、その電池がニッカド電池などに比べてどのくらいエネルギー密度が高いかグラフで図示
R1eに使われているバッテリーモジュール。1つの電池モジュールには12枚のラミネート型単電池が積層されるバッテリーモジュールのレイアウト図
東京電力で実証実験中のR1e実証実験でのチェックポイント。航続距離80kmの妥当性や電池の劣化傾向などを確認
東京都三鷹市の武蔵野支社での移動状況。三鷹駅を中心に北は東久留米市から南は調布市まで及んでいるが、12km四方に収まっている実証実験データ図。右上は走行距離と電圧の降下を、左下は速度の変化を、右下は(バッテリー)温度を示す
R1eは現状300万円くらいを目標にしているが、200万円くらいが電池代だと言う。優れた電池の開発が電気自動車の普及には大切と語りかけていた電池の現状。リチウムイオン電池は左から2番目の水色のライン
R1eの充電イメージ。家庭用コンセントから100Vや200Vで充電する街中の充電スタンドのイメージ。こちらは急速充電が可能なタイプになるだろうと言う
R1eで使われているラミネート型単電池と円筒形の電池の発熱比較。電池は充電時や放電時に反応熱が発生するため、放熱に優れたラミネート型にしたほうがよいとのことラミネート型単電池の構成図
R1eで実現するコミューターワールド

 ここまでスライドで紹介したように、工藤社長の講義は本格的なもの。スライドによる講義のあとは教室に持ち込んだラミネート型単電池やバッテリーパックを使っての解説となった。生徒の実物のラミネート型単電池やバッテリーパックに対する興味は非常に高く、工藤社長は質問攻めに。その場で、パソコンの画面を使ってのグラフの見方や、リチウムイオン電池の反応式の解説などが始まり、電気自動車開発の最先端を実感できていたようだった。

ラミネート型単電池を片手に講義を行う工藤社長バッテリーパックなど実際の部品に対する興味は高く生徒に取り囲まれ質問攻めに黒い部品がバッテリーパック。銀色のシート状のものがラミネート型単電池
パソコンの画面を示しながらグラフの読み方を解説中生徒の質問に答える形で始まったリチウムイオン電池の反応の講義選択技術科「モーターボーイズ&ガールズコース」を担当する大関清隆講師

 6時限目の授業では、STIで営業を担当する泉氏から、STIという企業の中心事業であるモータスポーツに関連する講義が行われた。泉氏はモータースポーツで大切なものは、“技術”と“人”と“夢”であり、泉氏自身も15歳のときにモータスポーツというものを知り将来の職業にしたいという夢を持ったとのこと。現在は、世界中のモータスポーツを行うお客さんに対して、サポートなどの仕事をしていると言う。そこで必要となったのが英語。モータースポーツには各国の選手が参加しているが、共通言語は英語だと言い、中学生での英語をしっかり勉強すれば十分役に立つと語っていた。

 その後、和田中の卒業生でもあり現在STIで総務の仕事をしている坪川氏からSTIが行ってるモータースポーツの支援事業に関して説明が行われた。STIでは、WRC(世界ラリー選手権)に参加することはもちろん、レースのオフィシャル活動も行っていることを紹介した。そこで紹介されたのが、インプレッサをベースにした競技の直前に走るゼロカーと、競技が始まることを知らせるフォレスターのインフォメーションカー。2008年のラリージャパンでは、これらの車両を使いレースの運営をサポートしており、モータースポーツというものが多くの人に支えられて行われていることを生徒に伝えていた。

 ゼロカーやインフォメーションカー、R1eは実際に和田中に持ち込まれており、授業終了後、校内においてその展示が行われていた。

 間もなく中学を卒業していく3年生に向けて、電気自動車やモータスポーツ車両など車の最先端分野を紹介したこの特別講義。次代を担う生徒たちに対して、強い印象が残る講義であったのは間違いないだろう。

ラリータイヤと通常のタイヤの違いについて説明するSTI営業部グループNチーム営業担当の泉智彦氏自分自身和田中学の卒業生で、現在はSTI企画管理部総務課の坪川彩美氏和田中学に持ち込まれた、フォレスターのインフォメーションカーとインプレッサのゼロカー
ゼロカーのエンジンルームを興味深くのぞき込む和田中の生徒電気自動車のR1eR1eは校内で前後に往復するのみの簡単な同乗走行も実施された

(編集部:谷川潔)
2009年 2月 17日